筋肉の祭典 ~筋肉は嘘をつかない~
「なぁ…」
「なんだ」
「ホントにくるのか?」
「恐らくな」
挑戦状の指定された満月の夜。
財前邸の正面入り口を守るのは、ジャンとヘンリーだ。
ジャンとヘンリーを筆頭に、ジャンの部隊が後ろに控える。
全員もれなくタンクトップだ。
侵入者がこの光景を目の当たりにすれば、思わず回れ右をして帰りたくなるほどの暑苦しさ。
部下たちも、武器より自身の筋肉の確認に余念がない。
ヘンリーも久しぶりの実家に戻り、開催された家族格闘技。
決勝で母に惜敗し、再挑戦するも、今度は息子に負けた。
あれ?俺弱い?とネガティブになっていたところに、将星から招集がかかった。
自分の強さを再確認するためにも、二つ返事で参加を表明した。
将星も警備に余念がない。
先代四天王たちも招集している。
警備部もそこら中に配置している。
この警備を抜ける者などいないと信じていた。
「「っ!!?」」
屋敷の中から、何かが破壊される轟音が響いてきた・
屋敷の外で正面入口を守っていた二人にも聞こえる程の轟音だ。
すぐさま部下に指示するジャンだったが…。
「へっへっへ。いかせるわけねぇだろうが」
「お前はっ!」
「知り合いか?」
ジャンとヘンリーの前に現れた男は…。
「ヘネット!捕まったはずじゃ」
「へっへっへ。トリックだよ」
以前美術館を強襲し、ジャンによって倒された北米で有名な泥棒ヘネット。
その後ヘネットはアメリカに移送され、刑務所に入ったと聞いていたが…。
「今回のクライアントがポンっと100万ドルで釈放してくれたぜ」
「ゲスが」
「宝にも興味があるが…。マトリックスぅ!俺はお前の命をいただきに来たぜ!!!」
ヘネットの目は赤く充血し、ジャンへの憎しみが窺える。
「もう一度地獄に送ってやるヘネット」
「へっへっへ。何も対策しねぇわけねぇだろが」
「くっ!!?」
「ジャン!」
乾いた音が響き渡る。
「日本じゃこんな小せぇモノしか手に入らなかったがな」
「ジャン!返事をしろ!」
ジャン・マトリックス。
ヘネットからの銃撃により、意識不明。
「盾を構えて跳弾に注意しろ!」
ジャンが戦線離脱したことで、急遽部隊の指揮をと執るヘンリー。
ヘネットは絶えず、銃弾を放つ。
だが、銃弾は誰も貫通することはない。
「暇だなぁ」
「盾を重くするように依頼しようぜ」
「ヌルゲーだぜ」
「なぜそんなに落ち着いていられるっ!!?」
予想以上に落ち着いている警備部の面々。
隊長であるジャンが銃撃されたにも関わらず。
「ジャンが撃たれたんだぞ!?」
「いやぁ」
「隊長なら問題ないと思いますよ」
「その証拠に」
「死にやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
「………」
「うおっ!?」
絶え間なく撃ち続けるヘネットだったが、ジャン以外の誰も負傷しないことに苛立ちを覚えていた。
その背後に、復活したジャンが立っていることも気づかないほどに。
「ヘネット」
「な、なんだと!?」
「筋肉だ」
「あ?」
「筋肉の前には銃であっても意味はない」
「何を言ってやがる!」
「筋肉は銃より強し!」
ジャンの強烈にパンチで壁まで吹き飛ぶヘネット。
ヘネットは気を失っていた。
「無事だったのか」
「ああ、これくらいなら筋肉でどうにでもなる」
「お、おぅ…」




