名も無き泥棒 ~初の侵入者~
一話1000字~2000字になります。
後半まではちょっと短いです。
後半からは少し長めになります。
草木も眠る、丑三つ時。
辺りは静まり返っていた。
「噂の財前美術館。大したことないな」
深夜の財前美術館に忍び寄る一つの影。
男はセキュリティを超え、財前美術館内への侵入に成功していた。
男は名も無き泥棒だ。
財前将星がTVで大々的に盗みの挑戦を発布してから数週間が過ぎていた。
財前美術館の展示品を、一つでも持ち帰れば遊んで暮らせる程の金額が手に入る。
ネット上では本当に泥棒が狙うのか?
罠ではないのか?
財前財閥に勝てるやつはいない。
とネットの住民が囃し立てた。
「ふっ…」
男は持ち帰った宝を売捌いた後の皮算用に笑みをこぼす。
既に何人もの人間が挑むも、一人として帰ってこない魔窟に。
「坊ちゃん」
「うむ」
自室にて執事の宮前から報告を受取った。
ふふふ…今夜も鼠が一匹か。
「どれ、腕前を見せてもらおうか」
「はっ」
自室のボタンを押す。
すると大画面が自室に現れる。
財前美術館と財前邸に仕掛けられたカメラを映す大型ディスプレイだ。
「これで何人目だ?」
「14人目かと」
「ふっ。14人目にしてようやく侵入できるレベルか」
俺が大々的に報じてから数週間。
何人もの鼠が財前美術館に侵入を試みていた。
所詮は下調べもせずに、己の欲に駆られた下種だ。
財前美術館並びに財前邸は最高のセキュリティを誇る。
誇張ではく真実だ。
世界中の最新のセキュリティを導入し、鼠一匹も入り込むことを許さない。
だが、財前家が誇る世界最高のセキュリティにも穴はある。
そう…。
「当たりを引いた運の良い鼠か」
「そのようかと」
世界最高を誇る財前家のセキュリティがそこら辺の有象無象に破られるわけはない。
そう―――、財前家の御曹司である財前将星が故意にセキュリティに穴を開けたのだ。
今宵の鼠は運良く、セキュリティの緩められた場所から侵入に成功していた。
「どこまでいけると思う?」
俺はワイングラスを片手に優雅にディスプレイを眺める。
側に控える宮前に問いかける。
「運が良ければ展示フロアまでいけると思います」
「ほう。運が良ければか。いくつまで絞った?」
「二通りになります」
「ボーナスゲームではないか」
財前美術館のセキュリティは内外に及ぶ。
運良く、内部に侵入できたとしても、外部よりも強固なセキュリティが構築されている。
展示品があるフロアまで、幾重にも張り巡らされたセキュリティ。
場末の鼠が越えられるわけがない。
そのため、故意にセキュリティレベルを下げた。
二択だ。
当たりか外れのどちらか。
ここまで難易度を下げたのだ。
ボーナスゲームと言っても過言ではない。
『な、なんだ!!?』
ディスプレイ上には二択に失敗した鼠が慌てふためいている。
警報音が鳴り響く美術館内。
「………」
「運がなかっかようですね」
「くっ!つまらん!取り押さえて警察に渡しておけ」
「畏まりました」
二択を失敗するだと!
ふざけるな!
こんなにもレベルを下げているのにどういうことだ!
くそっ…、もう一度セキュリティを考え直すか。
俺を楽しませてくれる鼠はおらんのか。
つまらぬ!
俺を楽しませてみよ!