壮大な親子喧嘩 ~紅の閃光~
「久しぶりにね、六華ちゃん」
「久しぶり、ママ」
向かい合うは親子の二人。
二人とも黒いラバースーツを纏い、首には紅いチョーカー。
赤峰志乃。
かつて紅の閃光と呼ばれ、西の大泥棒と評された女傑だ。
その仕事は一瞬。
閃光のように速く、成功率は100%。
ある時を境に、紅の閃光は裏舞台から姿を消した。
そして伝説は受け継がれる。
公人と子を生した志乃。
志乃の血を色濃く受け継ぎ、閃光と呼ばれる技は娘の六華へと引き継がれた。
六華も母と父。そして将星の期待に応えるべく、幼いながらも厳しい訓練に耐えた。
新旧の紅の閃光。
熟練の技か新鋭の力か。
先制口撃を仕掛けたのは六華。
母として、年長者として、娘に先制の機会を与えた。
「ねぇ、ママ。ママから貰ったチョーカーなんだけど…ママの穴より私のが小さいみたい」
「へ、へぇ~。六華ちゃん、鍛え足りないんじゃないかしら?私はしっかり鍛えてたもの」
「私より太ってたの間違いじゃない?」
「「「「「………ひぇ」」」」」」
見守る警備部の面々は、極寒の地にいるかのように錯覚していた。
母と娘の仁義なき戦い。
血肉を分けた関係であっても、口撃の手は緩めない。
志乃が豊満な胸を持ち上げ…。
「六華ちゃんこそ。私の娘にしては小さいわよね。おっぱい」
「カチーン」
「将星ちゃんも可哀相よね。六華ちゃん小さいんだもの」
「はぁ?ママのが大きいかもしれないけど、私はママみたいに垂れてないし」
「カッチーン」
「そのお腹だって、コルセットで締め上げてるんでしょ。あーあー、年は取りたくないわ」
「はぁ?垂れてないわよ!お腹だって出てないわよ!」
「「「「「………ひぇぇぇぇぇ」」」」」」
二人の口撃は止まらない。
警備部の面々は、ここにいることを激しく後悔した。
「な、なぁ…」
「なんだよ…」
「女って怖いんだな…」
「言うな…。聞こえたりしたら俺たちに口撃がくるぞ…」
「美人が起こると恐ろしいぜ…」
「俺…罵られたい」
「「「「えっ!!?」」」」
一名異常性癖がいたが、気にしないでおこう。
ここにいる警備部は全員が男性。
警備部の女性たちには逆らわないと決めた瞬間だった。
「な、なんだ?」
「近づいて何をするんだ?」
「こっちに飛び火しなきゃいいが…」
「逃げる準備だけはしておこう」
「間に挟まれたい」
「「「「お前は黙ってろ」」」」
二人の距離は数十センチ。
そして…。
パシンッ!!!
「「「「「ふぁっ!!?」」」」」
六華のビンタが志乃の右頬を捉える。
バシンッ!!!
「「「「「ひぇっ!!?」」」」」
志乃の右手も六華の右頬を捉える。
バシンッ!!!
バシンッ!!!
バシンッ!!!
バシンッ!!!
バシンッ!!!
バシンッ!!!
交互に相手の頬をビンタする二人。
美人が無言で相手の頬をビンタ。
「こ、怖すぎる…」
「まるでプロレスだ…」
「口から血が出てるじゃねぇか…」
「二人とも本気のビンタだ」
「はぁはぁはぁ」
「「「「黙ってろ」」」」
「「………」」
二人は20数発のビンタの応酬を終え、相手を掴もうと距離を縮める。
技を掛けるも、有効打には程遠い。
10分程、組み合い…。
「今よ!」
「きゃぁっ!!?」
天井から大量の水が二人目掛けて落ちてきた。
二人ともずぶ濡れだ。
水も滴る良い女…といいたいところだが、二人とも無茶苦茶だ。
「ママ…化粧取れてるわよ」
「え…嘘っ!!?」
「これで…終わりよ!!!」
「「「「「あ、あれは!!?」」」」」
六華が志乃を後ろから抱き抱え…。
地面に一閃!
「「「「バックドロップだー!」」」」
「1!2!3!」
カンカンカン!!!
「「「「なんでカウントしてんのっ!!?この音どこからっ!!?」」」」
「勝者~。あかみね~りっかぁ~!!!」
「「「「何やってんの!?というかなんで服レフェリーになってるの!!?」」」」
勝者は娘の六華。
「や、やるわね…」
「ママこそ…」
「とっとと行くべきだったわ…」
「私を抜いても次はメイト長よ」
「なんですって…!?あの人に伝えなきゃ!」
「えっ!?ママ!!?」
メイド長…。
どんな人だろうなー。




