壮大な親子喧嘩 ~俺の家族格闘技世界チャンピオン~
「当主室までルートは5つある。それぞれ進むとしよう。宮前ワシとメイン通路を行くぞ」
「はっ」
広大な財前家の邸宅。
奥の当主室まで行くには5つのルートが存在する。
当主である公人は宮前善人とともに、メインの大廊下へと消えていった。
「俺はこっちに行かせてもらおう」
「ワシはこっちじゃの」
「なら私はこっちね。六華ちゃんの匂いがするわ」
「………」
将星が揃えた現四天王も精鋭中の精鋭だ。
公人が集めた四天王も精鋭中の精鋭。
どちらが勝ってもおかしくはない。
勝利の女神はどちらに微笑むのか。
「お?同業者か」
「よくきたな」
この通路を進はヘンリー・永田。
齢40を超え、今もなお分厚い筋肉の鎧を纏っている男だ。
ヘンリー・永田。
公人にスカウトされて20余年。
俺の家族格闘技世界チャンピオンとして無類の強さを誇るヘンリー。
いくつもの窮地を、この鋼の肉体で守り通してきた。
信じられるは己の肉体のみ。
「兄ちゃんもすげー体してるじゃねーか。外人さんか?」
「いかにも」
「俺はハーフだ。名のヘンリー・永田ってもんだ」
「俺はジャン・マトリックスだ」
相対するは将星四天王の肉体担当。
元特殊部隊長にして、筋肉ムキムキマッチョマンだ。
名をジャン・マトリックス。
「どうやら…同じタイプのようだな」
「そうだな」
「ならわかってんな?」
「ああ、理解している」
己の体を武器にする二人に余計な物はいらない。
必要なのは鍛え上げた己の肉体のみ。
ここからは口ではなく、肉体で語るのみ。
「隊長ナイスバルクー!」
「ヘンリーのおっさん土台が違うね!土台が!」
「隊長イイッスヨ!キレてるっす!」
「くぁ~!ヘンリーさんホントに40代なのかよ!仕上がりすぎだろ!!!」
通路は熱気に包まれていた。
二人の男が発する闘気。
ジャンの部下たちも二人のポージングを固唾を飲んで見守る。
しかし筋肉に愛され、筋肉に愛した同じ人種だ。
上腕二頭筋が俺もと叫ぶ。
腹筋が楽しそうだと波を立てる。
括約筋が疼き出す。
己の肉体が、心が、俺もと血肉湧きだつ。
「ふぅ~…いい筋肉をしているじゃないか」
「そっちこそ」
ポージングを初めて、早10分。
二人の肉体に限界が近づいていた。
己の肉体を肥大させ、相手に挑む。
体に負担がかからないわけがない。
次で最後の勝負になるだろう。
「次で最後になるだろう」
「ああ、次で終わりにしよう」
ふんっ!
二人が己の持てる筋肉を開放する。
最後のポージングだ。
「おおおおおお…」
「なんて戦いなんだ…!」
「肉体が叫んでいる!筋肉の絶叫だ!」
「俺…この場に立ち敢えてよかった…」
「「くっ…!」」
二人とも同時に膝をついた。
どちらに筋肉の女神がポージングのか。
勝負の行方は…。
「ジャン、君の勝ちだ」
「紙一重の戦いだったがな」
勝者はジャン・マトリックス。
ヘンリーの言葉に部下たちが雄たけびを上げる。
雄々しい。
これぞ筋肉の祭典だ。
今ここに―――筋肉の神が舞い降りた。
「ナイス筋肉だ」
「そっちこそ」
二人はガッチリと熱い握手を交わす。
そこに先程までの敵と味方という柵はなくなっていた。
これぞ筋肉が魅せた奇跡。
シリアス?
なんですかそれは?
食べ物ですかね?
知ってますか?
最近のシリアスって牛乳をかけて食べれるんですよ?




