二十一話:陽キャ美少女と恋愛ドラマの真似事をしてみることになった_02
どうやら一段落つくまで、委員長はドラマ撮影(?)を続ける気らしい。
「それでヨ……衛司くん、私に聞いておきたいことって何かな?」
「姫子さんが、その……上京するって風の噂で聞いてさ。本当か知りたくて」
やはり頭のどこかでずっと気になっていた引越しについて、遠回しながらも言葉にして尋ねてしまった。
まあ『上京』という言葉を使えば、さほど不自然でもないだろう。
二宮さんはゆっくりと俺の近くまで歩み寄り、すぐ間近にまで来た。
「私がどこかに行くの、嫌だったり?」
やや背の低い二宮さんから向けられる上目遣いに、俺はたじろぎながら答える。
「それは……嫌、だな……。俺もどうしてこんなに嫌なのか分からないんだけど、多分コミュ障の俺でもずっと話を交わしたいって思えるの……二宮さ、じゃなくて姫子さんだけだから」
委員長にアドリブ演技してと言われているものの、ド素人が臨機応変に、そんな演技が出来るはずもなく、ただただ本音を垂れ流してしまった。
恐らくそうだということも、二宮さんに伝わってしまっているだろう。
二宮さんは俺の制服のネクタイを軽くクイと引っ張って、無理やり目線の高さを合わせてきた。
「ヨッシ……じゃなくて衛司くんの気持ちが聞けて良かった! 大丈夫、もし私の住む場所が変わっても、きっと今以上に楽しい生活が待ってるはずだから!」
「そう、だろうか……?」
正直な話、二宮さんが引っ越してしまったら、俺は教室のことを、もぬけの殻のように感じてしまいそうだ。
……俺の柄でもない考えだと思ったが、二宮さんの影響力は大きいようだ。
「これは仮の話だけれど……。もしも姫子さんが居なくなったら、どこから元気を貰えば良いんだろうって、想像するだけで元気が無くなるというか……」
「それなら今すぐ元気を補充だ! 頬にキス、思い切りハグ、どっちが良い?」
「え? いや、もしもの話というか、例えばの話だったんだが……」
もはや恋愛ドラマの真似事のていすら成していないことだし、今度こそ委員長に視線で助け舟を求めたが、先程よりニヤニヤ感が増した笑みを浮かべるだけだ。
「その二択しか選べないなら、思い切りハグの方で……」
さすがに頬っぺたにキスを選ぶ訳にはいかないので、ハグを選んだ。
しかし二宮さんは、俺のネクタイから手を放したものの一向に動かない。
「ヨッシーからのハグ待ちですけども? 思い切りのハグどうぞ!」
「お、俺から!?」
てっきり二宮さんの性格から言って、自分からしてくるものとばかりに思っていたので、予想外の返しに動揺してしまった。
友人の間柄だとは重々承知してるし、クラスカーストの差も忘れた訳ではない。
だが、校内一陽キャ美少女の二宮さんが魅力的という事実は変わらないのだ。
あまりよこしまなことは考えないようにと、無心でハグすることに決めた。
「やっぱり女の子としては、後ろから抱きつかれるのに一種の憧れが――」
「あら、吉屋くん。正面からとは大胆」
無心で何も考えずハグしようとした結果、二宮さんの言葉を遮り、正面からハグしてしまった。
今さらながら制服越しに伝わる二宮さんの胸の感触に、身体が強張る。
「ヨッシー……? げ、元気は補充できた……かな?」
「……お、おう。何というか、ゴメン……」
委員長が変な方向に焚きつけるから、と人のせいにしたくなったが、二宮さんが恥ずかしそうに無言で、俺の胸を軽くトントンと叩いてくるのを見て何も言えなくなった。
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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
最近いつもの男子が、距離感を詰めてきてくれる!
貰った動画を何回も見ちゃおう!
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「あっ! 委員長が最後まで撮影していたこと、すっかり忘れてた!」
つい先日『恋の女神です。なんてね』と冗談めかしていた委員長だが、二宮さんの言動と合わさると冗談に聞こえなくなってくる。
落ち着け、俺なんて恋愛とは無縁のはずだ。
二十一話、終了です。次話は『二回目の下校デート』回になります。
一回目は親戚のお寿司屋さん。今度はラーメン屋、でも甘いお話の予定。
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