十三話目:体力テスト実施を知った陽キャ美少女がやる気に満ちている_01
「ヨッシー、明日朝七時に学校まで来れるかな?」
帰りのHRが終わった直後に、二宮さんが何やら闘志に燃えた瞳で、俺に対して問いかけてきた。
しかし俺は二宮さんと真逆で、死んだ魚のような瞳をしているに違いない。
何故なら今月末、インドア系オタク殺しの体力テストがあると発表されたのだ。
「朝七時となるとバスは本数が少なくて……。まあ自転車を使えば来れるよ」
「おお~。それは体力作りにもってこいだね! じゃあ明日から朝七時集合ね~」
「待ってくれ。明日からって何? 明日だけじゃないのか?」
俺の中で段々と嫌な予感が渦巻き始める。
熱意溢れる瞳のまま二宮さんは、俺の両肩をガシッと掴んできた。
「月末は体力テストだね! 明日から私が専属トレーナーになったげよう~」
「え、遠慮しとく……。俺は運動ボイコット運動を掲げたい。当日は休むんだ」
「ふっふっふ、それなら私は運動推進運動家~! 実はもう職員室で色々と許可は取ったんだ~。『吉屋も朝からとは感心だ。内申書に加点だな』って言われたよ」
「勝手に感心されてる! 二宮さん、手際よく俺の退路を断ったね!」
内申書の行く末が賭けられているとは、何とも恐ろしい飴と鞭である。
とは思ったものの高校入学初の体力テストだ。
運動不足すぎて無様な真似を晒すより、今からでも定期的に運動し始めて、体力テストに備えるのはアリかもしれない。
「分かったよ二宮さん。でも俺って全然体力ないから覚悟してくれ」
「やった! 明日からまた楽しくなりそうだな~」
俺の返答に二宮さんは満面の笑みを見せつつ、同じ教室に居る委員長に叫んだ。
「委員長、ターゲット確保! 旧校舎大清掃作戦を明日から実行できます!」
「「それは善きかな。ぱちぱちー」」
意味深な笑みの委員長と、委員長の友人(美化委員)から拍手が送られる。
さすがにコミュ障の俺でも、何やら裏で取引が行われたなと察するのであった。
翌日の朝七時、旧校舎一階――。
いつものバスではなく、自転車を引っ張り出し、俺は約束の時間に到着した。
旧校舎一階の空き教室の何室かは、規模の小さな部活の部室として使われているので、一階に関してだけ言えば清掃は行き届いている。
問題は二階と三階だ。
美化委員が総出で行う月一回の清掃以外、放置が基本らしい。
体操服に着替えた俺と二宮さんは、二階へと繋がる階段前で、制服のままの委員長と、彼女の友人・竹内瑞希さんから説明を受ける。
「ではまず委員長の私が、経緯の説明をするわ。当初二宮さんは、吉屋くんと二人きりで朝練をするつもりだったのだけれど、男女二人きりは教師陣が許さなかったの」
「先生たちのガードは固かった~。残念、無念、朴念仁だね!」
「朴念仁というか男女の問題以前に、帰宅部相手に敷地内で朝練って許可し辛くないか? まあ良いや。でも俺たち全員、先生に叱られることもなく今日ここに来れたよな」
俺の疑問を耳にした美化委員の竹内さんが、胸を張って前に出た。
二宮さんよりもさらに小柄で童顔な竹内さんだが、見た目に反しハキハキと大きな声で話す女子だと俺は記憶している。
確か委員長を「クロポヨ」と呼んでいたはずだ。
「私が説明してあげよう! 姫子ちゃんがクロポヨに泣きついてたから、私が先生たちに提案したの! 『四人で掃除するから、早朝の旧校舎に入らせて』って!」
「なるほど。美化委員の竹内さんと委員長、俺と二宮さんの四人で掃除だね」
「いやいや、掃除は私と委員長がメインだよ! 二人の……じゃなくて、内申点が目的なんで! 吉屋くんたちは掃除を手伝いがてら、ドンドン自由に朝練してOK!」
「へえ、二宮さんが言ってた内申書に加点の正体が分かったよ。ありがたいなあ」
もしかして委員長の術中かなとも思いながら、俺は二宮さんに視線を移す。
二宮さんは俺を見た途端に笑顔になって、ロッカーから掃除道具を取り出した。
本日も主人公と一緒に過ごしたい系陽キャヒロインの話を更新予定です。
※ジャンル別月間5位でした。ラブコメ好きとして応援頂きまして嬉しいです!




