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十一話目:風邪がうつったようだが、陽キャ美少女がお見舞いに来た_01

「ごほっ、ごほっ……。何だか身体がだるいし喉も痛いな……」


 二宮さんが高熱で早退した日の夜、悪寒で震えながら寝たのだが、今朝はさらに体調が悪くなっていた。


 体温計で計ったら三十七度台前半だったので、学校に行けなくもない気がしたが、俺の様子を見ていた母さんが制止してきた。


「学校には私が電話しておくから、今日は家で休みなさい。良いわね?」

「……分かった。じゃあ今日は一日お願い」


 幸い食欲はあったので朝食の後に、市販の風邪薬を飲んでベッドで横になる。

 恐らくあの時に二宮さんは風邪を引いていて、運動不足で免疫力も落ちているであろう俺にあっさり風邪がうつったというところか。


 彼女の症状を鑑みるに、もっと熱が上がる可能性もあるので大人しく眠ろう。




 昼過ぎには俺の予想通り、さらに体温が上がって三十八度後半になった。

 なので夕方近くまで寝てみたものの目が冴えてしまったので、自分で氷枕を替えようと居間に来たところ、インターホンが鳴り響いた。


「母さん、宅急便でも来たんじゃない? さすがに俺は出られないから出てくれ」

「はいはいちょっと待ってね。家事で立て込んでる時に限って来るのよね」


 洗濯物を畳む作業を中断した母さんは、インターホンのモニター越しに対応する。


「どちら様でしょうか?」

『初めまして~、吉屋衛司くんの彼女です! 玄関を開けて頂けませんか?』

「うちの衛司の……彼女さん……?」


 インターホン越しに、いつもの聞き慣れた陽キャ美少女の声が聞こえてきたので、俺は思わず氷枕を落としそうになった。


「ごほごほっ! なんで二宮さんが俺の自宅を知ってるんだ!?」


 俺は「詐欺かしら?」と妙な疑いを始めた母さんに氷枕を預けて、インターホン越しに二宮さんに話しかける。


「俺の母さんに変なことを吹き込むんじゃない。というか住所は教えてたっけ?」

『プリントを届けるべく、ヨッシーの友達のトモポンに教えてもらいました!』

「トモポン……?」

『ピンポン球で箒野球してた友木くん、トモポン! たった今、命名しました~』

「友木から聞き出したのか。プリントなら、今から母さんに受け取らせるよ」


 俺は母さんに一旦預けた氷枕を受け取り、二宮さんは俺の彼女でも怪しい人でもないと教えた上で、玄関で応対してもらうように頼んだ。


「衛司の風邪をうつしちゃったら申し訳ないものねえ。お礼は言っておくわね」

「そうだな。プリントを届けてくれてありがとうって言っておいてくれ」


 藪蛇になるだろうと思った俺は、二宮さんから貰った風邪だとは伏せておく。


 俺は高熱でふわふわと覚束ない足取りで自室に戻り、再びベッドへと潜り込む。

 新しく替えた氷枕を心地良く感じていると、扉が開いて二宮さんが現れた。


「来ちゃったよヨッシー! 彼女と勘違いされてしまった二宮姫子です~」


 遠慮がちに顔だけ覗かせている二宮さんだが、何故かドヤ顔だ。


「……おかしいな、母さんには俺の彼女じゃないって伝えたはずだが?」

「私も違うって訂正しましたよ。私の手作り弁当を美味しそうに食べてくれたり、一緒に図書当番を手伝ってくれたり、昨日も私の看病をしてくれた只のクラスメイトですよってきちんと説明したのに、お母さんは『彼女なのね』と勘違いしたままでした」

「そりゃそういう意味深な言い方したらそうなる! やや恣意的な言い方してるとはいえ、全部事実というのも余計にややこしぃ……ごほっ、ごほっ!」


 途中で咳が出てむせていると、二宮さんが俺の一人部屋に入ってきた。


 二宮さんの手にはビニール袋が握られていて、そこから栄養ドリンクや一口チョコなど差し入れの品を次々と取り出していく。


「差し入れどうぞ~。あと、体温計もお母さんに借りてきたので測って下さい」

「お、おう。ありがとう」


 さっそく栄養ドリンクを飲みながら検温すると、三十七度九分だった。


「昼間より下がったけど、まだ熱はあるな。二宮さんは昨日の今日でケロッとしてるけど、俺と一緒に居て風邪がぶり返したら良くないし、そろそろ帰った方が良いよ」


 帰宅を促された二宮さんは、学校で配布されたプリントを取り出した。


「私ならもう体調は大丈夫ですよ~。元々私の風邪だし感染リスクは薄いはず?」

「確かに母さんの方が、俺の風邪をもらう可能性は高そうだが……」

「そうそう~。ちなみに今日配布されたプリントですけど、購買に仕入れる新メニューの投票っていうのが重要度高いかと! 肉厚カツサンドと大盛パスタの一騎打ちだよ」

「その二択なら肉厚カツサンドだなあ」

「へい、承知しましたぜ旦那!」


 二宮さんは俺の代わりに、投票用プリントへ肉厚カツサンドと書いてくれた。

 そしてそれを机に置いてから、黙ったままじっと俺の顔を見つめてくる。


「……ヨッシー。私にやれることが、さっそくなくなってしまったのですが!」

「ははは、それでだんまりしてたのか。昼は三十九度近く出て何も食べられなかったからお粥でも食べたいけど、まだ仕事中の父さんしか上手にお粥を作れないからなあ」

「なら私が作ろうかい? 少しお時間頂ければ、お粥をお届けできますぜ~」

「それはありがたい。母さんに一声かけて台所と食材を使わせてもらってくれ」

「ふっふっふ、じゃあ行ってきますね~」


 彼女だと誤解されたまま、また母さんに会わせるのは躊躇したが、お腹の減り具合には負けてしまった。

この十一話で第一章が完結します。お楽しみ頂けましたら幸いです。

※ジャンル別週間2位でした。応援して下さり誠にありがとうございます。

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