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九話目:図書委員を務めている陽キャ美少女から、共闘を求められる_03

「私が思いつきで仕掛けるノリに最後まで面倒臭がらず付き合ってくれる一番の人だから、つい話しかけちゃう……みたいな?」


 いつもの陽キャ的距離感で顔を近づけたまま、真面目にこんな理由を告白してしまってさすがに二宮さんでも恥ずかしかったのか、僅かに頬に赤みが差してきた。


「私って広く浅くの交友関係ばかりですからね~。だからずっとハイテンションで話しかけても許してくれそうな人……ヨッシーしか居なかったり。ほら、この通り~♪」


 真面目な話は性に合わないのか、至近距離のまま俺の両頬を引っ張ってきた。


「……今日は頬つっつきといい、頬いじりの日かな?」

「そうだとも~。こんな面倒臭い絡みにも付き合ってくれるのがヨッシーだ」

「面倒臭いどころか、受身でもガンガン話を振ってくれて助かってるよ。俺は話下手だしちょうど良いんじゃないかな。いつもありがとうぅぬっ!?」


 ここは俺の方から茶化してはいけないと思って真面目に返答してみたが、今度は両手で左右の頬を押さえつけられ無理やり言葉を遮られてしまった。

 第三者視点だとキス寸前だが、実際は喋る口を止められただけの悲しい画だ。


「ヨッシー真面目すぎだ~! 何だか恥ずかしくなってきたから、それ以上……」


 二宮さんの言葉は、図書室の扉が開かれる音で途切れた。


 扉に背を向けて、しかも両頬を押さえられていた俺は、後ろを振り向けない。

 間近で見える二宮さんの顔が、これ以上ないほど真っ赤に染まっていく。


「あら、借りてたラノベを返却しようと思ったら二宮さん大胆。お邪魔するわね」

 ……この声は委員長だ。このタイミングでマジか。変な勘違いされてそうだ。


「そこは『お邪魔したわね』じゃないのかな!?」

 二宮さんが珍しくツッコミに回って、俺の両頬を押さえつけるのを止めた。


 扉側の委員長視点だと、キスをし終わった後に見えても不思議じゃない。

 委員長は俺たちが居るカウンター席までやってきて、ラノベを数冊返却する。


「今日は二宮さんが図書当番だったのね。『狼の更新料』一~三巻まで返すわ」

「ええっと、俺は図書委員じゃないから手続き分からないな。二宮さん頼む」

「……はい~。返却ね、返却処理~」


 二宮さんに手続きをお願いしたものの、動揺が隠し切れていない。

 返却処理を待っている間、委員長が俺にだけ話してきた。


「ねえ、二宮さん真っ赤だけどキスするところだった? それともした後?」

「どれも違う。二宮さんからの質問に、小並感のお手本みたいな何の捻りもない回答しか出来なかったから、いつものノリで俺の頬をギュッと押さえつけたんだと思う」

「なんだ。奥手な吉屋くんを、ついに二宮さんが攻め落としたのかと。なんてね」

「かなり弩直球で真面目な話してたから、それが恥ずかしかったみたいだ」

「真剣に話をするのが気恥ずかしかったのかしら。二宮さんらしいかもだけど」


 当たり前だがキスとかいう話ではないので、特に滞りなく委員長に説明できた。

 返却処理を終わらせた二宮さんにも、委員長は声を掛ける。


「二宮さん、どうやら私の勘違いだったみたい。ごめんなさいね」

「いやはや~。私もTPOを考慮してヨッシーに絡んでるから、まさか委員長に見られるとは思わなかったな~」

「私だって実はドキッとしたのよ。ほら」


 そう言うと委員長は、長く綺麗に伸びた黒髪をかきあげて片耳を見せてきた。

「「ホントだ、赤い……」」


 冷静沈着というイメージの委員長が意外にも耳を赤くしていたので、思わず二宮さんと同じ感想を漏らしてしまった。


「私って顔にはあまり出ないらしいのだけど、耳はこうやって少し赤くなるみたいなの。これで恥ずかしいのは、おあいこ。それじゃあね」


 なんだか同い年とは思えないオトナな対応をされたと思ったが、今の俺たちには素直にありがたかったので、そのまま退室していく姿を見送った。


 再び二人きりになったが、ちょうど最終下校時間のチャイムが鳴り響く。

 二宮さんはパチパチと手を叩いて、一時間半に及んだ戦いをこう締めくくった。

「スタイル抜群で、振る舞いまでオトナだった委員長の功績を称えて拍手~!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 美人な同級生まで赤くなったのに、いつもの男子は平然!

 あれ、意外と経験豊富!?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「いや、何でもかんでも平然と言う訳では……。ナップサックの中から出てきたのが体操服だった時は、さすがに赤くなってしまったような記憶があるんだが……」

 でもキスと勘違いされるのは、俺には縁がなさ過ぎて何も反応できなかった。

 むしろキスの一つや二つ経験してそうなリア充の二宮さんが、あそこまで動揺する方が意外だったくらいだ。

 陽キャ美少女な見た目や言動に反して初心なのだろうか。

九話目、終了です。そろそろ第一章が完結する予定です。

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