九話目:図書委員を務めている陽キャ美少女から、共闘を求められる_01
放課後になると、部活に精を出す生徒たちの元気な声が響き渡る。
帰宅部の俺はこの声を聞く度に「授業を受けた後で疲れているだろうに、何かに打ち込める人間って本当に居るんだなあ」と思わされる。
もちろん放課後に学校で長居する用事もない俺は手早く荷物をスクールバッグに詰めて、高校前のバス停に向かおうとしていたが、落ち着いた声色の女子から呼び止められた。
「ねえ、今から図書室まで来てくれない?」
「図書室……?」
背後から肩を叩かれたので振り返ると、俺の頬にズムッと指がめり込んだ。
「ぅおぁ!? 痛ぇ!?」
二宮さんと(たまに)委員長くらいしか女子から話しかけられないので緊張も手伝い、勢いよく振り向いたのだが、その瞬間を待ち構えて頬を指でつつくという古典的な悪戯を仕掛けられたらしい。結構な勢いで女子の指がめり込んで、頬に鈍痛が襲った。
イタズラを仕掛けた女子は突き指しかかったらしく、呻き声を上げ始める。
「あぁっ、グニッて! 危険な感じのグニッが! ……指ぃいぃ~!」
どう声を掛けたものかと悩みつつ改めて振り返ってみると、二宮さんだった。
「よ、ヨッシー……声のトーンで油断したね? さ、さっ……作戦成功っ!」
「多大なる犠牲を払って、頬つっつき作戦は成功したね。二宮指揮官おめでとう」
「成功したけどメディーック! 重軽傷者一名発生、私の人差し指伍長が~!」
「落ち着いて二宮さん。重軽傷者一名って日本語は存在しないぞ」
この手の悪戯は小学生以来だが、仮に突き指しても軽い症状で収まるはずだ。
そう思い一分ほど安静にさせると、ほぼ痛みは引いたらしく饒舌に語り出した。
「ヨッシー大尉……。右手分隊所属、人差し指伍長が戦死致しました……」
「二階級特進で、人差し指曹長に昇進かな」
何の気なしに二宮指揮官と呼んでみたのだが、二宮さんは律儀に軍隊ネタで話を進めていく気らしい。さすがのコミュ力でアドリブトークを見せる。
「さあ軍法会議だ! ヨッシーよ、図書室労働一時間半の刑に処する!」
「おっ、図書室に来てくれっていう話に繋がってきた。そういえば二宮さんって部活には入らずに図書委員だったよね。今日は当番なの?」
「正解! もう一人の当番の子が欠席で、お昼休みは一人で当番したんだけど、暇すぎて死にそうでした~。という訳で放課後はヨッシーも共に死んでくれ、名誉の戦死だ」
「戦死理由が暇、ってすごく平和だなあ」
一貫して図書当番に付き合って欲しいと主張する二宮さんに、俺は苦笑した。
入学してから一度も図書室は利用したことがないのだが、どうしたものか。
「ヨッシーには図書室で一時間半の籠城戦を命ずる! 数は限られてるけど実はラノベも置いてあるぜ~。予算の関係上、一世代を築いた超メジャー作しかないけどね~」
「さすが校則が緩めの我が校だなあ、ラノベも置いてあるとは。一時間半か……。一冊は読み切れそうな時間だね。どうせやることないし、当番に付き合うよ」
「ふっふっふ、それでこそ戦友ヨッシーだ! さあ、図書室へ向かおうか」
俺からの了承が得られた二宮さんは一しきり笑ったあと、後ろに回り込んできて背中をグイグイ押してくる。
放課後で校舎は人通りが少ないとはいえ、二宮さんが男子小学生みたいなノリで絡んでくるので、廊下で通りすがりの生徒たちから好奇の視線を貰ってしまった。
放課後の図書室に着くと、誰も利用者がおらず静まり返っていた。
喋らずに耳を澄ませば遠くから響いてくる掛け声が、それぞれどの運動部からなのか、聞き分けられそうなくらいである。
俺という頼りない戦友を得られた二宮さんが、いつも通り元気に話しかけてくる。
「どうだいヨッシー。敵兵も味方兵も見当たらないだろう?」
「確かにこれは暇すぎるというのも頷けるな。特に二宮さんにはキツそうだ」
「さすがヨッシー、分かってらっしゃる~。だが安心したまえ、選りすぐりの少数精鋭のラノベが待機している。『昨日の旅』や『狼の更新料』とか色々あるよ~」
「シリーズ累計何万部売れてるんだろってレベルの超メジャー作だね。そうだなあ……。時間的に一冊が限界だから『昨日の旅』が読みたいかな」
「イエッサー! 二宮姫子小隊長、目標の確保に向かいます!」
俺たち以外誰もいないのを良いことに、猛ダッシュして本棚の影に滑り込んでは前進を繰り返し、気分は特殊部隊員か何かのようだ。
しかし二宮さんのスカートがふわふわっと何度も舞い上がって、すらりと伸びた太ももや下着まで見えそうになっている。
今日はまた少し主人公とヒロインの距離が縮まるお話です。
※ジャンル別週間3位でした。ご評価頂きまして誠にありがとうございます。




