遭難者
「メーデー! メーデー! メーデー! 誰か応答してくれ! ああ、駄目だ」
惑星の大気により真っ赤に焼けた宇宙船から緊急避難カプセルで脱出する。
この星は銀河辺境にある青い惑星。
バラシュートが自動的に開きゆっくりと落下して地上に到達。
此処は抜きんでた知能を持つ生物が出現していない未開の惑星。
大気を分析する。
即死するレベルでは無いがこの大気は私には毒。
カプセル内に残っている空気と船外作業服に備わっている呼吸フィルターの使用時間を足しても、2日持てば良い方だろう。
こういう最後を遂げるのは、銀河辺境開発公社に入社した時から覚悟を決めていた。
カプセル内から地上の風景を眺める。
小高い丘の上に可憐な花を梢に咲かせた木が見える。
銀河連邦に属する船がこの星の近くを通った時気がついて貰えるように、位置確認シグナルが発信されている事を確認してから作業服を着込み、丘の上の木の下に向かう。
木の根を枕に横たわる。
夜になり空は無数の星で埋め尽くされた。
故郷の星があると思われる方角を見ながら妻や子供達、両親や同僚の顔を1人1人思い浮かべる。
フィルターの寿命が切れかけている息苦しい。
愛する人たちに向けて別れの言葉を口にし安楽死用の薬剤を身体に注入する。
遠い異星から来た遭難者の身体の上に桜の花が舞い降り、その身体を覆い隠していった。