88話 覚えられない
我先にと出発し、盗賊の襲撃を受けた行商と軽く揉めた事は商業ギルドのギルドマスターにはお見通しだった様で。注意とまでは言わないまでもお小言は頂戴した。
まぁ、それ以外は何も問題無く情報料を貰い出発した。
「そういえば」
「はい」
「俺とエイミーの冒険者カードって何で控え取ったんですか?」
「この後、盗賊の討伐を行うのですが。盗賊の規模に依っても情報提供の貢献度は変わるので」
「はい」
「規模に依ってはお二人のランクもまた上がるかもしれませんね」
「おぉー。って、そんなのでも上がるんですね」
「勘違いされてる様ですが・・・」
「え?」
「商業ギルドにしろ冒険者ギルドにしろ、情報というものを最重要視します」
「は、はい」
「モンスターの討伐依頼を熟すよりも、そのモンスターを発見した情報の方が高く評価されます」
「へぇ~」
「ケース・バイ・ケースなので全てがそうではありませんが、基本的には情報の方がより高く評価を受けますね」
「なるほど」
「ですので。討伐隊が結成され、討伐を行い。その後、査定が済んでから反映されると思います」
「はい」
との事らしく、オゥンドさんに着いて歩き回ってるだけでどんどん冒険者ギルドでのランクが上がっていくかもしれない。
まぁ・・・実力が伴ってなければ、身を滅ぼしそうなランクの上げ方だけど・・・。
何事も無く順調に野営地に到着し、そこで一晩過ごしてから翌朝次の村に向けて進みだしたが。
感じの悪いヤツだったけど、ここで死んだのかと思うと色々な感情が込み上げて来る。
その中でも1番大きいのは見殺しにした罪悪感だろう。
助けに入った所で一緒に殺されてた可能性が高いだろうけど・・・。
その後も大した問題は起こらず。無事、次の村へと到着した。
「引き返して行きましたね」
「え?何がですか?」
「あれ?気付いてませんでしたか?」
「ん?何にですか?」
「尾行されていたのですが・・・」
「えっ」
「まぁ、商業ギルドの関係者なので問題ありませんが」
「えっ」
「情報提供者と盗賊が繋がっていて。その情報が罠という可能性もあるので」
「お・・・おぉ・・・マジですか・・・」
異世界ってそんな恐ろしい世界なのっ?
「そんな生き馬の目を抜く様な感じなんですね・・・」
「えっ!?」
「え・・・あっ、違いますよっ?例えです例え」
「生きている馬の目を・・・」
「そんな非道い事をする油断ならないヤツが居る。みたいな例えですっ」
微妙に違う気もするけど。オゥンドさんにとって馬は時として地雷になるのを忘れてた・・・。
「その様な外道には・・・それ相応の報いを受けさせなければいけませんね・・・」
「いや、例えであって。そんなヤツ居ないですよ・・・?」
「それもそうですね」
ちょうど村に到着した時だったのが幸いし、宿に逃げ込む事が出来た。
もしこれが道中だったとしたら、延々と馬の話を聞かされるハメになっていただろう。恐ろしい・・・。
「もう直、エーリューズですね」
「エーリューズ?」
「エトーさんの居る冒険者ギルドがある村ですよ」
「あ、あー、あー、あー」
「何故、エーリューズの名前は頑なに覚えないのですか・・・?」
「いや・・・何ででしょうね・・・?覚える気はあるんですけど・・・」
「それにしてもユウさんは出会った頃と比べると逞しくなりましたね」
「そうですか?」
「エーリューズでエトーさんから紹介された時から考えると3ヶ月と少し経っていますからね」
「えー、もうそんなに経つんですか?」
「私もこれだけの長期間護衛を雇ったのは初めてでしたが・・・」
「ん?はい」
「このまま私の行商に同行して頂けませんか?」
「え?」
「ユウさんのアイテムボックスにウォーターにライトに攻撃スキルにと余りにもスペックが高いですし」
「え、いやぁ・・・そんな・・・」
「そして、そんなユウさんよりも遥かに万能なエイミーさん」
「あ・・・はい・・・」
うん。俺よりもエイミーの方が活躍してるのは十二分に理解してる。
気配察知がレベル3に上がって意識しなくても敵意を持った相手が近付いてきたら分かる様になったけど・・・そんなスキル持ってないエイミーの方が先に気付くし・・・。
相変わらず戦闘能力はエイミーの方が遥かに高い。
俺の優位性は生活魔法とアイテムボックスくらいしか無い・・・。
「お二人クラスの護衛を雇うのは正直無理があります・・・」
「あー、赤字が出る感じですか」
「はい。それに、1から信頼関係を築かないといけませんし」
「そうですね」
「エイミーさんに店舗を任せて、ユウさんには護衛をして頂く。それが理想ではありますが・・・」
「すいませんが・・・」
「うどんですか」
「はい」
エーリューズよりももっと西らしが、西に行けば醤油があるらしいしそれは譲れない。
醤油。鰹節に昆布。そして、良質な小麦が欲しい。
小麦は大抵の場所で作っているらしいので醤油の手に入る海の近くであれば何とかなる。
まぁ、欲しいのは乾物だし。魚介類に鮮度は求めないから海はそこまで近くなくても問題無いか。
「それでは冒険者ギルドに向かいましょうか」
「エトーさんにお礼言わないとですしね」
「それと依頼達成の報告ですね」
「あー・・・って、護衛依頼って正式に受けてない気がしてきたんですけど・・・」
「あぁ、それなら私がやっておきましたよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「ドッキリを仕掛けた時の流れで勝手に契約したので、お礼を言われる様な事では無いのですが・・・」
なるほど。あの時か・・・。
「エトーさんお久しぶりです」
「ん?あぁ、お前か。久しぶりだな」
「その節はお世話になりました」
「おう、気にすんな」
「正直、こんな早くここに戻って来るつもりじゃなかったんですけどね」
「だろうな」
「姉の方に襲撃されたり・・・色々ありましたけど、何とか無事に戻って来る事が出来ました」
「あっ、あー、あー、あー・・・ヌ・・・ヌプ・・・ヌポ・・・」
「いや、ユウですよっ」
「思い出した、思い出した」
「ってか、今の今まで誰か分かってなかったですよね・・・?」
「思い出したんだから細かい事は気にすんな」
名前を覚えないのは相変わらずだけど。
顔を合わせても俺の事を思い出さなかったのはちょっとショックだ・・・。
護衛の旅で逞しくなったからって事は・・・無いな。
ただただ忘れられてただけだろう・・・。
いつもお読み頂きありがとうございます。
85話からの行商人との揉め事編は書いてて凄く楽しかったです。
そんなこんなで久しぶりのエトーさんですヾ(*´∀`*)ノキャッキャ




