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86話 地平線

「普段より微妙に遅くないですか?」

「そうですか?」

「平坦なのに山道の時くらいの速度じゃないです?」

「気の所為かと」

「もしかして、前と距離を空けたい感じですか?」

「・・・・・・」


返事は無かった。

ムカついてるから離れたいだけなのか。

それとも、問題児だから何か問題を起こすんじゃないかと予見して、厄介事に巻き込まれない様に車間距離を空けてるのかは分からない。


前との距離はスタートしてからジワジワ開いていき。

このペースのまま進むのなら、もうしばらくすれば見えなくなってしまうだろう。


「次が野営地なのか村なのか知らないですけど。このペースで間に合います?」

「そこまで遅い訳じゃないので大丈夫ですよ」


そうは言うが・・・本当に前の馬車が地平線の向こうに行ってしまった。


「それではそろそろ」

「ん?」

「ユウさんは先行して下さい」

「はい」

「前の馬車がギリギリ見える位置をキープして下さい」

「はい」

「そして、何かあれば直ぐに戻って来て下さい」

「何か?」

「休憩の為に停車したり、脱輪したり、障害物で足止めを食らったり、襲われたり。色々ですね」

「1番最後のが怖いんですけど・・・」

「最後だけですか?」

「え?」

「脱輪も障害物も罠の可能性が高いですけどね」

「えっ・・・って、襲われそうな感じですか?」

「どうでしょう?何か動きがあれば直ぐに戻って来て下さい。それだけです」

「は、はい・・・」


小走りで前に居る馬車を追いかけると直ぐに前方の馬車が視界に入った。

後ろを振り返ると10メートルも離れておらず。実は前の馬車もそこまで離れていないのかもしれない。


確か、地平線って遥か彼方に感じるけど。4-5kmしか離れていないと聞いた事がある気がする。


オゥンドさんに言われた通り、ギリギリ見える位置を意識しながら歩き。

ふと気になって後ろを振り返ると。更にペースを落としたのかオゥンドさんとの距離がそこそこ開いていた。


その距離もどんどん開いていき、前方の馬車は米粒くらい、後方の馬車は豆粒くらい。

ほぼ中間地点くらいに位置している。


地平線までの距離が4-5kmだとして。

車間距離は7-8kmくらい?

歩いても2分掛からないくらいの距離って考えると、実際はそこまで離れてないのか。

視覚的にはめちゃくちゃ離れてるんだけどね・・・。


そんな事を考えていると。

突然現れた10人は居るだろうか・・・恐らく盗賊に前方の馬車が囲まれていた。


言い付け通り踵を返して全力でオゥンドさんの元に戻る。


「出ましたか?」

「は、はいっ。たぶん、盗賊ですっ」

「エイミーさん」

「は、はいっ」

「後ろの馬車まで行って。盗賊が出たので何時でも引き返せる様に準備だけはしておく様伝えて来て下さい」

「はいっ」


全力で駆けて行くエイミーの背中を見送ってから大きく息を吐いた。


「ふぅ~~。やっぱり助けないんですよね?」

「そうですね。向こうにも護衛が居るので大丈夫でしょう」

「10人くらいは居ましたよ?」

「連携を取る気も無い様でしたし。下手に手を出しても揉めるだけなので知らなかった事にしましょう」

「は・・・はい・・・」

「私達の存在に気付いてる気配はありましたか?」

「いや、気付いて無いとは思います」

「そうですか。一応、ユウさんには見えるか見えないかくらいの距離で様子を伺って来て頂いても良いですか?」

「はい」

「手出しはしなくて良いです。こちらに向かって来る様なら」

「全力で知らせに戻ります」

「はい。お願いしますね」

「はい・・・」


向こうが見え始める距離がどの程度なのか分からないのでビクビクしながら進む。

ようやく馬車が見えた頃にはかなりの時間が経っていた・・・。


襲撃は完全に収束しており、馬車が再び走り出すタイミングで視界に捉えたが、周囲を盗賊達が囲んでいて歓声を上げている。


こちらに気付いている様子も無いが馬車が視界から消えるまでその場に留まり。見えなくなってから歩いてオゥンドさんの元へと戻った。


「そうですか。エイミーさん後ろの馬車まで知らせに行ってあげて下さい」

「え、えっと・・・何て言えば・・・」

「盗賊が居なくなったので私達はこのまま進む。と」

「え・・・は、はい・・・」

「進むんですか?」

「はい」

「危なくないんですか?」

「このままアジトに戻って宴会でしょうから。危険は無いと思いますよ?」

「で、でも、戻って知らせたり・・・」

「それは次の村で大丈夫です」

「そ、そうですか・・・」

「つ、伝えて来ましたっ」

「お疲れ様です。それでは出発しましょうか」


慣れてるのかオゥンドさんに動揺は一切無い。


「ユウさんは盗賊の撃退経験もあったのでは?」

「いや、1回だけですよ?」

「1回もあれば十分かと」

「ま、まぁ・・・そんな何回も経験したくないですけど・・・」


オゥンドさんはやっぱり何度も経験があるのか聞いてみたかったが何となく躊躇われた。


「この辺りだったと思うんですけど」

「襲われた場所ですか?」

「はい。いきなり盗賊が現れたんですよね」

「ふむ」

「気付いたら馬車が囲まれてました」

「こんな見晴らしの良い場所でどうやったのでしょうか?」


見渡す限り真っ平らな景色が広がっている。

当然、向こうの方には森だったり山だったりも見えているが基本的にここは開けている。

それなのに・・・と思っていたら。


「あれ?何かあそこ変じゃないですか?」

「ふむ」

「何か違和感が・・・」

「少し調べてみましょうか」

「はい」


草むらの真ん中が不自然にハゲている。

しかも、湿った土が盛ってある感じで。


「なるほど」

「何か分かったんですか?」

「はい」


(おもむ)ろにオゥンドさんがその湿った土に近寄り軽く蹴り上げると・・・。


「板?」

「ですね」

「こうやって、この板をひっくり返すと・・・」


深さ1メートルくらい。横幅は成人男性が2-3人座ってもゆったり出来るくらいの穴が顔を出した。


「あー・・・なるほど。ここに隠れて馬車が通ったら一斉にって事ですね」

「その様ですね。では、戻りましょうか」

「え?」



気にせず進むって言ったり、いきなり戻るって言い出したり・・・。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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