84話 テッテレー
オゥンドさんはアッサリと自分の部屋に帰って行った。
もっと、こう・・・「いつか、またオゥンドさんの護衛させて下さいね」とか「私じゃ雇えないくらい高ランクの冒険者になって下さい」とか、そこそこ長い期間同じ釜の飯を食った仲なんだし・・・もっと別れを惜しんだりしたかった。
残された俺とエイミーは、特にする事も無いので早々に普段よりもふかふかのベッドで眠りに就いた。
翌朝、宿で朝食を取り。一旦、部屋に戻ったは良いが別段する事も無いので約束の時間まで街を散策する事にした。
「もしかして、こんな街って来たの初めて?」
「はいっ。村から出た事も無かったですし、私の居た村は田舎だったので」
昨日も見たはずなのに、見る物全てが珍しい様でエイミーは辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていた。
「ユウさんの居た所はこのくらい都会だったんですか?」
「ん~、ここよりも都会かな」
俺の地元は田舎だったけど、文化レベルに差があるし。
香川とはいえ、ここぐらいの街には負けない。
まぁ、中世のヨーロッパって雰囲気の街並みだからテーマパーク的な感じで興味はあるけど、人の多さや発展具合に気圧される様な事は無い。
「お昼までにって話だったけど。昼ご飯って済ませて行った方が良いのかな?」
「直ぐに出発するなら食べて行った方が良いでしょうけど・・・」
「まぁ、お腹空いたら空いたでその時考えよっか」
「はい」
「食べる時間無かったらアイテムボックスに入ってる果物で我慢して貰う事になるけど」
「それでも全然大丈夫ですっ」
「屋台とかで気になったのがあれば買えば良いしね」
「はいっ」
結果から言うとピンと来る物は無かった。
醤油があったんだから。と、日本的な食べ物を探してしまったのが原因なんだけど。
洋風な食べ物だったり、素材そのままの料理ばっかりで食指が動かなかった。
「ユウさん。そろそろ向かった方が良いと思うんですけど・・・」
「もうそんな時間?じゃあ、そろそろ行こっか」
「はいっ」
商業ギルドに到着すると見慣れた人が満面の笑みで待ち構えていた。
「やっと来ましたね」
「護衛する行商の人を紹介して貰えるんですか?オゥンドさん」
「はい。お昼を食べながらにでも」
「あ、はい」
実は、ここから護衛する行商は私でしたー。って、ドッキリかと思った。
たまにそういう事するけど、基本的に真面目な人だから流石に無いか。
「屋台で適当に買って来ますので少々お待ち下さい」
「はーい」
ちょっとした広場でオゥンドさんが買って来てくれた料理を囲み、護衛する行商の人の話を振ってみる。
「ところで・・・行商の人は?」
「実は、ここから護衛する行商とは私でしたー」
「ぶっ」
「おぉ、中々良い反応ですね」
裏の裏をかかれた感じだ・・・。
「えっと・・・正直、どの方角に向かってたかとかもイマイチ理解してなかったんですけど。ずっと西に向かってたんですか?」
「いえ、東に向かってましたね」
「あ、じゃあ、ここが折り返しで。ここから西に向かうんですか?」
「もう少し東に向かってから北に向かい、そこから西に向かいます」
「それだと結構掛かりそうですね・・・」
「まぁ、そうそう都合良く西に向かう行商なんて見付かりませんよ」
「そ、それもそうですね・・・」
「正直、それなりに時間は掛かるので途中で西に向かう行商とタイミング良く遭遇した場合は交渉しても構いませんよ」
「はい。でも、他の行商の人の護衛をした方が経験にはなるんでしょうけど・・・慣れてるオゥンドさんの方が安心出来ますね」
「慣れ過ぎるのも問題ですが。そこは私も同感です」
「で、ですね」
「食べ終わったら出発したいのですが。何か必要な物等はありますか?」
「俺は大丈夫です。エイミーは?」
「わ、私も大丈夫ですっ」
「でしたら。食べ終わったら、ユウさんのアイテムボックスの中にある水袋や桶の水を入れ替えて頂けますか?」
「あ、入れっぱでしたね・・・」
「はい」
「って、確信犯じゃないですかっ。何時からだったんですか?」
「醤油が西にあると聞いた時からですね」
「近々(きんきん)ですね・・・それが無かったら?」
「ここでお別れでした」
「ってか、その時からこのドッキリを計画してたんですね・・・」
「はい」
「あー、殴りたいぐらいに良い笑顔ですね」
「はっはっは。昨夜は楽しみで中々寝付けなかったくらいです」
「くっそ・・・。まぁ、ホッとしましたけど・・・」
「ははは。引き続き宜しくお願いします」
「はい・・・」
食後。俺とエイミーは川に水汲みに、オゥンドさんは山に芝刈r・・・商業ギルドに預けていた馬と荷馬車を取りに向かった。あ、俺とエイミーは川じゃなく井戸に。
終わったら東門に集合と言われたが。どっちが東か分からなかったので・・・結局、商業ギルド前での待ち合わせになった。
「お待たせしました」
「水は入れ替えられましたか?」
「全部、入れ替えました」
「お疲れ様です。早速ですが、出発しても?」
「はい、大丈夫です」
「では」
門を潜り、街道を進む。
大きな街なだけあって、歩いている人や馬車もいくつか視界に入っている。
「何か混んでますね」
「今だけですよ。各々の速度が違うので自然とバラけていきます」
「なるほど」
「ですが。今日は普段よりも多い気がするので、野営地が被るかもしれませんね」
「被ったら何かあったりするんですか?」
「いえ、これといってありませんね。人目が増える分、襲われにくくなりますし」
「良いですね」
「だからと言って寝ずの番をしなくて良い訳でも無いので、そこまでの利は無いですね」
「そうですか・・・」
「お互いにある程度の距離を置いて。基本的に干渉しないルールなので」
「なるほど」
「勿論、有事の際には協力し合いますが・・・問題は起こさないで下さいね?」
「え?そんな信用無かったんですかっ?」
「いえ、一応です。一応」
まさか、そんなに信用が無いとは思ってなかった。
あれ?俺ってそんな問題児だっけ・・・?
「少し多めに荷台の空きを作って来たのですが。これだけ人が多いと獲物は出そうにないですね。エイミーさん」
「残念です・・・」
その後は順調に進み。何の問題も無く野営地まで辿り着いた。
オゥンドさんの振りがフラグじゃなければ、野営地でも問題は起こらないはずっ・・・。
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