79話 油あがり
顔を洗い、シャキっとした所で火の前に座り。ゆらゆらと揺れる炎を眺めていると。
夕飯を食べ損ない、かなりお腹が空いている事に気付いた。
アイテムボックスから林檎を取り出し、そのまま囓る。
食べる前にズボンとかで林檎を擦ったりするのを古い洋画か何かで観た事があるが、ツヤが出るとかそんなのが理由だった気がする。
ツヤが出ても味に変わりは無いし、農薬なんかが付着してる事も無いだろうから気にせずそのまま囓りつく。
あ、でも、実は表面に刺激を与える事で何か味に変化があったりするのかもしれない。
じゃないと擦る意味も無いし・・・。
という事で、歯型が付いたのとは逆側を軽く擦ってから食べてみる。
あれ?こっちの方が美味しい気がする。
なんだろう?雑味が減ったというか・・・。
もう1度、擦った所と擦ってない所で食べ比べてみるが、やっぱり擦った所の方が雑味が少ない気がする。
これは・・・揉むと蜜柑は甘くなる的なヤツなのかもしれない。
そんな他愛もない事を考えている間に時間は過ぎ、東の空が黒から濃紺に変わり始めたのでオゥンドさんを起こす為に腰を上げた。
「すみません。ユウさんの分も残しておけば良かったですね」
「あー、寝てたんで仕方無いですよ」
「林檎ですが」
「はい」
「表面に白い粉やベタベタした物が付着している事があるのですが」
「はい」
「あれは熟した証拠とでも言いますか。食べ頃という証でもあるのですが」
「へぇ~」
「それ自体は美味しくないので拭き取ってから食べる訳ですね」
「あー、なるほど」
「まぁ、気にしない人も居るので、人それぞれですね」
「擦ると美味しくなる訳じゃなくて。表面の不味いのを拭うと美味しくなるって事なんですね」
「そうなりますね」
「勉強になりました」
なるほどねー。
これで、今までよりも美味しく林檎が食べられる様になった。
それから全員で簡単な朝食を取ってから出発となった。
本日もエイミーと並んで馬車の前を歩くが・・・。
正直、面倒臭くなってきたのでエイミー1人に任せても良い気がしてきてたりする。
「って感じで、表面を拭ってから食べた方が美味しいんだよね」
「蝋は中の水分が抜けるのを防いでくれてるんで、食べる直前に拭く方が良いですよ」
「え、あ、うん」
エイミーも知ってたのか・・・仕入れたばっかりの知識をドヤ顔で披露したらエイミーの方が100倍詳しかった・・・。
「それから、切った林檎は直ぐに色が変になっちゃうんで」
「あっ、塩水でしょ」
「はい。塩水に浸けても色が変わりにくくなります」
「ん?塩水以外でも良いの?」
「はい。塩水だと味も変わっちゃいますし・・・」
「あー、だね」
「砂糖水とかハチミツ水に浸けると良いですよ」
「へぇ~」
「ちょっと甘くなって林檎も美味しくなりますっ」
「なるほどね~」
はっはっは。
更に知識を披露されてしまった。
え?なにこれ。マウント取られてる?
「エイミーは何でも知ってるね」
「そ、そんな事無いですよ~。えへへ」
何でもは知らないわよ。知ってる事だけ。って事ですか?
くそう・・・こんな年下の女の子に勝てる物が1つも無いとか辛い。
んー、アイテムボックスがあってウォーターとかライトが使えて・・・ポーターとしてなら負けないっ。
言ってて悲しくなるな・・・。
あっ、義務教育9年間で培った算数と数学。
異世界物の定番として貴族とか商人以外は計算とか出来ないはず。
まぁ、これも冒険者にはそこまで必要じゃない能力だけど。
勉強って分野なら勝つる。
「エイミー、エイミー」
「は、はいっ」
「問題ですっ」
「え?はいっ」
「100kmの距離を時速10kmで移動した場合。ゴールするまでに掛かる時間は?」
「え?10時間です」
くっ、流石に簡単過ぎたか・・・。
「はじきですよね?」
「えっ?知ってるの?」
「はいっ。村にあった学校で習いましたっ」
「え?学校なんてあるの?」
「はい。私の居た村以外では見た事無いですけど」
「へぇ~。って、もしかして・・・」
「??」
「掛け算とかは?」
「掛け算くらい出来ますよぉ」
「そ、そっか・・・」
よし。
エイミーさんには勝てない。
下手にここで張り合って、数学で負けたりしたら本気で立ち直れないし・・・。
プライドを守る為にも関数とか連立方程式は持ち出さずにおこう。
「子供の時にお母さんと一緒にお風呂に入って。九九を間違わずに全部言えるまで湯船から上がっちゃダメとかやらされましたし」
こっちにも九九あるのか。
そして・・・子供の時って今も子供じゃん!
「あー、俺もやらされた」
「やっぱり、どこの家でもやるんですねっ」
「トイレに九九の表を張ったり」
「え?トイレにですか?」
「うん。やらない?」
「トイレはちょっと・・・」
くぅ・・・この微妙に噛み合う様で噛み合わない微妙な文化の差がもどかしいっ。
「ま、まぁ、九九出来るならエイミーも商人になれそうだよね」
「え?九九出来るだけでですか?」
「あれ?九九出来るなら計算出来る訳だし」
「計算くらい誰でも出来るんじゃ・・・」
「え、そうなの?」
思ってたよりも、この世界の文化レベルというか。教育のレベルって高いのかもしれない。
いや、でも、エイミーの居た村以外で学校は見た事無いって言ってたし。
その辺りは後でオゥンドさんに聞いてみよう。
いつもお読み頂きありがとうございます。
ふと気付きました。
このペースで書いてると5年経っても終わらない気が・・・。
という訳で、ちょっとペースアップしようかと思います。
思ってるだけで出来るかは分かりませんが(;・∀・)
今書いてるのが82話の終盤なので83話からペースアップ出来ればなぁ。と思います(願望)




