78話 師匠直伝
本日の野営地に到着し、まずはお馬様のお世話から・・・。
そして、それからようやく人間の為の準備に移る。
「出ませんでしたね・・・」
「ん？鹿とか？」
「はい・・・」
「まぁ、出て欲しい時って出ないよね。出て欲しくない時は出るクセに」
「そうなんですか？」
「まぁ、これに限った事じゃないけど。忘れた頃に出るんじゃないかな？」
「天災みたいですね・・・」
「う、うん・・・」
こっちでもそう言うのか。
「出ていれば時間も丁度良かったかもしれませんね。休憩にもなりましたし」
「あ、何かすいません・・・」
「いえいえ、もう気にしてませんよ」
「そ、そうですか・・・」
「はい。次、またやったら許しませんが(にっこり)」
「き、肝に銘じます・・・」
うん。この人は怒らせたらダメな人だ。
そして、オゥンドさんが怒るのは馬関連の事がメインだろうから、お馬様に対しては細心の注意が必要だ。
「私はあの子達のケアをもう少ししたいので、夕飯はお任せしても構いませんか？」
「はい。あ、俺はあんまり出来ないんでエイミーが作る事になりますけど」
「エイミーさんお願いしても？」
「はいっ」
「材料は出しておきますのでお願いします」
「はいっ。あ、小麦粉と塩ありますか？」
「あー、どちらもありませんね」
「そうですか・・・」
「ユウさんが仰ってた・・・何でしたっけ？」
「うどんです」
「あぁ、それです。うどんを作られるのですか？」
「はいっ」
「海産物が必要なのでは？」
「あった方が美味しいとは思いますけど。普通のスープに入れても美味しいと思いますっ」
「ふむ。では、次の村で少し仕入れてみましょうか」
「あ、ありがとうございますっ」
「うどんに執心されている様子なのにユウさんの反応が・・・」
「ユ、ユウさん・・・？」
「うっ・・・ううっ・・・」
「ユ、ユウさん・・・？」
「久しぶりにうどんが食べられる・・・ううっ・・・今夜はうどんパーティーだーーーー！！！」
「いやいや、聞いてませんでした？」
「へ？」
「小麦粉も塩も無いので今日は無理ですよ？」
「ナ、ナンダッテー」
「と、とりあえず・・・涙と鼻水を拭いて下さい・・・あと、涎も」
「い、何時ならっ！何時なら食べられるんですかっ！？」
「ちょ、離れて下さいっ。その顔で近づかないで下さいっ」
「いや、だから何時になったら食べられるんですかっ！？」
「明日、村に着けば材料を仕入れられますからっ」
「よぉし。それじゃあ、そろそろ出発しましょうか」
「はい？・・・エイミーさんどうしましょう・・・？」
「ど、どうしましょう・・・」
「どうするもこうするも小麦粉と塩を仕入れに村に行く以外の選択肢は無いでしょ」
「えっと、エイミーさん」
「は、はい」
「首をトンッとかやって気を失わせたりは出来ませんか？」
「で、で、出来ないですよっ、そんな事っ」
「そうですか。仕方ありませんね。ユウさん」
「はい。出発ですか？」
「ちょっと向こう向いて下さい」
「え？あっちですか？」
「はいはい、そうです」
キュッ───。
「ぐっ・・・」
「え？え？え？」
「エイミーさん安心して下さい。ユウさんにはちょっと大人しくなって貰うだけですから」
「ぐぇ・・・」
カクン───。
「え？え？ユウさんっ？」
「心配しなくても大丈夫ですよ。気を失ってるだけですので」
「何を・・・」
「首の所にある血管を圧えると簡単に気を失うんですよ」
「は、はい・・・」
「師匠から教わって・・・やったのは初めてでしたが、こんなにも簡単に落ちるものなんですね」
「だ、大丈夫なんですか・・・？」
「気を失って寝てるだけですから」
「は、はい・・・」
「明日の朝まで寝てて・・・は、くれないですよね。マントで包んで手足を縛っちゃいましょうか」
「えっ」
「ふむ・・・マントの上から軽く縛りましょうか」
「え、でも・・・」
「アフヨーの副作用かもしれませんね。混乱している様なので仕方の無い事なのですよ」
「は、はい・・・」
「という事にしておきましょう」
そんな会話があった事は当然知らないが。
目を覚ましたら縛られていてビックリした・・・。
「すみませんでした」
「え？いや、何がどうなって俺縛られてるんですか・・・？」
「私がアフヨーを摂取させてしまったばかりに」
「えっ？」
「どこまで覚えてますか？」
「えっと・・・ここまで来て・・・馬に水をやったり、ブラッシングをしたりして・・・その後・・・」
「そうなんですっ！」
「え？」
「その辺りでアフヨーの副作用が出たようで」
「え・・・」
「ユウさんは錯乱状態に陥りまして」
「マジですか・・・」
「申し訳ありませんが縛らせて頂きました」
「いや、それは俺の方こそ迷惑掛けたみたいですいません・・・」
「いえいえ、元を辿ればアフヨーを摂取させた私の責任ですので」
「で、でも、錯乱状態って、大丈夫なんですか？誰か怪我したりとか・・・」
「はい、それは大丈夫です」
「そうですか・・・あと、副作用って・・・」
「あぁ、それも問題ありません。もう完全に抜けた様なので安心して下さい」
「そうですか・・・もう、そんなヤバそうな薬とか勘弁して下さいね？」
「はい。以後、気を付けます」
「で、そろそろ解いて欲しいんですけど・・・」
「あぁ、すみません」
アフヨーの副作用で錯乱状態に陥り、かなりの時間気を失っていた様だ。
着いた時はまだ夕方にもなっていなかったのに、完全に陽が沈み暗闇の中で焚き火の明かりが辺りをゆらゆらと照らしていた。
「重ね重ね申し訳ないのですが」
「はい？」
「仮眠を取りたいので火の番を代わって頂けませんか？」
「あー、はい。起きた所なんで問題無いですよ」
「ありがとうございます。では、空が白み始めた頃に起こして下さい」
「はい」
「では、よろしくお願いします」
「はーい。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
やっぱり違法薬物って怖いな・・・。
完全に抜けたらしいから、もう心配は無いみたいだけど・・・。
それよりも・・・何故か、顔中がカピカピで突っ張って痛い。
顔でも洗って来よう。
いつもお読み頂きありがとうございます。
