72話 クラッカーボール
「すみませんでした・・・どうにも、ウチの子の事となると頭に血が上ってしまうようで・・・」
「いやぁ・・・そんな何時間もって訳じゃないですし。直ぐ取り戻せますよね?」
「そうですね。ペースは上げずに到着時間を遅らせようと思ってます」
「時間的には?」
「大丈夫です。それでも、陽がある内には到着すると思います」
オゥンドさんの我が子自慢はノンストップで30分程続き、出発の予定時間がオーバーしてしまった。
「ところで」
「はい」
「猪とか鹿とか出るかと思ってましたけど、意外と出ないですね」
「出る時は出るので、その辺りは運ですね」
「運ですか」
「はい。ユウさん的にはどちらですか?」
「え?」
「出て欲しいですか?」
「あー、微妙な所ですね。ここまで俺は役に立てて無いんで、出て欲しい気持ちはありますけど。猪とか危ないのは危ないので出て欲しくない気持ちとどっちもですねぇ」
「私もどちらもですね。出れば食費の足しになりますが、時間がもったいないというのもあるので」
「まぁ、何事も無く目的地に到着するのが1番ですからね」
「その通りですね。欲を出すと碌な事が無いですし」
「ですねぇ」
その後、何度かの休憩を挟みながらようやく村に到着した。
「やっと着きましたね」
「予定よりも遅くなりましたが、無事に到着出来ましたね」
陽は沈み、気付けば辺りは真っ暗になっていた。
「それにしても、意外でした」
「何がですか?」
「馬は夜でもしっかり見えてるとは思ってなかったです」
「あぁ、知らない人が多いですが。馬は夜目が利きますね」
「だったら、なんで夜に移動しないんですか?」
「馬には見えていても、人には見えませんからね」
「あー、俺達の方が危ないって事ですか」
「それもありますし。夜、見えない中襲われたら対処が遅れますからね」
「なるほど」
「夜行性の動物は肉食が多かったりと夜は危険も多いので」
「え、熊とかですかっ?」
「熊は夜行性では無かった気がしますが・・・」
「あ、そうなんですね」
「夜行性で厄介なのは狼ですね。狐や狸も夜行性ですが滅多に襲っては来ないです」
「狼って言うと、やっぱり群れで襲って来るんですか?」
「少なければ2匹。多くても10匹未満なイメージですが、連携がしっかりしているので厄介ですね」
「なるほど・・・」
「まぁ、賢い動物ですので。初手で火力を見せつけるなりすると大抵は逃げていきますね」
「火力・・・」
「普段、私は護衛を雇わないので。狼が出た時はこれで対処します」
と、オゥンドさんが取り出したのは。
「小石?」
「いえ、癇癪玉という物なのですが」
「あー」
「ご存知でしたか?」
「叩きつけたら音がするやつですよね?」
「はい。これの音だけで大抵は逃げて行きます」
「それだけでですか」
「まぁ、しばらくはこちらの様子を伺って着いて来るのですが。そのまま何もして来ない事が多いですね」
「へぇ~」
用心深くて、隙を見せたら襲って来そうで怖いな・・・。
「こちらが警戒を怠らなければ、よっぽど腹を空かせてない限りは襲って来ないです」
「警戒を怠らなければ。ですね」
「はい。警戒を怠れば、すぐさま襲って来るので気を抜かない様お願いします」
「は、はい・・・」
「遅くなったので直ぐに宿を取って来ますね」
「はい」
今夜の宿もエイミーとツインの相部屋。
だが・・・結構、汚い・・・。
「結構、疲れたね」
「あ、私は全然大丈夫ですっ」
「そう?俺は疲れたー」
「わ、私もちょっと疲れました」
「エイミー」
「は、はいっ」
「そんな気を使わなくて良いよ?」
「す、すいません・・・」
「いや、それね」
「あ、すいま・・・」
「パーティー組んだんだし。ってか、エイミーの方が冒険者歴長いんだしさ」
「は、はい」
「とりあえず着替えてご飯食べに行こっか」
「はいっ」
結果から言うと、この宿のご飯は美味しくなかった。
まぁ、埃が積もってたり部屋も汚いし、ベッドもカビ臭い。
そういった宿はご飯も美味しくない。
大体、そういうのが分かる様になってきた。
でも、意外にも賑わっていて。
ほぼ満員で・・・あ、皆あんまり食べては無かったかもしれない。飲むだけ。
ガッツリした食事は微妙だけど、お酒は美味しい。そんな宿なのかもしれない。
それが事前に分かっていたとしても、オゥンドさんに充てがわれた宿だから分かった所で回避のしようが無いんだけど。
という訳で、口直しに林檎を2人で分けて食べ。
そのまま就寝となった。
が・・・どうにも悶々とする・・・。
極限まで身体が疲れるとこうなるとは言うけど、そこまで疲れてる気はしない。
こっちの世界に来て、レベルも上がって基礎体力も上がってるから1日歩いたくらいではどうって事は無くなった様に思える。
それなのに、どうにも下半身に血が集まって悶々とする。そして、全く寝付けない。
エイミーの方を見ると。
と言っても、真っ暗なので見えないが・・・。
規則正しい寝息が聞こえて来るのでエイミーは普通に寝ている様だ。
もしかしたら異世界に来て張り詰めていた神経がここに来て破綻したのか慣れて来てリラックスしたのか。
そこは分からないが、神経が高ぶっているっぽい。
部屋にはエイミーも居るので処理は出来ない。
なので、ひたすら目を瞑りうどんの事を考え気を紛らわせている内に自然と眠りに落ちていった。
いつもお読み頂きありがとうございます。




