71話 opiate
やりたい事とやれる事は違う。
俺のやりたい事は何なんだろう。
そして、俺に出来る事は何なんだろうか。
意外と考えさせられる内容だった。
「まぁ・・・お分かりかとは思いますが、思い付きで行動する人ですので」
「あ、はい・・・」
「悪い人では無いのですが、周りは振り回されて大変なんです」
「オゥンドさんのお師匠様って」
「はい」
「もしかして冒険者辞めた理由なんですけど」
「はい」
「飽きたからとかじゃないですよね?」
「いえ」
「え?どっちですか?」
「飽きたからですね」
「マジっすか・・・」
「そして、行商をやってる理由も」
「は、はい・・・」
「商人って賢そうだからって残念な理由です」
「そんな残念な人なんですね・・・」
「はい。あの人以上に残念な、もったいない人を見た事はありません」
「そこまでですか・・・」
「いえ、ユウさんが思ってる以上だと思いますよ?」
「そうなんですね・・・なんで、そんな人の弟子になったんですか?」
「自ら望んでなった訳では無いので・・・まぁ、強制的に拉致されたと言いますか・・・」
「あ、はい・・・」
あんまり触れない方が良さげだ。
極力、オゥンドさんのお師匠様には触れずにおこう。
変にフラグが立って俺まで拉致られたくないし・・・。
「関係無いとお思いかもしれませんが」
「いや、そんな厄介な人、天災みたいなもんで・・・探してる時は絶対に見つからないのに、会いたくない時に限って来ますよね?」
「天災・・・まさにその様な人ですね・・・」
「も、もうお師匠様の話はお終いにしませんか・・・?話してるといきなり出て来そうで怖いです・・・」
「確かに・・・この辺にしておきますか・・・」
噂をすれば何とやら・・・。
影が差す前に切り上げよう。
「それじゃあ、ちょっと前の方に移動しますね」
「そろそろ休憩ポイントなのでこのままで大丈夫ですよ」
他の話題がパッと出てこなかったから離れようと思ったのに・・・。
「あ、はーい」
しばらく行くと、少しだけ開けた場所があった。
ここが休憩ポイントなのだろうが、馬車が3台も停まればいっぱいになってしまう程度の広さしか無かった。
「ここでしばらく休憩にします。すみませんが、まずあの子達に水をお願いします」
「はーい」
何をおいてもオゥンドさんはあの2頭の馬が最優先。
行商にとって馬は生命線だろうし、相棒を超えた存在なのかもしれない。
ただ、オゥンドさんを見てると我が子の様に接してる様な気がする。
「これから行く村なんですが」
「はい」
「資金に余裕があればユウさんも購入された方が良いですよ」
「え?何を売ってるんですか?」
「アフヨーです」
「何ですか?それ」
「植物ですね」
「へぇ~。高いんですか?」
「そうですね。それなりの値段がしますが、確実に売れますので」
「そうですね・・・考えておきます」
「はい」
確実に儲けが出るなら買っても良いけど。
どこで売るんだ?って話もあるし。
ギャンブル性は低いのかもしれないけど、よく分からない物に手を出すのはちょっと怖いかな。
「この村で作られている物は質が良いので。冒険者ギルドでも商業ギルドでもどこでも買い取って貰えますよ」
「へぇ~」
「ちなみに、怪しい物ではなく。痛み止めですね」
「あぁ、薬なんですか」
「はい」
あー、だったら買っても良いかな。
いざって時には自分にも使えるし。
要らなければ売れば良いしね。
「あ、でも」
「はい」
「使用期限みたいなのってありますか?」
「どうでしょう?正確な事は分かりませんが」
「はい」
「多少の劣化はあるかもしれませんが、1年や2年で悪くなったりはしない気がします」
「結構、保つんですね」
だったら、値段にも依るけどいくつか買っても良いかな。
「オゥンドさんはどれくらい仕入れるんですか?」
「買える限りですね」
「え、そんなにですかっ」
「購入制限があるので大した量では無いのですけどね」
「へぇ~、購入制限とかあるんですね」
「はい」
「あ、来る時にすれ違った行商の人もやっぱり・・・何でしたっけ・・・」
「アフヨーですか?」
「あ、それですそれ。アフヨー買って行ってるんですかね?」
「まぁ、仕入れてるはずですよ」
「なるほど」
「購入される気になりましたか?」
「はい。ちょっとだけ買ってみようと思います」
「分かりました。では、その様に話をつけておきます」
「はい。お願いします」
唐突に俺の行商・・・。いや、商人って言う方が正しいか。商人デビューが決まりそうだ。
「それでは私達も軽く食事にしましょうか」
「はーい」
中々に塩っぱいメニューだった。
ショボくてしょっぱいって意味では無く、塩が効いていて塩っぱいメニューだった。
「もしかして」
「はい」
「ここからまだ距離あるんですか?」
「距離はそこまでではないですが、勾配がキツくなりますね」
「あぁ・・・まだキツくなるんですね・・・」
「ですので、塩分と水分の補給はこまめに行って下さい」
「はい」
周りが森だから気温は少し低く感じるけど、坂道を歩き続けているとやっぱり汗は止めどなく出て来る。
「暑さはそこまでじゃないですけど、やっぱり汗かきますもんね」
「はい」
「あ、馬ってどうしてるんですか?やっぱり塩分って要りますよね?」
「はい。飼葉に混ぜてます。それ以外にも岩塩を置いておくと必要な分だけ自分で判断して舐めますね」
「へぇ~。賢いですねぇ」
「そうなんです!ウチの子は本当に賢くてっ!」
「え、あ、はい・・・」
「この間なんてですね」
「は、はい・・・」
薄々は気付いていたけど、オゥンドさんは親バカだ。
まぁ、馬馬鹿だ。
変なスイッチが入ってしまい、しばらくオゥンドさんの子供自慢が続いた。
そして、スイッチを入れてしまった俺の責任なんだけど。
予定よりも大幅に出発が遅れてしまった・・・。
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