70話 好きこそものの上手なれ
オゥンドさんへの細やかな疑惑も晴れ、山を登り続ける。
エイミーに疲れたら荷台なり御者台に乗せて貰う様に言い、オゥンドさんにもエイミーを気に掛けて貰える様頼んだ。
そして、俺は馬車から少しだけ先行して歩いている。
オゥンドさんから鹿でも猪でも狩れそうなら狩る様に言われているが。
熊も出るかもしれないらしく、熊は狩れないまでも何とかして追い払う様に言われたが・・・正直、自信は無い。
登る程に険しく、そして道も荒れだして来た。
すると、後ろからオゥンドさんが駆け寄って来た。
「ユウさん」
「はい。休憩ですか?」
「いえ、足場も悪くなってきたので少しペースを落とします」
「あ、はい」
「それから、これを」
「はい」
渡されたのは干し肉で・・・ペースが落ちるから休憩はナシで歩きながらの昼食かとゲンナリしていると。
「汗をかくので、それで塩分補給をして下さい」
「あ、はい」
「休憩は後でしっかり取りますので安心して下さいね」
「ははは・・・」
完全に見透かされた。
「それと、水袋を1つ出して頂けますか?」
「はい」
「アイテムボックス」
「私とエイミーさんはこれで水分補給するので、ユウさんも喉が乾いたと思う前に水分補給して下さい」
「はい。あ、重いですよ」
「はい。大丈夫です」
オゥンドさんは馬車の所まで戻って行き、俺もペースを落として馬車が見える位置にまで間隔を狭めた。
しばらく進むと道幅も狭くなって行き、本格的に山道といった雰囲気になってきた。
そして、そんなタイミングで向こうから馬車がやって来るのが見えた。
「オゥンドさん。向こうから馬車が」
「あぁ・・・端に寄せましょう。ここならギリギリすれ違えるはずです」
そう言って馬車を道の端っこに寄せた。最早、片輪は路肩に乗り上げている状態だ。
「いやぁ、すまんね」
「いえいえ、何か変わった事はありませんでしたか?」
「いやぁ、特には無いな。この先も問題無いかい?」
「はい。無かったですね」
「そうかい。まぁ、何があるか分からんからお互い気を付けないとな」
「そうですね」
「それじゃあ、悪かったな」
「いえいえ~」
そんな感じで馬車同士をすれ違わせ何事も無く去って行った。
「今の人も行商の人ですよね?」
「そうですね」
「販路被ってるんじゃないんですか?」
「あぁ、別に私1人で周っている村全ての必要な物を販売している訳では無いので」
「あー、棲み分けってヤツですか」
「そうですね」
「商業ギルドを挟んで権利の売買等も行えるので、ユウさんの入るスペースはいくらでもありますよ」
「えっ」
「ん?そういう話では無くてですか?」
「はい・・・ちょっと、気になっただけです」
「まぁ、そんな所にまで気付いて頂けるというのは、前向きに考えて頂けてる証拠ですね」
「デ、デスネー」
「因みに、今の方は布製品や糸等を販売されてる方ですね」
「へぇ~。やっぱり横の繋がりというか、行商人同士で情報交換したり親しくしてるんですね」
「いえ?名前も知りませんよ?」
「え?」
「販路がいくつか被ってるのでたまに顔は合わせますが、お互い名前も知らない関係です」
「え、だったら、何で布とか売ってるって」
「同時に同じ村に滞在する事もありますからね」
「あ、それもそうか」
「いざという時は横の繋がりも強いですが、平時では希薄ですね。縦の繋がりは常に強いですが」
「なるほど。あ、オゥンドさんの師匠ってどんな人なんですか?」
「師匠ですか・・・」
あれ?マズい事聞いちゃった・・・?
「今はどこで何をしてるやら・・・」
「え?」
「腰が辛いから販路を譲る。と言って、行商を引退して商業ギルドに就職したんですよ」
「はい。って・・・だったら、どこに居るかは分かるんじゃ?」
「今度は、机に座ってるのが辛い。とか言い出して飛び出したそうです・・・2週間程で」
「な、なるほど・・・」
中々に自由な人っぽい・・・。
「まぁ、行商が性に合っているんでしょう。そういう人なので」
「販路を返せとは言って来なかったんですね」
「その方がどれだけマシだったか・・・」
「えっ」
「ある日、突然飛び出して行ったらしく」
「はい・・・」
「それ以来、消息不明です」
「えっ、大丈夫なんですかっ?」
「殺しても死なないタイプなので心配はしてません」
「いや、何者なんですかっ」
「元ランクAの冒険者で商人としては中の下くらいの人ですね。冒険商人というやつです」
「冒険商人・・・」
最早、ギャンブル要素しか感じない。
「元ランクAの冒険者だったら護衛も要らなそうですね」
「必要無いですね」
「でしょうね・・・って、思ったんですけど」
「はい」
「師匠がそれだけ強いなら、オゥンドさんも実はめちゃくちゃ強いとか」
「無いですね」
「あ、無いんですね」
「師匠は生活能力が皆無な人なので、弟子の存在が必須なのですよ」
「あー、あるほど」
「弟子というよりも、お世話係ですね・・・」
「なるほど・・・」
「商人としては中の下と言いましたが」
「はい」
「純粋な商人としての能力は下の下です」
「えっ」
「冒険者時代の人脈込みで中の下といった感じです」
「それって、向いてないんじゃ・・・」
「やりたい事とやれる事は違うという事ですね」
世知辛い・・・。
冒険者適正極振りなのに行商になりたいのか。
まぁ・・・元ランクAなら行商で失敗しても冒険者ギルドの職員にでもなれるだろうし。
いくらでも潰しは・・・って、あれ?商業ギルドに就職して逃げ出してたはずだよな。
もしかして冒険者嫌いなの?冒険者適正極振りなのにっ。
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