68話 鈍臭い
遥か彼方に見えた山も気付けば麓に辿り着いた。
「それでは、お二人は沢で水汲みをお願いします」
「「はい」」
2人共、大きな桶を抱え、その桶の中には革製の水筒が山積みになっている。
「ユウさん」
「うん?」
「滑るから注意して下さいね」
「うん」
山の麓、街道から1歩森の中に入ると木々は鬱蒼と生い茂り気温も2-3度下がった様に感じる。
山に入る前の給水ポイントなので、沢までのルートは踏み固められ比較的歩きやすいが、1歩外れると苔が一面を覆い尽くしている。
俺は、おっかなびっくり段差を降りて行くがエイミーは軽やかに駆け下りて行く。
「あ、貰います」
「うん、お願い・・・」
ちょと大きな段差。と、言っても50センチくらいだが・・・。そこで足止めを食らっている俺に気付き桶を受け取ってくれた。
「どうぞ」
「え・・・あ、うん・・・」
更には手まで借りてしまった・・・。
「ありがと」
「はいっ」
何とか沢まで辿り着き、ようやく目的の水汲みだ。
「私が汲んでいくので、ユウさんはそれをアイテムボックスにお願いしますっ」
「え、いや、悪いよ。俺も汲むよ?」
「・・・じゃあ、お願いします」
革袋ごと水の中に突っ込み水を汲んでいく。
まぁ、口が小さいのでそんな直ぐには貯まらない。
「お願いします」
「え、あ、うん、ちょっと待ってね」
「はい」
1/4程貯まった革袋を一旦置き、エイミーから水で満タンになった革袋を受け取る。
うん、そこそこ重いな・・・。
エイミーから受け取った革袋をアイテムボックスに仕舞い、再び自分の革袋を水の中に突っ込む。
「お願いします」
「え、うん」
俺のはまだ半分も貯まっていない。
「お願いします」
やっと半分は越えた。
「お願いします」
2/3くらいかな・・・。
「お願いします」
3/4・・・。
「お願いします」
あともうちょい・・・。
「お願いします」
「何でそんな早いのっ!?」
「え・・・普通に・・・」
そうか、普通か・・・俺が鈍臭いだけか・・・。
「えっと・・・革袋はエイミーに任せても良い?」
「はいっ」
「俺は桶の方をやるから」
「はいっ、お願いしますっ」
革袋はまだまだある上に、桶って2つしか無いんだよね・・・釣り合って無いっ・・・!
まぁ、それでも・・・そっちの方が効率は良い・・・。
大きな桶いっぱいに水を汲み、アイテムボックスに・・・って持ち上がらないっ。
まず、水って意外と重い。
そして、木製の桶ってのが厄介でコイツがかなり重い。
足場も悪くて踏ん張りが効かないし、靴を濡らしたくないから物凄く腰の引けた状態で持ち上げようとしているので当然力も入らない。
そんな鈍臭い事をしていると、エイミーが何も言わずに靴を脱いで水の中に入ってくれた・・・。
エイミーさんっ・・・。
「腰痛めちゃいますよ?」
「う、うん・・・ありがと」
結局、桶は2つ共手伝って貰い、革袋も丸投げ。
俺の役立たずっぷりがハンパない・・・。
そして、残りの革袋も全てエイミーさんがやってくれた。
エイミーさんパネェっす。
「ユウさんのおかげで楽に済みましたねっ」
「へっ?」
「本当だったら何往復もしないといけないのが1回で済みましたし」
「あ、あー。でも、エイミーが居なかったらどれだけ時間掛かってたか分からないよ」
「そ、そ、そ、そんな事無いですよっ」
「いやぁ、俺じゃ全然革袋に水の入るペースも遅かったし」
「わ、私だけじゃ革袋を担いで馬車まで戻れませんからっ」
何故かお互いを褒め合い、自分を落とし合いながら馬車まで戻った。
「如何でしたか?」
「全部入りました」
「重量もですが・・・容量もかなり大きそうですね・・・」
「あー・・・まぁ、そうですね・・・。あ、でも、ギリギリでしたよ?」
「ふむ・・・ユウさん」
「はい?」
「ユウさんも行商やってみませんか?」
「え?」
「私とは正反対の特性の様ですし」
「アイテムボックスですか?」
「はい。金属等を販売すればかなりの利益が見込めると思います」
「あー、重くて嵩は張らないですね」
「はい。私の弟子・・・と言うと語弊がありますが。食事や最低限の必要経費はこちらが持ちますよ」
う~ん。
待遇としては良い気がするけど・・・。
「でも、エイミーも居ますし・・・」
「エイミーさんは護衛として雇います」
「ちょっとエイミーと相談しても良いですか?」
「もちろんです」
そこまで俺のスキルの情報は与えてない気がするんだけど、この食い付き様はちょっと怪しい。
「どう思う?」
「えっと、私は・・・あ、やっぱりユウさんにお任せしますっ」
「いや、遠慮しなくて良いから。エイミーの思ってる事言って?」
「・・・はい。私は・・・ちゃんとモンスターと戦ってレベルとかも上げたいです・・・」
「護衛だとレベル上げする機会も少ないしね」
「はい・・・」
「らしいです」
「えっ?」
「でしたら、仕方無いですね。行商に転職させる気になりましたら何時でも声を掛けて下さい」
「は、はい・・・って、そんな簡単に連絡って付くものなんですか?」
「商業ギルドに所属してますので。商業ギルドで私宛に手紙なり出して頂ければ」
「あー、なるほど。ところで・・・」
「はい」
「俺のアイテムボックスってそこまで魅力的な能力なんですか?」
「そうですね。私にとっては」
「じゃあ、一応前向きに考えておきます」
「では、私も期待せずに待ってます」
アッサリ引いたなぁ。
って事は、そこまでじゃなかったとか?
まぁ・・・まずは冒険者ギルドのある村に行ってあの姉妹の現状を聞くのが最優先。
行商の事はその後で考えれば良いか。
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