64話 ケロケロンリー
何があろうとも、俺はうどんを作る。そう強く心に誓ったが。
それよりも、まずしなければいけない事が俺を待っていた。
「すみませんでしたっ」
エイミーの待つ部屋に入るなり、フライング土下座を敢行した。
が・・・返事は無い。
年頃の女の子だから、そう簡単に許せる訳無いよな・・・。
「許して貰えるなら何でもするっ」
と、頭を上げると・・・誰も居なかった。
「ユウさん何してるんですか?」
「ふぁっ!」
不意に背後から声を掛けられ、飛び上がってしまった。
しかも、入学式でも卒業式でもした事の無いくらいに指先までピンと伸びた気を付けの状態で。
「あ、あの、さっきはごめん」
「私の方こそ悲鳴上げたりして・・・」
「いやいや、それはしょうがないよ」
「でもっ。カロリーナさんも勘違いさせちゃったし・・・」
「カロリー・・・宿屋のおばさん?」
「はい」
太ってそうな名前だけど、カロリーナさんは標準体型って感じかな。
むしろ、目が少し離れててケロリーナさんって感じ・・・おっと。
「まぁ、勘違いだって分かってくれたし」
「はい・・・」
「これからは気を付けるから、許して貰えるとありがたいかな」
「そんな。全然、怒ってないですからっ」
「そ、そ、それじゃあさ・・・」
「はい」
「エイミーって、うどん打てるんだよね?」
「え?はい。打てますよ」
「うんうん。さっきも言ってたよねっ」
「は、はい・・・」
「出汁はっ?出汁はどうしてるのっ!?」
「ちょ、ちょっと・・・もう少し離れて下さい・・・」
またしても詰め寄ってしまい。エイミーに両手で押し返されてしまった。
「あ、ごめん・・・」
「えっと、ダシ?ってのは分からないんですけど。うどんには醤油を掛けて食べてました」
「え?醤油あるの?」
「は、離れて下さい・・・」
学習しない俺はまた押し返された。
「私の居た村には普通にあったんですけど。村以外では見た事無いです」
「よし。だったら、エイミーの村に行こう」
いや、もう、行くしか無いよね。
醤油は日本人の魂。
うどんの汁には出汁も大事だけど、醤油も大事。
「えっと・・・」
「うん?」
「もう無いです」
「え?醤油?」
「いえ、村が・・・」
「えっ?」
そこからは楽しい話では無く。
エイミーは訥々(とつとつ)と数ヶ月前に起こった悲劇を語った。
要約するとエイミーが生まれ育った村は盗賊に襲われ、皆殺しに近い略奪を受けた。
その結果、エイミーは何とか逃げる事が出来たが他に生き残りが居るかは不明。
夜間に襲われ。一旦は村から離れたが夜が明けてから村に戻ると、建物は全て燃え尽きるかまだ火が燻ぶっている状態で、辺りには肉の焦げる臭いが漂っていたそうだ。
そして、恐怖からか現実逃避なのかは分からないが。錯乱状態になり、気付くと村近くの森の中で蹲っていたらしい。
少し冷静になり、村に戻るも人影は無く。もしかしたら自分の様に逃げ延びた者が居て、戻って来るかもしれないと思い。村の中で待ち続けたが村人は誰も戻らず。翌日、村を訪れた行商人に保護されたそうだ。
そこからは、行商の手伝いをしながら何て言ったっけ・・・・エトーさんの冒険者ギルドがある村にやって来たそうだ。
そこに辿り着く為に何人もの行商を乗り継いだそうで。もう自力で戻るのも無理だそうだ。
「何で、そこまでして冒険者になろうと思ったの?」
「えっと・・・もし、私が強かったら・・・全員は無理でも、1人でも助けられたんじゃないかと思って・・・」
「そっか」
「それからっ」
「うん」
「冒険者になって、いっぱいお金を稼いで孤児院を作りたいんですっ」
「そんな事まで考えてるんだ」
「これは行商の人に言われたからなんですけどね。えへへ」
「それでも、凄く良い事だと思うよ」
「はいっ」
こんな幼いのにそんなしっかりした考えを持っていて凄い。
俺の目標なんてうどんくらいだし。
まぁ、たかだか数年早く産まれただけだし、人生経験の差も大きい。
現代日本だと食うに困る事もそうそう無ければ、盗賊に夜襲されるなんてありえない。
それに、小学生が生活の為に働くなんて事もそう無いと思う。
勉強が子供の仕事。
学校に行ってるだけで日に3食黙ってても出て来て。
風呂に入る前に脱衣所で服を脱げば、勝手に洗濯されキチンと畳まれて何時の間にかタンスに入っていたりする。
そんな生活が当たり前だった俺としては、この世界はだいぶ慣れて来たとはいえ、かなり過酷だし残酷だ。
正直な所、エトーさんに押し付けられた感があったが。
そんな世界で健気に生きるエイミーを支えられるかは分からないけど、手助けが出来ればな。と、思う。
「この話をすると優しくして貰えるから。どんどんしてった方が良いって行商の人に言われてたんですけど、やっと出来ました」
「えっ?孤児院の話?」
「あ、いえ、盗賊の話からです」
なんつー事教えてるんだ・・・。
いや、そりゃ、そんな話聞かされたら優しくして貰えるだろうけどっ・・・。
「う、うん、そっか・・・」
でも、そんな、自分で自分の傷口をエグる様な事良くさせるな・・・。
「でも、辛い話なんだし。そんな、無理してしなくて良いと思うよ」
「最初は辛かったですけど。何度か話してる内に慣れて来たって言うか・・・」
あー、話す事で気持ちの整理が出来るってのもあるか。
その行商の人はそこまで見越してたんだとしたら凄いな。
「この話しをすると皆さんホントに良くしてくれるのでっ」
めちゃくちゃ良い笑顔で言った・・・。
こういうのもあざといって言うんだろうか。
中々に末恐ろしい・・・。
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