52話 1番人気は今でも赤と黒
エイミーと冒険者ギルドに向かって歩いていると。
丁度、向こうからエトーさんもこちらに向かって歩いて来た。
「おう。ギルドに用事か?」
「はい」
「俺もお前ら探してたんだ。入れ違いにならなくて済んで良かった」
「何かあったんですか?」
「いやな。ゴタついて最後の指導出来なかっただろ?それを謝っとこうと思ってな」
「いやいや、あんな事があったんですから仕方無いですよ」
「そう言って貰えると助かる」
「冒険者として復帰出来ますよね?」
「んー、どうだろうな」
「えっ、そんなヤバそうなんですか?」
「怪我の具合ならそこまでじゃねーと思う。頭だから派手に血が出んだよ」
「え、じゃあ」
「あそこまでの怪我したのは初めてのはずだからな」
「はい」
「まぁ、冒険者なんてのを仕事にしてると何時かはデカい怪我をするモンだが」
「はい・・・」
「そん時の恐怖が身体に染み付いつまうヤツがちょいちょい居るんだよな」
「あー、はい・・・」
トラウマってヤツかな。
でも、それもそうか・・・死と隣り合わせってのを1度実感してしまうと、モンスターを前にするどころかダンジョンに入る時点で足が竦んでもおかしくはない。
きっとそれは根性論ではどうにもならないヤツで。
もし、そうなってしまったら・・・長い時間を掛けてゆっくりと克服していくしかないと思う。
でも、そんな年単位での治療ってなると冒険者は引退せざるを得ないだろう。
「まぁ・・・あいつらには悪いが。お前らにはある意味良いものが見せれて良かった」
「え?」
「どれだけその狩場に慣れてようが気を抜けばあーなっちまう。って手本だ」
「ですね・・・」
「一応、言っとくが。あいつらが悪い訳じゃねーぞ?」
「はい」
「運が悪かった。間が悪かった」
「はい」
「でも、それで済ますにゃ、ダメージがデカ過ぎるよな」
「はい」
「ヘタしたら死んでた訳だしな」
「はい」
「でも、これは、ダンジョンに潜ってるヤツには何時降り掛かっても不思議じゃない不運だ」
「はい」
「だから、お前らは。これを踏まえて、しっかり話し合って慣れても締めるトコはキッチり締めてやれよ?」
「「はいっ」」
「っつー感じだ。頑張れよ」
「「はいっ」」
「じゃあな」
「あっ、エトーさん」
「ん?」
「エイミーも新しい方の冒険者ギルドに泊まりたいらしいんですけど。エイミーも良いですか?」
「・・・・・・」
「あ、やっぱダメですか・・・」
「はぁ~~~~・・・締めるトコはキッチリ締めろっつったのに俺が締まらねーじゃねーか・・・」
「えっ」
「偉そーに講釈垂れて。途中からこっ恥ずかしくなって来たから、さっさと逃げたかったのによ・・・」
「何か、すいません」
「好きにしろ」
「え」
「お前が使ってる部屋なら自由にして良い」
「ありがとうございますっ」
「おう。もう無いな?」
「あ、はい・・・」
「じゃあな」
「はい」
そう言ってエトーさんは歩き出したが・・・用事はこれだけだったのか、冒険者ギルドに向かって行った。
「って、何で着いて来んだよっ!」
「いや、冒険者ギルドに用事があるんで・・・」
「何の用だよっ」
「パーティー登録に・・・」
「やっといてやっから帰れっ」
「は、はい・・・」
「くそっ・・・マジで締まらねぇ・・・」
正直、俺達がアグリーキャットを狩場にしても問題無いのか。そして、アグリーキャットの攻略法や注意点も相談したかったんだけど・・・これ以上食い下がると本気で怒りそうなので引く事にした。
それから、エイミーが取っている宿を引き払い。大した量では無いが荷物を取り、建設中の冒険者ギルドへと向かった。
「あ、そうだ、忘れてた」
「どうしました?」
「俺はマントに包まって寝てるんだけど。毛布とか布団に使えるのって持ってないよね?」
「はい。あ、でも、野宿も慣れてるんで。雨風が凌げれば大丈夫です」
「いやいやいや、ダメでしょっ」
「??大丈夫ですよ?」
荷物の中まで見た訳じゃないけど。着替えくらいしか荷物は無いんじゃないかと思う。
「それじゃあ、マント買いに行こう」
「え、でも、そんなお金無いです」
「あった方が良いと思うよ?」
「そうだとは思いますけど・・・」
「ダンジョンで寝る時は必須だし。野宿の時もあると便利だしね」
「ここのダンジョンは夕方には出ないとですし・・・野宿も、ここに泊まれるなら・・・」
「あ、そっか・・・ま、まぁ、でもっ、あると便利だからプレゼントするよ」
「えっ」
「パーティー結成記念に。これからよろしくって意味だからプレゼントさせてくれない?」
「え、でも、悪いですよ・・・」
「ほら、体調管理も大事だしさ?さっきのエトーさんの話じゃないけど、風邪ひいて注意力散漫になって怪我する事を考えたら安いモンだよ」
「は、はい・・・それじゃあ、お願いします」
「うん。それじゃ、早速だけど買いに行こっか」
「はいっ」
「あ、俺、この村の事全然分からなくて。どこで買えるか案内お願い出来る?」
「はいっ!」
エイミーに案内されたお店でなめし革のマントを購入したが、思っていたよりも遥かに安かった。
ダンジョンが発見されて、素材が過剰供給される様になった事に依り。特にダンジョンの上層階で採集出来る素材は値崩れしているそうだ。
食べ物に関しても、野菜やパンよりも肉が遥かに安くなったらしい。
「あ、ありがとうございますっ」
「うん。これからよろしくね」
「は、はいっ!・・・あ、あの・・・」
「うん?」
「ど、どうですか?」
エイミーは買ったばかりのマントを羽織り、クルッと1回転して見せた。
「似合ってるよ」
「えへへへへ。つ、強そうですか?」
エイミーのマントを羽織った姿は強そうという言葉から対極の位置にある。
見た目は普通の村娘。
そんな子が冒険者用のサイズの合わないマントを羽織っている。
店で1番小さいマントにしたが、それでもやっぱり大きい。
そう。
例えるなら、入学したばかりの小学生がランドセルに背負われている感じ。
まぁ・・・俺も人の事は言えないんだけど・・・。
いつもお読み頂きありがとうございます。
またしばらくは2日に1回の更新に戻りますノシ*`꒳´*)ノシ




