43話 ノータッチ
ゴブリン。
この世界でもほぼ最弱なポジションに位置するファンタジー定番のモンスター。
昨日はその姿を確認する事は出来なかったが。
イメージ通りの緑色の身体に身長?体長?は1メートルちょっと。
襤褸を纏い。
良く言えば棍棒。見たままを言うなら、太い目の木の棒を手に持っている。
そんなイメージ通りのゴブリンの喉を短槍で一突きにした。
「スライムはあんな苦戦してたのに、ゴブリンは一撃だったな」
「はい。エトーさんだと思って突きました」
「なんでだよっ」
正当防衛とはいえ、盗賊を殺したトラウマはまだ払拭出来ていない。
なので、ゴブリンは人型のモンスターだからもっと忌避感があって。
身体が拒否反応を示したりするかもしれないと危惧したが案外すんなりと出来た。
これが良い事なのか悪い事なのかは分からないけど。
「よし、じゃあ次行くか」
「はい」
「邪魔したな」
「ありがとうございました」
「頑張れよー」
「はーい」
2階は冒険者が各地に待機しているので、すんなり3階へ行く階段へと辿り着いた。
「あの」
「ん?」
「コボルトは無理です」
「だろうな。っつーか、やらせるつもりは無い」
「あ、そうなんですね」
「お前が仕留め損なったら苦しませちまうだろ・・・」
「はい・・・それは、余裕で無理です」
という理由で、3階はYESコボルト、ノータッチ。
まぁ・・・俺がノータッチなだけで、エトーさんは苦悶の表情を浮かべながらコボルトを斬り伏せていた。
毎日の事だろうに、それでも慣れないのか・・・。
「ふぅ・・・オークやって今日は終了にすっか」
「え?もう帰るんですか?」
「いや、指導は終了って事だ」
「あ、その後見回りは継続ですね」
「おう」
また冒険者さんに場所を譲って貰い。
オークを討伐する事になった。
「オーク相手だと即死もありえるからスキル使って良いぞ」
「は、はい・・・」
「っつっても、脂肪が厚くて中々攻撃が通らねーから無理だと思ったら直ぐに下がれ」
「はい」
「狙うなら顔か胸だ」
「はい」
そう言ってる間にオークがポップアップし、こちらに向かって突進して来た。
「ブモォー」
イメージとしては・・・はっけよーい・・・のこった!!って感じだ。
肉の壁が迫って来るのは恐怖でしかない。
「ウィン・・・」
「おい」
「だ、大丈夫です・・・」
「ウィンドアロー」
ズドーン───。
こちらに向かって来たオークの胸には大穴が空き、轟音を立てて倒れた。
最初は顔を狙おうとしたが盗賊を殺した時の映像がフラッシュバックしてフリーズしてしまった。
エトーさんに声を掛けて貰わなければ固まったままだったかもしれない。
「オークを1撃で倒せんのか」
「エトーさんコイツ何者なの?」
「組んでくれる相手探してる新人だ」
「へぇ~」
「掲示板見てねーのか?」
「見てないなぁ」
「見ろよっ」
「取れるならラッシュブルやって、無理ならオーク。それが1番効率良いし」
「割の良い依頼もあるかもしれねーだろ」
「多少、割が良くても。慣れてるのが1番じゃない?」
「まーなぁ・・・。っても、ギルドからの連絡もあんだからちゃんとチェックしとけ」
「はーい」
「んじゃ、邪魔したな」
「はーい」
4階を後にして、そこからはエトーさんの簡単な説明を受けながら後ろを着いて行く。
「さーて、折返しだ」
「はい」
「帰りにどっか寄ってくか?」
「え?買い物ですか?」
「違ぇーよ。倒したいモンスター居ねーのか?」
「あ、そういう意味ですか・・・えっと、オークをもう1回やりたいです」
「ふむ。1発で余裕そうだったが・・・その前に1回止まったよな?」
「はい・・・」
「あれは、普通にビビったとかじゃねーよな?」
「はい・・・」
「言いたくないなら言わなくて良いが。言って楽になるなら聞いても良いぞ」
「そうですね・・・んと・・・行商の荷馬車に乗せて貰って移動してたんですけど」
「ふむ」
「途中で盗賊に襲われたんですよ」
「まぁ、良くある話だな」
「それで、ウィンドアローで撃退したんですよ」
「ふむ」
「必死だったんで頭を撃ち抜いてしまって・・・」
「あー、それが残ってんのか」
「はい。足を撃って行動不能にするだけでも十分だったんじゃないかって・・・」
「いや?」
「え?」
「盗賊ってのは人の命を奪って、それを生活の糧にしてるクズ共だ」
「え、はい」
「返り討ちに遭えば当然死ぬし、捕まっても死刑だ」
「はい」
「放っときゃ行商だったり旅人だったり普通に生活してるだけの村人が犠牲になる」
「はい」
「どのみちどっかで殺されるクズを早めに殺して、この先出るであろう犠牲を減らしただけだな」
「なるほど」
「まぁ、人を殺す事を誇れ。とは言わないが、悔やむ様な事じゃねーな」
「はい」
「ちなみに」
「はい」
「盗賊を殺したら報奨が出るんだが受け取ったか?」
「え?受け取ってないです」
「あー、そうか」
「どうしました?」
「行商のヤツと一緒に殺したんだよな?」
「はい」
「なら、そっちに持ってかれてるな」
「え・・・」
「まぁ、それを専門にしてる冒険者も居るぐらいだしな」
「それ?」
「盗賊退治」
「え?報奨ってそんなに良いんですか?」
「そりゃぁなぁ」
「やらかした・・・」
「はっはっは。まぁ、知らない方が悪い」
「ですねぇ・・・次からは・・・」
「お?さっきまで盗賊殺したのが残っててーとか言ってたクセに。また殺す気満々じゃねーか」
「いやっ、そういう意味じゃっ」
「んん?なら、どういう意味なんだ?」
「いや・・・次はそういう取りこぼしが無いように・・・」
「はっはっは。そりゃ大事だなっ」
イリアさんかイーロさん・・・何となくイリアさんな気がするけどしてやられた・・・。
いや、それがあったからこそ。この村までの足の手配もしてくれたのかもしれない。
盗賊1人当たりの報奨金を聞くのは命の値段を聞くみたいで怖いから聞かないけど・・・。
ガッツリ持っていかれた気がするー。
いつもお読み頂きありがとうございます。
8話くらいストックがあったはずなのに、気付いたら無くなっていました。
2日に1回だからって気を抜きすぎた(´ε` )




