32話 折れる心と反骨心
イリアさんに勧められた宿屋に泊まり、グッスリ眠って疲れを癒やしていたが。
夜中、不意に尿意で目が覚めた。
起きたくないけど・・・これは朝まで保たないかもしれない。
「仕方無いか・・・」
欠伸を噛み殺し、眠たい目を擦りながら身体を起こし裸足のまま靴を履きドアを開けた。
トイレを済ませ部屋に戻ろうとすると、食堂に明かりが灯っているのに気付いた。
こんな時間に?と思い、何の気無しに覗いてみると不思議な光景が目に飛び込んできた。
「え?」
「ん?何だ?腹でも減ったか?」
「あ、いや、それどうなってるんですか?」
「何がだ?」
俺が指差した先には謎の光体が浮かんでいた。
「ん?ライトか?」
「ライト・・・魔法ですよね?」
「ん?あぁ、生活魔法のライトだ」
「おぉー」
「何だ?初めて見たのか?まぁ、田舎の方だと使えるヤツは少ないからな」
「は、はい。初めて見ました。あの、これって・・・うわっ・・・動いた・・・」
「そりゃ動くだろ。動かせなかったら不便じゃねぇか」
「そういうものなんですね」
「ちなみに、ただ光ってるだけで触れもしねぇし温かくもねぇ」
「へぇ・・・ホントだ」
「で、腹減ったのか?」
「あ、違います。トイレに起きて来たら明かりが気になって」
「そうか。もう寝るのか?」
「はい。・・・あ、ちょっと変な事して良いですか・・・?」
「ん?何すんだ?」
パクっとライトを食べてみた。
「はっはっは。やっぱ腹減ってんじゃねぇか。んで、ライトは食えねぇぞ?」
「いや、どうなるのかなー?って・・・」
「ま、触れねぇから腹も膨れねぇな。残念ながら」
「みたいですね。それじゃあ、寝ます。お邪魔しました」
「おう」
部屋に戻り、ステータスを確認すると生活魔法の欄にライトLv.1が追加されていた。
試しに唱えてみると暗闇の中ですら言われないと気付けない程度の弱い光を放っている様な・・・光っていない様な・・・。
まぁ、現時点では使い物にならない。
でも、覚える事が出来た事が大きい。
練習していけばいずれは活躍する時も来るはずだし。ダンジョンとか!
ウォーターがあるから水を持ち込む必要ナシ。
ライトがあるから松明とか明かりも必要ナシ。
アイテムボックスがあるから荷物も嵩張らない。
うん。完全にポーターへの道まっしぐらだ。
よし・・・明日からは移動中にウィンドアローとウィンドカッターの練習しよう。
あー、でも、それだと後ろ向かないといけないのか・・・悩ましい・・・。
翌朝、朝の身支度を終えてまずしたのは・・・酔い止めの薬を飲む事。
これで1日安心。そして、ウィンドアローの練習も出来る。
「おはようございます」
「おはようございます。出発まではまだ時間がありますので、もうしばらくお待ち下さい」
「あ、はい」
「ちょっと集まりが悪いので、もしかしたら時間が掛かるかもしれません」
「はい。だったら、ご飯でも食べて来ますね」
「はい」
宿に戻り、朝食を注文する。
「ほれ。ライトもサービスだ。はっはっは」
「え、あ・・・はい・・・」
「何だ?反応悪ぃな」
「ちょっと質問なんですけど。ライトのレベルっていくつですか?」
「俺か?俺のは6だな」
「なるほど。6にもなればそんな風に自由自在に使える様になるんですね」
「あー、一応は2からだな。2になりゃそれなりに明るくなる」
「へぇ~」
「そんな羨ましいか?」
「あー、まぁ、はい」
「まぁ、こればっかりは生まれ持ったモンだからな」
「やっぱりそうですよね」
「贅沢言やぁ、攻撃スキルが欲しかったが。生活魔法のが便利だし、無い物ねだりってヤツだな」
「ですねぇ」
やっぱりスキルとか生活魔法ってのは才能というか生まれ持った物で。
後天的に習得出来る物では無い様だ。
そう考えると暴食ってのは中々にチートスキルに思えてくる。
ただ・・・覚えられるってだけで、1から練習しないとだし。
努力しなければ使い物にならないスキルをいっぱい持ってるだけの使えないヤツになってしまう。
まぁ、それでも可能性が広がる。
覚える事が出来たスキル次第で冒険者だけじゃなくても色んな職種が選べるってのが強みかもしれない。
思い描いてたチートスキルとは違ってきてしますけど・・・。
「そろそろですか?」
「はい」
「あ、でも、あそこの人とかまだ悩んでますね」
「それも大事なんです」
「え?」
「やっぱり買っておけば良かった。と思う事で、次に来た時に財布の紐が緩むので」
「そういうものですか」
「次に来るまでに時間も空きますから尚更ですね」
なるほど。
色々と考えられた売り方なのか。
そして、イリアさんがイーロさんに合図を出して販売が終了となった。
次の村への移動中はウィンドアローを重点的に練習をした。
と言っても、MPが直ぐに無くなるのでそこからはライトとウォーターの練習をした。
ライトもウォーターもほとんどMPを消費しない事が分かった。
だが、MPが枯渇した状態だったり極度に減った状態だと集中する事が出来ずにウォーターもライトも失敗する事が多々あった。
精神力がMPだったり魔法に影響するのかもしれない。
って、考えてしまうのはゲーム脳ってヤツかもしれない。けど、あながち外れてない気もする。
「移動中、後ろで何かやってんのか?」
「え?」
「小声でブツブツ聞こえっからよ」
「あー、スキルの練習してます」
「ほぅ?ホントにスキル持ってたのか。何のスキルなんだ?」
「イーロ」
「何だよ?」
「スキルの詮索をするのはマナー違反よ。それも、お客様に対してなんて」
「良いじゃんか。ちょっとぐらい」
「すみません」
「あぁ、いや、良いですよ。いきますね」
「ウィンドアロー」
「はっはっは。まだ言ってたのかよ」
「え?」
あ、そうか。
見えないから、何か的が無いと・・・。
「風属性のスキルはエルフだけが使えたって言い伝えだからな。もし使えたらお前がエルフって事になっちまう。その顔でな」
「ぶっ・・・す、すみませ・・・ぶふっ・・・」
そっかー。エルフしか使えないのかー。
そうだよねー。平たい顔族なのに風属性使えたらおかしいよねー。
逆にやる気が出てきた・・・。
いつもお読み頂きありがとうございます。




