31話 沢瀉
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です・・・しばらくゆっくりしてれば治ると思います・・・」
治ると思いたい・・・。
「酔い止めあんぞ?」
「あ、お願いします・・・」
「毎度ありー」
飲んで直ぐに効くという訳にはいかなかったが、しばらくするとハッキリと効き目を実感出来る程の効果があった。
まぁ、薬を飲んだのは2度目の休憩の時で。効き目を実感したのは3度目の休憩を終えてからだから中々に地獄は味わったけど・・・。
「いやぁ、あの薬のおかげで楽になりました」
「それは良かったです」
「あの薬の材料知ってっかー?」
「イーロ!」
「イヒヒヒヒ」
「え・・・何かヤバいヤツなんですか・・・?」
「いえ。ですが・・・」
「はい・・・」
「人に依っては飲めなくなる人も居るので聞かない方が良いと思います」
「な、なるほど・・・」
そっちのが飲みにくくなる気がしないでもないっ・・・。
って言っても、どうせ冬虫夏草みたいな虫とかそんなんだと思う。
うん。無理。
どうしよう・・・。
まだ残ってるけど、飲む気がしなくなってしまった・・・。
そんな地獄を味わいながらも陽が傾き始める少し前には次の村に到着した。
「明日も今日と同じくらいの時間に出発しますので、それまでに準備を済ませておいて下さい」
「はい」
「明日も道が悪いので、出発前に薬を飲む事をお勧めします」
「はーい」
虫でしょ?
虫を飲むくらいだったら多少苦しい方が全然マシだよね。
そんな風に思っていたバカな時が俺にもありました・・・。
翌日、昨日と同じ様に朝一に商売をして、終了を告げると同時に怒涛のラッシュが始まり、それが落ち着いたタイミングで出発をした。
「昨日と同じでしたね」
「はい。どの村も毎回あんな感じですね」
「へぇ~」
「毎回毎回・・・いい加減学習しろっつーんだよ」
「あれで良いのよ。飢饉があったり、問題があった時はああならないのよ」
「まぁ、そーだろうけどよー」
「平時だからこそ商売になるんだし、あれで良いのよ」
「つっても、非常時の方が儲けるチャンスなんじゃねーの?」
「そうね。もの凄く儲かるか全てを失うか。非常時の商売はギャンブル性が高いわね」
「そっちのが燃えるよな」
「そう?私は安定して儲かる方が良いわね」
「そうかー?商売なんだから多少ギャンブルになるのは仕方無くねーか?」
「続きは出発してからね。早く準備なさい」
「うーい」
本日の道程も山道で盛大に揺れる。
蛇行しながら時折気を抜いたタイミングを狙い澄ました様に的確にそのタイミングで穴に落ちる。
それでも、昨日この揺れを経験したおかげか乗り物酔いは起こらない。
と、思っていたら唐突に吐き気がやってきた。
それでも、虫を飲むのは生理的に受け付けない。
と、思えたのは酔い出して最初の10分くらいで。
苦しさに負けて薬の力を頼った。
が・・・直ぐに効く物でも無いので、しばらく地獄を味わった・・・。
「飲まなかったんですか?」
「ちょっと甘く見てました・・・」
「すみません。昨日、脅かし過ぎましたね」
「虫とか無理ですけど・・・流石にしんどかったんで諦めて飲みましたけど、まだ効いては無いですね」
「虫は入ってないですね」
「え?そうなんですか?」
「はい。いくつか薬草を合わせている薬なんですが」
「はい」
「それの1つに、葉が人の顔に見える物があって。それが苦手な人が稀に居るので」
「へぇ~。それくらいなら全然大丈夫です」
「見てみるか?」
「えっ・・・それは、ちょっと遠慮しときます・・・」
「ま、持って無いから見せよーが無いんだけどな」
「オムダクが入ってるって聞いて飲めなくなったのは自分のクセに良くそんな事が言えるわね・・・」
「あんなん見て飲める方がおかしいんだよ・・・」
「仲間増やそうとしないで下さいよっ」
「お前も飲まなくて良い様になりゃ良いんだよ」
「まぁ、飲まずに済むならそれに越した事は無いですけど・・・って、イーロさんも前は飲んでたんですよね?」
「ん?そうだな」
「酔わない体質になったんですか?飲むくらいならって思ってたら」
「いや?今でも荷台に乗ったら酔うな」
「え?」
「進む方向いてて、何時揺れるか分かってたら酔わねーって感じだ」
あぁ、車でも自分で運転してる分には酔わない人も居るって聞いた事あるな。
「じゃあ俺も進行方向向いたら大丈夫だったりしますか?」
「試してみりゃ良いじゃねーか」
「それもそうですね」
「次の休憩まで少し距離がありますが、そこでお昼休憩も兼ねますので」
「はい」
「そろそろ出発しますので、準備をお願いします」
「はーい」
それまでは進行方向に背を向けていたが、そこからは進行方向を向いて座る様にした。
そのおかげなのか薬のおかげなのかは分からないけど、そこから次の休憩まで楽に過ごす事が出来た。
余裕が出たので暇潰しに生活魔法のウォーターを練習していたが。
意外な程に熱中していて、気付いた時には次の村に到着していた。
「忘れてたんですけど、冒険者ギルドの出張所があるのって前の村でしたっけ?」
「いえ、この村にあったはずです」
「どこにあるんですか?」
「あぁ、出張所と言いましても明確にある訳では無くて一月か二月に1度くらいのペースで依頼が無いか聞きに来る感じですね」
「なるほど」
「どうします?」
「え?何がですか?」
「冒険者が来るのを待ちます?」
「あぁ、いや、冒険者の人に会っても登録とか出来ないですよね?」
「そうでしたね。そうでした」
「??」
「道中のお前の様子を見てて、これから冒険者になろうってヤツに見えねーから忘れてたんだよ」
「イーロ!」
「でも、当たってんだろ?」
「・・・す、すみませんっ」
ま、まぁ・・・仕方無いか。
でも、きっと暴食は大器晩成型。
たぶん、これから強くなる。
なって欲しい。って言うか、なってくれないと困るっ・・・。
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