26話 negotiator
行商人のイリアさんとイーロさん。この2人は姉弟だそうだ。
2人共、肌が浅黒く少しミステリアスな雰囲気を纏っている。
年の頃は20代半ばぐらいだろうか。
「それでは、お代ですが」
「え?」
「ん?まさか無料で乗せて貰えるとでも思ってたのかい?」
「あ、いや、あぁ、そうですね、はい・・・」
「無料で構いませんよ」
「えっ?」
「ユウ。ちょっとこっち来な」
「え、あ、はい」
セリアさんに腕を引っ張られ人集りから外れる。
「やめときな」
「え?」
「只より高いものはない。って言うだろ?」
「あー、はい・・・」
「しかも相手は商売人だからね。絶対に後が怖いよ?」
「そうですね・・・はい」
「ちょっとお願い事があったりするだけなので、そこまで警戒される必要はありませんよ?」
「ほらこれだよ。このちょっとってのが怖いんだよ」
「いえ、そんな事は無いですよ。有事の際に少し手伝って頂いたりするだけです」
「有事って言うと?」
「脱輪した際に押して頂いたり」
「あー、それくらいなら」
「バカだね。そんなの言われなくたって手伝うだろ?」
「あー、そうですね・・・」
「ちょっと荷物の番をして頂いたり。それくらいですよ?」
「ふむ。それでも私は運賃払っといた方が良い気がするねぇ」
「そうですね・・・いくらですか?」
「銀貨1枚で如何でしょう?」
「意外と安いね」
「それじゃあ、銀貨を・・・」
「待ちな。代金は後で構わないね?」
「はい。お昼頃に出発しますので、それまでに頂ければ」
「お昼だね?それじゃあ、また後で」
「はい」
セリアさんに宿屋の倉庫に連れて来られた。
「あぁ、しまったね」
「どうしました?」
「どのくらい掛かるのか聞き忘れちまったよ」
「あー、勝手に1週間も掛からないくらいだと思ってましたけど。どうなんでしょうね」
「ま、そんぐらいだろうけどね」
「それで、何で倉庫に?」
「いやね。商売人がわざわざ儲けを捨てるとも思えなくて考えたのさね」
「はい」
「移動中の食事。そこで金を取るんじゃないかと思った訳さ」
「あー、そこでぼったくろう。と」
「最初の村で仕入れられたらそれまでなんだけどね。最初の村に着くまではふんだくれれだろ?」
「そうですね」
「だから、保存食やら日持ちするのを持ってきな」
「はい」
「もちろんお代は」
「あぁ、払います払います」
「要らないよ」
「え?」
「一月って言ってたのがだいぶ短くなったからね。その分だよ」
「あー、なるほど。ありがとうございます」
「って事で、持ってけるだけ持ってきな」
「ははは。ありがとうございます」
大量に貰った食料を部屋に戻ってアイテムボックスに詰めていく。
正確に言うならアイテムボックスの中のマジックバッグに詰めていく。
そんな事をしていたら、アイテムボックスのレベルが上がった様で更にスペースが出来た。
微々たるものだがアイテムボックスは重量を無視できるのでありがたい。
コンコン───。
「はーい」
「歳を取るといけないね。物忘れが激しくて」
「いやいや、そんな歳じゃないでしょ」
「はっはっは。行商の子にあの古い銀貨で払うのも難だろ?」
「あー、そうですね」
「両替したげようと思ってたのを思い出してね」
「ありがとうございます」
「まだ銀貨あるかい?」
「はい」
背嚢の中に手を突っ込み、そこにアイテムボックスを出して見えない様にアイテムボックスから銀貨を1枚取り出す。
「これをお願いします」
「あいよ。それじゃ、普通の銀貨10枚だよ。確認しとくれ」
「はい。・・・確かに。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「でも、良いんですか?」
「何がだい?」
「本当に10枚分の価値があるのかも分からないですし。換金の手間とか考えたら・・・」
「あの婆さんの目利きとツテは本物だからね。適当なタイミングで売りつけるよ」
「なるほど」
「でも、まだあるんだろ?古い金貨やら銀貨やら」
「えっと・・・もうちょっとだけありますね」
「私が両替してあげられれば良いんだけど。ウチも火の車だからね、そこまでの余裕は無いんだよ」
「いやいや、これだけでも十分ありがたいです」
「そうかい?」
「はい」
それから旅をする中で気を付けた方が良い事など色々とアドバイスをしてくれた。
「それじゃあ、ちょっと早いけど昼ご飯にしとくかね」
「え、はい」
「ウチで食べる最後の食事だからね。存分に味わっとくれ」
「はい」
「まぁ、作るのは旦那だけどね」
「ははは・・・でも、最後じゃないですよ」
「ん?そうなのかい?」
「はい。また戻って来ますから」
「へぇ。期待しないで待ってるよ」
「まぁ、そんな直ぐじゃないとは思いますけど」
「うん。気長にね」
「ごちそうさまでした」
「おう」
「お世話になりました」
「最初は胡散臭いヤツだと思ってたが・・・いや、それは今もだが」
「えっ」
「まぁ、こっちに来る事があったらまた飯だけでも食いに来い」
「はいっ」
「ねね」
ニーナちゃんが袖を引っ張りマグナスさんから引き離される。
「どうしたの?」
「おかーさんに言ってないよね?」
「ん?あぁ、マッチの事?」
「声が大きいっ!」
「あ、ごめん」
「言ってないよね?」
「うん。言ってないよ」
「そっかぁ」
「何をだい?」
「な、な、な、なんでもないっ」
「マッチの事かい?」
「「!?」」
「大人の居る前でしかマッチを使うなって約束を破った事かい?」
「し、してないもんっ。マッチなんて知らないっ!・・・あっ!言ったんでしょっ!!」
「いや、言ってないよっ」
「ユウからは聞いてないよ?」
「だったら何で・・・」
「ニーナがした事で私が知らなかった事あるかい?」
「な、ない・・・で、でもっ!マッチなんて知らなーーーーーい」
そう言い終える前にニーナちゃんは逃げていった。
「何で知ってるんですか?」
「母親ってのは子供の事なら何でも知ってるんだよ」
「な、なるほど・・・」
「ユウも子供が出来りゃ分かるよ」
「はい」
「くそう・・・最近は俺の事避けるのに・・・あんなヤツとは仲良く・・・くそっ・・・」
マグナスから盗人を見る様な目で見られている事に気付かないユウであった。
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