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16話 お仕事

「うわあああああああああああああ」


イケメンエルフが俺に向かって右手を突き出し「ウィンドアロー」と唱えた。

唱えたが風なので目には見えない。


「あれ?」

「ぬ?」


「ウインドカッター」


「うわああああああああああ・・・・・あ?」

「ぬ・・・」


至近距離とは言わないが10メートルも離れていない。この距離で2発も続けて外すとは思えない。

これは・・・暴食が仕事をしてくれたのかもしれない。

それ以外には考えられないけど。


「き、貴様何をした・・・」


そして、今度は弓に矢を(つが)えた。


「ウィンドストーム」


矢を射ると同時にアリスさんのウィンドストームでまたどこかへ飛ばされていった。


「大丈夫ですかっ?」

「あ、はい・・・何とか・・・」

「まさか追って来るとは思っていませんでした。申し訳ありません」

「びっくりしましたけど、またアリスさんのおかげで無事でしたし」

「もしかしたら、また追って来るかもしれないので休憩は挟まずに森を抜けてしまいましょう」

「はい」



お昼休憩に入る前よりも格段にペースアップしている。

足は痛いし息も上がっているけど、そんな事も言っていられない。


どれだけ急いでも俺が足手まといなので移動速度は知れている。

向こうが本気になって追って来れば直ぐに追い付かれるだろう。


「ユウさん」

「はい」

「一旦ペースを落としましょう」

「え?大丈夫なんですか?」

「足を止めずに休憩にします」

「あぁ、はい」

「なので歩きながら水分補充をして下さい」

「はい」


アイテムボックスから水筒を出して、言われた通りに水分補給を・・・と思うが、歩きながらだと思う様に飲めない・・・。

マラソン選手ってどうやって走りながら飲んでるんだろう・・・。


「私にも頂けますか?」

「あ、すいません。どうぞ」

「ありがとうございます」


汗だくな俺とは対照的にアリスさんは汗ひとつかかずに涼しい顔をしている。

それでも、少しだけ息は弾んでいる。


「ありがとうございました」

「はい。それにしても、アリスさんはやっぱり体力ありますよね」

「そうでもないですよ?息も上がっていますし」

「でも、全然汗かいてないですよね」

「あぁ、エルフは代謝が悪いので」

「え、そうなんですね」

「はい。なので放っておくとお風呂にも入らないんですよね」

「あぁ、それで2-3日に1度は入らないとって決まりなんですね」

「はい。入る様になってから病気になる事が減ったそうです」

「汗はかかなくても雑菌とかは付着しますからね」

「それから寿命も伸びるみたいですね」

「え・・・もともと、長命ですよね?」

「はい。ですが、アリシア様は既にそれまでのエルフの寿命を遥かに超えて生きられてるので」

「あぁ、もしかしてアリシアさんがお風呂に入る決まりを作ったんですか?」

「はい。色欲の勇者がお風呂好きだったそうで、その影響だそうです」

「なるほど」


本当に悔やんでも悔やみきれないっ・・・。

まぁ、まだこれからチャンスはいくらでもあるか。


「俺もお風呂は好きなんで入っとけば良かったと思ってます」

「すみません。ですが、あんな事があった後でしたので・・・」

「それは分かってます。なんで街に着いたらまずお風呂に入りたいですね。汗でベトベトなんで」

「そうですね。では、そろそろ急ぎましょうか」

「はい」



その後も肩で息をしながらハイペースで森の中を進んだ。

そして、西の空・・・かどうかは異世界だから分からないけど空が赤く染まりだした頃、ようやく森を抜けて街道に出る事が出来た。


「やっと出れたぁ~・・・」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。っても、街まではまだだから気を抜けないですね」

「流石に森を出てまでは追わないと思うので。もう大丈夫だと思います」

「そうですか」

「あちらの方へ歩いて数時間程で街に着きます」

「まだそんなにあるんですか・・・」

「ですが。高低差もありませんし、踏み固められた道なので森の中よりは楽だと思いますよ?」

「そっか・・・それに、追い掛けられてる訳じゃないから自分のペースでいけますもんね」

「はい」


こっからはゆっくり行って、夜中には街に着くって感じか。

あれ?でも、城壁があったり門があって、その前には守衛さんが居て身分証の提示とかが必要だったり・・・。

というか、夜中に門を通れるんだろうか?


「あの」

「はい」

「身分を証明する物とかって要らないんですか?」

「大丈夫だと思いますよ?」

「そうですか。えっと、着くのは夜中ですよね?」

「はい」

「街に入れます?夜中なのに」

「入れると思いますよ?」


あれ?俺さっきから見当外れな事ばっか言ってる?


「あ、そうでした。これをお渡しするのを忘れてました」

「はい」

「アリシア様からです」

「え?何ですか?」


受け取った小さめの革袋にはパンパンに金貨が詰まっていた。


「え?これ、良いんですか?」

「はい。村では使い道の無い物ですし」

「って、言っても・・・」

「村では物々交換なのでお金は必要無いんです。外から来る行商の方ともお金のやり取りはしませんし」

「そうなんですね。だったら何でお金なんて持ってるんですか?」

「旅をされてた時のじゃないでしょうか」

「あぁ、って、それだと記念にとか思い出とかあるんじゃないんですか?そんな長い間持ってたぐらいなんだし」

「エルフは物に対してそこまで執着が無いからでしょうか?そこはアリシア様にしか分からない部分ではありますけど」

「う~ん」

「ただ、こう仰ってました」

「はい」

「必ず返しに来る様に」

「あ、はい・・・」

「倍にして。と」

「おうふっ」



何これ?投資?

俺に投資して資産を増やそうって魂胆・・・?


じゃないな。これは100%善意だ。

会ったばっかの俺に。信用なんてこれっぽっちも無いのにここまでしてくれるのは善意以外ありえない。


そう思いたい・・・。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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