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15話 ぼっち

やらかした。

盛大にやらかしてしまった。


「それではアリス。ユウの事頼んだぞ」

「はい」


朝起きて、しばらくして気付いた。

お風呂に入ってないっ。


「それではユウさん行きましょうか」

「はい」


2日入ってないから気持ち悪いってのもあるけど、重要なのはそこではない。

アリスさんと一緒にお風呂に入れるチャンスをフイにしてしまった。


いや、この先もあるのかもしれないけれども・・・。

もしかしたら、エルフの村以外では混浴なんて無いかもしれないしっ。


「ユウよ」

「え?はい」

「何か言う事は無いのか?」

「え?えっと・・・あっ・・・色々お世話になりました。ありがとうございました」

「うむ。またそのウチ顔でも見せに来とくれ」

「はい」

「色々と話を聞きたいでの」

「はい」

「当たり前の事じゃが。命は1つしか無いからの」

「はい・・・」

「恩返しをしに来てくれるのを楽しみに待っとるぞ」

「は、はい・・・頑張ります・・・」

「それでは、そろそろ」

「うむ。気を付けてな」

「はいっ」



アリシアさんの家を出る時、村を出る時と深く頭を下げた。

村から森を出るまで慣れた者でも数時間は掛かるとの事で、俺という足手まといが居る事を考えれば野宿しないといけないかもしれないとの事だ。


それだけの距離があるんだから、この村に来る事が出来なければ遭難して確実に野垂れ死んでいた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい・・・いや、ちょっとキツいです・・・」

「それでは一旦休憩にしましょうか」

「すいません」


履き慣れない靴。しかも、底が薄いから小石を踏んだだけで地味に痛い。

そして、道なき道とまではいかないが当然舗装なんてされてる訳も無く、木の根や窪みや色々な物に足を取られる。

そして、足元ばかり気にしていると蜘蛛の巣に顔から突っ込んだり、木の枝に顔から突っ込んだりと・・・中々に体力も精神力も削られる。


俺が最初に現れた場所だったり彷徨った挙げ句取り押さえられた場所は普段からエルフさん達の行動範囲だそうで、ある程度地面が踏み固められて歩きやすいそうだ。


そんな会話をしていたのは最初の方だけで、途中からは歩くのに必死で何を言われても「はい」と「大丈夫です」しか言ってなかった気がする。


「このペースだと野宿しないとですか?」

「そうですね」

「すいません。こっから頑張るんでペース上げて下さい」

「いえ、無理をすると怪我に繋がりますので。休憩を挟みながら行きましょう」

「はい・・・」


急ぐ旅では無いのかもしれないけど、魔物が出るかもしれないし野生動物相手でもアリスさんが居なければ逃げるしか無いだろう。

無傷で逃げきれるかは怪しいけど。


「アリスさんってやっぱり森の中に慣れてますよね」

「え?全く慣れてませんが・・・?」

「え?」

「村に同世代が居ないので遊び相手も居なかったもので。引き篭もって勉強ばかりしてました」

「その割には苦も無く歩いてましたよね」

「まぁ・・・このくらいは・・・」


あぁ・・・俺がダメダメ過ぎるだけか・・・。


「勉強って何の勉強してたんですか?」

「魔法ですね」

「凄かったですもんね。あの、襲って来た人を吹っ飛ばしたヤツとか」

「いえ、私などアリシア様の足元にも及ばないです」

「やっぱりアリシアさんって凄いんですね」

「はい。色欲の勇者と旅をされていたぐらいですから」

「あぁ・・・1撃で山を割ったり・・・」

「それは傲慢の方ですが・・・そのレベルの人と肩を並べられるぐらいの方ですね」

「なるほど」

「アリシア様が居るからこそ、人間との間に不可侵条約が結ばれている訳ですし」

「なるほど。そういう事だったんですね」


たった1人のエルフが抑止力になるとかどんだけだよ。と思ったが、グンマーの2人の暴れっぷりから考えたらそれも納得か。

でも、俺もその2人に匹敵するポテンシャルを秘めてるかもしれないと思うとちょっと楽しみだ。


「それでは、そろそろ行きましょうか」

「はい」



足の痛みが治まった訳でも無いのに、暴食の行く末が楽しみになった途端に意外とこの道程も楽しく感じている事に気付き、自分の単純さに呆れながらも気持ちだけでも楽な方が全然マシだった。

そんな単純な自分にも感謝しつつ先程までよりもだいぶ良いペースで進んでいった。



「そろそろ休憩にしましょうか」

「え?まだ大丈夫ですよ」

「いえ、そろそろお昼なので食事がてら休憩にしましょう」

「あぁ、はい」


少し開けた場所で腰を下ろし一息つく。


「途中からだいぶペースを上げてしまいましたが大丈夫でしたか?」

「はい。あれぐらいなら大丈夫です」

「アイテムボックスからドライフルーツと水筒をお願いします」

「はい」



あぁ・・・染みる・・・疲れた身体にドライフルーツの酸味と甘みが染みる・・・。

そして、汗も掻いたから水が美味しい。


「ユウさんはもうしばらくここで休んでいて下さい」

「え?アリスさんは?」

「近くに沢があるので、そこで水を汲んで来ます」

「はい。お願いします」


アリスさんは水筒を手に茂みの中へ掻き入っていった。


至れり尽くせりと言うか、迷惑掛けっぱなしで申し訳無く感じる。

いつかちゃんと恩返しが出来る日が来るのだろうか。アリスさんにもアリシアさんにも。


そんな殊勝な事を考えていたが。ふと、今自分が置かれている現状を自覚した。

そう、森の中に独りだ。


それに気付いた途端に不安になり、杖代わりに使っていた短槍を慌てて手元に手繰り寄せた。


ガサガサガサ───。


「気付いて居たか」

「!?」


茂みの中から現れたのは当然アリスさんでは無く。昨日、アリスさんに吹っ飛ばされたイケメンエルフさんだった。


「やはり俺は人間を許す事など出来ない」

「え・・・」

「村を追放される事になろうとも妻と子の為にお前を殺す」


恐らく本気なんだろう。

村で襲いかかって来た時とは違い、無表情で無感情な様子のまま淡々と俺への死刑宣告を告げられた。


「ウィンドアロー」



見えない何かが俺に迫っているのだろう。

俺は、ただただ恐怖し、立ち尽くしたまま悲鳴を上げる事しか出来なかった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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