110話 弱味
「そういえば、ここって山の方だけど。もしかして海って近いの?」
「そこそこ近いみたいです」
「へぇ~」
「それで、女将さんの弟さんが漁師をやってるらしくて」
「うん」
「女将さんの名前を出したら絶対に引き受けてくれるって言ってました」
「う、うん・・・そっか・・・」
いくつになっても弟って生き物は姉に支配され続けるのか・・・恐ろしい・・・。
「それで、島の反対側に行って。そこで、また船を探します」
「そこからもまた距離があるんだよね?」
「はい」
島の大きさは分からないけど。
船以外での移動が多いから、やっぱり馬は手放させないか。
愛着も湧いてるから。今更、手放すってなると辛いけど・・・。
「聞いた感じだと。サヌキまで2-3日もあれば着くと思います」
「あー、本当にそんな近いんだ」
元の世界なら2-3日あれば地球の裏側でも行けちゃうんだけどね。
いや、そんな掛からないか。
2日あれば1周出来た気がする。
エーリューズからここまでも飛行機とまではいかなくても、新幹線なら数時間だったりするんだろうな・・・。
いや、流石にもっと掛かるかな?
「深夜から早朝に掛けて漁に出てるみたいだから。お昼くらいまでに向こうに着ける様に。朝、ゆっくり目にこっちを出発します」
「うん」
「もう明日出発で良いですか?」
「うん。俺は問題無いよ」
「はいっ」
翌朝、朝食を済ませゆっくりしてから出発となった。
「港までもう少しのはずです」
「うん。ちょっと磯の香りがしてきたから。海、近そう」
「え・・・やっぱり、これが海の匂いなんですか・・・」
「独特な匂いだよね。俺もあんまり好きじゃない」
「そうですか・・・」
海に幻想を抱いていたのか。
エイミーは分かりやすく落ち込んでいた。
「見えて来ましたね」
「うん」
眼前に広がる一面の海。
どこまでも続く水平線。
うん。比較的最近どこぞの湖で見た風景だ。
エイミーも「あー、うん、このあいだ見た」みたいな表情をしている。
「お、女将さんの弟さんを探しましょうか」
「うん」
そこから直ぐの所に漁港があり、網の手入れをしているお姉さま方に尋ねると。女将さんの弟を呼んで来てくれた。
「俺に用があるってのはお前らか?」
「はい」
「チッ。俺は忙しいんだよ。用があるならさっさと済ませてくれ」
「向こうの島まで乗せてって欲しいんですけど」
「はぁ?今か?」
「はい」
「なんでそんなクソめんどくせぇ事しなきゃいけねぇんだよ」
「あ、ユウさん代わります」
「え?うん」
すると、エイミーは弟さんに何か耳打ちし・・・。
弟さんはそのまま崩れ落ちてリアルorzになった。
え?何言ったの?
「くっ・・・じゅ、準備するっ。ちょっと待ってろ・・・」
弟さんが用意してくれた船はそこそこ大きくてしっかりしていたが馬2頭を乗せるとなると心許ない。と、思っていたが。船は2艘出して貰える様だ。
早速、俺とエイミーは分かれて乗船し。向こうに見える島へと出発した。
「アニキと知り合いなんすか?」
「いや、初対面ですね」
「えっ、それなのにアニキを足に使ってるんすか?」
「え、はい・・・」
「あのアニキが・・・」
「あー、お姉さんと知り合いで紹介して貰ったんですよ」
「えっ、アニキにお姉さんなんて居るんすか?」
ヤバいな。
喋れば喋る程にドツボにハマると言うか。
俺にダメージは無いけど、弟さんへの被害がどんどん広がってる・・・。
何とかフォローしたいとも思うが、要らない事を言ってしまう可能性の方が高いので・・・黙るっ。
まぁ、都合良く俺を乗せてくれてる人も考え込んでいる。
「聞いちゃマズい事だったんすかね・・・」とか「アニキの弱味を握ったと考えれば・・・」とか、ちょっと不穏な独り言も聞こえて来たが・・・。
「そろそろ着くんで準備をお願いします」
「・・・・・・」
あ、返事しないとだ。
「はいっ」
黙らないとって意識が強すぎた。
「お疲れ様でしたー」
「ありがとうございました」
「ユウさんお疲れ様ですっ」
「うん。エイミーもお疲れ様」
「お疲れ様っしたっ!」
と、弟さんが90度の最敬礼をぶちかました。
「この辺じゃ顔は利く方なんで。何か困った事があったら何でも言って下さいっ!」
「はい」
「それじゃあ、俺らはこの辺で失礼させて頂きますっ!」
「ありがとうございました」
向こうの船で何があったんだ・・・。
「エイミー?」
「はい?」
「何があったの?」
「ナイショですっ」
えぇ~・・・。
「次の船も紹介して貰えましたし。今日中に島の向こうまで行きましょう」
「う、うん」
弟さんの弟分みたいな人が向こうで漁師をやっているらしく。
その人に弟さんの名前を出せば絶対に引き受けてくれるらしい。
いくつになっても先輩後輩の関係は続くのか・・・。
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