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第6話 学園島

「あなたに校内の案内をしてほしいのだけど」


「それは構わないけど、いいのか、オレで?」


「そう言ったわ」


「あ、あの」


カノンがおずおずと声をかけた。


「どうした、カノン?」


「私も行っていいかな?」


「校内の案内だぞ」


「うん。ダイチくんじゃ案内出来ない場所もあるでしょ」


「あぁ……」


確かにそういった場所が幾つか思い当たる。


「それじゃあ、頼めるか?」


「うん。よろしくね、瑠璃ノ宮さん」


「……ええ」


瑠璃ノ宮ハカナは少し寂しそうな顔をした。


「校内の案内か~。おもしろそうだな」


センが話を聞きつけて近づいてきた。


「校内の案内より、瑠璃ノ宮に興味があるだけだろ」


「まあな」


正直に認めた。無駄に男らしい。


「ごめんなさい」


「まだ始まってすらいないのに……!」


センの本質を肌で感じたのだろうか。瑠璃ノ宮ハカナ。中々侮れない奴とダイチはインプットした。


「ぷっ……。さすがザンネンイケメン」


「なんだと、榮水!」


詰め寄るセンをひらりと避けた榮水はそのまま瑠璃ノ宮もとへ歩み寄った。


「こんな奴放っておいてあたしを連れてってよ」


「何度も言うが、ただの校内の案内だぞ。あまりぞろぞろと行くもんでもだいだろ」


「あなたに任せるわ、秋ヶ瀬くん」


「だって」


瑠璃ノ宮の言った事に榮水はにまっと笑った。


「それにしてもあなた、モテるのね」


ダイチは突き刺さるような物言いに感じた。


「別にモテるって程の事でもないだろ。それにこの場合モテてるのはお前の方だ、瑠璃ノ宮」


「別にモテてるって程の事でもないわ。ただ編入生が珍しいだけでしょ」


ダイチを真似て言う瑠璃ノ宮ハカナ。はぁとダイチは溜め息を吐いた。


「……ともかく、ここにいても埒が明かないし、行くか」


「そうね」


ぞろぞろと教室を出る。センは諦めずについてきた。


「それじゃあそうだな……。職員室は朝行っただろうから省くとして、使用頻度の高い場所を重点的に回るか」


「お願いするわ」


始めに行ったのは保健室。そして視聴覚室や理科室などの特別教室。それから体育館に屋内プール、グラウンドに部室棟などを順繰りに回った。


「あとはここか」


「ここは……、宇宙飛行士訓練施設ね」


「とは言っても簡易版だけどな」


月面都市は密閉された広大な閉鎖空間だ。閉鎖環境での短時間の滞在は問題ないが、長期の滞在、ましてや移住となると人体もしくは精神に何が起こるかわからない。


そこで宇宙飛行士の訓練のうち、閉鎖環境適応模擬訓練と緊急対処模擬訓練を導入して、月に二回ほどカリキュラムに組み込まれている。


「ここでの模擬訓練を導入したのは、もしもの時の保険だってお母さんは言ってたよ」


理事長のタカネは、ああ見えてきちんと仕事はしている。


「校内ではこんな所か。他に見ておきたい場所はあるか?」


「そうね。じゃあこの島の事を教えてくれないかしら」


「この島か。今から回るとなると夜になっちゃまうぜ」


「今日の所は地図で説明すればいいじゃない。道なんて島を一周してるやつだけなんだし」


「そうだな。アクセス。島の地図」


地図アプリが起動する。

ダイチ達の目の前にウィンドウが現れ、そこにこの島の全景を映し出した。北を上として見ると、まるで海面から跳びあがったイルカの様な形をしている。


「これがこの島を上空から見た物だ。見ての通り向かって左を向いたイルカの様な形をしてるから『イルカ島』と呼ぶ奴もいる。まずはここ」


イルカの胴の辺りを指す。


「ここが今俺達のいる『星海学園』。そして学園西側にある正門前の十字路を背ビレの方に行くと学生寮の『星海寮』がある」


「十字路を寮と逆に行くとショッピングモール『ホワイトドルフィン』に出るの。結構いろんなお店があるから、今度案内するね」


「ええ。よろしく」


「ねえねえ、あたしもご一緒してもいい?」


「もちろんだよ!」


やはり同性がいると捗るものだとダイチは感心した。


「カノン達についてきてもらって正解だったよ」


ふふっとカノンは嬉しそうに笑った。


「『ホワイトドルフィン』から道沿いに進むと、唯一本土と海上で繋がっている『星海大橋』に出る」


海中でリニア、海上では星海大橋で本土と行き来出来るわけだが、公共交通機関としてはリニアだけしかない。


「来る時に通ったわ。海の中だったけどね。それと灯台のような建物も見えたのだけど」


「旧星海港だな。橋やリニアが出来る以前はあそこから船で本土と行き来していたらしい。灯台はその名残で、今は使われてない」


「そういや港で釣りをしてる奴をたまに見るな。釣れんのか?」


「さあな。今度行ってみるか?」


「いいや。オレが釣りたいのは魚じゃない。女の子だ」


「ああ、はいはい」


ダイチは獲物が釣れたところを見たことが無いので軽く流した。

再び地図に指を滑らせ、今度はイルカの腹の辺りで止める。


「ここは砂浜が広がっていて、夏になると結構賑わう」


「あっ、あたし泳ぎ行ってきたよ」


榮水アキラが自分のSAからその泳ぎに行った時の静止画をウィンドウに映し出した。


「ほらほら。綺麗でしょ」


「綺麗ってお前鏡見て……」


ウィンドウを覗き込んだ灰谷センが絶句した。


「こ、これは!?」


写っているのは榮水と友人だろうか。水着姿でポーズを取っている。中でも榮水は赤いビキニを着ているのだが、なかなかいいスタイルをしている。意外と着痩せするタイプのようだ。

彼が絶句したのはそれを見て興奮したからだ。


「ちょっ!? お前は見るなぁ~!」


スケベから隠す様に榮水アキラは顔を赤くしながらウィンドウの前に立ちふさがった。


「お前が勝手に見せたんだろうが~!」


「ダイチくん、鼻の下伸びてる」


「うぇっ?! そ、そんなこと……」


「ふぅ~ん」


瑠璃ノ宮ハカナまで訝しむような目でダイチを見た。


「あ、秋ヶ瀬も見ないでよ」


「……善処する」


榮水を連れてきて正解だったとは口が裂けても言えないダイチだった。


「アキラちゃん、スタイルいいよね」


「カ、カノちんだって人の事言えないじゃん」


思わずダイチはカノンの方を見てしまう。


「ダ、ダイチくん?」


視線に気付いたカノンが胸を隠す様にしてダイチを見上げた。


「あ、す、すまん」


気まずくなって思わず謝ってしまうダイチ。


「それで、水着姿を見せるために静止画を出したのかしら」


瑠璃ノ宮ハカナが不機嫌そうにしている。


「違うよぉ。もう瑠璃ノ宮さんまで。見てほしいのはこっち。海岸」


言われた通り見てみると、そこにはまるで南国の様な美しい紺碧の海岸が写っていた。


「これは綺麗ね」


「でしょでしょ」


「これは今から行くしかないな。もちろん水着を持って!」


「うわぁ……」


スケベの発言に女子三人がドン引きしている。


「欲望まるだしね」


「ちょっ?! 俺は純粋に……」


「まだそんなに冷たくないと思うから行って来れば? 一人で」


榮水が見たことも無いようないい笑顔で言った。


「あたし達は別の日に行くから。見に行くだけならいつでも行けるしね、カノちん」


「うん」


「もちろん、瑠璃ノ宮さんも」


「そうね」


今日初めて言葉を交わしたにも拘わらずこの三人は随分と仲良くなったようだ。


「よ、よかったらダイチくんも行く?」


「オレは構わないけど、他の二人がどう言うかだな」


「私は構わないわ」


「そうね。秋ヶ瀬ならいいかな」


「くぅ……。ダイチ一人だけ羨ましい」


センは一人うなだれている。


「はぁ……。そん時はあんたも誘ってあげるわよ。もちろん水着は着ないけどね」


冷たく徹しきれないのは何とも榮水らしい。


「それじゃ次だな」


イルカの尾ビレを通り越して、島の東端にある離れ小島を指す。小島というよりは海から突き出た大きな岩山と言った方がしっくりくる。


「この小島にはいつどうやって建てられたのか分からない真っ赤な鳥居があって、東側にあるからか『日の出の鳥居』と呼ばれてる」


「恋人と一緒に鳥居の間から日の出を見ると生涯結ばれるって言うよね」


「願いが叶うんじゃなかったっけ」


諸説あるとダイチは付け加えた。


「それで願いが叶ったって人はいるの?」


「少なくとも俺は聞いた事がないな」


他の三人も同様に首を横に振った。


「噂なんてそんなもんだろ」


「早起きもしなくちゃいけないしね」


「あたし絶対無理」


「オレもだ。だが景色はいいからな。今紹介したのが『学園島五景』と呼ばれてる、この島の有名スポットだな」


「ごけい? 五つの景観ってこと?」


「ああ」


「四つしか無いのだけど」


「本土岬、旧星海港、砂浜、鳥居……。確かに四つだな」


「ダイチ。あそこを忘れてるぜ」


「ああっ、そうだな。すっかり忘れてた」


最後の一ヶ所。イルカの腹ビレの上辺りを指す。


「この辺りは学園の裏山があるんだが、この辺りに洞窟があってな。その一番奥に氷の壁があるんだ」


「氷壁? この暖かい島に?」


「ああ。不思議だろ? だからイルカ島、もとい『学園島五景』の一つに数えられている」


「ところでふと思ったのだけど、この島の形、確かにイルカに見えるのだけど、ウサギにも見えないかしら?」


突然瑠璃ノ宮ハカナがそんなことを言った。


「ウサギ?」


「ほら、この尾ビレの部分が耳で……」


「うんうん。何となく見えてきた気がする」


「言われてみると、私もそう見えてきたかも」


「ウサギ……?」


何かが引っ掛かる。たしかにどこかで見た気もするとダイチは思った。


「ダイチくん、どうかした?」


「いや。なんでもない。と思う」


「? 変なダイチくん」


と、そこでチャイムが聞こえてきた。気付くと、空がオレンジ色に染まっていた。


「もうそんな時間なのか。島を回ってたら半分も説明できなかったな」


「そろそろ夕食の時間だし。帰ろっか」


ダイチ達は星海寮に向かって歩き出した。


「学生寮の中は私たちで案内するから」


「ええ。よろしく頼むわ」


「女子棟へはオレ達は入れないけど、食堂は共同だから時間が合えば会うこともあるだろ」


「そうね。その時は一緒に食べてあげてもいいわ」


「……そいつはお優しいことで」


「ねえねえ、……」


榮水に引っ張られた瑠璃ノ宮は、女子三人で話に花を咲かせ始めた。


そしてそれに混ざろうとするセンが榮水に追い払われる。諦めずにセンが喰らいつく。よく見かける光景だ。


それなりに打ち解けた様子の瑠璃ノ宮ハカナ。だが、始めからその存在が違和感ないようなおかしな感覚がダイチの中にあった。


「単にあいつの性格なのかもな」


「私の性格がどうかした?」


突然隣に現れた瑠璃ノ宮にダイチは驚いた。


「別にお前の性格だなんて一言も……」


「そうね。でも何となくかしら。あなたの考えそうなことだし」


「え?」


そしてまた瑠璃ノ宮ハカナは少し寂しそうな顔をすると、ダイチの前から去って行った。




つづく


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