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第2話 SA

「早くGOLをやりましょう!」と急かすミウだが、その前にやることがあった。


入寮手続きである。


入学の手続きは既に終了しているので、後は現地にてを受け取るだけだ。


そうして事務局でを受け取ったミウが首を傾げていた。


「兄さん。これが寮の鍵なのですか?」


青く縦長気味な双四角錐型の飾りのついたイヤリングを手にミウが訊ねた。


「そうだ。それがSA。正式名称は『Satellite Actor』。Actorは俳優じゃなくて当事者とか参加者とかそう言った意味合いらしい。兎も角俺たちはSAエスエーって呼んでる」


「SAですか」


ミウはイヤリングを右耳に付けて言った。


「寮の鍵だけじゃなくて、通話やメール、SNSはもちろん、学生証、電子マネー端末も兼ねてる」


「島の商店街はそれじゃないとお買い物出来ないから気をつけてね」


「わかりました、カノンちゃん」


「起動方法は事務局で教えてもらったと思うけど、音声入力で起動する。初期設定は『アクセス』だ」


「『アクセス』」


ミウが早速起ち上げてみる。

一秒もかからず彼女の目の前の空間にディスプレイが投影された。


『ようこそ、【星海学園】へ』


女性の声のアナウンスがそう告げた。


「初期設定ではそのディスプレイはオープンになっている。クローズドモードにすれば自分にしか見えなくなる」


「なるほど」


「ちなみにアナウンスの音声は男性にも変えられるぞ」


「へぇ」


「操作はディスプレイをタッチするか、キーボード入力でも可能だ」


「キーボードって一体どこに……?」


そう言って胸の高さまで手をあげてキーボードを打つ振りをすると、そこにキーボードが投影された。


「おおっ」


そして一歩二歩と歩き出した。すると、ミウの身体がそのままディスプレイもキーボードもすり抜けた。


「兄さん、これおかしくないですか?」


「ああ。基本的に移動しながらの使用は出来ない。ディスプレイに集中してると、視界が狭くなるからな」


「昔からある〝ながら行為〟防止のためですか」


携帯端末がどのような形状になろうとディスプレイは存在する。そこに映し出される情報、動画を視聴しながら移動したための事故は二十一世紀初頭から後を絶たなかった。


事故の報道も多数あったようだが、それは氷山の一角というやつである。


二十一世紀半ばにさしかかった頃、ようやく某携帯メーカーが〝ながら行為〟を防止するシステムを開発した。


カメラの手ぶれ修正機能を発想の元として、歩行時の僅かな振動や瞳孔の動き、ディスプレイから目を離す頻度などを測定する機能を開発。歩行時や自転車走行時の〝ながら行為〟を不可能にした。


自動車などの乗り物は端末を始動の鍵とし、走行時にフロントガラス及びミラー類から一秒以上視線が外れると自動的にブレーキがかかるシステムを開発。ほぼ普及していた自動運転制御システムも相まって脇見の事故は激減した。


また二輪車のヘルメットも端末を通じてバイザーに同様のシステムが導入された。


そういった半世紀ほどの歴史もあり、現在最新型の学園の携帯端末『SA』も端末自体からディスプレイは無くなったものの同様のシステムが組み込まれている。


と、ミウが何やらキーボードで打ち込んでいる。とてつもない速さで。


「相変わらずとても速いね」


カノンが感心している。自分が不得手な分一層。


「そう言えば、この手のガジェットを使いこなすの早かったよな」


ダイチは半ば呆れるように漏らした。


「何か仰いましたか、お二人とも?」


「いいや、なにも。それより何してんだ?」


「いえ……、とくに……、大したことは……、……と終わりました」


Enterキーを押して、やりきった顔でミウが言った。


「で、何をしてたの、ミウちゃん?」


「見ててください」


むふーと鼻息を漏らす音がしそうなほどのドヤ顔を見せる。そして、


「『魔眼起動』」


ミウの声でディスプレイが起ちあがる。


「もしかしなくても、今のは起動キーか?」


「はい♪」


語尾に音符でも付いてそうなくらいの笑顔だ。


「それだけ? なんかいろいろいじってみたいに見えたけど……」


カノンがミウの後ろから覗き込む。


「えっ?」


「どうした?」


ダイチも後ろから覗き込む。


「これは───!?」


通常、SAを起動すると目の前にディスプレイが表示される。


だがミウのSAは、ディスプレイの枠はないのに彼女の前方の少し左上に日付と時間、それから最新のニュースのような一列の文字列が右から左へと流れている。


とそこへ『陸の番人撃破される!』という情報が流れた。


「あ、どうやらやっと情報が更新されたみたいですね」


二人の驚きをよそに、しれっと最新情報を確認するミウ。


「おいおい、まさか」


「はい。少しいじらせていただきました」


そう言ってミウは歩き出す。


「あ、消えない?」


「その辺りも少し。ほら早く寮へ案内してください。私も早くGOLの世界に行きたいです」


「荷物を片付けるのが先じゃないの?」


「そんなものは後です。GOLを・・・・プレイ・・・出来る日を・・・・・どれだけ・・・・待ち望んだ・・・・・ことか・・・


「そっか。島の外からはログイン出来ないんだっけ」


『Goddess Of Lapis lazuli』、通称GOLは学園のサーバーである『スフィア』の一部を使用している。そして『スフィア』の端末でもあるSA以外からのアクセス自体が制限されている。


「しかしまあ、寮は目と鼻の先だし」


学園の西側にある正門から北に向かうことおよそ一〇〇メートル。そこに七階建ての建物がある。


自然に囲まれた島に建つ巨大な建造物。一見リゾートホテルのようだが、星海学園の生徒が暮らす寮『星海寮』だ。


五分足らずで到着すると、そこで榮水アキラが待っていた。


「遅い! SA受け取るだけでどんだけかかってんのよ」


「悪い。操作を教えながら来ようと思ってたんだが」


ダイチがミウを見ると、アキラもつられて彼女を見る。

ミウはキーボードを打ちながら何か操作をしている。


「もうGOLの登録してるよ、ダイチくん」


「ご覧の通り、既にSAの操作は覚えた。おそらくオレ達よりも使いこなしてると思う」


「なによ。どんだけGOLやりたかったのよ、あんた」


「もう、すぐにでも」


迷い無く答えた。


「その子が君の妹かい、ダイチ」


「お、めっちゃかわいいじゃね~か!」


玄関から入ると、左手の男子棟から男子が二人やってきた。


「ちょうどいいところに。ミウ、紹介するよ。左が『紅藤くどうレンヤ』。そしてこっちが『灰谷はいたにセン』。二人ともオレのクラスメイトで、パーティーの一員だ」


「よろしく、紅藤です」


ふわりとした黒髪に整った顔立ちのレンヤが微笑む。一瞬見えた歯が光ったように思えるような美丈夫っぷり。たいていの女子は虜になっているとのもっぱらの噂だ。


「俺は灰谷セン。よろしく、ミウちゃん」


長めの髪を後ろで結ったセンはニカッと格好つけた笑みを浮かべる。顔はいいのだが、軽薄そうなのが窺えてしまう。ダイチはたまにザンネンなイケメンと聞くことがあるが、本人は認めていない。


「秋ヶ瀬ミウです。兄がいつもお世話になっております」


ミウは折り目正しくお辞儀をした。


「ふふっ、ダイチと違って礼儀正しい子だね」


「悪かったな」


「ダイチはこっち側だもんな」


センがダイチと肩を組む。


「それはそれで複雑だな」


「なんでだよっ」


「ふふっ」


ミウが微笑む。


「どうした、ミウ?」


「兄さんにもきちんと男子の友人がいたのですね」


「そりゃいるよ。よくつるむ女子なんてカノンと榮水くらいだ」


「あれれ~? そうだっけ、ダイチ?」


「なんだよ、レンヤ。違わないだろ」


「君がそう言うんなら、きっとそうなんだろうね」


そうレンヤは意味ありげに言う。


「その辺りは追々聞いていくことにします。それより今は」


「そうだね。お部屋に案内してあげないと」


カノンがミウの肩に手をかけた。


「玄関から入って右側が女子棟。そして左側が男子棟だよ。真ん中は共有スペースになってるの」


「へぇ~」


「共有スペースの一、二階は食堂になってて三階から七階までは談話スペースになってる。中でも七階は展望フロアになってて眺めがとてもいい」


ダイチが補足して続けた。


「お風呂はお部屋にもあるけど、一階の奥に大浴場があるよ」


「大浴場っていうくらいだから泳げるくらい広いわよ」


「泳いじゃダメだよ、アキラちゃん」


「え~。広いんだからいいじゃん。……っと」


榮水アキラが男性陣の方を見る。とくに灰谷センを。


「言っとくけど灰谷。ノゾキにこようなんて思わないことね」


「い、行かねーよ!」


「なんでどもるの、セン?」


レンヤが意地の悪い笑みでセンの顔を覗き込む。


「ど、どもってねーし!」


説得力がなさ過ぎる。


「あ~やしぃ~! 行こっカノちん、ミウ」


「う、うん」


「それじゃあ、兄さん。またのちほど」


「おう」


女子三人は女子棟へと消えていった。


「のちほどって、何か約束でもしてるのかい?」


「ああ、約束ってほどのもんでもないけどGOLをやりたいそうだ」


「そっか島外そとじゃ出来ないもんね」


「お、新メンバーってか」


「ああ、今朝の続きで魔王に挑みたいところだが、あいつが慣れるまでは手伝ってやってほしい」


「もちろんいいよ」


「よし、俺様がレクチャーしてやるとするか」


「すまない。それより、二人はどこか行こうとしてたんじゃないか?」


「いや、待ってたんだよ。ダイチ達を」


「オレ達を?」


「君の妹さんに興味があったのさ」


「榮水のやつは真っ先に飛び出していったからな」


「それじゃあ早速で悪いが戻ろうぜ。あの世界に」


二人は頷いてダイチと共に男子棟へと入っていった。




つづく

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