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「……聞き耳を立てるとは感心しないな、ユージン。この学校ではいつから盗聴の技術まで教えるようになったんだ?」
部屋から出てきた軍服の中尉が、ドアのすぐそばに立ち尽くしている青年の姿に気づいて言う。
青年――ユージンはそんな彼に向き直り、深々と頭を垂れた。
「無礼をお許しください中尉。俺は貴方を校長室までご案内するようにと、寮監督教師から申し付けられただけです」
それから、一度言葉を切り、おもねるように続ける。
「それに俺も、今回彼がしでかしたことは、相応の罰を受けてしかるべき行為だと考えています」
ユージンの言葉に、トールは満足そうに頷いた。
「こちらこそ、すまなかった。しかし、君は随分大人になったな。……君が私の弟であれば、どれだけよかったか」
そう言って自分を見つめる彼の弟とは似つかない瞳に、ユージンは強い嫌悪感を覚える。
ミハルがしたことは、この世界では間違いなく許されないことだ。
なのにユージンは、そんな彼を疎ましげに語るこの兄のことをどうしても認められなかった。ユージンの中で、今の優等生の自分と、かつて兄のスペアでしかなかった頃の自分が反目し合い、胸の裡に割り切れないもやもやを満たす。
それが表情に出ていたのか、トールは頭を振って見せた。
「いや、失礼。大事なダンタリオン家の跡継ぎに口にしていい言葉ではなかったな」
「いえ、お気遣いなく」
何やら勘違いしているらしい彼の言葉に、なるべく感情を出さないように答え、それから話題を切り替えるようにユージンは廊下の先を促した。
「ご案内します、中尉。出発は明日の朝になると聞きました。ゲストハウスにお部屋を用意させていただきましたので、まずはそちらに。その後で校長室の方にご案内します」
そうやって、もうすっかり貼り付け慣れた優等生の顔をして、ユージンは自分の責務を果たす。
けれど、その間も、ユージンの胸の裡の割り切れないもやもやは、決して消えてはくれなかった。