隣の高級晩ごはん
一人称です
『今日オフだからあそぼー そっち行っていい?』
『あーまたゲームか 別にいーけど』
スマホを確認してからしばらくするとチャイムが鳴る。
隣の突撃にはすでに慣れたものだ。
ドアを開けると、超絶イケメンのキラキラ笑顔が遠慮なく飛び込んできた。
「楸、おはよー」
「ほんといっつもいきなりだよね、お前」
奴の名は桐生 要って言えばわかるだろうか。テレビでよく見るよね。なんかドラマとかCMとかだよね。近年話題のイケメン俳優だよね。抱かれたい男No.1だよね(知らんけど)
簡単に説明すればうちのお隣さんだ。
ていうか、このセキュリティ万全の高級賃貸マンション一棟が実は私の持ち物だったりする。まあ親の遺産なんだけど。相続税とかめっちゃ取られたよ。おかげさまで不労所得で食っていけてるから、文句は言わない。
私は織田 楸という。
お酒も煙草も窘める年齢の、多分、一応、女性だと思う。
他人の部屋に来て家主に気を遣うでもなく、無造作に寝っ転がりながらゲームを始める男が、それを認識しているかは知らないが……。
「要、茶ー飲む?」
「ちょーだい。楸も手伝ってよ」
「知らんわ」
「あ、やべーまじやべー死ぬ。あ、死んだ」
阿呆みたいに見悶えて、イケメン台無しだな。
絶対まったくこちらを意識してないのがわかる。飾り気なさ過ぎだろう。爽やか飲料の宣伝してるアレ誰だ。新宿を席巻した魅惑のホストって本当に務まるのか。女舐めんな。
確かに私は体格も話し方もまったく女らしくないがね。童顔だからそこそこ可愛く見えるかもしれないよ。カワイイ男の子に……いや、違う。髪だって長いんだけどなー。ひっつめてるけどさ。
いや別に、奴に女として見られたい訳じゃない。決して。
くっそイケメンだからな。気をつけてないとこっちが動揺しちゃうからな。大型犬みたく懐かれて、いい気になってないからな。何が「楸ーごはん」だ。でかい図体で甘えんなコラ。何頭身だ。足長過ぎだろ、おい。
ああ、駄目だ駄目だ駄目だ。
私は芸能人で多忙な要にとって、信用できるオーナーで、常時掴まる暇なお隣さんで、気楽な男友達(正真正銘女だけどな!)と同じ枠……でしかない。
それでいいんだ。
◆ ◆ ◆
基本ニートな私だって、たまには外出することもある。
まともに働いてるとは言い難いけど、一応何もしてない訳じゃない。
もし公式な肩書を無理矢理つけるとしたら、「マンションオーナー兼イラストレーター」になる。
これでも少女小説とかエロ小説とかBL小説とかの挿絵を描いてるんだよ、このやろう。不定期だけど。不労所得があるからやってられるんだけど。最後のジャンルが一番需要あるけど。コミカライズも手掛けたことあるんだぜ。
「楸ちゃん、相変わらずだね。その恰好」
「会田さんが原因じゃん」
彼女、会田さんは出版社勤務の出来るウーマンだ。元腐女子。うん、コネって大事だよねー。お仕事ください。嘘です。学生時代に住んでた家のご近所さんで、ご縁があって(腐女子つながりで)友達付き合いが続いている。お仕事でもほんの少し絡んだりする。
そう、ここでの私はペンネーム「楸 りん」なので、普段とは一味違うんです。
ゴスロリ、ゴスロリなんですよ。
イマドキ流行らないよ。いい年齢して恥ずかしいよ。これでも成人だよ、23歳だよ。ツインテとかまじ勘弁してよ。童顔だから似合っちゃうけどね。マツゲばっしばしで別人だからね。コスプレは羞恥心を殺す。そう信じたい。
今も喫茶店で打ち合わせと称してダラダラしているが、別に周囲はちっともこちらを見ない。無関心都会万歳。23区生まれで良かった。
「いやだって、着替えのために余所に部屋借りてるんでしょ? ないわー」
「仕方ないんよ。この恰好で自分とこのマンションに戻る訳にはいかないんですよ。お察し」
「例のイケメンにはまだバレてないんだ?」
「言えるか。ゴスロリの腐女子バレとかどんな羞恥プレイ?」
もうひとつ、会田さんには未だ話していない事情もある。
実はもう5年前にもなるが、ゴスロリの楸ちゃんは、まだ売れる前、駆け出し時代の桐生要に会ったことがあるという逸話だ。
+ + +
今のマンションから結構近い場所に、わりと大きな公園がある。日中はデートスポットだったり、楽器やったり芸してたりその練習してたり、ただのわんわんおのお散歩コースだったりで人通りも多い。夜は自主規制エリアになるのはご愛敬か。
当時の要とは、そんな不埒極まりない……かもしれない夜の公園で出会った。
つっても我々が何かした訳じゃないけどね。むしろ健全な青少年の見本みたいなもんだよ。
その頃からお絵描きに勤しんでいた私は、街灯を頼りに夜の風景をスケッチしていた。要はどこかの劇団に所属していたらしく、出演する劇の練習をしていた。
特に劇的なボーイミーツガールがあったとかじゃない。
何度か顔を合わせる内に何となく話すようになって、人物スケッチのモデルになってもらったり、台本の読み合わせをしてあげたりして、しばらく過ぎた頃、互いに名乗り合った。
「りんちゃん」
そう、要は私を呼んだ。
姓は教えてない。考えてみれば、本名とかすりもしないペンネームの下の名前だけってただの偽名だろう……。
要はちゃんとフルネームを答えた。芸名でもないことは今は知っている。
「今更だけど、女の子が夜出歩くのは危ないよ?」
ゴスロリの私はちゃんと女の子として扱っていたらしく、現在の奴からは想像もできないほど優しく紳士的だった。
「ふふ、大丈夫。ありがとう、要くん」
誰これキモイ。
私だよ。でも織田楸じゃない、PN楸りんちゃんだから許してクダサイ。
思い返すと極めて警戒してたというか緊張してたというか。
当時っから奴は凄まじい美形だったからね。今より少し髪が短くて少年っぽい。まだ二十歳だったかな。今の私より年下じゃん。
「俳優志望なんて凄い」
と、あざとく可愛らしく持ち上げつつ、自分のニートっぷりは棚に上げて、「ドリームwww、pgr」とか思ってたのは永遠に内緒だ。
楽しい思い出と称するのが正しいんだろうな。
そのうち、うちの親が亡くなったりとか色々……まあ色々あって、落ち着いた頃には要はもう公園には来なくなってしまったけれども。
1年後、スクリーンで姿を目に留めた時は本当に驚いた。
それから更に3年と数か月後、オーナーさんにご挨拶と言ってマネさんを伴った要と我が家の玄関で遭遇を果たした時は、プロ相手になけなしの演技力を総動員する羽目に陥ったのだった。
◆ ◆ ◆
正直に言う。その日の私の体調は最悪だった。
眠い。超弩級に眠い。仮眠ありとはいえ何徹目だか認識できないほどには眠い。
遅筆作家の書き下ろし原作コミカライズって何の拷問だよ、おい。
ネームさえ取り掛かれないんじゃいくらこっちが暇人でもね。締め切りまでのカウントダウン早過ぎるよ。零細作家だから当然アシもいないしね。デジタル駆使してるよ。だからって奇跡のように簡単に仕上がるとでも思うのか。
くー勤労って辛い。趣味仕事だから弱音も吐けずなお辛い。好きでやってますよ、はい。やりきるよ。もちろん良い仕事するよ。
結局入稿したのはついさっき、そして狙い澄ましたかのように隣の駄犬、いや血統書付きっぽい駄人間がやって来たのだった。
なんで部屋に入れちゃったのかと後悔する。都合が悪いって玄関先で追い返せば良かったんだよ。
目の下の隈は酷いし、肌はボロボロだし、Tシャツはよれよれだし。女としてというより人としてどうよ。
ニートが仕事で徹夜って矛盾した状況をどう説明しよう。もともと仕事のことは一切話してないし。……ゲームとネットとアニメに嵌ってたってことでいいか。オタバレはしてるしな。
「疲れてんねー」
「見た通り。飯の支度はしないからな」
「俺作ろうか? 台所使っていい? 何かある?」
「残り飯あるからチャーハン作れ」
「りょー」
要は独り暮らしが長く、下積み時代は当然に自炊だったから料理は巧い。勝手に作りに来てくれる女なんて捨てるほどいそうだけど、不思議だ。
あんまり待たずにシンプル卵炒飯と即席中華スープが出てくる。
手際いいよな。いつでも嫁に行ける。ん、私? 訊くな。
飯を平らげたら急激に眠気が復活してきた。
遊びに来た要には悪いけど、今日はとても相手をしていられる余裕はない。
リビングでそのまま寝落ちする私の名を、要が呼び掛けた気がする。
まあいいや。ゲームでも何でもして、飽きたら自分ん家に帰るだろう……。
+ + +
微睡の中、昔のことを思い出す。
一人娘の私に甘々だった父と、それに苦言を呈する母が交通事故で亡くなった。突然の訃報に私も周囲も混乱をきたし、精神的にも参っていたのだろう。ところどころ記憶は欠落している。
父は経営者だったが、娘とはいえ世間知らずのお嬢様が継げる訳もなく、弁護士のもと会社の経営権は信用できる役員に移行された。私はそれなりの金額と不動産を遺産として譲り受け、特にがめつい親戚もおらず弁護士も確りした方だったので、すべて平和裏に済んだ。
駄目なのは私だけだ。エスカレーターで何となく進学した大学も、両親の死後しばらくして辞めてしまった。もともとあまり真面目には通ってなかったけれど。
家に引き篭もって、その頃は仕事もないので何も発展性のない生活をしていた。
少し落ち着いた頃、私はかなり久々に夜の公園を訪れた。
要はいつものようにそこにいた。
泣きそうになる。
でも絶対に泣かない。化粧が落ちて酷い顔になるから、私は涙を堪えられる。
「……りんちゃん?」
多分、要は私の様子がおかしいのに気がついた。
困ったような笑顔だった。
ああ、やっぱりイケメンだな。その顔好き。超好みだよ畜生。
「ちょっとぶりだね、要くん」
私は笑った。
極上の可愛らしさで笑えたと思う。
どうしてか要が狼狽えたのがわかった。
「要くん?」
「……りんちゃん」
その後、何が起こったのか今も正確には把握していない。
とにかく私が覚えているのは、
要が、
要の綺麗な顔がごく近くにあって、
……唇が。
唇と唇が、
触れたのだ。
+ + +
ぬるり、と口の中に慣れない感触があって、驚いて目が醒めた。
いや、まだこれは夢か?
「んー……んぅっ!?」
何?
なんだこれ?
なになになになに? 何が起こってる?
舌? 舌が口の中に?
知ってるよ、これ。ディープキスとかいうヤツだよね?
えええええ?
キスされてる?
私は今、要にキスされたのか?
「ちょ……っ」
しつこいくらい長く口づけていた要の唇が、酸欠になる前に離れてくれて本当に良かった。
「か、なめ」
見下ろす眼差しに、私は文句を言おうにも言葉を紡げなくなる。
何を考えているかわからない。
怖いのか。違う。
寝込みを襲われても要に嫌な感じは受けない。ただしイケメンに限る……ってだけじゃない。
「要、どうして」
「……ごめん」
無表情に不愛想に零すと、要は立ち上がり、部屋を後にした。
腰の抜けた私は追うことも叶わず、ただひたすら茫然としていた。
◆ ◆ ◆
「ついにイケメンに手ぇ出されたとか。ウケル。超ウケル」
「だから経験豊富な会田さんにご相談させていただいてるんですけどね? 大層おモテになるんでしょう?」
「死にたいかコラ」
行きつけの喫茶店であんま大きな声を出さないでほしいな。こっ恥ずかしくて二度と来れなくなるだろうが。
本当だったら一杯引っかけたいよ。とっくに成人してるんだよ。自慢じゃあないが年齢確認の嵐で面倒くさいってのはある。もっとおばちゃんになったら何故か若く見られるんですのよホホホって言ってやる。
会田さんも多忙な人だからね。私事に巻き込むのは申し訳ない。が、交友関係の狭さから他に相談できる相手がいない。
「どういうつもりかな……」
「単純に、惚れられてんじゃないの?」
「馬鹿な」
引っかからないぞー。
いくら私が世間知らずでも、そこまで夢見がちじゃねーよ。
日本中に顔が知られているヒエラルキートップの男が、どうやって底辺ニートと恋に落ちるんじゃ。
「女遊びなんて死ぬほどやってるだろ」
「じゃああれかな? 普段高級料理ばっかりだと、たまにはお茶漬けが食べたくなる的な?」
なるほど、それか。
妙に納得感がある。奴自身が満漢全席みたいなもんだからな……って意味がわからないよ。
フレンチでも懐石でも何でもいい。私はお茶漬けかふりかけかご飯ですよなのか知らんけれど。
下手に手の届かない高級料理の味見をさせられてしまったせいで、空腹感が半端ないじゃないか。
+ + +
結局、要にとって私は何だったんだろうな。
5年前の私にとって、要は王子様だった。
現実感のない、夜の夢の虚構のような存在で、ゴスロリりんちゃんのキャラも自分からは程遠い位置付けで、潰えて消える幻でしかなかった。
何故あのときも、要はキスなんかしたんだろう。
お姫様は王子様のキスで夢から醒めた。
目の前の男がリアルにいることから逃げ出し、弁明の暇も与えず、真意を訊く機会も捨てた。
もし5年後に織田楸と出会うのでなく、りんと再会したのだったら、要は一体どういう反応をしたのか。今更ながらに気になってしまう。
何となくセピアっぽい気分になって、思い出の公園に足を運んだ。
日没までにはまだ時間がある。今の時期であれば、多少肌寒い程度で問題ない。
これまでだって、時折通りかかることはあった。
一時期は日課のように毎日毎日、同じベンチに座って待ち人来たらずに耐えた。
ただ、謝りたかったから。
キスに驚いて突き飛ばして立ち去ったことを一言、りんの自分が謝罪しなければならなかった。
何日待っても要と会うことはなく、いつしか私も忙しさにかまけて過去を忘却に追いやった。
まさか後日お隣さんで再会する日が来るなどと、誰が想像し得ただろう。
ぽつりぽつりと雨が降り出した。
そろそろ薄暗がりになってきたし、帰らなければと思うのだけれど、私の身体は根を張ったようにベンチから動かない。
ああ、霧雨が冷たいな。
風邪ひくなー。肺炎とかになったら独り暮らし超ヤバイ。
……でも。
でももう、それでもいっか。
親もいないし、兄弟ももとからいないし、恋人もいないし、友達だって少ないし、仕事はちょっと未練あるけど代わりはいくらでもいるし、……隣人とだって、もううまくいかないし。
独りぼっちだ。
知ってたけど、私は、独りだ。
雨が降っていて良かった。
化粧が落ちたって、変に言い訳する必要はない。
傘が雨を遮ったとき、ゴスロリ服はすでに水分をたっぷり含んでかなり重たくなっていた。
「何、やってるの?」
ぼんやりと視界を確認すると、変装してるけどキラキラオーラを隠せてないイケメンが傘を掲げて立っていた。
雨で良かったな。平日の日中でも桐生要がこんなところにいたら大騒ぎだ。
「帰るよ」
要は私の手を引く。
ちょっと待て。
今の……私は。
+ + +
公園とマンションの距離は近い。
悪天候だし、多分誰にも見咎められず戻っては来れたと思う。どのみち私は一般人だし、「桐生要熱愛発覚、同棲か?」ってなっても全然旨味はないからな。
わかってる。私は困惑している。
戻って来たマンションの、帰って来た部屋が、要のではなく私の部屋であるということに。
問うよりも先に、濡れた服を着替え身体を拭くのを優先していたせいで、要とはまだまともに話していない。
正直なところ、向き合うのを恐れている。
この前のキスから幾日も経っていない。
そのうえ、私は。
……いや、勇気を出そう。これでは5年前と何一つ変わらない。あの頃より私は大人になったはずじゃあないか。ほぼニートだけど、一応は金を貰って仕事してる社会人じゃないか。もう逃げていい子どもじゃない。
バスタオルを被ったまま私はリビングに赴く。
これくらいはご愛敬で許してもらおう。
要はコーヒーを淹れてくれてた。ちっ、何をやらせても絵になるなあ。
「具合悪くない?」
「大丈夫」
いつもより気遣いがある。これはあれか、やはりあれなのか。
「……要、知ってたん?」
訊くと、要は不思議そうに目を瞬かせた。
「楸がりんちゃんってこと? もちろん」
「うぁー……」
やべー凹む。まぢ凹むわー。
プレイか? そうだなプレイなんだな?
要が気づいていることに気づいていない私を横目で嘲笑い、絶妙のタイミングで暴露し罵倒するという……お前どんだけSなんだ。
「最初は顔とか声とか似てるなーって程度だったけど。見た目とか感じ違うし」
「何故わかった」
「知らない? 楸のうなじ、黒子が三連で並んでるんだよ。りんちゃんも同じところにあるの見たから。さすがに他人の空似じゃないじゃん?」
「すまん、通報案件だな?」
事案ですよ、イケメンじゃなきゃ。いやイケメンだからいいのか?
要は茶化しても乗ってこず、少し拗ねた横顔を見せた。
「話そうと思ったこともあったけど、なんか言い出せなかったんだよ。だって楸はすっとぼけてるし。忘れてるんじゃないだろうけど、やっぱこっちもトラウマっていうか。りんちゃんには凄い勢いで逃げられたからさー」
「……ごめん」
その事実には素直に謝罪する。
要は首を振った。
「いや、俺も悪かったよ。彼氏でもないのに、あんなこと」
「うん」
「……でも」
「隙を見せる楸も悪い」
……え?
ええ? 何その謎論理は。
「無防備だとキスくらいしたくなるよ」
いやその理屈はおかしい。
何なの、イケメンワールドの常識怖い。
普通しないよ。世のフツメン以下が聞いたらきっと怒るよ。どんだけ自由なんだって突っ込まれるよ。フリーダムか。野生か。本能で生きてるのか。
「いやいや、お前が時と場所も弁えずむやみやたらと誰彼構わずそこいらの女子に接吻を交わす生き物だったとしてもね、一応相手様の意思というか意向くらいは確認しようぜ」
「誰にでもなんて、しない」
要の声はちょっと怒っていた。
「彼女とか好きな子とか、特別な人にしかキスなんてしない。……あ、もちろん演技は除く」
「それは何より……って、ええ?」
なんか変な科白混じった。
AイコールBでBイコールCだからAイコールCみたいな。
だからつまり、
要は。
「楸でもりんちゃんでも同じだよ。俺にはどうしようもなく惹かれた女の子でしかないから」
少し照れて要は告白する。
くそぅ、きゅんきゅんするな。
イケメン、イケメン補正だから。
「要は……私が好き」
「そうだよ」
「全然女らしくないし、口悪いし、ガサツだよ?」
「可愛いし、安らげるし、癒されるんだよ。それじゃダメ?」
そっと私の頬を包み、要が顔を近づける。
「楸は、俺が好き?」
ゆっくりと私は肯いた。
しばらく見つめ合った後、
……私たちは唇を重ねた。
ところでどうしてあのとき要は、
私が公園にいるのを知っていたのだろう……。
<完>
ありがとうございました