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風人  作者: 水芦 傑
第一話 その男、職業風人
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リャクト・シャール・F

 ジガンは俺の正体を明かし始めた。

「あいつはリャクト・シャール・F。ランクSSの賞金首の四人の内、世界二位の賞金首だ。賞金額は五十三億Reで古代兵器の銃を武器に使っている世界で唯一の人間だ。そんな奴がドギなんぞに負けるはずがないってわけさ」

「何!?ジガン、お前知ってたのか?」

 ドギは目を見開き、驚愕といった顔をしていた。

「あぁ。酒場で見たときからどっかで見たことあるとは思ってたが、ここに来て確信したんだ」

「私もそれくらいならとっくに気付いてましたよ」

「なんで教えてくれなかったんだ!」

「気付かないお前が悪いな」

「ジガンの通りですね」

 ドギはその言葉に何故か落ち込んでいた。

「えっ!?リャクトってそんなすごい人だったの??」

「おい、ドギ。お前の負けみたいだし、ナウラもやられたみたいだから俺たちはさっさと退散しようぜ」

「…………」

 ドギからジガンへの返答はなかった。ジガンはそれを承諾と受け取ったのか、階段へ歩を進めようとした。が、一歩歩みでてからジガンは何かを思いだした。

「あっそうだ!タリィ、ナウラは頼んだぞ」

「あなたに指図されるのは気に入りませんが、ナウラは私が承りましょう」

 ドギ一家は静かに退散していった。

「ふぅ、さぁて俺も疲れたから帰るかな。今日はちょっと頑張り過ぎたし」

「そうだ。私はお主に付いていくことにしたぞ」

「はぁ?なんでだ?」

 レロイの突然の言葉に俺は少しだけ虚を突かれた。

「私はお主には勝負に負けただけではなく、命までも助けて頂いた。次は私がお主を助ける番だ」

「なんでそうなるんだ?」

「なんでもだ!もう決めたことだから変える気はない」

「頑固だな。ったく、勝手にしろ」

「はいはいはいはい!」

 サユハは体中が傷付いてるのにもかかわらず、元気良く手を挙げている。

「今度はお前か…なんだ?」

「あのさぁ…なんかさっきから話してるこの人は誰?」

「あぁ、こいつか?こいつは双頭獣だ」

「??」

 サユハは首を傾げ、顎に指を当てた。

「元々は人間らしくて、それに戻ったんだって」

 サユハは黙り込み、考えをまとめているようだ。

「………えぇーーーー!!!」

「煩いな。少し黙れ、サユハ」

「だってだってだってだってだって!!普通驚くじゃん!あんなおかしな生物の本来の姿がだよ?こんな普通の、しかもちょっとカッコイイなんて!」

「あっそ。俺は先に帰るぜ」

 俺は疲れていたのでサユハを無視し、帰路についた。

「私はレロイ・トールと申す。よろしく頼む」

「は、はい。私はサユハ・ノルンドーラです!あっ、リャクト!ちょっと待ってよー!置いてかないで!」

 俺たちは日が傾き始める頃に宿屋へと戻った。



 そして、次の日を迎えた。流石に俺の体も疲れたのか、起きたのは昼頃だった。

 一緒に寝たレロイがこの部屋にはおらず、俺は着替えを済ましてから宿屋の食堂へ向かった。レロイも起きるのが遅かったのか、食事の最中だ。俺もそれに習い、食事を始めた。

「確かにレロイがここにいるのはわかる。だけど、何でお前までいるんだよ!?サユハ!!」

 レロイの隣ではサユハも美味しいといった顔で食事を進めていた。

「なんでって言われても…私、決めたことがあるの。リャクトに懸かった賞金は私が貰うから!」

「勝手に言ってろ」

「だから、リャクトを倒すまで…倒せるまでリャクトに付いてくから!」

 サユハの表情には決意が満ち溢れていた。

「はぁ?お前、何言ってるんだ??俺を倒す気でいるくせに俺に付いてくるなんて都合が良すぎるだろ!」

「良いじゃない!レロイ君は良くてなんで私はダメなのさ!」

 サユハは片手でテーブルを叩き、椅子が後ろに倒れる程勢い良く立ち上がった。

「良いわけないだろ!」

 俺もサユハと同じような行動で立ち上がった。

「今は食事中だ。お主ら、少しは静かにできぬのか?喧嘩をするのなら外に出てくれ」

「ったく、お前が変なこと言うからだぞ?」

「別に変なことなんて言ってないもん…」

 俺はサユハのせいでゆっくりと食事する気にはなれなかった。

「さぁて、レロイ。少し出掛けるぜ」

「承知した。だが、どこへだ?」

 俺の返答よりも先に、サユハが手を挙げてきた。

「私も行くー!」

「お前はダメだ」

「なんで?私、リャクトが許してくれなくても勝手に付いてくことにしたから!」

「ちっ、勝手にしろ!」

 宿屋を出て換金所へと歩を進めた。換金所はこの前と同じ姿で俺を迎えてくれた。

「リャクトか。珍しいな、誰かとここへ来るのは…それでどうしたんだ?」

「元気にしてるか?バーヌさん。ちょっとこの前の仕事がダメになってな。新しい情報が欲しいんだ」

「なんだ、しくじったのか?」

 バーヌさんは不思議といった表情を浮かべている。

「いや、しくじった訳じゃないんだが…仕事の対象がなくなってな。それで?」

「情報だな…一応情報は入ってるぞ」

「どんな?それと幾らのだ?」

「これは値段を付けれるような情報じゃないぞ。賞金を懸けられているメワン・ミベリアという殺人鬼を知ってるか?こいつなんだが…」

 バーヌさんはメワンの賞金リストを取りだし、見せてきた。賞金リストにはメワンの顔と賞金額が載っている。

「名前だけは聞いたことがあるけど…そいつがどうかしたのか?」

「あぁ、そいつこの前も政府直属の特殊戦道部隊を五人も殺したんだ。そのせいでそいつの賞金がまた上がって、今や一億八千万Reなんだが、なんでもこのバシューメルタウンに逃げ込んだらしい」

「えっ嘘!?」

「サユハは知っておるのか?」

「だって『傷無しメワン』って言ったら有名だもん。メワンが殺した人間は全部外傷一つ付いてないんだって。だから傷無しメワンって呼ばれてるの」

 バーヌさんはサユハが知っていたことに意外といった表情を一瞬だけ垣間見せた。

「お嬢さん、良く知ってるな。普通の殺人鬼なら血を見たがるもんなんだろうが、あいつは少し違っててな。一切、外傷を付けない代わりに内臓なんかはぐちゃぐちゃにするんだ。だから、内出血が酷くて体全体が青白くなってるらしい。全く、殺人鬼というのは変な趣味をしてるもんだな」

「それで、リャクト。お主はどうするつもりでおるのだ?」

「そうだな…」

 俺が考え込んでいると、サユハが焦って俺を止めてきた。

「やめときなって!あいつは相当ヤバイらしいから!」

 俺はサユハの言葉を軽く聞き流し、レロイに視線を向けた。

「俺はあんまり興味ないんだが、レロイ。一応、その傷無しメワンとやらのことを調べといてくれないか?」

「承知した」

 レロイはすぐに換金所を後にした。俺はレロイの背中を見送り、バーヌさんに視線を移した。

「それでバーヌさん。他には?」

「後は…犬捜しとかしか入ってないな」

「そうか、ありがとよ」

 俺は面白そうな賞金がなかったので、換金所を後にしようとしたが、バーヌさんの声が俺を呼び戻した。

「おい!リャクト、ちょっと待て!」

「ん?どうしたんだ?」

「実はな、変な噂が流れてるんだ。なんでも傷無しメワンはお前を狙ってるらしいんだ。お前のことだから心配はいらんと思うが、せいぜい気をつけるんだな」

「あぁ、余計な心配ありがとな。バーヌさん」

 俺はサユハを連れて今度こそ換金所を後にした。

「さぁて、どうするかな?することもないし…」

「ねぇねぇ。大丈夫なの?」

 サユハは心配そうな表情で俺に尋ねる。

「何がだ?」

「傷無しメワンのことだよ!だって、リャクト狙われてるんでしょ?」

「それで?」

「もういい!人がせっかく心配してあげてるのに…」

 サユハは俺に背を向けた。

「お前、誰のこと心配してるのかわかって言ってるのか?」

 サユハは俺のそぶりに腹を立てたのか、俺を無視した。

「おい、そういえば今日は何日だ?」

 サユハは依然無視したままだ。

「いいから早く教えろ」

「うぅ…今日は五月二十日だけど、それがどうかしたの?」

「そうか。いや、なんでもない。サユハ、ちょっと用事を思い出したから先に戻ってろ」

 俺は決して軽くはない足取りで歩き出した。

「ちょっと!用事って何よ!?」

「ただのやぼ用だ」

 サユハに背中を向けたまま俺は手を軽く挙げた。

「何それ!?自分勝手なんだから…」



 俺が足を運んだのは街外れの墓場。ここへ来るのは五年振りだ。

 俺は一つの墓を目指し、歩を進めた。墓の前に立ち、ここへ来る途中に買った数本の花をしゃがんでその墓に添えた。

 墓には名前と日付が彫られている。その日付は年こそ違うが、日にちは今日を指していた。

「あれから、ちょうど今日で八年になるな。長かったような短かったような。お前にとっちゃ、そんな狭いところに押し込まれてるんだから、長かっただろうな」

 俺は少し黙り、この墓の主との想い出の記憶を巡らせた。

「ごめんな。俺のせいでこんなところに入ることになっちまって…あの時に俺がちゃんとしてれば、きっとあんなことにはならなかったよな。待っててくれ、まだまだそっちには行けそうにないけどよ。でも、あれから色々あったんだぜ?」

 誰もいないこの墓場の静けさの中で、風だけがただ流れるように吹いていた。それから、俺はこれまでの五年を聞く耳を持たない墓に淡々と話し続けた。

 そうして、気付けば日も暮れ出す頃まで話し続けていた。

「まぁ、土産話はこれくらいだな。俺さ、本当はここへ来る度にお前が死んじまったのを認めさせられてるようで、来るのが嫌だった。そのせいで五年もお前を一人ぼっちにさせちまってた…でも漸く心もなんとなくだけど、整理がついたんだ」

 俺は涙が溜まった目を擦り、立ち上がった。

「また土産話持ってくるな。今度はそう遠くない日にでも。それまで元気にしてろよ?じゃあ…な」


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