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風人  作者: 水芦 傑
第三話 交わる二つの頂上
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二階~三階

「誰もいませんね」

「そうだね」

 俺がゼイラと階段を上ると、中心でタリィとナウラが辺りを見回していた。

 二階は一階と大差ない造りが広がっていたが、一階とは違い、俺とゼイラ、それにタリィとナウラ以外にも誰かの気配がした。俺はタリィたちの元へ歩み寄った。

「どうした?」

「いえ。なんでもありません。ただ…」

「ただ?」

「一階とは空気が違うというか人の気配がしますね」

「あぁ」

「タリィ、別に普通じゃない?」

 ナウラはタリィの言葉の意味を理解できていなかった。俺は一階との違いを確かめる為にゆっくりと辺りを見回した。

 次の瞬間に俺は素早くホルスターから銃を抜き、俯いて後ろから付いてくるゼイラの真後ろに銃弾を放った。銃弾は壁へと向かっていくが、途中で何かに当たり、それを撃ち抜いた。

「ちょ…旦那!危ないじゃないですか」

「いってー!!なんてことするんだ!」

 突然、人の姿がない場所から声が発せられた。

「えっ!誰かいるの?」

 ナウラは声が発せられた場所を凝視するが、その場所には人と思える姿どころか何も見えなかった。

「さっさと出てこいよ」

「そうですよ。隠れたって無駄ですから」

「ばーか!誰が出てくか!見えないのにわざわざ姿を見せるわけないっしょ」

 俺はその人らしき何かが右に動いたのを察し、何かに向けて一発、銃弾を放った。銃弾は何も撃ち抜くことなく、壁を穿った。

「げっ!?本当にわかっちゃうわけ?」

「だから出てこいって言ったろ」

「そうだなぁ…ここはひとまず退却ってことで。それじゃ!」

 その誰かは階段に向かって走っているみたいだ。そうして、階段を上がって行く音が聞こえてきた。俺はホルスターに銃を閉まった。

「逃げてしまいましたね」

「誰かさんに似てるな」

「誰かって?」

 ナウラの問いに俺は横目でゼイラに視線を送ることで答えた。

「へぇー。この人、逃走癖があるとか?」

「そんなとこだ。それより、どっちにしても次の階に行けば、今の奴も仕留められるな」

「では、行きましょうか」

 俺たちは三階へ向かって歩を進めた。

 三階は今までの広場とは違い、入り組んだ迷路のようになっていた。

「わーい!迷路だ迷路だ!」

「ナウラ、遊びに来たわけではありませんよ」

「はーい」

 ナウラは少ししゅんとしていた。

「なるほどな。姿を消せるから迷路で気配を悟られないようにして死界から襲おうってはらか」

「そんな簡単なことに引っ掛かるわけがないでしょうに。まぁとにかく進みましょうか」

「僕が先頭に行くー!」

 ナウラは先陣を切って、陽気に歩きだした。それにタリィ、俺、ゼイラといった形で続いた。

「ゼイラ、ちゃんと付いてこいよ」

「わかってますよ。旦那」

 最初の曲がり角を進み、振り返ると、ゼイラの姿が付いて来ていなかった。

「おい!ゼイラ。早くしろ」

 ゼイラは俺の呼び掛けから少し遅れて姿を現した。

「すみません。さっ、早く行きましょう」

「あぁ」

 それから幾つかの曲がり角を進み、分かれ道に着いた。

「どうします?」

「お前らはそっちに行ってくれ。俺とこいつでこっちに行くからよ」

「わかりました」

「旦那、ちゃんと俺を守ってくださいよ」

 分かれ道を俺とゼイラで右に、タリィナウラで左に歩を進めた。少し歩き、俺は立ち止まり振り返った。

「ゼイラ。一ついいか?」

「なんです?旦那」

 俺はホルスターから右手で銃を取り出し、ゼイラの額に銃口を向けた。

「本物はどこだ?」

「何言ってるんですか、旦那。俺は本物ですよ」

「やっぱりか。誰もお前が偽者かどうかなんて話はしてないぜ」

「いや、それはだって旦那がいきなり銃を額に当てて来たからとっさに答えちゃっただけで…」

「じゃあその右腕の傷はどう説明するんだ?」

 ゼイラの服の右腕部分が少しだけ滲むように血で染まっている。

「これは…」

「お前は俺と会った時も怪我なんてしてなかった。その後も怪我をするようなことはなかったはずだ。それにゼイラは自分のことを俺とは言わないぜ。すり替わる早さは良かったが、成り済ますのはまだまだだな」

「旦那が信用してくれないなら俺を撃ってくださいよ」

「やっぱ、成り済ます技術がなってねぇな。あいつは危ない状況で真っ先に逃げるような奴だぜ?そんなことを言うはずがないだろ」

「…はぁ、ばれちゃったわけ。面白くないなぁ。でも、どこでわかったわけ?俺は成り済ますのは専門外なわけ」

「お前が遅れてきたときからおかしいとは思ってたが、さっきの分かれ道で確信した」

「なーんだ。最初っからばれてたわけ。本当、つまんないの。もうちょい付き合ってくれたっていいんじゃない?」

「お前の戯れ事になんて付き合う気はない。ゼイラはどこだ?」

「あの野郎なら入口で気絶してるっしょ。あいつ、俺の気配に全然気付かなかったでやんの。ふふっ…それじゃ、俺は退散させてもらうっていうわけで」

 バン!

 俺はゼイラもどきに向けて銃弾を放った。が、ゼイラもどきはそれを予測していたかのように首を傾げて、銃弾をかわした。

「それじゃ」

 ゼイラに成り済ました奴は徐々に体が透明になり、完全に姿を消した。

「ひとまず、ゼイラの所に行くか」

 俺は来た道を戻るため、歩を進めた。分かれ道まで戻ると、ちょうどタリィとナウラも引き返してきていた。

「こっちは行き止まりでした」

 タリィは少しだけ残念そうな表情をしていた。

「しょうがないじゃん。迷路に行き止まりは付き物だよ」

「それより、ゼイラさんが見当たりませんが…」

「あいつなら入口で寝てるらしい」

「らしい?何かあったんですか?」

「あぁ。入口でさっきの透明人間がゼイラと入れ代わりやがってよ。お前らも気をつけろよ」

「なるほど…姿を消すことができるだけでなく、姿を変えることもできるということですか。これは意外と厄介な相手かもしれませんね」

 タリィは顎に手を当てて納得しつつ、何かを考えていた。

「とりあえず、俺はあのバカを迎えに行く。お前らは先に行っててくれ」

「わかりました。気をつけてください」

「あぁ、そっちもな」

 俺はタリィたちと別れ、迷路の入口まで戻ってきた。階段を上がり終える所でゼイラは眠っていた。

 嫌な夢でも見てるのか、苦悶の表情を浮かべている。俺はゼイラに歩み寄り、しゃがみ込んだ。

「おい、起きろ」

 ゼイラの頬を数回叩いて見たが、起きる気配はなかった。

「おい、起きないとお前の脳天撃ち抜くぜ」

 俺はホルスターから銃を取り、銃口をゼイラのこめかみに当てた。銃口がこめかみに当たった瞬間にゼイラは飛び上がるようにして目覚めた。

「ひぃ!神様、仏様、幻想術師様!それだけはご勘弁を!」

「どんな夢見てんだ、お前」

「って、あれ?旦那じゃないですか。驚かさないでくださいよ。でも、何やってるんですか?」

「ちっ、いいから早く来い」

 俺は立ち上がって振り返り、迷路へ歩を進めた。

「ちょ…なんかあったんですか?旦那、ご機嫌斜めみたいですね」

 俺は歩を止め、顔だけを振り返えらせた。

「お前、本気で脳天撃ち抜いて欲しいのか?」

「もしかして、ご機嫌斜めなのはオイラのせい?」

「わかってんなら黙って付いてこい」

 再び歩きだし、ゼイラも俺を追うようにして付いてきた。



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