奪人、ゼイラ
「ったく、なんでこうなるんだよ」
「私たちに言っても問題の解決には繋がりませんよ」
「だな。それでどうする?」
「そりゃあ、行くしかないでしょ」
「お前ら二人とか?」
「えぇ、その方が得策だと思いますよ。利害関係は一致していますし」
「勝手にしろ」
「おいおい、もっと協力的に行こうぜ。あいつはいくらお前でも一人じゃきついんじゃないかい?」
「私もそう思いますね。彼はやはり強いでしょう。あなた一人では少し苦しいんじゃないですか?」
「一つ言っておくが、協力のはいいが、お前らと仲良くするつもりはないぜ」
辺りが闇に包まれた頃、連支塔の前で俺とジガン、タリィの三人は佇んでいた。
何故この状況になったかと言うと。
それは遡ること半日前。
トルテラシティを出発してから一時間。何もない荒野とも草原ともつかない場所を歩いてきて、漸く村らしきものが見えてきた。
「あれは…」
「村じゃない?」
俺たちはそのまま歩を進め、村に到着した。
「ねぇ、ひとまずご飯食べようよ。私、もうお腹ペコペコなんだけど」
「私もサユハの意見に賛成だな。まずはこの後どうするかも話しておいた方がよかろう」
「確かにそうだな。なら、酒場にでも行けば何か食えるだろ」
俺は村を見渡し、酒場に向けて歩きだした。
その酒場に入ると、客はまばらでその中に一人だけ酒場の雰囲気に馴染まず、明らかに浮いてる男が一人いた。浮いていても当然だ。
酒場にもかかわらず、酒は一滴も飲まずにひたすら食事に没頭しているからだ。当然のようにその男のテーブルには幾つも皿が積み重ねてある。俺はその男に見覚えがあった。
「なんであいつがいるんだよ」
「えっ?リャクトの知り合い?あの明らかに浮いてる人」
俺がサユハに返答するより前にその男が俺に気付いた。
「ばべ?ばぶぼのばんなばなびでぶが!」
「まず、口の中のものを何とかしろ」
その男は口の中のものを一気に飲み込んだ。
「……ぷはぁ!リャクトの旦那じゃないですか!久し振りですね!でも、何やってるんですか?こんな田舎で」
その瞬間に他の客、それにマスターの視線が一気にその男に集まった。田舎と言われたことが気にくわないのだろう。しかし、その男はそれに気付く様子すらない。
「その言葉、そのまま返すぜ」
「オイラですか?オイラはちょっと仕事で…」
「ちょっと。リャクト、私たちにも誰なのか教えてよ」
「ん?あぁ、こいつはゼイラって言って奪人だ。前に俺に付いてきてたんだ」
ゼイラは焦り、少し怒った表情を浮かべた。
「ちょ…あれは旦那が俺は使えるからって勝手に連れ回したんでしょうが!」
「ねぇリャクト。奪人って何?」
「奪人ってのはな、風人が手に入れた物を換金する前に横取りする奴らのことだ」
少しの間、サユハは思考を行った。
「……それって風人の敵じゃない!そんなずるい奴、なんで連れ回したのさ!」
「ずるくなんかないだろ。奪われる風人の方が悪いぜ。連れ回したのはさっきこいつが言った通り、使えるからだ」
「敵って…旦那、この子とそこのもう一人は誰なんですか?」
ゼイラは不思議といった顔をして、交互にサユハとレロイに視線を向けていた。
「こいつらか?こいつは色気のない風人歴半年のバカ女で、そっちはビックリ人間のレロイだ」
「ちょっと!確かに風人としてはまだまだかもしれないけど、バカじゃない!」
「うるせぇ。少し静かにしろ。他にも客がいるだろ」
「うぅ…」
俺はサユハからゼイラに視線を移した。
「で、なんの仕事なんだ?」
「連支塔の関係でちょっと…」
「連支塔か…懐かしいな」
「そうでしょ?旦那」
「何やら、勝手に盛り上がっておるようだが、その連支塔というのはなんなのだ?」
「まぁまぁ立ち話もなんですから旦那たちも座ってくださいよ」
「立ち話って…自分は座ってるじゃん」
俺たちは丸型のテーブルに用意されている椅子にそれぞれ腰を下ろした。俺はゼイラの左隣に、サユハはゼイラの向かいに、レロイはゼイラの右隣に。
「えぇとなんでしたっけ?」
「連支塔というもののことを教えてくれぬか?という話だ」
「あぁ、そうでした。連支塔というのはね、ファナミレの塔の通称です。この村の近くにある二つの塔でして、まぁなんというか支えあってるようになってるんです。実物を見た方がわかりやすいと思いますよ。旦那、ここで会ったのも何かの縁ですよ。一緒に来てくれませんか?」
「別にすることもないからいいが、付き合ってやるんだ。何をしに行くのかぐらい教えろ」
「それはまぁ後々ってことで…」
「それよりさぁ!早くなんか頼もうよ。もう私、お腹と背中がくっつきそうだよ」
「右に同じ」
「だったら勝手に頼めばいいだろ」
「言われなくても勝手にするわよ!すいませーん」
サユハは手を挙げ、店員を呼んだ。店のカウンターの中にいた店主らしき人物が、足早に俺たちのテーブルに歩いてきた。この酒場はマスター一人で営んでいるのだろう。
それから、サユハとレロイは酒場だというのにそれぞれ飯を注文した。注文された物はすぐにこのテーブルに運ばれてきた。それを二人が食し終えると、ゼイラは席を立った。
「それじゃ行きますとしますか」
「そうだな」
俺たちも立ち上がり、その雰囲気を察したマスターが歩み寄ってきた。
「全部で五万三千Reになります」
「嘘!?五万三千Reって…」
「…………それじゃ!」
ゼイラは俺たちに手を挙げ、一人で店から走り去ってしまった。
「もちろんどなたかが払っていただけるんでしょうな?」
マスターは少し不機嫌そうな表情を浮かべている。
「ったく、しゃーねぇな」
「払うというか?」
「あぁ、払わなきゃどうしようもないだろ」
俺は札を何枚か取り出し、マスターに手渡した。
「ありがとうございます」
マスターは札を受け取り、カウンターの中へ戻っていった。
「一つゼイラのことで言い忘れてたが、あいつの特技は逃げることで信条は逃げるが勝ちだ。通り名は逃亡のゼイラ。お前らもあいつといる時は気を付けろ。自分が不利になったらどんな状況でも逃げるからな」