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風人  作者: 水芦 傑
第三話 交わる二つの頂上
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奪人、ゼイラ


「ったく、なんでこうなるんだよ」

「私たちに言っても問題の解決には繋がりませんよ」

「だな。それでどうする?」

「そりゃあ、行くしかないでしょ」

「お前ら二人とか?」

「えぇ、その方が得策だと思いますよ。利害関係は一致していますし」

「勝手にしろ」

「おいおい、もっと協力的に行こうぜ。あいつはいくらお前でも一人じゃきついんじゃないかい?」

「私もそう思いますね。彼はやはり強いでしょう。あなた一人では少し苦しいんじゃないですか?」

「一つ言っておくが、協力のはいいが、お前らと仲良くするつもりはないぜ」

 辺りが闇に包まれた頃、連支塔の前で俺とジガン、タリィの三人は佇んでいた。

 何故この状況になったかと言うと。

 それは遡ること半日前。



 トルテラシティを出発してから一時間。何もない荒野とも草原ともつかない場所を歩いてきて、漸く村らしきものが見えてきた。

「あれは…」

「村じゃない?」

 俺たちはそのまま歩を進め、村に到着した。

「ねぇ、ひとまずご飯食べようよ。私、もうお腹ペコペコなんだけど」

「私もサユハの意見に賛成だな。まずはこの後どうするかも話しておいた方がよかろう」

「確かにそうだな。なら、酒場にでも行けば何か食えるだろ」

 俺は村を見渡し、酒場に向けて歩きだした。

 その酒場に入ると、客はまばらでその中に一人だけ酒場の雰囲気に馴染まず、明らかに浮いてる男が一人いた。浮いていても当然だ。

 酒場にもかかわらず、酒は一滴も飲まずにひたすら食事に没頭しているからだ。当然のようにその男のテーブルには幾つも皿が積み重ねてある。俺はその男に見覚えがあった。

「なんであいつがいるんだよ」

「えっ?リャクトの知り合い?あの明らかに浮いてる人」

 俺がサユハに返答するより前にその男が俺に気付いた。

「ばべ?ばぶぼのばんなばなびでぶが!」

「まず、口の中のものを何とかしろ」

 その男は口の中のものを一気に飲み込んだ。

「……ぷはぁ!リャクトの旦那じゃないですか!久し振りですね!でも、何やってるんですか?こんな田舎で」

 その瞬間に他の客、それにマスターの視線が一気にその男に集まった。田舎と言われたことが気にくわないのだろう。しかし、その男はそれに気付く様子すらない。

「その言葉、そのまま返すぜ」

「オイラですか?オイラはちょっと仕事で…」

「ちょっと。リャクト、私たちにも誰なのか教えてよ」

「ん?あぁ、こいつはゼイラって言って奪人(だつにん)だ。前に俺に付いてきてたんだ」

 ゼイラは焦り、少し怒った表情を浮かべた。

「ちょ…あれは旦那が俺は使えるからって勝手に連れ回したんでしょうが!」

「ねぇリャクト。奪人って何?」

「奪人ってのはな、風人が手に入れた物を換金する前に横取りする奴らのことだ」

 少しの間、サユハは思考を行った。

「……それって風人の敵じゃない!そんなずるい奴、なんで連れ回したのさ!」

「ずるくなんかないだろ。奪われる風人の方が悪いぜ。連れ回したのはさっきこいつが言った通り、使えるからだ」

「敵って…旦那、この子とそこのもう一人は誰なんですか?」

 ゼイラは不思議といった顔をして、交互にサユハとレロイに視線を向けていた。

「こいつらか?こいつは色気のない風人歴半年のバカ女で、そっちはビックリ人間のレロイだ」

「ちょっと!確かに風人としてはまだまだかもしれないけど、バカじゃない!」

「うるせぇ。少し静かにしろ。他にも客がいるだろ」

「うぅ…」

 俺はサユハからゼイラに視線を移した。

「で、なんの仕事なんだ?」

「連支塔の関係でちょっと…」

「連支塔か…懐かしいな」

「そうでしょ?旦那」

「何やら、勝手に盛り上がっておるようだが、その連支塔というのはなんなのだ?」

「まぁまぁ立ち話もなんですから旦那たちも座ってくださいよ」

「立ち話って…自分は座ってるじゃん」

 俺たちは丸型のテーブルに用意されている椅子にそれぞれ腰を下ろした。俺はゼイラの左隣に、サユハはゼイラの向かいに、レロイはゼイラの右隣に。

「えぇとなんでしたっけ?」

「連支塔というもののことを教えてくれぬか?という話だ」

「あぁ、そうでした。連支塔というのはね、ファナミレの塔の通称です。この村の近くにある二つの塔でして、まぁなんというか支えあってるようになってるんです。実物を見た方がわかりやすいと思いますよ。旦那、ここで会ったのも何かの縁ですよ。一緒に来てくれませんか?」

「別にすることもないからいいが、付き合ってやるんだ。何をしに行くのかぐらい教えろ」

「それはまぁ後々ってことで…」

「それよりさぁ!早くなんか頼もうよ。もう私、お腹と背中がくっつきそうだよ」

「右に同じ」

「だったら勝手に頼めばいいだろ」

「言われなくても勝手にするわよ!すいませーん」

 サユハは手を挙げ、店員を呼んだ。店のカウンターの中にいた店主らしき人物が、足早に俺たちのテーブルに歩いてきた。この酒場はマスター一人で営んでいるのだろう。

 それから、サユハとレロイは酒場だというのにそれぞれ飯を注文した。注文された物はすぐにこのテーブルに運ばれてきた。それを二人が食し終えると、ゼイラは席を立った。

「それじゃ行きますとしますか」

「そうだな」

 俺たちも立ち上がり、その雰囲気を察したマスターが歩み寄ってきた。

「全部で五万三千Reになります」

「嘘!?五万三千Reって…」

「…………それじゃ!」

 ゼイラは俺たちに手を挙げ、一人で店から走り去ってしまった。

「もちろんどなたかが払っていただけるんでしょうな?」

 マスターは少し不機嫌そうな表情を浮かべている。

「ったく、しゃーねぇな」

「払うというか?」

「あぁ、払わなきゃどうしようもないだろ」

 俺は札を何枚か取り出し、マスターに手渡した。

「ありがとうございます」

 マスターは札を受け取り、カウンターの中へ戻っていった。

「一つゼイラのことで言い忘れてたが、あいつの特技は逃げることで信条は逃げるが勝ちだ。通り名は逃亡のゼイラ。お前らもあいつといる時は気を付けろ。自分が不利になったらどんな状況でも逃げるからな」


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