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波動の龍者  作者: ケイマ
第3章
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フワンの覚醒

「鬼、ねぇ…鬼に取り憑かれても意識は持ってかれないのか?」


「その実力に見合ってなければ意識を持っていかれるよ。けど、見合っていれば共に意識を持っていられる。さらに力があれば鬼の意識を打ち消すこともできるよ。ゼロくん。君なら鬼を宿しても耐えられるんじゃないか?」


「果たしてな。宿したいとも思わないからどうも思わないな。」


「ふーん。じゃあはじめようか。容赦はしな………」


「ちょっと待て。お前まだ意識あるだろ?なぜそんなに戦おうとする?」


「…なんでだろうね。あえていうなら、やらないと狂ってしまうからかな。動物は結局本能を抑えることができない。そして鬼の本能とは、人を殺すことだろう。そうなると、人を殺したいに決まっているさ。」


「なら、なぜ今会話ができる?今すぐ俺を襲いたいんじゃないのか?」


「君には昔お世話になったからね。できるだけ君のためになりたいのさ。」


【色々矛盾しているが、仕方ないのか…だが、色々と新たな情報を手に入れられた。マサ2はもう助からない。いや、助けたいが、その方法はまだない。…これも新たな目標だな。鬼に取り憑かれた奴を助ける方法を探さないとな。】


零断はそこまで考えてから剣を構える。


「本当に、止めることはできないのか?」


するとマサ2は初めて苦悶のような顔をして絞り出すような声で零断に言う。


「…ああ。ごめん…な…ゼロ…殺……せ!!!!」


そして後方で大きな音が聞こえた。

それが合図になったのかマサ2は手に持っているクナイを投げてくる。


【殺せ、か。人間の頃の意識はギリギリ残ってるっちゃ残ってるのか。だが、長くは持たないんだろうな。殺すしか、ない、か。創也や紫苑も心配だしな。ごめん。マサ2。】


「“エレキ”“ムーブ”」


零断は投げられたクナイを雷魔法で反発させて跳ね返すとエレキテルムーブで一気に距離を詰める。


「『光よ!ここに閉ざせ!“光絶”』」


自分の投げたクナイを障壁を作って止めると、別のクナイを零断に投げる。

零断はそのクナイを避けようとする。しかし、そのクナイは零断の横を通り過ぎるのと同時に爆発した。


「っ、!?起爆剤か!薬師様様だなおい!」


零断は吹き飛ばされながらも空中で態勢を立て直して魔法を放つ。


「『真なる雷よ。その輝く光を裁きの力として落とせ“ライトニング”』」


「鬼よ!覚醒せよ!」


零断のライトニングとマサ2の詠唱らしきものは同時に終わった。

そしてライトニングがマサ2に舞い落ちる。

ライトニングはマサ2に直撃して土煙をあげる。

しかし、その土煙の中から雄叫びが聞こえる。


「グオラァァァオァ!!!!!」


「鬼化か。やはりしてくるだろうな!」


土煙から爪を長くしたマサ2らしき人が零断に向かって飛び出してくる。

らしき人、というが、それはマサ2が2本のツノを生やし、体格も変わってむきむきのゴツイ体へと変化しているからだ。

そして、マサ2の周りには粉のようなものが多く舞っていた。


「鬼化と同時に身体強化…いや、身体改造系の薬を使ったのか。」


突進してくるマサ2の爪をコンヴィクスでうまく弾きながらそう呟く。

マサ2のためによる乱撃を大して苦労もしない様子で受け流す零断。


「鬼化しても、結局は元があまり強くないから強くないんだよな。薬師は錬金術とかやってんだから魔法系の鬼なら強いと思うがな。まずまず魔法系の鬼がいるかどうかだけどな。『(イカズチ)よ。我が剣に宿れ。“雷剣”』」


零断は魔法剣を使用してマサ2を大きく吹き飛ばす。


「そろそろ決めさせてもらうな。『ギャラクシースキル“剣舞”』」


零断は舞うようにマサ2を斬りつける。


「グオオおおお!」


もはや人間とは思えない声を出しながら爪で対応しているマサ2。しかし、それも長くは続かなかった。

だんだんとかすり傷が多くなり動きも悪くなる。


「マサ2。GFOではありがとな。最後は龍の力を見せてやるよ。“ブースト”行くぞ!!!!」


「ギュドァァア!!!」


零断は雷、波動を使った全力の身体強化を行って今までとは格段の速さでマサ2に迫る。

それに対してマサ2はまた新たな薬を取り出して体にかける。するとマサ2の魔力が大きく上昇する。

しかし、零断はそんなことを無視して間合いに入る。


「じゃあな。“フルバースト”!!!!」


剣に今込められる最大の波動を込めて解き放つ。

マサ2はガードしようとしたが、零断の剣で爪は簡単に断ち切られ、胴体を真っ二つにされる。


切られた直後。マサ2は小さく口を動かした。


「 」


「……そういうのは、ずるいぞマサ2。」


零断は自分の胸をコンっと叩くと後ろを向いてフワンやユニのところは歩いて行った。


ーーーーーーーーーーー


フワンは必死に創也の拳を避けていた。

ライトニングを放ってから創也の動きが一変して動きが鋭くなったのだ。

その後も何度かライトニングジャベリンを放つが、放つたびに動きが良くなる。


【どうすれば…どうすればいいのですか?私には、わからない…っ、!?!?】


「む、“ムーブ”!」


考えているうちに創也の拳が接近する。フワンはまだ何度も連続で使えないムーブを使って緊急回避したが、逆の手がフワンに迫る。


「逃げ…ない!」


フワンは迫り来る創也の拳を最後まで見続ける。絶対に逃げはしないという心で。

そして拳はフワンの腹に直撃して大きく吹き飛ばされる。

飛ばされた先の木はへし折れ、フワンも力なく崩れる。

明らかに満身創痍。立ち上がれるかもわからない状態。なのにフワンの目はまだ光っていた。いや、強い光を放っていた。


【さっきの攻撃…見えた。しっかりと。態勢が良ければ、避けられる…まだ…まだ終わりたくない!」


いかれた笑顔を浮かべる創也がフワンに近づいて行く。フワンはそれをただ見ることしかできなかった。


「動いて…動いてよ私の体!!ご主人様のために、助けてくれた恩を返したいんです!まだ…まだっ!!」


創也は叫ぶフワンにためらいもなく拳を振りかざす。


そして…





「……ここ、は?」


フワンは突然変わった視界に這いつくばった状態で声を上げる。

周りを見渡しても何もない白い空間。そして、この空間をフワンは知っている。神職を決めるときに来た場所である。

ふと、声が聞こえる。


『気まぐれ。本当に気まぐれで適性があったあなたにあたしの一部を宿したのに、本当に覚醒させるとはね。それとも『波動』様が目覚めさせてくれたのかもしれないわね。まぁ、そんなことはおいといていいわ。フワン。あなた、力が欲しい?』


周りを見ていた視線を前に戻すと目の前に謎の人物の足が目に移った。しかし、その存在はおかしかった。


近くにあるはずなのにぼやけて見える。そして、人の足なのに、人ではない気がする。

しかし、そんなことはフワンにとってどうでもよかった。


「私は…欲しい、です!ご主人様のために!私、は!こんなところで、死にたくない!死ぬわけにはいかないんです!」


するとその人物はフワンの頭に手を置いてフワンに囁く。


『この力をあなたに渡すわ。この力を使いこなせれば、どんどんあたしのことを使えるようになるわ。あなたが強くなることを祈ってるわ。さぁ、我が力が宿りしフワン。目覚めなさい!』





そしてその声とともにその存在も消え、気づけば元の場所に戻っていた。

そして元の状況を思い出して目を上げてみると創也の拳は雷の壁で塞がれていた。

そして、自分が今魔法を使ったことに気づく。


「無意識のうちに、魔法が…?」


フワンは不思議に思いながらもこの場の対処をするためにライトニングジャベリンを思い浮かべる。

すると詠唱も何もしていないのに魔法が完成されていた。


「これが、あの人の力…?今は、いいかな。また後で考えます。」


フワンはこのことを考えるのをやめて意識を戦闘へ向ける。


【すごい…!考えるだけで雷魔法が使えます!】


フワンは全身に身体強化をしてからライトニングムーブを応用して大きく移動する。

それと同時に雷の壁も解除してライトニングジャベリンを放つ。

創也はそれにひるむこともなく、逆に勢いを増して襲いかかってくる。


【全身に魔力が行き渡ってることがわかります。そして細かな魔力の操作もできるようになりました。なら、ライトニングムーブを連発することもできるのでは?】


フワンは創也が正面から襲いかかってくるのを横に移動する。


「ここ!」


次の瞬間にはライトニングムーブを使って創也の真後ろへ。

後ろの肩近くを切り裂いてまた距離を取る。


「できた…できました!高速な連続発動!これなら!」


今の後ろへ回るのにライトニングを3回ほど使用している。しかも地面に触れるタイミングが今までと違って一歩一歩の差が短い。それを危なげなく成功させたことによってフワンの自信が大きく高まる。


「このまま、やりきります!」


フワンが創也の突破口を見つけた直後、フワンの耳に聞きなれた声が聞こえてくる。


「フワンちゃん!加勢に来たよ!」


「ユニさん!」


フワンは創也から大きく距離をとって聞こえた方向を向く。

そこには紫苑を連れたユニがいた。


「フワンちゃんよく聞いて。創也さんは今薬によって呪われてるみたいなの。だからその解除をやるから時間を稼いで!」


「わかりました!」


フワンのやることは変わらず避けて攻撃を入れる。それだけである。そう思って創也の方向を向く。

その目の前に創也はいた。


「ゴァァァァアアア!」


「きゃっ!」


創也はフワンを押し倒して上に乗っている。拳を振り上げて顔を殴るつもりなのだろう。

フワンは不意をつかれたせいで反応も体制も悪く拳を見ることしかできない。


「「フワンちゃん!」」


ユニたちの声が聞こえる。

そして創也の拳がフワンに触れる直前、


「っと。危ない危ない。フワン。油断大敵だぞ。」


「ご主人、様!」


零断が創也を大きく突き飛ばした。

創也はすぐに態勢を立て直して零断に襲いかかる。

そんな創也の方を見向きもせずにフワンと話す。


「おう。フワンのご主人様だ。それにしてもフワン、少し変わったか?」


「え、あ、はい。たぶん。」


すると零断は見もせずに創也を剣で防ぎながら笑顔で答える。


「そうか。じゃあ、終わったら聞かせてくれ。ユニ、そろそろか?」


「うん!行くよ!『“ディスペル”』!」


詠唱を先にしていたユニがディスペルを唱える。

すると創也から多くの魔力が解放される。

その魔力を放出し終わると糸が切れたかのように崩れ落ちる創也。それを零断が支える。


「脈あり、呼吸もしっかりしている。身体や魔力を一気に使いすぎたから反動で意識を失っているだけだろうな。多分すぐ目を冷ますさ。」


「よかった…本当に良かった…!ありがとう!零断さん、ユニちゃん、フワンちゃん!」


「気にすんな。困った時はお互い様だ。」


「そうだよ!気にしないで紫苑ちゃん!…零断さん。マサ2さんは?」


ユニは紫苑の言葉に対応してから、深刻な顔をして零断に質問する。


「鬼にやられて、もう手遅れだった。」


「そっか…大丈夫?」


「…ああ。割り切ってる。心配するな。」


「…うん。」


零断は空を見上げながら締め付けられる胸に手を置いてマサ2の言葉を思い出す。


【しっかりと、託された。安らかに眠れ。マサ2。】


零断は新たな決意をする。

その決意の目をした零断を見て、ユニたちはどのようなやり取りがあったかはわからないが、マサ2の意思を零断が継いだことはわかった。

そして、その意思はとても重く大事なことだということも。

零断は少しの間そのままでいた。その後、零断はユニの方を向いて話しかける。


「にしても、帝国きてからずっと気になってた『謎の病気』がやっとひと段落だな。あとは創也が暮らしていた場所を散策して、ギルドに報告して終わりだな。」


「うーん!長かったぁ!」


零断とユニはこの長い課題が終わったことでうーんと伸びをする。

気を失った創也を背中におんぶしながらふと気づいたかのようにフワンに質問をする。


「そういえばフワン。何があったんだ?明らかに雰囲気が変わった気がするけど。」


その質問にフワンは()()()()()()()()答える。


「そうですか?あまり自覚はないです。けど、それが良い方向へだったら嬉しいです!」


その受け答えを見た全員が目を丸くしてフワンの方を見る。


「フワンちゃんが表情を変えた…?零断さん、紫苑ちゃん。みた?」


「う、うん。信じられない…」


「ああ。見たぞ。創也との戦いで色々あったみたいだな。安心しろフワン。それは良い変化だ。やっと人間っぽくなって来たな。」


「はい!ありがとうございます!」


フワンは笑顔で零断に答える。


「いい笑顔だ。」


零断は肩より少し大きいくらいのフワンの頭を撫でながら答える。


「創也との戦いでどんなことがあったか。色々聞かせてくれるか?」


「はい!」


フワンは笑顔でそう答えるのであった。


ちなみに登場していない風雅君はしっかりと馬車とクラウドを守るためにその場に残っています。たとえ支持されていなくても自分の仕事を静かに全うする。これぞプロである。

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