フワンの剣
「ほう?」
零断はその意図を掴むためにフロヌィチを観察する。
しかし、彼は全くポーカーフェイスを崩さない。
【やっぱり、こいつ相当強い。さすが3つのギルドを束ねるギルドマスターだ。】
零断は改めてフロヌィチを評価する。見た目も雰囲気も全く強者には見えないが、本気を出せばどこまで強いかわからない。底の見えない男だ。
「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。ただ君たちの実力がどのくらいなのかをわかりたいだけだよ。」
【この誘いに乗ることで俺とユニは早く名を広められるし、この世界の上位層の強さも理解できる。その代わりにギルマスに観察されるってわけか。】
零断は深く考えた後、こう言う結論に達する。
「ここで拒否っても結果的にどこかであんたに見られるのは確実だろうな。なら、この誘いを受けるべきだと判断した。けど、一つお願いがあるが、良いか?」
「聞きましょう。」
「まずは、これを見てくれ。」
零断は王国の冒険者カードをフロヌィチに投げる。
パシッ!っと良い音を立ててフロヌィチは指で挟んでキャッチする。
「…あなたは転移者だったのですか。しかも、王国の冒険者カード…それに零断という名前…」
何かを考えるように目を瞑り、少しすると目を開いた。
「最近の情報と合致しましたね。最近…といっても数ヶ月前だけどね。王国の冒険者ギルドにいるやつが王国の暗殺者が出たという情報をもらった。それだけならあまり問題ないのだが、ターゲットがまさかの転移者というね。そして、その転移者の名前は零断。君と一致するわけだ。つまり、君は王国から帝国に山を渡ってきたというわけか。」
「そういうことだ。けど、多分誤解してることがあるぞ。俺の神職は雷魔法をうまく使えるようになるのではないからな。」
「っ、…つまり、貴方は他にも力を持ってると?」
「ああ。雷魔法はただ適性があっただけ。俺が本気を出すなら他の魔法も使う。」
フロヌィチは驚愕する。あそこまですごい魔法は転移者が必ず持つ個人職のおかげだと思っていたのだ。しかし、そうでないとするならば
【彼は比べ物にならないほど強いのかもしれませんね。】
フロヌィチはこう考え、零断と敵対するのを避けるために行動する。
「それで、お願いとはなんでしょうか?」
「俺はこれから『謎の病気』について調べるつもりだ。その理由は謎の病気が転移者と関わってる可能系が高いと呼んだからだ。俺は転移者を集めて話を聞きたい。だから、めんどくさいことをなくすために『フレン』という名前にしていたが、冒険者としての名前を『零断』に戻してくれないか?」
「そのくらいなら簡単だ。しかし、タイミングはどうする?」
「謎の病気の問題を解決した後だ。それまではこの町周辺にいるから何かあったらギルドの受付の人にでもいっといてくれ。結構ギルドには来るつもりだからな。」
「了解した。ギルドマスターとの対決の日程はこちらで決めても良いかな?」
「ああ。けど、なるべく早く謎の病気を調べたいから早めにしてくれ。」
「了解した。突然話し込んでしまって申し訳ない。日程に関しては明日中には決めておくから明日、冒険者ギルドに来てくれ。」
「わかった。それじゃあな。」
零断はユニ達を連れて闘技場を出て行く。
零断達が見えなくなった後、フロヌィチは楽しそうにつぶやく。
「ふふ。面白い新人が来ましたね。これからが楽しみになって来ました。」
そうつぶやくとフロヌィチは冒険者ギルドの方に歩み去っていった。
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「さてと、とりあえず、フワンはどんな武器を使いたい?」
零断とユニと一緒に戦うとなっても、とりあえず武器が必要だ。
「ご主人様は何を使えば良いと思いますか?」
「んなこと知るか。自分に合う武器がわかるのは自分だけだ。」
「確かにそうですね。わかりました。」
「一通り使ってみようよ。それで一番しっくりくる武器にするのが一番だよ。」
「わかりました。ありがとうございます。ユニ様。」
フワンに礼儀正しく礼をされるとユニはむず痒そうにいう。
「ユニ様なんて呼ばれる日が来ると思ってなかったよ…」
「元奴隷だしな。」
「そうだよ!フワンちゃん!私も元奴隷だし、敬語とかじゃなくて良いんだよ?」
「いえ、私を助けてくれた方と馴れ馴れしくすることはできません。」
「むぅ…デスマス調は私もだったからしょうがないとして、せめて呼び捨ては…」
「いや、それはユニが今でも解決できてないことだろ?」
「私は慣れちゃったんだもん…零断さんは零断さんだよ!」
「まぁフワン。実際ユニより年上だし、様はやめとけ。どこかの貴族かと思われる。」
「なら、なんとお呼びすれば良いですか?」
「うーん…ユニさん?」
「そうか。ユニさんと呼ばれたいのか。わかったよユニさん。ごめんなユニさん。今までで気づいてやれなくてユニさん。とりあえずユニさん。」
「うぅ〜フワンちゃん!零断さんがいじめてくるよ!」
「その原因はユニさんにありますから。」
「うぅ…フワンちゃんもひどい…そしてさりげなくユニさんになってるから嬉しいといえば嬉しい…」
「んじゃ、とりあえずいろんな武器を使ってみようか。」
零断はアイテムボックスから様々な武器を取り出す。
槍、片手斧、両手斧、短剣、直剣、曲刀、両手剣、棍…
「な、なんでそんなに武器が入ってるの?」
「前に盗賊潰したじゃん?あのときにとって来た。それと、スカルプに襲われたときさりげなーく相手の武器を全部取っておいたから。」
零断とユニは一度他の冒険者と合同で盗賊退治に行っている。その時に活躍したから『雷白の狼牙』の名前が広がったと言っても過言ではない。
全員がA-級のパーティを中心に零断のパーティ含めて3パーティで討伐に行ったのだが、A-級のパーティが盗賊の奇襲によって戦闘不能になって討伐失敗どころか有力な冒険者を失うところだったのだが、零断とユニが2人で盗賊達をフルボッコにしたことで事なきを得た出来事である。
「あ〜あの弱い盗賊達ね。アジト行ってもあまり良いのがなくて、とりあえず潰したっていう報告をしたやつか…っていうか、スカルプのやつって王国の暗殺者の先鋭の人たちだよね!その武器ってすごく良い武器なんじゃ…」
ユニ的にはあのA-級の冒険者達を奇襲でも良いから倒した盗賊達は弱いらしい。
また、もちろんスカルプ達の武器はとても良い物だったりする。
しかし、零断にはどれが良いのかなどは分からない…というか、零断にはコンヴィクスがあるのであまり興味がないので適当に売りさばこうと思っていたのだ。
ダンディにあったことは忘れていたのだ。
「ああ。まぁ暗殺者だし短剣とか片手剣とか、シンプルなものしかなかったよ。短剣5本と直剣5本。そのほかはどっか行っちゃった。」
「なんでそんな大事なことを言わないのかなぁ…」
「まぁまぁ。それでフワンはどれを最初に使いたい?っていうか、もう決めているみたいだね。」
零断の言う通り、零断とユニが話していた間にフワンが1つの武器を手にとっていた。
「その短剣は記憶にあるぞ。短剣の域を出ないくせに異様にリーチが長い不思議な短剣だ。けど、実用性は高いと思うぞ。」
零断は記憶にあったその剣のことを喋る。
「ご主人様。これでいいですか?」
フワンは持っただけでしっくりと来たようでそれでいいかを確認をとる。
「フワンの好きなのにしな。本当に合ってないなら俺が口出すから。」
普通、こう言うときに感情の変化が見られるはずなのにフワンは感情を全く揺れずに返事を返す。
「なら、これにします。」
「やっぱりフワンちゃんって不思議だな…なんでご飯の時だけ感情を出したんだろ…?」
「さぁな?」
やはり零断とユニは疑問に思う。フワンは無表情で次どうすればいいかの指示を待つ。
「んじゃ、とりあえず飯にするか。」
今いるのは森の中だがアイテムボックスを持ってるのですぐに調理の支度から、テーブルなども準備できる。
これぞ山脈の中で開発したすぐに料理ができて、食べられるセットなのだ!
「わかりました!!!!今すぐ準備します!」
フワンが目を輝かせて準備を始める。
零断はユニに近寄って相談する。
「ご飯中ならフワンの感情を引き出せるかもしれない。それに、ご飯だけなら感情を出せるなんておかしいと思わないか?何か裏がある。それも聞き出したい。」
「わかりました。じゃあその方針で。」
零断とユニは軽く打ち合わせをしてから料理を作り始める。
「……フワンはなんでずっと俺が焼いてるところを見てるんだ?」
「いつもご主人様とユニさんに料理させてはいけないと思うので見て学んでるのです。」
「それならまずはユニを見たほうがいいぞ。汎用性が高いからな。」
「ユニさんにも言われました。1つに特化したほうが役に立つと。」
【何言ってんだよ…】
零断はユニに視線を向ける。対してユニは親指を立ててニッコリ!
零断ははぁ…とため息をついてからフワンと話しながら料理をする。
「フワンはご飯が好きなんだな。」
「はい。人間の幸せは食べる寝る甘えるです!」
「…人間の三大欲は食欲、睡眠欲、性欲だけどな。まぁあってるか。そんなのどこで教えてもらったんだ?」
「母から教えてもらいました。私が一人ぼっちな時に時々母が来て話してくれてたんです。」
零断はやはりと思う。フワンの感情を引き出すにはご飯に関することからでしかないと。
「優しいお母さんだったんだな。」
「はい。母は原因もわからない謎の病気にかかっていたのにもかかわらずご飯を作って来てくれたり、話してくれたり色々してくれました。村で立場がなくなったとしても、です。」
フワンは零断の焼いてる肉の香りに花をクンクンさせながら話す。
「お母さんの料理はすごく美味しいんです。それにいっぱい作ってくれるので昔からすごく食べちゃって…電気のせいであまり食べれてなかったはずなのにもういっぱい食べれるようになってますし。」
「まぁそれは胃袋もずっと活動状態だったからな。ほとんどはいってきてないとはいえ、常に活動を続けてたらそんなもんさ。」
「そうなんですね。やっぱりご飯を食べるのは好きです。牢屋の美味しくないご飯でも食べるのは好きでした。」
零断は料理から目をそらしてフワンを見ると、フワンは顔をうつむかせていた。
「だからかわからないですけど、ご飯の時だけは昔に戻れる気がするんです。」
フワンはそこまでいうと、また顔を上げて肉を見る。そのタイミングに合わせて零断も料理に意識を戻す。
「フワンは昔は明るい子だったのか?」
「はい。村でいつもはしゃいでました。」
それには表情には出さずとも零断は驚く。
【ご飯を食べてる時のテンション的にあり得るとは思ってたが、まさか本当に明るい子だったとはな。】
「そうなのか。フワン、昔みたいにはしゃいでもいいんだぞ?」
「いえ…わからないんです。自分がなぜあんなに感情を出せたのかが。…今、ご主人様やユニさんに感情が全然出ないと思われてるのは自覚しています。しかし、それを直そうとしても、どうすればいいのかがわからないのです。」
「そんなのは単純でいいんだ。今はご飯が美味しくて、楽しみだから『楽しみ』という感情を出せる。ほかにも例えばさっきの剣を選ぶときとか、試験の時、俺やユニが相手を倒した時とか、極端に言えば、ユニが拗ねてる時に『可愛い』って思ったっていいんだよ。」
その言葉にユニがピクッとしたが、零断は無視する。
「だんだん感情を出せるようにしていけばいいさ。俺もユニもいくらでも待つからさ。」
「…ありがとうございます。」
「さて、肉はできたけど、ご飯は…ってユニ?」
さっきまで調理台で最後のサラダを作るために野菜を切ってたはずなのに今はうずくまっている。
「うわぁ…零断さんに不意打ちくらったぁ〜!フワンちゃんと話してる内容を聞こうと思って耳の身体強化してたらまさかあんなこと言うなんて…は、恥ずかしい…」
零断の拗ねてるところが可愛いという言葉がクリーンヒットしたようだ。
零断はフワンに言う。
「な?反応が可愛いだろ?すごく頭を撫でたくならない?」
「…ユニさんには申し訳ないですが、なります。」
「うう…」
零断は唸っているユニをたたせて抱きしめながら頭をなでなでする。
「ほら。元気出せって。今までいってなかっただけで本心を言っただけだから。」
「…キスしてくれたら許して上げます。」
ユニは拗ねたようにプンッ!と頬を膨らませながらそっぽを向く。
零断に体重をかけて、頬を染めてるので拗ねてる感じは全くしないのだが。
「しょうがないな。」
「んむっ!」
零断はユニの顔に手を添えて顔を近づける。
ユニはユニでどうせされないと思っていたようでされた瞬間に顔が耳まで真っ赤に染まる。
「ほら。これでいいだろ?」
ユニの耳元でそう囁く。
ユニはピクッと震えてから体を零断と正面に向けて口を零断の耳元に持っていって
「夜、ちゃんとキスさせてください。」
と囁く。
すると珍しく零断も少し反応を起こす。
「まぁ、キスだけならな。」
少しそっぽを向きながら答える。
【れ、れ、零断さんがデレた!夜が勝負だ!ウワラズッレからというか、帝国に来てからまだほとんどデレてない零断さんを今デレさせたのなら、そろそろ色々溜まってるはず!今日やるよ!】
ユニは覚悟を決めて今日はずっと零断に甘えることにした。
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その日の夜
「零断さん。フワンちゃんは寝たようですよ。」
「そうだな。」
私はフワンちゃんの様子を剣の手入れをしていた零断さんに伝える。
今日はご飯を食べた後は町の周りにいる魔物を少しだけ倒した。
といってもあまり量はいないし、弱い魔物ばっかりなのでフワンちゃんでも簡単に倒せた。
その後は町に戻って宿でご飯を食べてからお風呂に入って今に至る。
お風呂は零断さんが入ってる時にフワンちゃんと2人で突入した。
フワンちゃん的にはご主人の面倒を見るためらしい。私はもちろん甘えるため。
零断さんは呆れたような表情をしていたが、タオルを巻けばOKと言ってくれた。
まぁ、もともとタオルは巻いてたからあまり関係ないんだけどね。
ちなみにお風呂は宿にあるでかい温泉。ここは私が宿の人に言って貸切にしてもらった。零断さん以外に見られるのなんて嫌だもん!
そのあとはフワンちゃんに武器の手入れを教えたり、風ちゃんと遊んだして時間を過ごした。
フワンちゃんはやっぱり体が疲れたらしく、今寝たのである。
私と零断さんは山脈を越えて来たことで体力とかには全く問題ない。3日くらいは寝なくてもかろうじて起きてられると思う。
私は零断さんの隣に座る。すると、零断さんが私を抱きしめて来る。あ、違う。そのままベッドに押し倒して来た。
……
ってええ!!い、今私零断さんに押し倒されてる!?!?
零断さんの片手は私の後ろに回されて、もう一方の手は顔に添えられてる。
つまり、顔が超近い。もう、零断さんしか見えないくらいに。
「ユニ。」
「ん、んちゅ、んん!れだ、んむ!ちゅ…あ…」
零断さんからキスしてもらってる!
無意識に零断さんの首の後ろに手を回していた。
「はぁ…はぁ…零断、さん?」
長いような短いようなキスが終わると、零断さんは私の胸に手を置いて来る。
私の頭はもうパニックになってるよ!!!
頑張って零断さんをそのまま襲おうと思ってたのに、零断さんから来たよ!
「ユニ。」
「ひ、ひゃい!」
れ、零断さんによばれたぁ!へ、変な声が出たよぉ〜
「フェンゲルについて、旅が一息ついたからかな?よくわからないんだけど、我慢が辛くなってるんだ。」
我慢?なんの我慢だろ?って、そうだよね。零断さん、まだ子供だもん。まぁ私もだけどね…
旅中に零断さんが抜け出したりしたのを見たことがない。だから、まったく処理してなかったんだろう。
私は少ししてたけど…
「ユニは時々隣でもぞもぞしてたのは知ってたけどね。」
「こういう時にそういうの言わなくていいよぉ〜」
私の気持ちを読み取らないでよぉ…
「ユニをキスした時から正直我慢の限界なんだ。だから、良いか?」
「そんなの言わなくてもわかってるよね?零断さんからなら、いつでも歓迎だよ。」
頭の中はもう何も考えられないのになぜか零断さんには自分の本心を伝えられる。なんでだろうな…この気持ちを言葉にしたい。
「零断さん。大好きです。愛してます。遠慮せずにいくらでもどうぞ。」
「ああ。今までユニの気持ちを考えないでごめんな。」
「あ、んっ!遠慮せずに!あ!はぁ、どうぞ!」
私は零断さんに身を任せた。