奴隷は人間ではない
「それで…なぜ奴隷商に来ているのですか?」
ユニは呆れながら零断に質問する。
「そりゃ謎の病気って言うんだからあまり衛生環境とかがしっかりとしていない奴隷がかかってる確率が高いだろ?」
しかしユニは分かっている。そんな理由だけで零断がはしゃぐわけがないと。
「本音はなんですか?」
すると素直に返事が来る。
「せっかく異世界きたんだから金髪もふもふ狐人族と触れ合いたいだろ!」
「…少し見損ないました。」
「まぁ、奴隷を買うと言っても、犯罪奴隷とかは買わないからな?もふもふに関しても嫌がるならしないし、いずれ解放させるつもりだし。」
「え、それじゃあ零断さんの欲望を叶えられませんよ?」
「前提を忘れてるぞ。俺らは『謎の病気』について調べているんだ。」
「けど、病にかかった奴隷を奴隷商側はうるでしょうか?」
「悪徳ならうるだろう。売っちまえばこっちのもんだからな。だからこそ、けっこう悪名高いこの奴隷商にいるんだ。」
そう言って零断は中に入っていく。ユニは半分あきらめモードでついていく。
最近。ユニがただのツッコミ役化しているのは気のせいだろう。
「いらっしゃいませー!ん?お坊ちゃん。こんなところに何しにきたのかな?」
明らかにうんくさそうな男性が話し掛けてくる。まさに子供を見るような目で。
「奴隷を買いに来た。」
零断はぶっきらぼうに答える。しかし、この返しは奴隷商の人間にとっては面白くないようだ。
「子供が来るところではないよ。」
「は、糞みたいな場所だな。」
零断があえて毒を吐く。
しかし、相手は本当に子供相手をしているつもりなので表情を崩さない。
「子供にはわからないことだよ。私は子供とは商売しないのだよ。」
「ヘェ〜そーなんだー。んで、話に戻るが
…」
「…なんなんだい君は。私は子供とは取引しないと言ったんだよ?」
奴隷賞の男は少しキレ気味に言う。
しかし零断はそんなことを全く無視して話を続ける。
「要望は金髪の狐人族。年齢は20くらいまでの少女で。体調とかは気にしなくていい。」
「…そろそろ話を聞こうね。私も耐えられなくなるよ。」
だんだんひたいに青筋が出てくる奴隷商の男。だが、零断は無視する。
「あー当然女だからな?胸はどうでもいい。」
「…おい。貴様。この場で殺され…「ドンッ」なっ、!」
奴隷商の男が本気でキレそうになるタイミングで零断は大量のお金が入った袋を近くにあったテーブルに置く。
その思い音と、上から見える金貨の量に奴隷賞の男は顔をひきつらせる。
「き、貴族の方でしたか?」
「いや、冒険者だ。訳あって超大量のお金をもらったからな。奴隷を買いに来た。」
奴隷商の男が驚くのも無理はない。
なぜならこの金はダンディが零断へ渡した金の一部なのだから。
ダンディは元々商人だ。そして、その商人としての力はこちらの世界に来ても通用している。つまり、ダンディはわずか1年もないうちに超金持ちとなっているのだ。
そうなれた大きな理由はGFOで様々な物作りをしていたおかげで作るものがハイスペックなのだ。
零断もこの世界に来た時少しだけだがステータスが反映されていた。その反映が物作りのスキルだったのだ。
よって自分でハイスペックな道具を作って効率よく売る。金儲けには完璧な手段である。
「い、今までの無礼、申し訳ございません。先ほどの要望通りの者を連れてまいります。」
そう言って奴隷商の男は奥に入って行った。奴隷がいる場所は地下なのだろう。
「零断さんの若さでここまでお金を持ってる人なんていないから当然かな。」
「まぁな。はたして、俺が求めている人は来るのかね。」
「どうだろうね〜」
零断とユニが呑気な話をしていると、20人くらいが近づいてくる。
零断の索敵は近距離精密状態なので少し遠くなると範囲から外れるのだ。
「要望通りの奴隷はこのくらいです。あと1人いますが、ある事情がありまして少し遅れてきます。」
奥から声が聞こえて来る。他の人が急かしているのだろう。
「…その子に出だしをするな。買う。」
「え?」
「零断さん?」
奴隷商の男もユニも驚く。
しかし、零断は少し焦った様子を見せながら立ち上がる。
「だから今歩いてきている子を買うと言ったんだ。値段は?」
「…もっといいのがありますよ?それとも体の弱いや…」
「早くしろ。値段は?」
「…3万コパだ。」
「なら6万払う。」
零断は1万コパの金貨を6枚机に出して少女が歩いてきている方向に向かう。
そこでようやくユニも気づいたようで零断と一緒に動き出す。
奴隷商の少し奥を行くと、ゆっくり歩いてきている少女とそれを急かしている男がいた。
「おいっ!早く歩け!」
「……」
「早く歩けっ!このっ、!?!?」
少女を殴り飛ばそうと腕を振り上げた時点でユニがその手を受け止めていた。
「その少女は買った。連れて行く。ユニ。あと任せた。証は腕輪で頼む。」
零断はぶっきらぼうにそういうと、少女を背負って奴隷商を出て行く。
ユニは先ほど出て行った奴隷商の男がいる部屋に戻って奴隷と証明する腕輪をもらいに行く。
ちなみに、奴隷の証は主人の魔力をつなげることができるため、主人は相手の居場所などがわかり、痛みを与えることができる。また、奴隷の自由度を決めることができる。一番強ければ自由な言動ができなくなるほどであり、一番低ければ本当に何もない。どのようにするかは主人次第だ。
「名前だけ教えてくれ。」
「………フワン…」
背負われた少女は口をわずかに動かして名前をいう。
「フワン。命令だ。何も喋らず何も動かず一番楽な姿勢になれ。」
少女はそれを言われた瞬間、体から全ての力が抜けたかのようになる。
零断は背中にいる少女になるべく衝撃を与えないようにゆっくりと歩く。
ある程度歩き、もうすぐ宿舎というところでユニが零断に追いつく。
「言われた通りに腕輪をもらって来たよ。あと、本当に奴隷と契約したかを確認するために明日もう一度店に行くってことになった。」
「了解。それでいい。」
「それで…その子はどういう状況に追われてるんですか?体に魔力?いや、電位を帯びている?」
「よくわかったな。今この子は体全身に過剰な電気を帯びているんだ。いつも俺が身体強化の時に体に電気を帯びさせているだろ?」
「うん。」
「けど、その電気をの量が多くなると、体が悲鳴をあげるかのように痛くなるんだ。筋肉に電気を流しすぎてるからね。それで、今のフワンの状態は頭から足まで全身にいつも俺が纏っている電気の量の10倍以上を纏っているんだ。」
「え.それって…」
「ああ。歩くどころか息するのも苦しいだろうな。だから一応少しずつだけど今電気を俺が吸収してる。宿に帰ったら本格的に電気を吸収するからもう少しだ。」
「そうなんだ…えっと、フワンちゃん?だよね?」
「ああ。」
「先に戻って色々準備しておくよ。あとはよろしくね。」
「おう。」
零断は今までのペースで歩き、ユニは小走りで宿に向かった。といっても宿は近いのであまり時間差はない。
ユニが少し早く宿に着く理由はフワンの手続きのためだ。今のままなら2人部屋なので3人部屋にするのだ。
「あら?おかえりなさい。」
宿の女将が宿に入ったユニに話しかけてくる。
「はい。ちょっとある少女と一緒に住むことになったので3人部屋に変えてくれますか?」
「あいよ。少し値段が高くなるけどいい?」
「大丈夫ですよ。あと、1人分の朝と夜の食費代も追加します。」
「了解。あとでフレン君に払って貰えばいいのね?」
「そうですね。といってもすぐに来ます。」
その後すぐに零断は到着する。
「…フレン君、お題はあとでいいからその子を…」
「大丈夫ですよ。すぐに治しますから。」
女将は零断に背負われている少女を見て絶句する。何も食べてないかのように痩せ干せていて、今も力が全く入っていない。そんな子がいきなり来たら心配になるだろう。
「では、あとでお金は払いますね。ユニ、行くぞ。」
「はい。女将さんまたあとで!」
「ええ!その子をよろしくね!」
【いい女将だよな。冒険者ギルドのオススメは良いと言うことだな。】
零断はそう思いながら自分の部屋へ向かう。
零断は部屋に入るとユニに指示する。
「とりあえず周りに結界を張ってくれ。音とか物体とか全てを通さないようにするやつで頼む。」
「わかりました。」
ユニはクラウド直伝の結界を張る。クラウドは結界魔法のエキスパートだ。そのクラウドに毎日結界魔法を教えてもらっているのでユニの熟練度も相当高くなっている。
もともと結界魔法とは相性が良かったらしく。すぐに使えるようになった。
「さてと。やりますか。とりあえず頭からだな。」
そう言って零断は頭を撫でる。
フワンの頭と零断の手の間ではパチパチと電気が発生している。
「まぁ、とりあえず何をするのにも痛みを感じてしまう原因を取り除いた。ついでに顔全体もある程度取り除いたからな。もうちょい本格的にやるなら時間かかるけど、聞く、話す、見るくらいなら問題ないだろう。フワン。聞こえるか?」
零断はユニにある程度説明してからフワンの頭を撫でながら話しかける。
すると、フワンはふるふると瞳を震わせながら少しずつ瞳を開けた。
「…」
フワンは驚くような表情を一瞬浮かべるがすぐに元の表情に戻って零断の表情を伺う。
「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
零断はじっと見つめられて恥ずかしくなったのか頰をかきながら視線をそらす。
するとフワンが口を開ける。
「なぜ、怒らないのですか?」
「ん?怒る理由があるのか?」
「私が、表情を変えたので。」
それを聞いて零断は顔をしかめる。
何か原因があると思っていたが、そのことに加えてフワンが過ごす環境にも問題があったのだろう。
零断はそらしていた目を戻してフワンの方を向く。
「人が感情を表に出すのは当然のことだよ。だから怒るわけない。」
「私は…人間じゃない。」
「…なら、フワンは自分のことをなんだと思ってるの?」
まさか、人間であることを否定しているとは思わず、つい聞き返してしまう。
「私は、奴隷です。奴隷は人じゃないと言われました。」
その言葉に零断とユニは絶句する。
「まさか、ここまで奴隷商が酷いとは…」
ユニが言葉を漏らす。
「この世界でも奴隷に過度な暴力などはほとんどされないと聞いた。…けど、これはこれで商売なんだ。俺らが口を出すことではない。」
零断は納得したように言う。しかし、ユニは納得がいかないようだ。
「けど、フワンちゃんと同じように人間じゃないって言われてる子がいっぱいいるかもしれないよ!」
「そう言う商売なんだよ。主人の言うことを全てそのまま聞く順応な奴隷。それがあの奴隷商の売りなんだ。それに口を出すことはできない。」
「…確かにそう、ですね。」
「まぁ、だからと言って許せるわけではないけどな。けど、あの方法を止めることは俺たちにはできない。だから今は前を見るんだ。」
零断はユニを説得して、フワンの方に集中する。
「フワン。お前は人間だ。奴隷も人間なんだよ。」
「…」
そう言ってもフワンは首を横に振るだけ。このままではいけないと、零断は自分が思っていることを正直に伝える。
「俺はフワンがこの状態から治ったら奴隷から解放しようと思っているんだ。別に体を要求しているわけではないよ。ただただある程度暮らせるお金を持ってね。」
「…なんで、ですか?」
フワンが本当に不思議そうに声を出す。
「もともと奴隷を買おうと思った理由がちょっとずれていてな。ほんの少ししか用はなかったんだよ。だからもともと解放するつもりだったんだ。」
「そう、じゃなくて、なぜ人間じゃない、のに…」
「はぁ…ならさ、こう思えばいいんだよ。奴隷商にいた時は人間じゃなくても、俺に買われた時点でもうフワンは人間だ。」
その一言でフワンはビクッと震える。
零断はそんなフワンの頭を撫でながら言う。
「人間は嬉しい時には笑うし、怒る時は怒る。今、フワンはどうしたいの?」
零断は優しく頭をゆっくりと撫でながら囁きかける。
「私は…わたし、は…ううぅ…!」
「そうだ。泣きたい時には泣けば良いんだよ。」
感極まって泣き始めたフワンを零断は胸に寄せる。
そして、撫でながら吸収していた頭の中に溜まっていた電気がなくなる頃にフワンま泣き止むのであった。
すみません。少し切りが悪く終わってしまいました。なかなか書く時間が作れなくて…
そろそろ忙しくなくなるので、年末は多く投稿したいなぁーって思ってます!