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波動の龍者  作者: ケイマ
第3章
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トラブルメイカー

「ところで零断さん。どこに行くかとか決まってるんですか?」


ウワラズッレを出発してから約1時間。何気ない雑談をしていたユニと零断。

そんな時にユニはふとそんな疑問が浮かんだ。


「当然。帝都へ!ということを聞きたいんじゃないんだろ?」


ユニはこくこくと頷く。


「とりあえず、寄れる町はいろいろ寄りたいと思ってるよ。情報収集とか、ギルドのクエストとかも受けたいからね。」


「つまり、私たちは様々な町に寄りながら帝都を目指す冒険者ということですね!」


「そういうことだ。当分は何もないだろうな。」


「けど、零断さん名前どうするんですか?帝国の中心に近づくにつれて名前は広がっていると思いますよ?」


予想してなかった返答に零断は驚く。


「…たしかに名前考えないとな…けど、冒険者カードに名前登録しちゃったから誤魔化せないよなぁ〜」


「もし、偽名使うならと考えておいても良いかと思いますよ。」


「と、言われてもなぁ。今までゲームとかゼロだったからキャラネームを即座に思いつかないんだよな。」


「風雅に似させるのはどうでしょうか?」


「それ採用。なら、ふう、ふう、ふう…フレン!」


「…どこが風雅に似てるんですか?」


「一文字目が一緒だろ?」


「それだけですよね?」


「あと、零断のレとンを入れました。」


なぜか零断が敬語になる。自分でもユニの指摘をあまり入れてないことに気づいているからだろう。


「まぁ良いんじゃないですか?フレン。この時は呼び捨てで行きましょう!いえ、敬語もやめてみます!」


「…ならいつも敬語じゃなくてよくね?」


「フレンさんってなんか女みたいじゃないですか。なら、呼び捨てです。そして、呼び捨てで敬語はおかしいと思うので。」


「まぁ、たしかに。」


零断も納得し、その案を採用する。

すると、はやくもクラウドから報告が来る。


『近くに村がありますけどどうしますか?』


「ん?村って馬車だと半日かかるって聞いたが?」


ダンディから聞いていた情報と少し違うので聞き返す零断。

すると、クラウドはあたかも当然かのように言う。


『私はそこらの馬ではありません。私にとってのゆっくりはおそらく帝都騎士団の最速の馬より早いでしょう。」


それを聞いた零断はユニの方を向き、


「ユニ。グッジョブ!」


と親指を立てて言う。

ユニはユニでクラウドの思った以上の性能に驚いているようだ。


『話が逸れましたが、村、どうしますか?』


再度クラウドが確認を取る。

零断は少し考え、


「スルーしようか。クラウドの速さならあまり寄り道しなければ年内…いや、半年と少しくらいで帝都につけそうだからなるべく短縮するか。」


「先ほど言ってたことと随分変わっちゃってるね。」


「まさかクラウドがこんなにすごいと思わなかった。クラウドほど良い移動手段はないだろうな。」


「そうだね〜」


零断はクラウドにクラウドができることについて質問することにした。


「次の村はどのくらいでつくとかわかるか?」


「今日中にあと2つは村を超えられます。ちょうど、それを超えた次の町が大きいので最長でそこまで行けるでしょう。」


「じゃあ零断さん!そこにしよう!」


「そうだな。」


【んー?ユニの言い方に何か違和感があるぞ?】


そんなことを考えているとユニに声をかけられる。


「どうしたの?零断さん。」


「ああ。わかった。」


ユニが声をかけると零断は納得したかのような声を出す。

ユニは訳がわからないので首をかしげる。


「ユニがですます辞めたのか。」


零断の違和感の正体だ。逆に今まで使ってたのを使わなくなってなぜ気づかないのかが疑問だが。


「あれ?気づいてなかった?」


ユニも気づいて受け入れてくれてると思ってたので普通に驚く。


「どのタイミングだ?」


「えーと、零断さんの偽名のところだよ。」


「…なんかすごく新鮮だな。」


ユニの口調がマサなどに話すときと同じになり、不思議な感覚になる零断。


「嫌、かな?」


零断が嫌がるなら辞めるつもりでユニが零断に聞く。


「いやいや。なんとなく親近感わくから良いかも。」


零断は特に変わることなくユニの口調を受け入れる。

ユニは零断にですますを無くしたことで距離が近づいた感覚がして顔を赤くする。

少しの間が空いてから顔が真っ赤になっている状態でユニが言葉を紡ぐ。


「わ、私は将来零断さんを支えるんだから…け、結婚とかも…」


ものすごく真っ赤である。耳先から首まで全てが真っ赤だ。

零断はそんなユニをみて笑ってしまう。


「な、なんで笑うの?」


「いやだってさ。まだ14歳後半の女の子が結婚とか考えるものかと思うとな。」


「え?それが普通でしょ?」


「こちらではな。あっちでは結婚は16から。だけど、実際平均結婚年齢は25くらいか。」


「そ、そんなに遅いんですか?」


「ああ。そうじゃなければ俺と涼音はとっくに結婚してるだろうよ。まずまず一人立ちするまでが長いんだよ。合計学生してる年月が15年もあるしな。」


「15年も学校に通うんだ…その間に大人になって婚約者を見つけるんだよね?」


「ま、まぁ、そんな感じかな。実際のところ社会人…仕事を見つけてから相手を見つける人が多いけど。」


「色々違うんだね。」


「そうだな。俺は相手がもういたから問題なかったんだけどなぁ〜」


「この世界に来たせいで変わっちゃったということだよね。」


「ああ。」


少しの沈黙が流れる。ユニは零断に何を言えばいいのかわからなくなり、零断は元の世界について考えてしまう。

するとわ馬車外から声が聞こえる。


『なら、貴方様はこの世界に来たくなかったのですか?』


昔、セリアかグレンに聞かれたことがあるセリフ。

その頃は来て良かったと答えた筈だ。

しかし、今の零断には来て良かったとは言えない。

大切な人と強制的に別れさせられ、出会った人もまた目の前で死ぬ。そして、人間の闇を知った。どれも普通の日本人なら体験することのない苦しいことだ。

さらに、目の前で大切な人が殺されたり、自分を不幸に貶める主犯がいたりすれば地球の人間は簡単に心が折れるだろう。

それなのに零断が心が壊れたとしても、また立ち上がれるのは人が死ぬところを見たことがあるのと、一度人殺しと戦ったことがあるからだろう。

壊れた心は1から作れるが、折れた心はくっつかない。


【この世界に来たくなかった?か。元の世界にいれば一生涼音と2人で幸せに暮らせたんだろうな。】


零断の中にそういう気持ちが芽生える。

しかし、零断の中にもう一つの気持ちが出てくる。


【この世界に来て、日本では絶対に会えない人と会った。セリア、グレン、ウィリアム、風雅、ユニ、ティア、マサ、チャマ、ムペ、クロノ。そして、波動の龍。出会いを見れば悪くない。というか、全て良いことなんだ。】


しかし、この世界に来て悪いことも数多く起こった。


【リスパルタに来た時点で涼音とは離れ離れになり、狂った同郷と殺し合い、この世界に来て助けてくれた人を目の前で失う。それと同時に人間の闇を知った。さらに、また同郷に命を狙われる。】


【こんなの嫌だ。と投げ出したくなる。なんでこんなに悲しい思いをしなければならない。なぜ俺だけ。ダンディだってそんな経験をしていない。こんなに苦しいのは俺だけだ。なんでだよ。俺の願いは…願い?俺の願いはなんだ?】


零断は様々な思想の中から一番重要なことを考える。


【願い…今は涼音と会いたい。また甘えたい。甘えてもらいたい。じゃあ、その後は?】


ユニは零断のことを見つめている。その目は零断がどんな回答をしても受け止める覚悟がある顔だ。

零断はそれを見てさらに思想を深める。


【願い…願いか。俺の願いはみんなと一緒に平和に暮らすこと。涼音も、ユニも、これから出会うかもしれない人たちも。そして、慎慈も。その願いを叶えるためには…】


そう考えたところで零断は口を開く。


「そんなの、わからない…としか言えない。元の世界だったら幸せに過ごせていたかもしれないから。」


「なら、元の世界の方が良かったんじゃ…」


ユニが申し訳なさそうに目を伏せる。

しかしそれを零断は否定する。


「けどな。この世界に来たから、ユニに出会えた。セリアに出会えた。グレンとウィリアムに出会えた。マサやクロノ、ムペにチャマ、ティアとも出会えた。その出会いは元の世界じゃ絶対に味わえないものだ。」


『……』


「だけど、逆に失うものもある。まさにセリアがそれだ。元の世界にいれば別れなんて味合わなかったのに。涼音とも別れることなんてなかった。


「……」


ユニもヴァルもクラウドも何も言えない。言えることではない。

零断の気持ちは誰にもわからないのだから。


「だからわからないんだ。良かったこともあり、悪かったこともある。正直今は悪いことだらけだ。そう言う考えが頭の中にいっぱいある。」


風雅が零断を見つめる。

その目には心配、不安などの様々な気持ちが読み取れるが、一番大きいのは感謝だと零断は感じる。


【…今ここにいるのは俺が助けた人達だ。俺がいなかったら死んでいたんだ。こんなにもいい仲間が助けられるなら、悪いことばかりじゃないかもな。】


ネガティブな気持ちをポジティブ思考に変え、また話し始める。


「だからこそ、俺は願いを叶えたい。叶えられればこの世界に来て良かったと思えるから。」


「零断さんの願いって…涼音さんと会うこと?」


零断はユニに対して涼音を助けると言っている。だからそう考えるのも無理はない。と言うか、第一目標だから合っているといえばあっている。

だが、今零断が掲げているのはそのあと。最終目標についてだ。


「いや、それは違う。もっと先のことだ。普通、異世界転移した奴らは『元の世界に帰りたい。』とか言うんだろうが、俺は別に元の世界に帰りたいとは思わない。別に思い入れとかもないしな。」


「なら…なんですか?」


ユニが聞く。ヴァルもクラウドも真剣に聞いているようだ。


「俺は…何も失わなくていい平和な時間を過ごしたい。それが出来れば良いんだ。」


零断のシンプルながらも心から思う気持ち。

それにユニは賛成する。


「いいと思うよ。それを実現できるように私たちも応援するよ!」


『何も失わない時間…ですか。ふふ。まずは失う以前に守るものが少ないですからね。まずは帝都。次に王国にいる仲間を助ける必要があるのでは?』


ヴァルが的確な指摘をする。


「ああ。そうだな。まずは帝都にいるであろう鈴音と会い、道を決める。そして、王都にもう一回行く。慎慈を助ける。そして、最後に妹だ。あいつだけはどこにいるかわからない。まぁ大丈夫だろ。」


「妹さんに対しては辛口だね。」


「まぁな。あいつのことだし『うりゃぁぁぁ!』とか言いながらどっかで討伐でもしてるさ。」


『少しひどいかもしれませんが、最初の嵐で死んでいるかもしれませんよ?』


クラウドが目を逸らそうとする可能性を指摘する。

しかし、これには零断は首をふる。


「まさかあいつがそんなことになるわけないと思うな。」


『何故そう言い切れるんですか?』


当然の疑問をヴァルが聞く。

それに対して零断は懐かしい昔を思い出しながら言う。


「あいつは子どもの頃に、というか、生まれてすぐに親を亡くしている。母は妹を産む時に。父はそれへのショックで自殺さ。そんな妹を引き取った後はすごいさ。生まれたのが2年違うはずの俺とほぼ同等に育つんだからな。いや、抜かされてるかな。俺が歩けるようになれば妹も歩けるようになり、喋れるようになれば同じように喋れるようになる。他も全て一緒。まさに天才だよ。」


「そんなに妹さんはすごいんですか…」


ユニは絶句する。ユニは隣りの家の子と一年差だが、それだけでも成長に圧倒的な差が出ているのだ。

しかし、それが出ない。しかも2年も違うのに。これこそ本当の天才だろう。


「仲が悪くなったりしないの?私だったら嫉妬すると思うけど…」


自分より子どもの子が自分よりできる事があると嫉妬する。当然子どもの頃に誰でも経験があることだ。

しかし、零断はそれを否定する。


「嫉妬なんてしないさ。まずまずあいつは俺がいないと何もできなかったからな。」


「え?どういう意味?」


「そのままの意味さ。お兄ちゃんっ子なんだよ。俺が何かやってみろっていって、天才さを見せてるんだから。最後の方は逆にどれほど才能があるのかを確かめる感じだったよ。」


「それでも普通嫉妬しそうだけど…零断さんさまさまだなぁ」


「というかさ。俺なんかよりずっと不幸なことが起こってるんだからそのくらいあっても悪くないと思うんだ。だから逆に俺はさらに仲良くしたよ。」


「…たしかに。親を亡くしているんだもんね。なんか零断さんって災難を呼び押せてる気がしない?」


その指摘に零断は本格的に悩む。


「いや、それは…まぁ、妹の件は俺が関わってないとして、いじめのこと、有名になったこと、通り魔と会うこと、異世界転移…あれ?俺やばくね?」


零断の表情がどんどん暗くなる。自分が関わると災難が起こると自覚したからであろう。


「零断さんはトラブルメイカーということだね!」


「うぐっ…」


零断は的確なツッコミに胸を押さえてかがみ込む。


『なんだか話が逸れましたね。貴方様の目標はわかりました。なら、私たちにできることはその願いを叶えてあげるために協力することですね。』


「…俺はトラブルメイカーだからな…帝都への道のりでトラブルに会うんだろうよ…そして、帝都でも色々あるんだろうよ…」


「あははは…すみません零断さん。全くフォローを入れられないよ。」


そして、この零断の予感は見事に的中することになるのであった。


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