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波動の龍者  作者: ケイマ
第3章
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町でぶらぶら2

冒険者ギルドでの一件が終わった後、零断とユニは武器屋に来ていた。


「へいらっしゃい!少年。どんな武器を探しているんだい?」


武器屋というのはやはり雰囲気が良いおっちゃんが売り出していることが多い。ウィリアム含めてである。


「いや、俺じゃない。この子に合う槍を探しているんだ。」


「…その子にはまだ早いだろう。そもそも、そんなお金あるのか?」


子供に戦闘をさせる貧乏人として見られたのかそんなことを聞かれる。

どうしたもんか…と悩んでいると、ユニは武器屋に入って槍を触り始める。


「おいおい、嬢ちゃんにはまだ早いって。お母さんのところにお帰り。」


「いえ、お母さんもお父さんも死んじゃったので。」


その言葉で武器屋の店長が言葉に詰まる。さらに貧乏人と勘違いしたらしい。

しかし、ユニがそれを壊す言葉を放つ。


「とりあえず、ここで一番高いのってどれですか?」


「た、高いのか?嬢ちゃんにそんな買うお金なんて…」


「いや、100万エーンで買えなかったらどこのぼったくりだよ。」


「は!?!?100万エーン?!?!」


「あ、うん。まぁ、もともと俺たちは剣と槍を物心つく前から教えてもらっててな。冒険者稼業で稼いだんだよ。それで、こいつの槍が壊れちゃったから買おうかなって思ってな。」


零断が即興で作った嘘を武器屋のおっちゃんは真に受けて驚く。


「わ、わかった。甘く見て悪かったな。一番高い槍は…これだ。触ってみるか?」


「お願いします。」


ユニは槍を受け取ってくるくると回す。


「うーん…少し重いですね。後つかが長いです。」


「そりゃまあ大人用だからな。多少は切っても問題ないが?」


「いえ、バランスが崩れるのでやめておきます。もう少し軽めのはありますか?」


「おう。待ってな。」


ユニとおっちゃんはどんどん専門的な部分に入っていく。


【ユニはどこでそんな知識を?あ、ヴァルか。】


零断はそう納得し、自分の武器の手入れをする。

いざという時のためにウィリアムに剣の研ぎ方を教えてもらっていたのだ。

アイテムボックスには砥石が入っていなくて、どうしようもなかったが、ここは武器屋である。当然砥石もある。


「おっちゃん!砥石一個買いたいがいいか?」


「おう!そこに書いてある値段をその前に置いておいてくれ!」


零断は言われた通り600エーンらしく、その分のお金を置いておく。

零断はコンヴィクスの手入れに入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「お、これはすごくいい剣をもっているな。」


剣を研ぐことに集中していた零断は突然話しかけられてハッと目を上げる。

そこにはさっきと同じおっちゃんと満足げに槍を持ってるユニがいた。


「ああ。最高の鍛冶屋に俺専用に作ってもらったからな。」


「ほう。たしかに俺が見ても完璧な出来だな。さらにお前さん専用になってるから安心できると。」


「そういうことだ。あぁ槍の分のお金か。何エーンだ?」


「16万エーンだ。うちの店の中でも高めだからな。」


「そうか。ありがとなおっちゃん。」


「おう、毎度あり!」


零断は満足げのユニを連れて鍛冶屋を出る。

見えなくなると同時にさりげなくアイテムボックスに入れる。

アイテムボックスは希少価値が高いので狙われるとめんどくさいのだ。


「そんなにいいものを買えたのか?」


「いえ、完全に満足するものはなかったです。しかし、自分の武器を初めて買ったので嬉しいんです!」


「そういうことか。まぁ、いずれ俺みたいな槍を作ってもらおう。もしかしたら槍の先の部分は自分の武器に取り入れられるかもしれないしな。」


「そうですね〜!」


ユニは上機嫌に零断の腕にくっつく。さらに頬ずりする。


「俺を槍と勘違いしてませんか?」


「してませんよ?逆に槍に頬ずりなんてしません。」


「そ、それもそうか…ちょっと恥ずかしいんですが。」


「いいじゃないですか〜!」


「はぁ。まぁいいけどな。」


そういうと、ユニの抱きしめる強さが上がる。

零断はそんなユニを逆の手で抱きしめる。


「ふぇ?れ、零断さん?」


いきなり抱きしめられたことですごく慌てるユニ。


「いきなり抱きしめられる感触はどうだ?」


零断は悪戯げに微笑む。それに対してユニは惚れ惚れとした表情で


「あったかいです…!」


と答える。そんな答えが来ると思わなかった零断は少し驚いた後、ユニをさらにギュッと抱きしめる。

周りからいろいろな目線が零断達に飛ぶ。

零断の目的はユニ目当てな奴らである。

零断とユニは明らかにこの町に慣れていない。ならば、ユニを捕まえたり、砕いたりすることは容易いと言ってもいい。

そんな希望を打ち砕くために“この少女は俺のものだ”という証明をするのだ。


【まぁ、美少女を連れる辛さってやつかな。ユニは気にしてないからそんなに問題でもないんだけどな。こんなことする奴らは基本実力のない馬鹿どもだから。】


そんなことを思いながら、零断はユニを離し、何事もなかったかのように歩き始める。

ユニの表情は幸福に包まれてるかのようで先ほどよりさらに頬ずりして来る。

零断はそんなユニの頭を撫でながら自分たちの部屋に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「さてと、戻ってきたわけだが、なるべく早くこの町を出ようと思ってる。だから、色々準備するぞ。」


零断とユニは2人でお風呂に入りながらそんなことを話す。

当然、現在も貸切だ。

しかし、昼ごはんも食べ終わってだいたい3時くらいにお風呂に入るやつなんているだろうか?

当然いないわけで、貸切にしても全く問題ないのである。


「零断さん。とりあえず、キスしてください!」


「ユニは何故そんなにキスが好きなんだよ…」


「えーと…零断さんを直接感じられる…から?」


「疑問形にされても困る。」


「それじゃあいただきます!」


「うお、ちょっと待て、んむ!」


零断とユニのディープキスの音が風呂に鳴り響く。


「ふふ。一日一キスです!」


「なんだその凶悪な設定は…」


零断の理性が危ない。


「次に、抱きしめてください!」


「おい、次ってなんだ次って…まぁいいか。」


零断はユニをキスした状態から抱きしめる。

ユニも零断の背中に手を回して密着させる。

零断の胸に触れる女性ならではの膨らみ。まだ幼く成長しきっていないが、それでも多少はある。

しかし、零断の賢者モードは強かった。

ユニが零断の頰に頬ずりして来る中、零断はユニを抱きしめながら頭を撫でているだけだ。

しかし、なかなか自分の感情を隠すこともできなくなっている。

恋愛面は涼音への背徳感があるためかあまり積極的ではない零断だが、ついつい言葉を漏らしてしまう。


「あ〜もう、可愛いなぁ…」


当然バッチリとユニの耳には入って来る。ユニは少し顔を離して零断を見つめる。


「ん?どうしたんだ?」


零断は顔を真っ赤にしたユニに聞く。


「えっと…零断さんがそういう言葉を言うのって珍しいなぁって。」


「ああ、そんなことか。だってユニが可愛いんだから仕方がないだろ?」


零断は正直に言う。何も考えてないので、軽くのぼせてるのだろう。

対してユニはさらに顔を赤くしてまた零断にくっつく。


「もう…バカ…」


ユニは恥ずかしげにつぶやく。

零断からこうした愛情表現をされるのは初めてなので相当恥ずかしいんだろう。

恋愛は基本男子が先に好きになって、女子が好きになるパターンが多い。

しかし、零断の場合は全てにおいてその逆だ。

涼音にしても、先に相手が好きになって告白され、セリアには感情を爆発させられて受け入れ、ユニはその感情を受け取って今に至る。

零断はヘタレである。

零断の首に顔を埋めたユニを撫でながら零断は何考えずにぼーっとする。

すると、首元から寝息が聞こえて来る。


「はは。無防備なやつだな。」


そんなことを思いながらも零断はまたぼーっとする。

今までそんな時間なかったので今まで溜め込んだ疲れを一気に癒しているのだろう。


「っと、俺も寝るところだった。このままじゃのぼせるよな。そろそろ出るか。」


零断はユニの髪を撫でながらユニに呼びかける。


「おーい。ユニさーん。のぼせるぞ〜」


零断の声も適当である。のぼせる直前だ。

と、ここで零断の頭がフル回転する。


【や、ヤベェ!今ユニを起こしたらお互い全裸だぞ?100%襲われる!】


しかし、行動に移す時間もなくユニは起きた。


【くぅ、無念…】


零断は諦めの境地に立つ。しかし、そんなことは起きなかった。


「ふあぁ〜零断しゃん。おはよーございます〜」


ユニはぼーっとした表情で零断を見る。零断の表情は苦笑いだ。今から起きることを諦めているんだろう。

ユニはそんな零断を不思議と思わず、周りを見渡す。

そして、意識が覚醒したのか、なぜか不満げな表情になる。


「…ユニさんや。なぜ不満げなのだ?」


「むぅ…だって寝ぼけていれば零断さんを襲えたかもしれなかったのに…」


「襲うな。全力で拒否する。」


「零断さんはそんなに私のことを嫌いなんですか?」


つぶらな瞳でユニが零断に問いかける。

普通の男ならイチコロだろう。


なにせ神の補正がかかっているのだから!


しかし、零断には通用しない。


「はぁ…」


零断はため息をつくとユニに顔を近づけてキスをする。

軽いただ重ねるだけのキスだ。


「ほら、のぼせるからでるぞ。」


「零断さん!抱っこ!」


「はいはい。」


零断はユニを抱きしめている状態のまま立ち上がり、脱衣所へ歩いていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「…さてと、2回目な気がするが、旅の為の準備をしようか。」


「そうですね。とりあえずヴァルを呼びましょうか。」


そう言ってユニはヴァルを呼び出す。

なんと意味のない妖精召喚だろうか。

旅の相談…と言うより雑談するために妖精を呼び出した人など過去数人しかいないだろう。

ヴァルが出てきた最初の言葉はこれだった。


『貴方様の理性は強すぎますね。』


「ん?んん?それはどう言う意味かな?」


出てきてまず零断の理性の話をするヴァルに零断は詰め寄る。


『ま、まさかユニの前に私を食べようと…』


「しないわ!キャラ崩れてるぞ!」


『冗談はここまでにしましょう。』


「お前が言うと本当に聞こえるから悪ふざけもほどほどにしろよな…」


『失礼いたしました。』


まるでお笑い芸人のコントである。ユニと零断の相性もいいが、ヴァルと零断の相性も良さそうだ。


『それにしても、旅の道具ですか。私にはそのような知識はありません。役に立てなくてすみません。』


「まぁ、当然だよな。俺はユニがなぜヴァルを読んだのかが不思議だ。」


「え?それはヴァルが零断さんに何か言いたそうだったからですけど?」


「…テントとかは揃ってるし、主に食料が大事だよな。」


見事なまでに華麗なスルーをする零断。

ユニもヴァルもノリでやっていただけなので零断が考え始めると同時にユニ達も考え始める。


「うーん…」


「うーん…」


『そうですね…』


誰も特に思いつかない。零断もユニも一通りの魔法は使えるので水や火起こしは問題ないので特に買うものもないのだ。


「あえて言うなら馬車だよな。」


『馬車ならば、確実にしっかりとした馬を買ったほうがいいでしょう。安いものを買って後悔するよりはマシです。』


「だな。ダンディ経由でいいものを買うか。」


「そうしましょうか。あとは、お金の問題ですかね?」


「そこはギルドでどうにかなるだろ。あとでまたギルドに行くか。」


「そうしましょう。」


そして、また無言の時間が続く。


『足りないものは食料と馬車以外ないのでは?』


ついにヴァルが声を出す。

2人はその言葉を待っていたとばかりに賛成する。


「そうだな。もうないな。」


「そうだね。もうないよ。」


ユニと零断はそうやって満足してふぅと息を漏らす。


「…暇だし冒険者ギルド行くか。ユニの登録もしたいしな。」


「ですね。暇ですし。明日も休んで明後日に出るんですよね?」


「そのつもりだ。」


「了解です。では行きましょうか。」


零断とユニは外へ歩いて行く。ヴァルはまたユニの中に入った。

建物を出ると、外の庭で激しい斬撃が見えた。

何事だ?とのぞいてみるとそこにはダンディと20人ほどの兵士とその20人と戦う風雅がいた。

零断達に気づいたダンディが話しかけてくる。


「おお!零断!お主の従魔は強いのう!この人数の兵士にも圧倒してるわ!」


「まぁ、風雅だからな。んじゃ、ダンディ、また出かけてくるわ。」


「あいわかった!」


多対一の練習のように攻撃を受け流し続ける風雅を見てから、先ほど歩いた道をまた歩く零断とユニ。

時刻はもう夕方の4時くらいになっていた。しかし、まだまだ明るく、問題なかった。

特に寄り道することなく冒険者ギルドに入る2人。

入った瞬間に寄せられるのは驚きの目だ。


「…ん?雰囲気変わった?」


零断がそう呟きながら、先ほどと同じ受付嬢のところへ行く。

やはり受付嬢も零断のことを覚えていたようで不思議な表情をしながら話しかけてくる。


「こ、こんにちは。零断さん。な、なんの御用で?」


明らかに話し方が変わっていた。


「ん?何か俺やったっけ?」


「零断さん…あの指導を忘れたんですか?」


「ああ。そんなこともあったような…」


ユニにとっては少し驚きのことだったが、零断はもう忘れかけていた。


「ああ、そうだった。この子の冒険者登録良いですか?」


「は、はい!では…」


昔、零断がやった方法と同じ方法でユニも冒険者登録をする。

零断がその工程を見ているととなりの受付嬢が話しかけてくる。


「あ、あの…」


「なんですか?」


「じ、“人狼殺し”の零断さんですか?」


「…は?人狼殺し?」


聞き覚えのない単語に驚きを隠せない零断。

隣の受付嬢はなぜかその由来を熱弁する。


「だって、sランクレベルの人狼を単独で倒してしまった人ですよ!まさに人狼殺しです!」


「あ、まぁ、倒しましたけど…なぜ王国で倒したことが帝国まで伝わっているんですか?」


「それは当然ですよ!その日冒険者を始めた少年がいきなりsランクレベルの魔物を単独討伐してしまうんですから!有名になるに決まってます!」


「そ、そうか。」


零断は少し引き気味である。

そんなことも気にせず、受付嬢はどんどんエスカレートして行く。


「やっぱり、sランクの魔物を倒せるなら、それほど強いんですよね!それなのにcランクとか、おかしいと思うんですよ!sランク冒険者すら単独でsランクの魔物を倒せるかどうかなんてわからないのにやっぱり納得いきません!」


「い、いや、これでも特別に上げてもらったんだし、これから上げて行くから関係ないよ。」


「これから!?!?まさかここを拠点に?!?!」


受付嬢は身を乗り出して聞いてくる。


「近い近い!というか、ここは拠点にしないから!帝国を旅して回ることにしてるんだよ!」


だんだんめんどくさくなってきたのか零断の言葉もきつくなる。

零断の言葉を聞いた受付嬢は目に見えて落ち込む。


「そうなんですか…せっかく強い人がここにいてくれると思ったのに…」


「ん?何か問題でもあったのか?」


意味深そうな言い方だったので零断が聞き返す。


「いえ、そういうわけではないんですが…」


「彼女は強い人と話すのが好きなんですよ。」


ユニの登録が終わったからか、担当していた受付嬢が話しかけてくる。


「そうだったのか。なら、俺が育てた子達がこの町に住むから話しかけて見たらどうだ?」


「零断さんの弟子、ですか。たしかに強そうですね。」


「名前はなんと?」


「マサ、チャマ、ムペ、ティア、そしてクロノだ。クロノが俺のお気に入りかな。」


「そうなんですか!なら、きたら聞いて見ますね!」


隣の受付嬢はその話を聞いてまた気分が戻っていた。

ちょうど話の良い切れ目になったので、零断とユニは冒険者ギルドを後にする。


「またお越しください。」


「ああ。」


受付嬢が名残惜しそうに見つめてくるが、無視してギルドを出る。

ユニの方を向くと腕に抱きついてきた。


「どうした?」


「零断さん、モテモテです。鼻の下伸ばしてませんでしたか?」


「はっ、まさか。初対面で鼻の下伸ばすと言ったらケモミミか王女様しかいないな。」


「さすが厨二病…」


「…ユニ、それ覚えなくて良いって言ったよな?」


「これだから厨二病は…」


ユニは呆れた感を出してやれやれとする。

零断は無性に悲しくなり、


「すみませんでした。ユニさん。」


と、謝る。

当然ユニの願いは…


「キスしてくれたら許して上げます!」


「…わかった。」


零断は誰にも見せないようにユニの顔を体で隠しながら軽くキスをする。


「ふふ、ありがとうございます!」


「ああ。んじゃ、帰ろっか。」


「はい!」


夕日に照らされながらユニと零断は帰るのであった。



ユニ…キス魔…

可愛いから良しとしよう!

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