帝国の町
すみません!少し遅れました!
「うわぁー!」
「ここが…」
「帝国の街、ですか。」
今まで王国の村や町しか見たことのなかった子供達から感激の声が聞こえる。
王国の村や町の家は木を組み立てただけだったり、ひどいところだと藁でできた家すらあるのだ。
しかし、帝国の町は違っていた。
【レンガの家とかしっかりと組み立てられた木の家がほとんどだな。まるで、ほんの少し前の地球みたいだな。】
と思うほどだった。
「やはり、王国との差はあるのか?」
ナカウが零断に聞く。
「ああ。歴然としてるよ。圧倒的に帝国の方がいいな。まるでひと昔まえの故郷を見てるようだよ。」
ナカウは零断の『故郷』という言葉に反応する。
「転移者たちの世界はもっと文明が栄えてるのか?」
「ああ。家とかはもうどんな材料を使ってるとかさっぱりだよ。」
「素人にはもうわからないぐらいなのか。」
「ああ。けど、こういう町の風景は俺は好きかな。まぁ、話を戻すけど、帝国と王国の差は歴然としてるよ。」
「そうか。そう言ってもらえると帝国住民として嬉しいぜ。っと、当初の目的を忘れるところだったな。とりあえず城にきてくれ。」
「了解だ。ほら、みんな行くぞ。」
「「「「「はーい」」」」」
周りに見入っていた子供達全員を連れて零断はナカウについていく。
その道中でやたら視線を浴びて緊張してるユニに話しかけられた。
「な、なんかみんなこちらを見てますよね?」
「そうだな。帝国の人が来てる服と自分が来てる服を見比べればその理由がわかると思うよ。」
「…素材自体が違う気がして来ました。王国って本当に貧乏なんですね。」
ユニが自分の着てる服と周りの人が来てる服を見比べて気分を落とす。
「少し違うかな。権力が上な人たちが独占してるんだろうよ。だから、帝国との差がここまで開いているんだよ。」
「市民の力が強いということですか?」
理解できていないユニが零断に聞く。
零断は少し難しかったかなと思いながら簡単に説明する。
「帝国のように全員にいろんな可能性を持たせるなら、平民にたとえば鍛治の才能があったとする。そしたら帝国ではその人はどんどんその才能を開花させていく。けど、王国だと、その平民は才能を開花させることなく死んでしまうんだよ。」
「つまり、王国は才能がある人を見つけることができない、ということですか?」
「そういうこと。そう考えると帝国が発展するのも当然だよね。さらに、見ていると町と町の関わりも深そうだから問題があってもすぐに解決しそうだよね。」
「確かに…」
帝国は実力主義な国だ。
剣の才能があれば騎士団で上を目指すことができるし、魔法の才能があれば魔法師として功績を上げることができる。
つまり、できることが多ければ多いほどどんどん位を上に上げることもできる。
ナカウもそのうちの1人だ。元々は平民であったナカウはそのコミュニケーション能力や人を見極める力、そして、単純な剣の才能で貴族まで登ってきたのだ。
いくら才能があっても努力をしなければその才能は開花されずに萎れていく。
たとえ、有力貴族であろうと実力がしたならばどんどん下に落ちて平民にまで成り下がることもあるのだ。
故にこの国は強いのだ。
そして、帝国を収める帝王も強い。
帝王には『血の力』というものがあり、ある程度才能を持った形で子供が生まれてくる。
ちなみに、その『血の力』は過去に神から授かった力だ。
そして、帝王一家は教育をおろそかになどはしない。
だから、毎回帝王は最強と恐れられるのだ。
【暗殺の基本として戦争はその主導者を殺せば終わる。けど、この国はまずまず主導者が兵士より強いから難しいってわけか。そして、王様が最強、と。剣の才能とかだけじゃなくて事務の才能とかも取り入れているのが良いところだよな。だからこの国は成り立ってるんだろうけど。】
人間には1つは才能がある。
それを国をもって証明しているかのようだ。
そんなことを考えていると、零断一行は
ウワラズッレの城についた。
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城門に着くとナカウが門番に事情を説明し、伝達を走らせた。
「少し待ってな。すぐに転移者担当の奴が来る。俺も同席するからな。」
「助かる。ありがとな。だが、いいのか?」
「なにがだ?」
「だって俺以外の子供達は転移者でもなんでもないただの元奴隷たちだぞ?」
「転移者がきたことには変わりないし、その連れなら尚更だ。さらに、王国からの逃亡者だろ?さらに歓迎だ。」
「そうか。ならよかったよ。」
「お、そんな話をしてる間にきたな。」
門を少し入ったところで待ってた零断達はしろの扉から出て来る人を見つけた。
「ん?あれは…」
「え、あいつは…」
城から出てきた男性と零断はお互いに呟き合う。
「ふ、ふはっはっはっ!こんなところで会うことになるとはな!ゼロよ!久しぶりである!」
「ダンディのおっちゃんかよ。本当にこんなところで会うとは思ってなかったぜ。」
「お、知り合いか?」
「そうだな。」
「そうである。」
ナカウがダンディと零断が仲良く話しているところを見てそう聞く。
2人とも肯定して固い握手を交わらせる。
ダンディは零断がお世話になっていた商売人である。体はゴツく、体格が良い。しかし、商売人だ。
GFOは戦闘だけでなく商売もすることができる。そして、ダンディは商売を極め、無属性のユニークスキルを手に入れた数少ない人物なのだ。
【今までであってる人、全員色々因縁とか仲良くしてた奴らだよな…】
零断はそう思うがそれも当然である。まずまず無属性のユニークスキルを手に入れている人自体が少ないのだ。逆に接点がない人の方が少ないだろう。
さらに、零断は超古参勢かつ有名であり、気が向いた時にパーティに入ったりもしている。となるとやはり高レベル帯の知り合いは多くなるのだ。
「それで、ダンディが転移者専用の役員なのか?」
「そうである!我は神職で『管理者』というのを手に入れてな!それとこの仕事があっているのだ!」
管理者とは、まさに事務的な者専用の個人職で、交渉の管理や、人材の管理、予算の管理など管理については全てエキスパートな神職である。
個人職の中では多い方だが、ダンディの実力はそれの平均を大幅に凌駕している。もはや1人で1つの町を作れるかというほどだ。しかし、ダンディはもともとGFOでは商売人。好きでもない管理をするより、ある程度の仕事をしながら商売をしたいという気持ちがあり、現在その計画を進め中なのである。
「ところで、ゼロはどんな神職を?」
「ゼロはやめてくれ。零断だ。もう、こっちではリアルネームを使っているからな。」
「ほう。零断か。珍しい名前の者もいる者だな。それで、神職はなんなのだ?」
名前にはあまり興味を示さずに、零断の神職についてを繰り返し聞くダンディ。
「俺の神職は『波動者』だ。波動っていう特別な力が使える。けど、使い勝手があまり良くなくてな。俺には雷魔法の才能がピカイチであったからそっちをメインにしてる。多分波動に目覚めてなかったら確実に雷魔法師だったろうな。」
「そこまでいうほどか。まぁ、立ち話もなんであろう。中に入るが良い。子供達も一緒にな。色々積もる話もあるだろうからな。」
「ありがとな。とりあえず、落ち着いた場所で経緯を話すよ。」
「ダンディ殿、零断、こちらへ。」
「ナカウご苦労である。」
「ナカウさんきゅ。」
「…俺はダンディ殿と対等に話す零断と対等に話していいのか…?明らかに格上な人な気がしてきたぞ…?」
「そんなことないよ。まずまず俺は帝国の貴族でもなんでもないからな。」
零断は肩をすくめて子供達を連れて城の中に入っていく。
ちなみに子供達は零断とダンディが話している間は門の中にある庭園を見入っていた。
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零断は今までのことを途切れ途切れでダンディに話した。
「ほう。これは…我にも想像ができない困難な生活を送ってきたものだな。」
「ああ。」
「それにしても、零断という名前を何処かで聞いたことがあると思ったらそういうことだったのであるか。」
「そういうことって?」
「なに、お主の話を聞いていくうちに王国から
『sランクの魔物を単独撃破した英雄が逃げた』
という噂が回ってきていてな。帝国では見つけ次第保護する予定だったからちょうど良かったのである!」
零断の英雄話は帝国でも話題になっているらしい。
「ああ。その話か。そのsランクの魔物って言われてる奴は、スカルプなんだよ。」
「ほう?スカルプとな?あの暗殺ギルドのか?」
「ああ。」
零断はここら辺を丸ごと話さなかったのでダンディは詳細を知らない。
零断はスカルプを殺したことなどを全て話した。
ダンディの反応は意外にもきっぱりとしていた。
「善良な魔物を殺すのはあまりいいことではない。そして、冒険者すら殺していたのならばそれは殺されても仕方がないだろう。それに、彼が生きていたとしても、まともに生きれなかったであろうな。」
「あいつは狂ってたからな。魔物化とか笑えねぇ冗談だ。」
「そうであるな。それはそうと、そこの魔物はお主の魔物か?」
「ああ。契約はしたが、何か問題があるか?」
「魔物をペットにするのは良くあることなのだが、暴れたりしたら困るからな。しっかりと紋章をつけなければならぬ。」
「ん?これでいいか?」
零断は前につけた足の紋章をダンディに見せる。
「ふむ。これで大丈夫だろう。」
「了解だ。ありがとな。…それで、本題に入っていいか?」
「ほう。今までのは本題ではなかったと。」
「ああ。まぁ、察しの良いダンディなら気付くだろうな。んで、話の内容は俺のこれからの旅についてだ。」
「…リンを探しに行くのか?」
「ああ。帝都にいるらしいからな。行かない以外の選択肢なんてないだろ?彼女なんだからな。」
「そうであるな。そして、その1番の問題になるのが、」
「そう。子供達だ。引き取ってくれることはできないか?あの白い髪の子は俺と一緒に行く。けど、他の子は置いて行きたいんだ。」
今、子供達は座るように促されたソファで寝ている。そのソファは子供達にとって人生で一番と言ってもいいほどフカフカしていたのだ。
眠りに落ちるのも無理はないだろう。
もともと旅の疲れがあったのだ。零断とダンディ、空気になりかけているナカウはその子供達を優しい目で見守っていた。
「白い少女はなぜ連れて行くのだ?」
「それは…まぁいいか。少し話がずれるが、ダンディはこの世界についてどのくらい知っている?」
「この世界について?様々な種族が共存している世界ではないのか?」
「それも答えといえば答えだが、深い理由もあるんだよ。まぁ、深くは話せない。あまり広げるもんでもないからな。」
零断は今までのゆったりした顔から真剣な顔に変える。ダンディとナカウはその変化に緊張しながらも次の言葉を待つ。
「まず、この世界には鬼、神、龍という三強魔がいるんだ。そして、白い女の子…ユニは神に選ばれたんだよ。その力は強大だ。あんなに幼いのに俺と同じくらいの実力を持っているんだ。」
「つまり、力のために連れて行くというのか?」
「いや、彼女の気持ちを尊重して連れて行くんだよ。な、ユニ?」
零断はソファで寝ているユニに対して話しかける。
すると、ユニは恐る恐る目を開けて他の子供達を起こさないように立ち上がって零断のとなりに座った。
「あ、あの、すみません…」
「いや、起きてたのは知ってたから大丈夫。」
ダンディとナカウは突然のことに動揺している。
寝ていた少女が零断が話しかけたことで目覚めて零断にくっつくのだ。
「い、いつから起きてたのだ?」
「えっと、最初から?です。みんなが寝たあと、なんか私たちに向けて温かい目線を感じたので起きるに起きれなくて…」
「ま、それは一旦置いておこうか。ユニ、君は俺と一緒に…「行きたいです!」というわけだ。」
「そうか。お主の気持ちならばいいだろう。」
「あ、ダンディさん。少し誤解があると思うので訂正しておきます。零断さんは私なんかよりずっと強いですから。もともとわたしを置いて行くつもりだった零断さんに私が無理やりついて行くんです。」
ダンディ達は少女の少女らしくない言葉にさらに動揺する。
しかし、ユニはそんなことは気にせず零断に話しかける。
「というか零断さん。わたしをそんなに過大評価しないでくださいよ。神に選ばれたのは事実といえば事実ですけど、全然強くないですよ。」
「十分強いだろ?スカルプとやりあえるんだからな。」
「…なに?スカルプとやりあえるだと?この少女が?」
元最前線であるスカルプとやりあったという言葉にダンディはさらに動揺する。動揺しすぎである。
「ああ。結果的に神職の力で負けたが、素のスカルプよりは強いよ。」
「そして、わたしが負けた神職を使った鬼さんを零断さんは瞬殺するんですよね。」
「まぁ、そうだが…」
「圧倒的に零断さんの方が強いじゃないですか!わたしと比べたらわたしが可愛そうになりますよ!」
「なんかごめん。」
「零断さんは自分を過小評価しすぎです!もっと自信持ってください!」
「イエスマム!」
いきなり始まったイチャイチャにナカウとダンディはついて行くことができない。
その後、ある程度情報を話した零断達は子供達を起こしてダンディが与えてくれたみんなで寝れる大部屋に入ってまた寝るのであった。
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零断とユニは2人で風呂に入っていた。
「こ、これが…お風呂…!!」
ユニは人生初めてのお風呂である。興奮が収まらない様子だ。
なぜ、お風呂があるかというと、ダンディが使ってくれたのだ。
零断達がいるのは転移者や兵士が暮らす寮のような場所だ。そこには大きな風呂が1つあるのだ。しかも混浴である。
しかし、零断はユニの体を他の人に見せたくないのでダンディに頼んで今は貸切にしてもらっていた。
【転移者の気持ちをガチでわかるダンディに感謝感激だぁー!!】
そして、零断は本当に久しぶりのお風呂を楽しむためにユニに注意を促す。
「ちゃんと体洗ってから入るぞ、多分垢がすごい出るから。というか、ユニは俺が洗ってあげるよ。」
「いいんですか?ありがとうございます!」
零断は手に石鹸を置いてゴシゴシと手を合わせて泡立てる。そして、ある程度泡立ったらユニの体に丁寧にかつ綺麗に洗って行く。
当然零断なので“まだ”エロハプニングなどはない。
歳はしっかりと守るのだ。一度襲われているのであまり関係ないかもしれないが。
ユニの体が洗い終わると零断の体洗いに入る。
これは1人で念入りに洗う。背中だけはユニに手伝ってもらった。
そして、なぜか次に髪の毛を洗う。
「うーん。なんで俺は体を先に洗ったんだろ?髪の毛の汚れが体に付いちゃうのに。」
「私が体を洗って欲しいっていったからですよ。まずまず零断さんもお風呂は久しぶりなんですよね?なら、忘れてても仕方がないかと。」
「まぁ、そんなもんか。」
零断とユニはしっかりと頭も洗ってついにお風呂に浸かる。
「「ふぁぁ〜〜」」
同時にお風呂に浸かり、同時に気が抜けた声を出す。
「これ、最高ですねぇ〜」
「風呂は日本人の命だ〜」
ポケ〜と零断とユニは2人寄り添いながらぼーっとする。
ちなみに立ち位置は零断の上にユニが載っている形だ。
そして、のぼせる気がした零断がユニに促してお風呂を後にした。
お風呂というイベントを完全スルーする零断出会った。