逃亡/王国の王女
第3章開始です。
外からガヤガヤと音がする。さらに、定期的に揺れを感じる。
その感覚でウィリアムは目を覚ました。
「起きたか。もう少しこのままの体制でな。」
ウィリアムが起きるとグレンにおんぶされていた。
だんだんと意識が覚醒してくると、ウィリアムもこの状況を把握し始める。
「まず、なぜワシらが追われているのじゃ?」
「さぁな。まぁ大体予想がつく。零断が何かやったんだ。起きた時にはもういなかったぜ。」
「そうか…一応、ここまでに起こったことを説明してくれんかの?」
「了解だ。逃げながらだけどな。」
「当然じゃよ。」
グレンはできるだけ早く町から離れるために走りながら、今までのことをウィリアムに話し始めた。
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「…なんだ、この感覚。」
グレンは不思議な感覚で目を覚ました。
この感覚はまるで
「零断が、本気でキレて、悲しんだ時と似てる…なぁ、零断。そうじゃな…零断?」
グレンは零断にその感覚について話そうとしたが、零断が寝ていたベットは既にからだった。
「何が起こってるんだ?」
グレンはとりあえず部屋を出てダラスに状況を説明しに行く。
「…だとっ!それは本当か?くそっあの小僧がっ!」
突然部屋から大声が聞こえてきたので少し驚くグレン。
【な、こ、この声ダラスだよな。こんな暴言吐くやつじゃ…いや、俺らの前だけ隠してたのか。】
そしてグレンはそう予想し、音を立てないように耳を立てる。
「すぐにテ……へ暗殺者を…せろっ!」
ダラスの声だだんだんと大きくなり、グレンにとっても聞きやすくなる。
「グレンとウィリアムは始末していい!」
グレンはこれを聞いた瞬間に音を立てないようにしてたことも聞いていたことも気にしないで全力で走り始めた。
幸い、ダラスには気づかれなかったようだ。
【このままだと殺される。そして、零断が何かをやったのも確かだ。まずはここを出ないとな。】
グレンはウィリアムが寝ている部屋に辿り着くと、ウィリアムを担いで逃げ出そうとする。
しかし、その前に暗殺者と思われる5人に囲まれた。
「“バーン”!」
“バーン”とは、零断の“ブースト”などと同じように詠唱を短縮させた言葉である。
グレンの場合は“バーン”だけである。零断より圧倒的に長くその個人職に慣れているため、一つにまとめても問題なかったのだ。
グレンは5人を炎の壁で囲う。ボルケニクス戦の時と同じやつだ。
グレンは壁で時間稼ぎをしている間に宿を出て町の外へ走り出す。
【俺は零断みたいに気配を消したり、探ったりできない。けどな。俺は炎使いだ。体を燃やすことならできるんだぜ?】
索敵には様々なやり方がある。
視覚による千里眼や、熱の感知、零断がやっている反応などだ。
そして、炎になることで熱の感知以外は全てに対応できるようになる。
千里眼は基本白黒だ。ならば、炎があったとしてもそれが炎かどうかなんて見分けがつかない。
反応は炎に反応しない。
よって熱感知をされると、完璧に居場所がバレるが、それ以外は誤魔化すことができる。
さらに、この街中で熱感知を使ったら多くの人が反応する。その中で熱感知を使う暗殺者などいるはずがない。グレンは長年の経験から自分にできる最善の策を見出してそれを実行したのだ。
ちなみに、グレンにオブられているウィリアムも一緒に炎になっている。グレンの一部としてみなすことにしているのだ。きてる服と同じ原理である。
そうして、グレンは1番の難所である街中を意外とスムーズに抜けることができたのだ。
そして、町を抜けた後、異常な速さで動く人間を見つける。
その者たちはグレン達がきた道、つまりテニラ村に向けて走り去っていった。
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「そんなことがのぅ…」
「ああ。零断が何をやったのかがわからないからなんとも言えないがな。まぁ、あいつが死ぬことはないだろう。」
「そうじゃな。っと、こちらにもきたようじゃよ?」
「ん?本当だな。地魔法を使った見たいだが、良かったのか?」
鍛治魔法しか使わないと決めていたウィリアムだが、今ここでその決まりを破った。
「いいのじゃよ。零断が何か大きなことをするということはそれ相応のことがあったのじゃよ。そして、ワシらは生きている。ならば、生きる意味があるということじゃ。あやつに生きろと言われるならば、こんな決まり破ろうぞ。」
「…さすが凄腕冒険者。尊敬するぜ。さて、返り討ちにしましょうか。」
「そうじゃな。地面からの響きで数えると8人程度じゃな。他はいない。が、準備はしてるじゃろうな。すぐに終わらせて森方面に逃げるのが得策じゃ。そのまま山脈を突っ切るのがワシの考えじゃ。」
「理由を聞いても?」
「このまま王国にいても狙われるだけ。それは零断も一緒じゃ。ならばあやつも帝国に向かうだろう。ならばワシらも、ってことじゃよ。」
「了解、納得した。なら、その案に乗るか。」
グレンは立ち止まってウィリアムを下ろして戦闘隊形を取る。
ウィリアムは後ろで構えている。
暗殺者達はスピードを緩めずにグレンへ突っ込もうとする。
「岩よ。かの者の足枷となれ。“石縛”」
しかし、ウィリアムの魔法によりそれは阻まれる。
5人中3人が石縛に捕まり、足を地面に埋められていた。
2人は左右に分かれて同時にグレンに迫る。
「火炎よ。我が剣に宿し、燃え盛れ!“爆炎剣”っ!」
グレンはあらかじめ用意しておいた魔法剣で迫ってきた2人に対応する。
魔法剣だと悟り、1人はサイドステップで少し移動し、もう1人はバックステップで後ろに下がる。
「オラァ!!」
グレンは炎を纏わせた剣をサイドステップをした暗殺者に向けて振る。
それだけで剣に纏っている炎は前方へ吹き出される。
暗殺者はその炎をまともに喰らい、丸焦げとなり、後ろにいた3人の石縛されていた暗殺者も同じようになった。
バックステップした暗殺者はウィリアムによって顔面を吹き飛ばされていた。
「…ウィリアムって意外と過激だな。」
「人の丸焼きを作るグレンに言われたくないことじゃ。」
「よし、じゃあ帝国目指すか。帝国に行ったとして、どうするんだ?」
「帝国にはワシの元パーティメンバーが住んでおる。其奴を頼るのじゃ。」
「いい案だな。よし、行くか。」
グレンはまたウィリアムを背負い直して走り始めた。
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それから1ヶ月後、ダラスは王都へついて事情を第2王女であるアレイクシア・ラナ・ファルトに説明を行なっていた。
「今回、大事な力となりうる存在、グレン、ウィリアム、そして零断を逃してしまい、申し訳ございませんでした。」
ダラスはそう頭を床につける。王国は絶対的な貴族主義。位が圧倒的に上な人にはこうやって話すのが常識なのだ。
そんな中、アレイクシア…アリィは最後に聞いた名前に驚きを隠せなかった。
「あ、あなたは今、『零断』と申しましたか?」
「は、はいぃ…どこかで情報が漏れていたようで、かの村を壊滅させる情報を与えてしまいまして、逃げられてしまいました…」
「そうですか…詳しく聞かせてください。」
と、ダラスに対して説明を求めた。
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「大体はわかりました。下がりなさい。ランヌ、慎慈さんを呼んできてください。あと、人払いも。」
「わかりました。」
アリィはダラスを下がらせ自分の専属であり、絶対に信用できる執事、ランヌに慎慈を呼んで来させた。
アリィは慎慈が来るまでダラスに説明されたことを頭の中で整理していた。
【つまり、ダラスは慎慈さんの親友である零断様の恩人であろう人が住んでいる村を盗賊に襲わせた、ということですか。もし、彼がそんなことをせず、普通に連れてきてくれたとしたら…】
アリィがそこまで考えた時、扉がノックされる。
アリィは一旦考えを中断させて応答に答える。
「慎慈さんですね?入ってください。」
すると、扉は開かれ、体格の良い男が入って来る。
そう。慎慈である。
「何かようなのか?アリィ。」
慎慈はアリィに対して対等な関係で話す。これはアリィが許可したことであり、誰1人ともその言葉を否定したりしない。
「慎慈さんに朗報と悲報です。」
「朗報を頼む。」
「わかりました。といっても、朗報から先に話すのは確定してたのですが。」
アリィは少し笑い、顔を引き締める。その態度に慎慈も気を引き締めた。
その様子を見てから、アリィは話し始める。
「まずは慎慈さんの親友である『零断』様が見つかりました。」
「っ、!?!?それは、本当か?」
慎慈は座っていた椅子を倒すほどの勢いで立ち上がりアリィに確認する。
「はい。」
「はは、さすがだよあいつ。それで、零断はどこにいるんだ?」
「そのことが悲報です。ある役人のせいで彼は失踪。姿をくらませました。スカルプ達を送りましたが、全員帰って来なかったそうです。」
「…そりゃそうだろうよ。零断にあいつごときが勝てるわけがない。それで、その失踪について詳しく聞くことはできるか?」
「はい。もちろん。」
アリィはダラスに話されたこととほとんど同じことを慎慈にありのまま話した。
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「そうか…そのダラスってやつがやらかしていなければまた変わっていた可能性も高いのか。」
「そうですね。…まずまず私には考えられません。ただ、その人に王都に住み着いてほしい理由だけで村一つを燃やすなど。…しかし、王国ではそれが普通になってしまっている。慎慈さんも…」
アリィはダラスが行ったことへの完全否定と、慎慈についてで申し訳なさそうに俯く。
「いや、俺のことは気にするな。それより、お前のことだ。零断がいたらこの計画はスムーズだっただろうが、逆に零断が帝国に行くとなれば時間に余裕がなくなる。」
「どういうことですか?」
「もし、その村に零断の大切な人がいたとしたら、零断は絶対に王国を許さない。普通ではあり得ないことをしでかす可能性が大きいんだ。…あの時みたいにな…」
「あの時…とは、元の世界での、前に話してくれたことですか?」
「ああ、平和な世界の中、殺人鬼と戦い、勝ったんだよ。経験も、体格も、獲物を持ってることでの立場的にも圧倒的に不利だったのにあいつは涼音を守るために勝ち残った。それほど、零断と言う奴は大切なものを守りたいんだ。」
「しかし、私たちはその大切なものを知らずに奪ってしまったと…」
アリィの表情が暗くなる。たった1人が、この国を恨むだけで国が滅ぶ可能性があると遠回しに言われたのだ。恐ろしく感じる。
「ああ。だから、アリィは早くこの王国から抜け出せ。帝国に山脈をまたいで逃げるんだ。俺…より少し弱いくらいでも、あの山脈は超えられると思う。だから、俺と“あいつ”以外で転移者を早く見つけるんだ。俺がついていきたいが、“あいつ”を置いて行くわけには絶対に行かないからな。」
慎慈の“あいつ”の言葉にアリィは表情を暗くして、泣きそうになる。自分達のせいで慎慈はこのくそったれな王国に縛り付けられ、いいようにこき使われているのだから。
「すみ…ません…」
なのでアリィからは自然に謝罪の言葉が出てくる。王族の中で唯一のまともな存在。他人の心を読むことができる神職を持つ王女。
慎慈はその少女の頭を撫でる。
「そんなに背負いこむなって。まぁ、一個上だからって俺以上に溜め込む必要はないぞ。」
「あなたの誕生日が遅いだけで私と慎慈さんは同い年です。しかし、そうですね。なるべく早く転移者を見つけて、亡命しなければ…」
「ああ。あと、帝国に行ったら零断を頼れ。事情を説明したら必ず助けてくれる。」
「っ、!私が接触しても大丈夫でしょうか…?」
慎慈から話されたことなどで零断に対して多少の恐怖の感情を持ってしまったアリィ。
そんなアリィに対して慎慈は零断の性格を暴露する。
「あいつ、王族金髪少女が相当好きだから。」
性格ではなかった。性癖だった。
アリィは金髪を肩くらいに揃えて、スタイルは貧乳と普通の間くらいであり、物腰は柔らかく親しみやすい。
まさに零断の求める王女様である。
「さらに、国に追われて!とか言えばあいつ必ず落ちるぞ。くくっ!」
「それは…ちょっと…」
慎慈のいいように少し引いてしまうアリィ。
その様子を見て、流石に誤解させすぎた気がした慎慈はしっかりと零断の人物像をアリィに話して、接触させるように促す。
「わかりました。おそらく帝都にいるだろうと予報をつけ、帝国に着いたら帝都へ向かうようにします。」
「ああ。頼んだ。あと、零断によろしくな。」
「もちろんです。」
すると コンコン と扉から音がする。
「どうぞ。」
「外から失礼します。転移者が含まれるであろう方々が王都へ入りました。名前は『塚屋 穂高』と『野水 悠太』です。こちらへ案内いたしますか?」
ランヌの言葉にアリィと慎慈は顔を見合わせる。
「ナイスタイミングだな。俺の知り合いだ。」
「そうですか。では、呼んでください。しかし、人道的にお願いします。」
「わかりました。では、失礼します。」
こう言う場合は基本ランヌが出迎えに行く。
一行が来る間、慎慈はアリィに零断についてや穂高や悠太について話し始めた。
そして、思い出す零断との小学校からの付き合い、中学で別れて、高校で忘れられていたこと。
【高校で忘れられてたのは明らかに変わってたから同姓同名だなって思っただけだったらしいけど、今回は気づいてくれよ?】
慎慈はそう願っていた。
穂高と悠太は高校からの友達で、2年になってから同じクラスになり、無属性ユニスキル持ちだと知る。知ってからこちらに来るまでは何回もパーティを組んだ中だ。
その頃零断は
「ヘックチュン!」
山脈を登りながらクシャミをしていた。
第3章の開始は零断一行と関係ない話からでした!
零断と別れた後のグレンとウィリアム、そして、慎慈と王女の話。意外とてんこ盛りでしたね。
この3人が零断とこれからどう関わるかはお楽しみに!
このような話を少しずつ入れていこうと思っています。