嬉しみの涙
6時
私はカラオケで熱唱してました。
そして忘れてました…泣
すみません!!
「ん、んぅん〜〜」
「ガッ!」
ティアの寝相で顎に膝蹴りを入れられ、意識が覚醒し始めたマサ。
目覚めると見たこともない洞窟の中だ。
ぼーっとしながらも寝る前に何があったのかを思い出す。
そして、徐々に意識が覚醒していくにつれ記憶を鮮明に思い出す。
「そうだっ!零断さんは?!?!」
ガバッと跳ね起きて周りを見渡すと、自分たちが寝ていた場所より少し前に零断がユニを抱きしめて寝ていた。そして、零断の手はユニの腹に添えてあった。
一瞬零断がユニに手を出したかと思ったが、少しめくれてる服の隙間から見えるユニの体を見て納得した。
胸から脇腹近くまで切り口があったのだ。零断はそれを直している。
そういう考えにいたって、ユニがなぜ怪我しているのか、零断の右足に巻いてある包帯はどうしたのかと聞きたいことは多いがひとまず安心したのであった。
マサは近くに座っていた風雅を見るとバッチリと目があった。
風雅はマサに頷いて零断達にくっついて目を閉じた。
【寝てるわけじゃなさそうだけど…まぁ安心してってことだよね。】
そう考えると「よしっ!」と気合を入れて朝ごはんの準備を始めた。
そして、少し経つとクロノ、チャマ、ムペ、ティアの順で起きてくる。
その全員(ティアは少し違うが)が零断とユニの寝ている姿に安堵して、零断とユニがいつ起きてもいいように色々と準備を始める。
朝ごはんを食べた後にはしっかりと朝練を洞窟の中でやる。その練習は今までのなんとなくやっておくというものではなく一人一人が強くなりたいと強い意志を持っているように見えた。
特にクロノは魔力の消耗だけではなく、体力の強化にも目をつけて洞窟の奥で飛び回っている。
零断の格好良さに火がついたみたいだ。もともとクロノは得意属性が同じということで他の人(ユニ除く)より多く面倒を見てもらっていた。
だからか少し気を許した頃くらいから練習に関しては人一倍熱心だった。それにさらに今回のことがあるので自分を限界まで追い込むだろう。
限界まで追い込むことで確実に強くはなれる。しかし、ハイリスクハイリターンな訳で体が壊れるという可能性もある。今の所しっかりとした治癒魔法が使えるのは誰もいなくて、時間をかけるなら零断、痛みや炎症を抑えるならチャマがいるが、限界まで追い込んで壊れた体はそんなものじゃ治りはしない。
そんなことは全く考えず、ただひたすら強くなるために練習を続けるクロノ。
『彼は…強くなりますね。確実に貴方がいなくなった子供達を戦力的な面でも支えられるようになる。いい子達を持ちましたね。』
ヴァルは零断とユニにしか聞こえない声で呟いた。しかし、零断もユニもぐっすりと寝ているのでその言葉は届くことはなかった。
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あたりが暗かった。全てが敵で全てを失ったような感覚になった。
私には…何も守れない…
心からそう思った。
憧れた人がいた。私と同じように1度は心が壊されたはずなのに、それでも挫けずに前え歩く人が。
私は昔…6歳の頃に奴隷となり、ずっと過ごしてきた。蹴られ、叩かれ、切られ…しかし、幼さならではの楽しみで耐えることはできた。
幼さならではのあの楽しみとは、友達と会うことである。朝から夜までずっと重労働などをさせられたが、寝る前だけは他の子達と一緒になっていた。
その友達…今は名前もおぼろげになってしまったが、確か…セフがいつも話しかけてきてくれて癒されたのを覚えている。
セフとは捕まってから数週間語に出会った。同じようにつれてこられたようだった。牢屋の決まりで過去は聞かないということになっている。過去を聞いたところで何かできるわけでもないからだ。悲しくなるだけである。
そういう理由で過去は聞かなかったが、ラフは牢屋に来たとしても元気だった。
なぜそんなに元気でいられるの?
って聞いたら
悲しんでもしょうがないよ!もっといいことを考えないと!
って言われた。
今、悲しまないほうがいいのか…良いこと…そんなものはない。何もなくなった…もう…前に進めないよ…
牢屋の中で私とセフはいろいろなことをした。下の土を少しずつ集めておままごとをしたり、自分たちを助けてくれるイケメンな勇者様の夢を語ったり…
辛い中でも楽しかった。鹿野の中であった人の中で一番仲良くなった。
しかし、別れは唐突に起こってしまう。
私たちが隠していた泥団子が見つかり、2人とも拷問台に立たされた。
私は泣いていた。死にたくない…!と。
しかし、ラフは泣いていなかった。私に
最後までこの世界を見ていようよ。
といった。
そして、先にラフが殺された。まず舌を引き抜く。それだけで声が出なくなり、次に右足、左足、右腕、左腕。
そして最後に首を断ち切られた。
断ち切られた後も骨や筋肉ごとに分解され、ただの肉塊に変わっていった。
そして私は壊れた。
もう、何も考えられなくなった。
感情をなくした。
そこから数年は何があったかなんて全く覚えていない。なぜ生きていたのかも何をしたのかも。他の子達がどこにいったのかも。
そして、別の場所に移された。
そこからは不思議な現象が起きた。
傷はすべて治癒魔法で回復され、相当な量のご飯が毎週牢屋の中に置かれた。先客の話だと一週間この量で暮らすらしい。それにしても多い。
そして、こちらでは泥で何を作ろうがどんなことをしようが何とも言われなかった。本当に天国かと思うほどであった。労働もなく、毎日休んでいれば1日が終わる。
すると、何人かあたらしく牢屋に入ってくる人もいるし、いなくなる人もいる。
そして、3年後。13歳になった頃から人が増えることも減ることもなくなった。
その中で一番古参で静かなユニがみんなをまとめることになった。
そして、その1年間は革命的だった。今まで壊れていた心がまた組み合わさっていくような感覚になった。ラフと一緒にいる時と同じくらい楽しかった。
けど
守れなかった。
なのに…
なんで……
こんなにも暖かいの?
私は守れなかったのに。
あの憧れの人と…大好きな人を殺されてしまったのに。
なんで…なんで…!
その答えは突然だった。
何かが口に触れた後、心の底から炎が灯し出したかのようだった。
そのともし火で暗かった世界が明るく染まった。
目を開けるとあの人がいた。
「起きたか?眠り姫さん。」
涙が溢れ出て来た。彼は死んでいなかった。
見渡すようにいわれて周りを見ると誰1人として死んではいなかった。
「ほら。みんな生きてる。だから、あとは俺に任せな。」
声が出たかわからなかった。けど、零断さんは頷いてくれた。そして、また目を閉じる。
閉じると周りが暗くなる。今までは怖かったはずなのに今は不思議と心地よく感じた。
暗い世界は暖かかった。
お腹に何か感覚がある。
不思議と思い目を開けると服の下に私ではない人の手が入っていることに気づいた。
ああ、やっぱり夢か。みんなはもう…
起きた後にそうなることは予想していたので辛くはなかった。
私のお腹を触ってる人の顔を見てみると…
「っ、!?!?れ、れ、…へ?」
言葉にならない声が出る。なぜかというとそれは零断さんだったからだ。
「ああ…そういうことか。これも夢なのか……夢…ならいいよね?」
私は零断さんの手を外して体の方向を変える。
向かい合う形にして零断さんの顔を両手で挟む。
そしたら零断さんがうっすらと目を開けた。ふふ。可愛いなぁ。
そう思いながら私は零断さんの口にキスをした。
「つ、!?!?」
「「「「あーーーーー!!!!」」」」
零断さんが驚いた表情になる。ああ!本当に可愛いなぁー!もっと零断さんを見ていたいなぁ〜!後ろから声が聞こえて来たけど、ま、いっか。
私はさらに下を突き出して零断さんの唇をこじ開ける。
ふふ。すごい慌ててる。けど、今のうちに零断さんのことを味わいたいから容赦しないよ!
私は舌をかけまわす。すると零断さんも動かし始めた。ついでに私を抱きしめてくれた。
もう嬉しすぎて死んじゃう…!
どのくらいキスをしたかわからないけど、自然に2人の唇が離れた。
私たちの間に銀色の線ができた。
私は零断さんをみる。零断さんも私を見てる。
は、恥ずかしい…!つい目をそらしちゃった!
私が目をそらすと零断さんは私の頬を両手で挟んだ。
「こら。目をそらすな。」
卑怯だ!そんなこと言われたらそらせなくなっちゃうよ!
わたしと零断さんは見つめ合う。
ああ…夢なのにすごいリアル…すごいかっこいいよぉ〜
すると零断さんはわたしのことを抱きしめてくれた。暖かいなぁずっと抱きしめられたいなぁ
「よかった。無事で。あとありがとう。みんなを守ってくれて。」
「ふぇ?」
みんなを守ってくれて?夢って凄いなぁしっかりと現実と合わせてくるなんて。
「みんなを見てみろ。ほら。生きてるから。ユニが守ったんだ。俺のことも守ってくれた。感謝しかないよ。」
「え?だってこれは夢じゃ…?」
少し待って…嘘?本当?えっ、!
「何言ってんだよ。これは現実だ。そうじゃないと俺がユニのキスに応じるわけないだろ?」
「ふぇぅ?え?本当に?いや、なら夢かな?零断さんわたしの妄想の中では凄い積極的だし…」
「…なぁ、ユニさん。俺のことどんな目で見てるの?」
「すごくカッコよくて、助けてくれて、仲間思いで、すごく強くて、憧れで…でも本当は、脆い人…」
そう。零断さんは脆い。強いように見えるがそういうわけではないのだ。
わたしは零断と2人きりの時に涼音さんのことなどをいろいろ教えてもらった。だからわかる。零断さんは脆いのだ。他は頑丈でも弱点を突かれるだけで壊れてしまうほどに脆いのだ。
「そう。だからユニは俺を裏切らないでくれよ?俺はユニの気持ちに応えると決めたんだから。」
「え?」
零断さんが抱きしめて…!凄い安心する。
「あ、あれ?なんでだろう?涙が…」
「その涙なんていくらでも流していい。それは悲しみの涙じゃなくて嬉しみの涙だからな。いくらでも胸は貸してやるよ。」
「う…れ、零断ざん…!うぅ、!!」
「ユニは頑張った。これは誰にでも誇っていいことだ。その気持ちで長年覚醒していなかった妖精を呼び起こし、使い慣れないその力でみんなを守ったんだ。」
「ありがどう…ございまず…、!」
零断さんは私がある程度収まるまで待っていてくれた。そして、
「だから、しっかりと答えてくれ。ユニが大切な人は誰だ?」
そんなの決まってるじゃないですか…!もう。
「それは……マサ、ティア、クロノ、チャマ、そしてムペです。」
零断さんは微笑んでくれた。これからいうことがわかるのかな?
「大切なんてものじゃない…愛している人が、長谷 零断!あなたです!」
私は我慢ができずに飛びついてしまった。けど、零断さんはしっかりと受け止めてくれる。
え?なんで遠ざけ…、!
「ん、ちゅ、んん!」
キスなんて…しかも零断さんからっ!
「不意打ちはびっくりしていいだろ?」
「ただただ心臓に悪いだけですよ。あの…もう一回…んっ!」
今日の零断さん優しいし少し話すようになったな。
「みんなもいるしこれでおしまいな。あと、ユニはあと数日は俺の膝の上ね。」
「え?それは流石に恥ずかしいですよ…?」
流石に膝の上は…
「いや、これはそういう意味じゃない。ユニ、自分の腹を見てみろ。」
腹?
「あっ、!」
「まだ切り傷が残ってるだろ?ユニが起きた時にお腹を触ってたのはそのためだ。女性に傷なんて似合わないだろ?」
じょ、女性だなんて…!本当に零断さんが優しくなったなぁ
「というわけだ。」
「ふぁっ!」
すると零断さんは私のお腹を触ってきた!まだて!恥ずかしいよ!
「ん、ふぅ、…ん!」
ああ…変な声が…
「ユニ。期待してるのかもしれないが、これ以上は来年な。まだユニは14歳で結婚できないだろ?」
「え、そ、そんな…期待なんて…して…ないわけじゃないけど…」
ああ!そんなこと言うなぁ!私の口ぃ!
「ま、お預けだな。受け入れるといってもそういうところは守るからな?」
「うぅ〜…」
と言いながらも私は零断さんの手を上に上げてみる。そこには女性ならではの膨らみが!そして零断さんはそれを…!
「痛っ!もう!零断さんチョップやめてください!」
「お前が変なことしようとしたからだろ?」
「むぅ…私の誕生日当日に零断さんのこと襲いますからね!」
「おう。こいや。正々堂々と受けてたってやる。」
「…それは私が一方的にやられるパターンでは?」
「そうとも言う。」
「私がやりたいです!」
「相手が悪かったな。」
「むぅ…いや、違う。あと半年ある。あと半年でどれだけ作戦を立てて襲えるかが1番の鍵だよね。よし!目標ができた!」
「変な目標だな…まぁいいけど。」
その言葉とともに変えた表情の零断さんは今までで1番心にドキッとくる微笑みだった。