世界についてと自分の気持ち
『まず、この世界には三強魔がいます。それは、“神”、“鬼”、そして、零断さんの“龍”です。』
この世界の説明ということでヴァルが最初に切り出した言葉がこれだった。
「神が魔なのか?」
『どういうことですか?』
「神って神聖で世界を作った奴だろう?なら、そいつは魔なんてものじゃないんじゃないか?」
零断は異世界ファンタジーのテンプレのことを言う。しかし、ヴァルはそれを否定する。
『いえ、神も魔法を使います。さらに、魔は悪いものではなりません。そして、神はこの世界を作ったわけではありませんよ。』
「え、まじで?なら、魔人は悪いやつではないってこと?」
聞いたテンプレが全て外れて驚く零断。魔人は味方と敵どっちもよくあるのでとりあえずどちらなのかを聞く。
『魔人は2つに分かれています。まぁ、魔人は一度置いておきましょう。後で詳細に話します。』
「わかった。それで、三強魔についてだっけ?」
2つに分かれているというテンプレから一歩ずれている回答を得た零断はヴァルの言う通りに話を戻す。
『そうですね。まず、三強魔の神から説明しましょう。
神というのは人間側の強魔です。そして、魔物側である鬼が暴走した時などに力を出します。』
「神は人間側、鬼は魔物側か…」
『はい。そして、神に力を与えるのは選ばれた人間です。それは、神の眷属と言われる妖精を扱うものたち。つまり、ユニのような妖精使いか、子供達の精霊使いですね。』
「へぇ…ユニ達は神に選ばれしものなのか。龍の眷属…っていうのかな…まぁ、俺と一緒にいてもいいのか?」
『はい。これも後から話しますが、いつも中立にいた龍は今は神側についていますので。』
「へぇ…話を折ったな。それで?」
『人間は神に選ばれし妖精使いと精霊使いを生贄に捧げて神に力を与えています。』
「つまり、ユニ達は生贄に捧げるべき存在だと?」
少し脅すような声を出す。もし肯定されたら全力でユニを守るために。しかし、その心配は無用だった。
『いえ、逆ですね。』
「逆?どういうことだ?」
『神は妖精使いを生贄に捧げられることで力を得ますが、実際は妖精使いが強くなった方が力を得やすいのです。具体的にいうと、ユニが私を呼び出した時点で神は20人分の生贄の力を得ています。』
零断は少し驚きながらも質問する。
「つまり、この世界の人達は本当はどうすればいいのかをわかっていないと?」
『そういうことになります。確かに、覚醒しない可能性も大きいので生贄に回した方が安定して力を得られますが、その可能性を潰すということになりますからね。この世界の大昔の人間は安定を求めたようですね。』
「人の命をなんとも思ってない馬鹿が考えることだな。」
昔の人は相当馬鹿だと零断は思う。
『そうですね。次に鬼の説明をします。鬼は強魔の中で一番数が多いです。簡単に言えば質より数という感じでしょうか。』
「スカルプは鬼だろうな。と考えるとあの強さのが多くいるのか…厄介だな。」
スカルプは元最前線だから強いということもあったのだろうが、確かに厄介である。
『いえ、基本鬼は魔物に取り付きます。人間に取り付くなどほとんどないと言っても過言ではありません。』
魔物なら魔物で相当厄介だと思いながらも考えを伝える。
「スカルプは異世界人だ。それが理由だろ。スカルプに会う前に自分自身が魔物になった異世界人を見たからな。」
『それは…もし、そうだとしたら異世界人は全員強力な力を持っていると考えた方がいいのでしょうか…』
「だろうな。おそらくこちらに来た異世界人は200人超えているだろうな。しかも全員腕は折り紙つきだ。」
『それはどういう理由でわかるのですか?』
「今までであった異世界人が俺含めて全員、こちらの世界にある“ゲーム”というものをやっている人なんだ。そして、そのゲームの中で最上位にいる奴がこちらに来ている。まぁ強さは偶然かもしれないが、“ゲーム”をやっていた人というのは確実だろうな。」
『そうですか…因みに零断はどのくらい強かったのですか?』
ヴァルの前で圧倒的な強さを見せた零断の強さを知りたいのは当然のことである。
「…そのゲームの中だったらトップテンには入ると思う。けど、その強さが魔法の強さなのか、剣の技術なのか、打たれ強さなのかとか、色々あるだろ?そして、俺の本職は暗殺者だ。アタッカーとしてならば一番と言いたいかな。」
『そんなに強かったのですか…』
ユニの未熟さとはいえ、覚醒した妖精使いを倒した人より圧倒的に強いと本人から言われ、驚くヴァル。
零断はそれに対してさらに追い討ちをかける。
「俺らはある2人と出会ってから強くなったんだけど、その2人に会う前はスカルプがいるパーティが最強って言われてたんだよね。」
『つまり、あなた方が出会ってからは変わったと?』
「ああ。2人…まぁ、俺の彼女と親友と出会ってから、スカルプ達をすぐに追い抜いて俺らが一番強いと言われた。おそらくそれが原因でスカルプ達の実力はどんどん落ちて行ったんだよ。」
『つまり、あの鬼がいるパーティを3人で抜き去ったと?』
「ああ。ちなみにパーティは6人だよ。実際あいつらはあまり強くなかったんだけどね。」
『あれが強くない…ですか…あなたとユニの差がこれ程あるとは…』
ヴァルは唖然としながらある意味納得する。
実際には零断とスカルプの戦いを見てはいないが、ほんの数分という短時間で鬼を倒す零断の実力は考えればすぐにわかることだった。
「いや、ユニは成長株だ。すぐに強くなれると思うよ。」
『そうですか。ありがとうございます。』
主人であるユニが圧倒的な実力を持つ零断に褒められたことで自分のことのように嬉しくなるヴァル。
「さて、相変わらず何度も何度も話が逸れるが、次は龍でいいか?」
『そうですね。龍というのは魔物でもあり、人間に宿る強魔です。』
「宿る…つまり、今の俺みたいな感じか…」
『まさにそうですね。認めた人間に宿り、その者と成長を共にする。そして、完璧な相性で龍を受け入れられる器ができたら、』
「龍化する…というわけか。」
零断は龍化した右足を見る。龍化したせいでいつの間にか靴や靴下は敗れ去っていた。
今の零断の右足は白と藍色を混ぜたような不思議な色で鱗に囲われていた。
それを見たヴァルはまたもや唖然とする。
『まさか!もう龍化したのですか?!?!』
今まで冷静な雰囲気を出していたのにいきなり雰囲気が変わって少し驚くが平然と言葉を返す。
「いや、右足だけな。龍化しないと毒が回って死んでたからね。」
『それでも…龍化するほど適正があるなんて…何千年ぶりか…』
過去に波動以外の龍を宿した人が活躍したことは大昔に何度かあるが、波動の龍を宿して龍化したのは零断が最初か2番目と言ってもいいだろう。それに大きなリアクションを見せるヴァル。
「龍は波動のこいつだけじゃないんだろ?他に何がいるんだ?」
『そ、そうですね…龍は特異龍と属性龍がそれぞれ5体ずつ存在します。それと、よくいる竜は属性竜の眷属と言われていて、属性竜は特異竜の眷属と言われています。』
前提から説明を始めるヴァル。零断はなるべく話を折らないようにする…が、それは零断には無理なようだ。
「俺は…特異竜なのか?」
『はい。そうですね。特異竜とはそれぞれ特別な力を持っています。』
『ひとつ目は“波動”
魔法という力が常識の中、魔法ではない力。魔法と対なる力です。』
『2つ目は“断絶”
全てを断ち切る力。これと対等に戦えるのは3つ目の能力のみ。』
『そして3つ目は“絶凍”
絶対に断ち切ることができない凍。これと対等に戦えるのは斬鉄のみ。そして、物を凍らすことができるひとつだけの能力。』
『4つ目は“暗黒”
波動とも魔法とも違う不思議な力。波動は魔法が広がらなかったら常識の力となっていた可能性があるが、暗黒はそれがない暗き力。』
『最後は“魔術”
魔法の祖先。3つの特別な力の中で世界に広がった力。この世界の全ての魔法を使え、さらに魔法を超えた魔術も使える。』
『この5つが特異龍になります。貴方様は波動の力を持っていますよね?』
「ああ。つまり、こいつは特異龍な訳か。」
零断は自分の胸をコンコンと叩く。
『神職はそれぞれ
“波動者”
“断絶者”
“絶凍の魔女”
“暗黒者”
“魔術使い”
となっています。絶凍の龍だけは龍の意思により女しか選ばれません。』
「絶凍の魔女…断絶者…」
零断はその言葉を聞いた時につい2人を思い浮かべてしまった。
【氷と剣って涼音と慎慈だろ。もしかしたら2人はこの2つになってるかもな。ま、200人も転移されたし、それ以前にこの世界の人という可能性もあるからおそらくないと思うがな。】
『どうかしましたか?』
零断が突然黙り込んだのでヴァルが話しかける。
零断は手をヒラヒラしながらなんでもないと伝え、話を変える。
「それで、今は神と龍が仲間になってるっていうのは?」
『少し前ですね。貴方様方がきた嵐が起こった理由とつながる出来事が起きました。
1人の神が鬼の王を従えたのです。』
「それは…その鬼を宿した人間が神を宿した人間に従うことになったということか?」
『そうなります。従えた神は人間の領域を突破して不老な存在になった者で大昔から密かに暮らしています。鬼の王は最近力を発揮できるようになったばっかりで万全ではなかったと思います。しかし、1人の神だけで鬼の王を倒すのはほとんど不可能と言っても過言ではないです。』
「けど、いいことなんじゃないのか?神と鬼が仲良くなったんだろ?」
ヴァルは首を横に振り、さらに深刻な顔をする。
『いいえ。仲良くなったのではないです。逆ですね。鬼が神の力を与えられることになったのです。』
「は?どういうことだ?」
鬼が神に従うのに何故神の力が鬼に渡るのか。
「あ…そういうことか…」
零断は聞いて起きながら自分で答えを導き出した。
『おそらく考えていることであっているかと。その鬼を従えた神は敵となったのです。その神は自分を三強魔を従えるためにまず鬼の王を従えたのですから。』
「そんなことになったら世界が混乱する。だから龍は神側についた。そして、自分と適正のある人材を求めて異世界から人を呼び寄せた。というわけか。」
『実際異世界から読んだ理由はそうじゃないかもしれません。鬼がのり移れる良い人材を求めて呼び寄せ、その中に偶然貴方様のような龍の適性を持った者がいたというだけかもしれません。しかし、いずれ世界が危機に陥るかもしれないというのは確実かと。』
「そうか…正直なことを言ってもいいかな?」
零断は世界が危機ということを聞いて数秒で自分の気持ちを整える。
ヴァルは頷いて続きを促す。
零断は【テンプレに入ったなぁ】とは思いながらも自分の気持ちを述べる。
「俺は龍に選ばれた人だ。だから世界を元に戻す。
………なんてことは言わない。言えるわけがない。
…俺はこの世界に来て自分が一番大切にしてるものに気づいた。
それは自分の幸せだ。
俺の幸せは好きな人と一緒にいること。
そして、俺の幸せは好きな人の幸せなんだ。
俺が好きになった人と両想いになって愛し合いながらずっと一緒に生きていく。それがしたいだけなんだ。
もう、2回もその幸せは失われたんだ…
だから、俺は俺の幸せのために行動する。その幸せを得るために世界を正す必要があるならば……やってやろうじゃないか。」
零断は神の眷属であるヴァルに対してそう言い放った。ヴァルにとっては衝撃だろう。龍に選ばれた人が世界のために行動するつもりはないと言っているのだから。
【怒らせたかな?】
と思い顔をのぞいてみると
『ふふふ…幸せのために。ですか。やっぱり少し変わってますね。いえ、だからこそ選ばれたのかもしれませんね。』
「…それは褒めてるの?」
『ええ。もちろんです。』
顔をニヤつかせて笑っていたので少し引く。そして、褒めてるのかけなしているのかわからないことを言われる。
なんで怒らないんだろう、とは思いながらも面倒なことがなくなって良かった、とも思う零断。
するとヴァルの方が聞いてきた。
『なぜ怒らないのか?と思ってますか?』
「ああ。お前にとっては大事なことだろ?」
『そうですね。けど、順番を勘違いしていると思いますよ。私にとっての一番はユニですから。』
「…さすが気持ちの妖精。欲望のままだな。」
皮肉っぽくいうと褒められたからのように笑みを浮かべる。
『そうです。私はユニのために動きますから。そう考えたら普通だと思いますよ?ユニは今“龍に愛された神の眷属”ですから。』
「“龍に愛された神の眷属”か。ははは、確かにこの上ないほどいい立場だな。」
『ここで貴方様に言ったとしてもユニの邪魔になるだけ。さらにユニは貴方様に愛され、貴方様のことを好きです。ならば私にとってはこの状況が変化しないようにするのが一番でしょう。』
「確かに…ああ。そしたらもし俺がさらに好きな人ができたら?…というか俺は今その好きな人を探してるんだけどな…」
零断的には嬉しいがユニにとっては嫌かもしれない。そう思って聞いてみたが、
『それはユニも知ってますよ。逆に嬉しいんじゃないですか?貴方様のことを好きな人が増えるので。』
「……そういうものか?独占欲とかないの?」
『そういうものですよ。独占用はあると思いますが、それ以上に“自分が好きになった相手は他の人にも愛されるほど優秀”というのが大事ですから。』
零断はこの世界が一夫多妻の理由がわかったような気がした。
確かにそう考えるなら一夫多妻は普通だと。
ならハーレムも…と考えたが、ヴァルが先に釘をさす。
『しかし、本当に好きじゃないと認めないと思いますよ。そちらの世界は一夫一妻ですが、下手したら感情面ではこちらの方が強い可能性もあります。下手な夫婦より愛し合ってますから。』
「つまり、生妻が認めればその人は相手のことを愛しているということか。…夫に判断する権利はなさそうだ…」
『まぁそうですね。…確か涼音さんですよね。彼女のことは今でも好きですか?』
「ああ。すまないがここは断言するよ。あいつのことは俺は一番好きだから。ユニや……セリアよりも。」
『そうですか。まぁ、先に好きな人がいる人を好きになったのでユニもある程度は覚悟しているでしょう。こっちが本題ですが、涼音さんは一夫多妻のことを認めていますか?』
「…それ、俺に聞くの?」
『聞く相手が貴方様しかいませんので。』
「そっか…というかそうだよな…うーん。」
零断は昔の会話を思い出してみる。
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「一夫多妻かぁ〜もしそれが実際にあって俺が涼音と同じくらいか少ししたくらいの人で好きな人ができたらどうする?」
「どうしたの?唐突に。」
「いや、なんとなく聴きたくなってさ。涼音はどう思うのかなぁって。」
「まぁ零断はそういう確率高い気がするなぁ〜一定以上貴方と近づけばほとんど恋愛感情と言えるようになるからね。」
「それが俺の性格だから…すまん。」
「ううん。それがいいところだから良いのよ。それにしても一夫多妻だったらかぁ〜。まぁ、零断に任せるかな。」
「そうしたら自分が心配になるよ。なんか手を出しそう。」
「大丈夫。無意味に手を出そうとするなら私が体を差し出すから。そういうことをするのが一歩目になっちゃうからね。」
「なんか俺の評価そこに関しては低めだよな…まぁ事実だからしょうがない気もするが。」
「だって零断、前に火憐ちゃんに攻められてギリギリだったじゃない。」
「うぐっ。あ、あれはしょうがなくね?俺もあいつに騙されて酒飲まされてあいつも酒飲んでたんだし。」
「本当に危なかったわね。私が電話してなかったら既成事実作られてたわよ。」
「火憐のことだから本当のダメなところの一歩手前で止めると思うけどな。」
「で、そこから泥関係になるんでしょ?」
「……否定できません。」
「とりあえず、無駄に手は出さない!相手が認めて自分が認めて私も認めそうな人だったら良いわよ。けど、必ず紹介しなさいよ?」
「当然!ま、結果的に自分から行くことはないだろうけどな。攻められたら受けちゃうかもだけど。」
「自分から行かなければ良いわよ。それじゃもうこれでこの話終わり!さぁ勉強しないとGFOできなくなるわよ。」
「涼音先生お願いします。」
「それじゃ、やろっか。」
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「ま、大丈夫なんじゃね?ユニなら。だけどね。」
『そうですか。それなら安心です。貴方様の生妻と仲が悪くなったら困りますから。』
「多分すぐ仲良くなるだろうなぁ。お、風雅が帰ってきたな。」
零断は話し始める直前に風雅を周りの偵察に送り出していた。
『本当ですね。なら、お休みになられますか?』
「ああ。そうさせてもらおうかな。ユニもある程度は治療終わったし。俺と触れていれば開くことはないから。」
『わかりました。もしユニが起きたのなら離れないように伝えて起きます。他の子供たちが起きたら…』
「クラウド。頼んだ。」
今まで零断とヴァルの会話を静かに聞いていたクラウドに零断は話しかける。
『任されました。洞窟を出ないようにと伝え、前までと同じように生活させます。』
「よろしくな。あと風雅、もう見回りは行かなくて良いからな。何かが来た時に確実に倒せるようにしといて。」
「オン!」
零断は伝えたいことを伝え終わると静かに目を閉じた。