眠り姫を起こしに
意識がほんの少しずつ覚醒していく。
体も、魔力も、全て何も動かない状態でなぜか瞳だけが開けられた。
これが金縛りというやつなのだろうか。金縛りは人間なら誰でも起こることなのであまり気にしない。
……やけに意識がしっかりしている。
確か、俺は龍の侵食を受けて、体の一部が龍になった。
なんでだっけ?
そう。毒を受けた。なんで毒を受けたんだ?
そうだ…みんなを助けるためだっ!
聴覚が覚醒し始める。視覚は完璧に覚醒した。
そして、俺が見たのは……
ユニが胸から切り裂かれているところだった。
それを見た瞬間、様々な感情が爆発した。
怒り、悲しみ、焦り、呆れ……
見た瞬間には体が全て覚醒して動いていた。
ユニを切った男…スカルプだ。
スカルプはニヤリとした顔で倒れてるユニにとどめを刺そうとしている。
そんなことさせるか。絶対にっ!
足に力を入れる。しかし、なぜか立ち上がれない。なぜだ?すると、龍の声が聞こえた。
《主は恵まれているのだな。一番器ができている場所に侵食された。その場所は筋肉ではなく…》
波動で動かすんだっ!
今まで力を入れていた右足に波動を練りこませる。
すると、今まで感じたことないほどの力を感じた。
ここまででユニにスカルプは剣を下ろそうとしていた。
右足で全力で力を入れる。
……何故だろう。ここまでの動きがすべて遅く感じる。
実際には1秒たってるかたってないか位のはずなのに。
まぁ侵食…面倒臭いから龍化でいいか。
その龍化のせいだろうけどな。
まぁ今は好都合だ。この時間を使って一番いい方法を見つけ出す。
ほんの数瞬で何通りもの方法を思いついたが、やるのはこれだな。
「“ムーブ”、“ブースト”」
身体強化とエレキトルムーブを使って速度を上げ、スカルプの方向にスライディングする。
スカルプの剣はもうユニの顔に当たりそうだった。
しかし、横から俺がユニを抱える。
そして、
「“バースト”!!」
と叫んでスカルプの足元を爆発させる。
その衝撃でユニを抱いた俺も後ろに吹っ飛び、直撃を受けたスカルプは体勢を崩す。
吹っ飛ばされた先でうまく着地してさらに追撃で波動弾を少し打つ。
その影響で体勢を崩したスカルプが体勢を立て直す時間を使ってユニの治療をする。
切り裂かれたユニの体の中にあるゴミを全て電気で浮き上げさせ、切り裂かれた筋肉を補強する。そして、皮膚も電気で繋ぎ、上から波動で抑える。
この一連の動きを一瞬でやり、ユニを強く抱きしめる。
「間に合った。良かった。ユニ…」
ユニは体をビクッと動かす。しかし、目は開かない。もしかしたら自分が死んでいると思ってるのかもしれない。
スカルプより先にユニをこの状態から復活させるべきだと考え、体勢を立て直したスカルプに大量の波動弾を放つ。これはこちらに来れないように多弾にしているだけで威力は殆どない。
しかし、その時間が大事だ。おそらくもうそろそろ帰ってくる相棒にこの後を任せればいいのだから。
だから、俺はユニの復活に力を尽くす。
「ユニ、俺だよ。零断だ。死んでない。お前も、俺も。」
そう耳元で囁く。
「れ、だん…さん?」
やっと喋った。
「ああ。そうだ。だから安心しろ。」
ユニの頭を撫でる。
「でも…私は…もう…」
どうしようか。これでも無理か。スカルプがこっちに向かってくる。今だ。やれっ!風雅!
そう思った瞬間にスカルプの体は吹き飛んでいた。
そして、元々いた位置にいるのは風雅だ。
《少し遅いぞ。なぜユニ達を見てなかった?》
叱るように言うと風雅は ク〜ン… と申し訳なさそうに鳴いた。
《まぁ、後でだな。今はあいつを頼むぞ。ユニを正気に戻らせたら交代だ。》
風雅はウォンと軽く吠えて吹き飛んだスカルプの方向へ向かった。
ユニに戻ろう。未だ抱きしめているユニは体を震わせていた。目には涙が見える。
こりゃ相当にやられてるな。俺と言う証拠をしっかりと感じさせないといけないな。
俺は波動をユニと俺を囲うように発生させる。
「ユニ。お前ならわかるだろ?俺の波動だ。大丈夫だ。誰もユニを責めることはしない。逆に感謝するんだ。」
「ちが…ぅ…みん…な守れ…った…」
「守れているさ。今俺が生きてるし、マサもムペもティアもクロノもチャマも全員生きてる。」
「だって…ころさ…て…」
だめか…仕方がない。やるか。
俺はユニに顔を上げさせ、その顔に自分の顔を近づける。
「っ、!!」
ユニはその唇の感触に体を大きく震わせた。そして、うすらうすら目が開いていく。
「起きたか?眠りの姫さん。」
俺はユニを安心させるように軽い雰囲気で話しかける。
「れ…だんさん…生きてる…の?」
「ああ。生きてるさ。ユニのおかげでな。ユニがあいつと戦っていたおかげで起きれたよ。」
「私は…みんなを…守れた?」
「ああ。誰も死んでない。全員生きてるよ。」
ユニは目から大粒の涙を流して周りを見る。
横にクラウドを見つける。その隣には守りたかった子供達が寝ているのもみつけた。
「ほら。みんな生きてる。だから、安心しろ。あとは俺がやる。」
「う、うぅ……はい!よろしぐおねがいじます!」
ユニは泣きながらも俺にお願いをした。これを守らないで男は名乗れないよな。
とりあえずユニを抱きしめて安心させる。
よし。息が安定してきた。まだ体はぼろぼろだからすぐに寝るだろうな。
数分後にユニから寝息が聞こえてきた。
それじゃあ、やりますか。
『ユニは私を任せてください。』
声が聞こえた方向を見ると、見覚えのない女性が立っていた。しかし、雰囲気でわかる。
「ユニの妖精だな?」
『はい。』
それはちょうどいいな。
「なら、少し任せた。すぐに終わらせてくる。」
『よろしくお願いします。』
俺は妖精にユニを渡す。
妖精は愛おしそうにユニを受け取り、こちらに強い意志を持った視線を向けてくる。
「安心しろ。あいつに負けることはない。一対一ならな。」
実際にはムペ…ギガンテスにやられた怪我が非常に響いていたのだが、別に今はこれでいいだろう。
妖精は強く頷いた。よし。鬼退治と行きますか。
「“ムーブ”」
風魔法によって入り口付近まで吹き飛ばされたスカルプと対面するために俺はライトニングムーブで移動した。
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零断がつくと、風雅が波動と風魔法でスカルプを翻弄していた。
零断は隠蔽を使って正体がバレないようにする。だが、風雅には零断の位置がわかる。
零断を感知すると風雅は振り落とされた剣を大きく弾く。
大きく弾くために少しためを使ったので風雅も動きが止まる。
しかし、もう風雅の役目は終わったのだ。
零断は大きく弾かれたスカルプの間合いに入って剣を振った。
しかし、零断の剣はスカルプに届かなかった。
スカルプに当たるスレスレで赤い障壁が発動されたのだ。
零断は大きく弾かれ、空中一回転して体勢を立て直す。
弾かれたのは零断だけではない。スカルプも弾かれたので同じように回転する。
一連の動作が終わった後に パリンッ と音を立てて宝石が落ちた。
【1回死を受け変わってくれるものか。まぁこんなものが何個もあるわけないから次で終わりだがな。】
零断はそう思い、すぐに決めるために魔力と波動を練る。
スカルプも同じように魔力を練る。
「“フルブースト”“オーラ”」
フルブーストは通常のブーストで使う魔力の5倍使ってさらに大幅に身体強化をする魔法だ。しかし、急激な強化のため、10分もしないうちに筋肉が悲鳴を上げ始め、だんだんと体に激痛が走るようになる。それに耐えて続けるならば30分ほどできるが、その時に感じる痛みは想像を絶するものだろう。
普通は最終局面で使うべき技だ。
しかし、零断はこの戦いをすぐに終わらせてユニの元へ向かいたいのだ。無駄な時間はカットする。
フルブーストしたからにはすぐに戦いを終わらせなければいけない。
零断は距離を詰めると同時に龍化した足に波動を練りこませる。
スカルプは零断とほぼ同時に距離を詰めに来ていた。
今までだったら速いと思っていたかもしれないが、今はそんなことない。
スカルプは剣を振りかざしてくる。
零断はその剣を自分の剣で防いだ…いや、断ち切った。
零断の剣、コンヴィクスの効果だ。零断は今、怒っている。そして、安心という心もある。
コンヴィクスは感情が大きければ大きいほど硬く、鋭くなる。
零断の2つの大きな感情によってコンヴィクスは鉄すら力を入れなくても断ち切れるくらいには硬くなっているのだ。
そして、体勢を崩したスカルプの頭に右足で蹴りをいける。
その蹴りは龍の蹴り。それを耐えられるほど人間の首は硬くなかった。
スカルプの頭はとばされ、壁に埋もれる。体は支えがなくなったかのように崩れ落ちた。
「終わりだな。」
零断はそう呟くと外につながる道影から風雅が現れた。その先には残りの暗殺者の亡骸があった。
「お疲れ、風雅。」
風雅はグルゥと喉を震わせた。その様子は
当然!
と言っているようだ。
「だが、今回のはダメだぞ。結果的に助かったが、もしかしたら俺らが全員死んでたかもしれないからな。」
「クゥン…」
風雅は申し訳なさそうになく。その風雅の頭を撫でながら零断は話を締めくくる。
「まぁ、結果良ければ全て良しだな。もう同じ失敗をしなければいい。それだけだ。」
「ウォン!」
風雅への説教?が終わると零断は一息ついてフルブーストとオーラをやめる。
そして、ゴミ処理のために歩き出した一歩目に転んだ。
「うおっ!」
零断の体が地面に着く直前に風雅の風魔法で宙に浮く零断。そのまま風雅は零断を立たせる。
「これは…使いにくいな…」
零断が転んだ理由は簡単。足が龍化しているからだ。右足を動かそうとしたらいつもと全く感覚が違い、うまく歩けなかったのだ。
右と左で感覚が違うだけで相当集中力が必要なのに今は戦闘後である。そんな集中ができるわけがない。結果的に動かないで遺体の掃除をすることにした。
全員の遺体を波動の上に乗せる。そして、波動で洞窟の入り口よりもっと下降まで道を作る。
あとは水で流すだけ。血も全て波動で浮かせるため、残ることはない。程なくして血まみれだった洞窟は綺麗さっぱりになった。
その後、風雅の風魔法でユニの場所まで戻ると、ヴァルがユニを抱いて座っていた。
零断に気づくと安心した表情になり、立って零断へ向かって来た。
『討伐ありがとうございます。』
「いや、気にするな。俺がやりたかったことでもあるからな。」
『そうですか。ふふ。ユニが好きになる理由も少しわかる気がしますね。』
「好きって…まぁいいか。それでお前はなんなんだ?」
少し話してから零断が本題に入る。
『すみません、申し遅れました。私はヴァル。ユニの妖精です。』
「そこはわかってるさ。その後だ。なぜヴァルは覚醒したんだ?」
『それはこの世界の原理から話さなくてはならないので長くなりますよ?』
「大丈夫だ。今はユニの治療に専念したいからな。あと、こんなユニを子供達に見られたらどう暴走するかわからないし寝かせとく。クラウド、頼んだ。」
『はい。』
『わかりました。それでは、どこから話せばいいでしょうか…』
ヴァルの語りは零断の考えをはるかに上回る話だった。
大変お待たせいたしました。
これには深い深いわけが…(ありません)
先週更新せず、今週も遅れました…
来週からは通常に戻します。絶対に!!!