侵食
今日中に更新できた…良かったぁー!
ユニに剣が振り下ろされる。それをユニはかろうじて受け流す。しかし、すぐに返された剣が迫る。
スカルプの動きが理性的になってからユニは防戦一方だった。
何度も何度も繰り返される剣戟を避けてそらして受け止める。
実力差は歴然としていた。ユニは反撃のチャンスもなく、細かな傷が少しずつ増えていく。
《ユニ…っ!このままでは…!》
【…わか…って…るっ!!】
一瞬でも気を抜いたら殺される。そう言う状況なため、戦闘経験の浅いユニは守りながら考えると言うことができなかった。
ただただ守って守って守って…ただの時間稼ぎだった。
ユニはこのことだけは理解していた。
もう、絶対に勝てないと。
他のことを考えるために頭を使えば死ぬ。
ずっとこの防戦を続けていたら戦闘経験の少ない自分が集中を切らすか、体力が切れて死ぬ。
【だからって…諦めることなんて…できないよっ!!】
その気持ちをひたすらひたすら誓い続けてここまで耐えているのだ。
こう言う戦いの場合、少しでも変化があれば終わるのは一瞬である。
ユニは迫り来る剣をバックステップでかわして次の剣の動きを読もうとする。しかし、次の剣はこなかった。
スカルプは剣ではなく魔法を発動したのだ。
その魔法は相手の心に恐怖を感じさせる魔法。
対象の相手が傷ついていれば傷ついているほど圧倒的な恐怖を与えるのだ。
鬼人化をしたことで一定の魔法は無詠唱で発動できるようになったのかもしれない。
それを受けたユニは恐怖にかられ、体をブルリと震わせる。
そのユニに剣が下されようとする。
ユニは避けられなかった。
恐怖で体が動かなかったのだ。胸から腹にかけて骨に届くギリギリのところまで切り裂かれた。
もうユニには立ち上がることはできなかった。
恐怖で体が震え、痛みによって意識が朦朧とする。
心が折れてしまった。それによって装備していたヴァルは解除されてただの服を着たユニに戻ってしまった。
そのユニに残虐の目を向けたスカルプが歩み寄ってくる。
そしてそばに来て剣を振り上げる。
【いや…いやっ!こないで!やめてっ!】
恐怖に心を囚われているユニはヴァルを認めさせた心の強さは残っていなかった。
最後まで諦めず、思い続けた気持ちも消え去っていた。
そして、剣が振り遅される。
ユニはその剣をずっと見ていた。
時間が非常に遅く感じた。頭の中で今までの人生が頭の中に蘇ってきた。
まだ6歳にも満たない頃にユニは盗賊にさらわれた。
それより前のことは今では全く覚えていない。それ以降の記憶が強すぎるからだ。
毎日毎日鞭で叩かれ、気絶して死なない程度の水と食料しかもらえない。
だんだんと精神が病んで体が壊れていった。
そして、一度は狂ったこともあった。
檻の中で仲良くなった女の子がユニの目の前で殺されたのだ。全身を八つ裂きにされ、首を切り取られ、残ったのは人間の形をしていない肉塊と血だけだった。
これを見てユニは狂った。
いくら叩かれても痛くなくなり、食料も少ない量で十分になった。
そんな生活が変わったのは10歳の時、無理やり睡眠薬で眠らされた時だ。
謎の薬を出された時はついに処分されるんだなと思った。
しかし、目覚めたら別の牢屋だった。
そして、痛めつけられることがなくなった。傷だらけだった体は恐らく治癒魔法で全て消え去っていた。
新しい牢屋には先約が数人いた。
そして、その先約も1人ずつ連れていかれる。
そして、不定期に1人か2人ずつくらいが連れてこられた。
連れてこられた人は基本10歳以上だった。恐らく神職を勝手に見ているからだろう。
そして、本当に時々小さな子供がやってくることがあった。
合計5人。
マサ、ティア、ムペ、クロノ、チャマだ。
そして、その子供は全員零断に救われた。
それがなぜなのかはわからない。
しかし、その子供たちも家族を目の前で殺されたり、ひどいことをされていた。
そして、時間が経つに連れて壊れたユニの心がまた作り直され、みんなを思う心ができていった。
ユニはいつの間にかみんなのリーダーになっていた。
大きな嵐が去り、少し経ったら不思議な人に助けられた。
それを見た瞬間、ユニは自分と似てると思った。心が壊れかけていると。
不思議な人…零断は帝国へ連れていくといった。ユニはそれをすぐに承認する。
それは王国を離れたかったのもあったが、この人を放って置けないというのもあった。
そして、零断との旅が始まった。
まだ一ヶ月くらい。だが、この一ヶ月は今までの人生で一番幸せだった。
段々零断を意識し始め、みんなに茶化された。
あんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだった。
戦闘を経験した。
魔法を使った。
すごく、いろいろな経験をして今に至る。
ムペが暴走して、
零断さんをおいて逃げて、
暗殺者に見つかって、
ヴァルとあって話して、
初めて人と戦って、
初めて人を殺して、
そして…死ぬのだ。
そう思い返していると、勝手に口が動いた。
あの不思議な人は心を取り戻してきている。そして、また目の前で守りたいといった人が殺されるのだ。
だから、
「零断さん…ごめんなさい…」
ユニは目を瞑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…久しぶり、でもないか。波動。
《そうだな。我は常に主の中にいる。》
ま、俺にとっては久しぶりだ。今回出てきたのは…まぁ予想がつくがな。
《その予想どうりだろう。主はこのままだと死ぬ。》
だろうな。多分毒盛られたんだろうな。戦闘中は気づかなかったけど、洞窟に入ってからがきつかった。
それで、ただサヨナラを言いにきたわけじゃないんだよな?
《当然だ。主が死ねば我もまた長い眠りにつくことになるだろうからな。》
…ごめん。なるべく死なないようにしてたんだが、流石にきつかった。
《まだ死ぬわけではない。まぁ、主の決意次第だが。》
波動、お前ちょっとフレンドリーになったか?前はもうちょい硬かった気がするが。
《そうか?なら、我は無意識に主のことを認めてきているのだろう。》
そりゃ感謝だな。こんな失敗をしでかす奴のことを認めるなんてちょっと信じらんないけどな。
《今回は不幸が重なり合った結果だ。ここまで運が悪くなることなんて滅多いないだろう。》
そうだといいがな。それで、用件はなんだ?
《主は生きる方法があるとしたら、体が改造されたとしても生きることを選ぶか?》
…状況によるな。現状は絶対に生きることを選ぶ。子供達を助けないといけないし、涼音も見つけたいからな。
《ならばいいだろう。主の体を一部私が侵食する。》
それで生きられるならそれを受け入れるさ。副作用とかを教えてくれ。
《…案外あっさりと認めるのだな。さらに、今までと調子が違う。主の中で何か変化が起こったか?》
いや、あえていうならば元に戻ったというべきか。お前は俺がこの世界に来たときからずっと見ているんだろ?なら、俺の素の性格はわかるはずだ。
《今の主はそれに戻っていると?》
戻っているとは言えないな。あえていうならば元の性格から“根元から変わって”今、“同じように変わった”というべきかな。
似ているようで別物だよ。
《そうか…まぁいい。まず、どこに侵食するかは全くわからない。いうならば我の力を受け入れる器が一番小さな場所が侵食される。》
筋肉がないところ…ってわけじゃないよな。魔力の通り方から全てを計算して自動的にその場所を侵食するのか。
《そんなところだ。ちなみに頭や心臓には絶対に行かないだろう。常に運動を続けている場所は対応力も強い。侵食されるとしても最後だろう。そして、器ができていない状況で侵食されたら死ぬ。》
そりゃそうだろうな。いろんな条件とかもあるだろ?というか、実際、現在侵食されているだけで、実際器をしっかりと作って受け入れればいいんだろ?
《しっかりと器ができれば、な。それを作るのには数多くの修羅場や、途方も無いほどの訓練が必要だがな。》
その言葉は逆にやり遂げられる可能性が十分にあるということだろ?なら大丈夫だ。
《そうか。では、条件であったな。まずは侵食されたらどうなるかだな。
最初はどうもならない。皮膚が異常に固くなったり、もしかしたら鱗がある場所もあるかもしれないな。
しかし、その部分が広がるとだんだん動かしにくくなったり、力が入らなくなる。
理由は簡単だ。まだその部分が我の力が入らないからだ。簡単に言えば魔力があれば強力な魔法を放てる魔法具があるが、魔力が入らない状況だな。
侵食されると固くはなるが、鈍くなる。これは前提として覚えておくといい。
次に、タイムリミットだな。
これは主の努力次第だ。我の力を受け入れられるようになればなるほど侵食は収まる。
現在の主ならば3年の猶予がある。が、恐らく長引いていくだろうな。主が手を抜くとは思えんからな。
そして、最後に間に合わなかったら、だ。
全身が鱗に覆われて身動きができないほどまでの激痛が走る。終いには、頭からツノが生え、尻からは尻尾がでる。 その時の痛みは狂わない限り耐えられないだろう。といっても意識を失うこともできないのだがな。
その痛みを10年は味わうだろうな。全身が痛くなったらもう動けないから強くなることもできない。
よって、ここまで深刻になったら死を選ぶ方がいいだろう。
といっても全身鱗だから断ち切れるとは限らないがな。
まぁ、ざっとこんなものだ。》
予想以上に詳しく教えてくれたな。それじゃあ、早速頼む。
《そうだ。我が侵食するのはすぐだが、侵食した位置に毒を集め打ち消すのには時間がかかる。時間にして短くて12時間といったところか。》
それは長いな…できるだけ早く頼む。12時間もあったら見つかるかもしれないからな。
《分かった。なら始めるぞ。一時的に痛みが走るから我慢しろ。》
うっ、!ぐぅ!こ、れは!きつ、いな…、!ぐうぁぁあ!!!
はぁ…はぁ…はぁ…おわ、ったか…
全身にこんな…剣に切られたとかじゃなくて…体に直接くる痛みは…味わったこともない…
《侵食したのは…うむ。背中の肩甲骨あたりだろう。もしこのあたりが強くなれば翼が生えてくる可能性がある。しっかりと器ができていれば痛くない。まぁ善処しろ。》
それはひどいなっ!まぁしょうがない。あいつらを失いたくないんだ。
頼んだぞ。波動の龍!
《任せよ。》
零断は目を瞑って意識を落とした。