ユニの戦い
ユニが白い空間を出ると、そこはもう零断や子供たちが寝ている場所だった。
そこで起きているのはクラウドだけだ。
「この馬、君のだよね?消してくれないかな?君のために。」
「…………」
「だってそうじゃないとあの馬を殺しちゃうよ?それは嫌でしょ?」
「…………」
「最後の忠告。消してくれないかな?君を傷つけたくないんだ。」
ユニは思う。
【零断さんを殺そうとしてる時点で私を傷つけてる。】
そう思いながらもユニはクラウドを消す。スカルプはにこやかに微笑んでから視線で部下に命令する。
するとユニを捕まえている暗殺者が前に出てユニを離した。そして、腰に差していた短剣をユニに渡す。
「君の手でそいつを殺すんだ。そうすれば君は解放される。」
ユニは零断に近づいて胸に剣を立てる。これで下に力を入れれば零断は死ぬであろう。
【まぁ、そんなこと絶対にしないけどね。ヴァル。いける?】
《いつでも大丈夫です。ご存分に。》
「…我が妖精よ。その力を纏わせよ!妖精化!ヴァル!」
《はい。では、やりましょうか。》
ユニはスカルプ達には聞こえないような小さな声で詠唱し、ヴァルを呼ぶ。
するとユニの周りに光の球が現れ、その球がユニの体を包み込む。
スカルプ達はその状況を見ることしかできなかった。なぜならユニのような妖精使いによる妖精化はこの世界で不可能に近いことだからだ。
ユニがこれをできたのは、盗賊に捕まりながらも長い間生きることを諦めないで成長した心と、零断という特異な存在に直接色々教えてもらっていたからだろう。
そして、ユニの爆発するまでに高まった気持ちからだろう。
この中の1つでもかけていたらヴァルを認めさせることはできなかっただろう。それ以前にヴァルに会えていたかすら怪しいのだ。
その、奇跡といっても過言ではない状態のユニは、神のような神々しさを放っていた。
光の中ではヴァルが鎧となってユニに装着されていた。
まさに
『魔法少女にヘーンシン!』
のような状況だ。
魔法少女というより、魔法騎士だが。
そして、光が無くなると、神々しい存在感を持った、白銀の鎧を着たユニがそこにいた。
妖精化したユニはいつもより大人っぽくなった。
それはヴァルをまとっているからか、決意したからか。
ユニの瞳は力強い光を放っていた。
ユニは手に持っている短剣を今さっきまでユニを捕まえていた暗殺者の首に投擲する。そして、空間から白銀の槍を取り出してスカルプに迫る。
投擲された暗殺者は動くこともできずにそのまま絶命する。
スカルプは流石の判断能力でとっさに下がる。その直後に下がる前に隣にいた暗殺者が串刺しにされた。
その光景を見てやっと暗殺者達は動き始める。しかし、やはりまだ動揺しているのか動きは鈍い。
その隙を逃さずにユニはさらに2人を刺した。
「このクソガキがっ!」
スカルプも今までのユニに対しての口調ではなくなり、恐らく素である話し方に変わり、ユニに対して容赦がなくなる。
が、そんなことは全く気にせずユニは1人1人確実に殺していく。
【まずまず、零断さん以外に男の人に優しくされなくてもいいと思う。】
スカルプも何度かユニに攻撃をしようとしたが、全てうまく弾かれる。
ユニが1人に対してスカルプ達はユニが6人倒したにせよ15人ほどいる。ならば当然手数もスカルプ達の方が多い。しかし、ユニは基本槍とヴァルの妖精の盾を使って全てさばき、反撃して少しずつダメージを与えていっている。
【すごい…!相手の動きが全て見えるし、体が思った通りに動く!これがヴァルの力…!】
《心の成長は獲物を振るう迷いがなくなります。いついかなる時であれ、冷静に状況を判断できる力です。また、何かのためにやることは確実に力を生み出します。私はその気持ちが強ければ強いほど強い力を生み出します。》
【つまり、決して私の力ではないということだよね。】
《戦闘力自体はそうですね。しかし、その気持ちの強さはユニが自分で手に入れた力です。ならば、この強さはユニの力といってもいいと思います。》
【そっか。ありがと。それじゃ、存分に力を使わせてもらうね!】
《思う存分に。》
スカルプが突き出してきた剣を回転してかわしながら隣にいた暗殺者の首を断ち切る。そのまま流れながらもう1人の胸を突き刺す。
その動きについてこれる暗殺者は数人しかいない。
このままじゃ押し切られると思ったのかスカルプはその動きについてこれる暗殺者1人とついてこれない暗殺者に命令を下す。
「オージーっ!テメェは何人か連れてあのガキどもを殺せっ!」
「了解」
オージーと呼ばれた小柄ながら存在感を放つ暗殺者はちょっとついていけるかいけないかというやつを5人ほど連れて零断達が寝ているところに走る。その距離は20メートルほど。走れば数秒で着く距離だ。ユニは即座にクラウドを召喚する。そしてユニも零断達を守るために行こうとするが、それはスカルプによって阻まれる。
召喚されたクラウドは障壁を何重にも貼り重ねる。
まずまずクラウドは戦闘力は全くない。移動用の妖精なのだ。しかし、移動用の魔物や妖精の中ではトップクラスの性能を持つ。
故にどんな強力な魔法や魔剣技を受けたとしてもある程度は耐えられる力を持っている。
現在、クラウドがやるべきことは時間稼ぎだ。時間が経てばユニがこちらに駆けつけるか零断が起きるだろう。
【零断さんは起こさないようにしてっ!】
《わかりました。》
ユニがなぜこんな命令をするかというと、零断が寝ているのは恐らく波動と話しているからだと推測しているからだ。
前に寝ている間に波動と話したことは零断から聞いており、実際にヴァルと会ったことでその信憑性が増す。
今回も子供達はともかく、猛烈な殺気を浴びながらも起きないということはやはり波動と話している可能性が高いのだろうと推測したのだ。
ユニはスカルプの攻撃を逸らし、タイミングよく大きく飛び跳ねる。着地先はクラウドの障壁。もちろん中に入れる。流石に主も入れない障壁ではない。
そして、ユニは障壁内で着地すると、零断たちも襲った暗殺者達に向かっていく。
スカルプは貧弱な女だと思ってたユニに一本取られきれていた。そして、ユニを殺すために鬼人化を図る。
「テメェらっ!あのクソアマを逃がすなよっ!」
「「「はっ!」」」
暗殺者達は全員ユニが入った障壁を攻撃する。さすがにこの人数の攻撃を何度も受けていたら耐えられない。ユニは多少自分に攻撃が向くようにヒットアンドアウェイで少しずつ人数を減らしていく。
【あと…10人っ!】
何度目かのヒットアンドアウェイをしようと障壁の外に出た直後。今までとは格の違う殺気を感じた。
スカルプの鬼人化が終わったのだ。
暗殺者達は一斉に後ろに下がり、道を開ける。
「…これは…クラウドじゃキツイかな。」
鬼人化したスカルプの攻撃を一度でも障壁が受ければ粉々に砕け散るだろう。
【気配だけでわかる。今のあれは確実な格上。まともに攻撃を受けたら確実に負ける。多分、私じゃ勝てない…】
《そうですね。ユニにはまだ荷が重位でしょう。ふふ。》
【こんな状況なのによく笑えるなぁ。】
《だって、今ユニ笑っていますよ?》
【え?あれ?なんか頰が上がってる気がする…なんでだろ?】
《実はユニは戦闘狂なのかもしれませんね。意外です。》
【そのことについては後できっちり話をするけど、とりあえずこの状況どうすればいい?】
《正直殿方を起こすのが一番いいかと。殿方ならば確実に戦えるでしょうからね。しかし、現状起こすわけには行かないですからね。確実に話していますから。》
【だよね…まぁ、やれるだやってみようか。ヴァルよろしくね?】
《もちろんです。》
ユニがヴァルとの会話が終わったのとほぼ同じ瞬間にスカルプも動き始める。
スカルプはまず、力任せにユニを狙う。しかし、力任せなので当然どう振り下ろすかなどは目に見えているので危なげなくかわす。反撃としてユニは槍を軽く突き出す。
刺し出された槍は軽くスカルプを切り裂く。スカルプはまたも同じように剣を斜め上に斬りあげるが、それもユニは危なげなく回避。
それを3回ほど繰り返した。
そして4回目、同じようにスカルプは剣を振り下ろす。
ユニは同じように軽くかわして槍を引く。
そして……
ユニは大きく吹っ飛ばされた。
スカルプが剣を凄いスピードで返してきたからだ。
ユニはそれに瞬時に反応し、槍でガードするが勢いまで殺しきれない。
吹っ飛ばされたユニは洞窟の壁に足をつけて回転しながら体制を整える。
しかし、その先にはスカルプが剣を振りかざしていた。
ユニは盾を生成して衝撃に備える。
しかし、踏ん張りきれず背中を壁にぶつける。壁には大きなクレーターができていた。
ユニは壁から落ちて着地するが、足が耐えられず膝をついてしまう。
顔を上げると、そこには日本人らしい黒い目が血のような赤い目になり、体のいたるところに赤い血管が浮き出ているスカルプがいた。
その顔は人間らしく笑っていた。