え?10人?
本当にすみません…
爆睡してて起きたらこの時間でした…
その日は子供達は1人も起きなかった。
ユニは体力作りのために走っていた。隣には零断もいる。これはいずれ子供たちにもやらせるつもりの特訓だが、ユニは第一段階の精霊と仲良くするを後回しにしてもよかったのでまずは体力作りをしているのだ。
とは言ってももちろん数日前まで牢屋の中で運動もまともにやってなかったので体力があるはずもなく、すぐに疲れてしまう。それでもユニは走り続ける。零断の指示が『倒れるまで走れ』と言うものだからだ。
実際根性というものはすごい。山道を上下に10分走らないでもう無理と言っていたのにかれこれ1時間以上走っている。
「はぁ…はぁ…」
もう何かいう気力もないようで荒い息でひたすら走り続けている。
零断はそろそろ終わりにしないと身体が壊れることを知っている(地球での経験有り)ので声をかける。
「ユニ。そろそろ終わりにするぞ。よく走ったな。」
「は、はい!はぁ…はぁ…」
ユニは膝に手を置いて声を出しながら息をしている。それを見ている零断はユニの前に立って屈む。
「乗れ。とりあえず帰るぞ。」
「い、いえ。自分で…」
「いいから。」
「…わかりました。」
ユニは零断の背中に体重をかける。零断は振り向かないのでわからないが、ユニの顔は赤くなっていたりする。
零断は零断で背中に当たる柔らかい2つの感覚を無視することに精一杯だ。
微妙な沈黙の中、ユニが零断に話しかける。
「やっぱり零断さんは優しいですよね。」
「どうしたんだ?いきなり。」
「今そう思っただけです。みんなにも魔法教えてくれるしこういう訓練もしてくれて、しかも疲れたら背負ってくれるんですもん。」
「魔法を教えるのはお前らを助けたのに死んでもらっちゃ俺が無駄なことをしたことになるからだ。背負うのは……この感覚を味合うためだ。」
「…零断さん実は変態?」
「ご想像にお任せします。」
「うーん…どうだろうなぁ〜。多分私に対してしかやらないでしょ?」
「どうだろうなぁ〜」
「同じ言葉言わないでください!もうっ!零断さんやっぱり変態です!」
そんなことを言いながらもさらにギュッと抱きしめてくるユニに苦笑しながら話を続ける。
「変態な俺に背負われてる変態は誰だ?」
「私をさりげなく変態扱いしないでください!というか私、年頃の少女ですよ?ちょっとくらい思ってもいいじゃないですか!」
「中学生にはまだ早いぞ。」
「チュウガクセイ?それって何です?」
「あーいや。まぁ簡単にいうと12歳くらいから15歳くらいまで通う学校だよ。」
「それじゃあ卒業するときには結婚相手を見つける形ですかね。」
「いや、ないだろ…いや、この世界ならありえるのか…」
「この世界なら?零断さんがいたとこは違うんですか?」
「俺らは男が18から、女が16から結婚可能だけど、実際に結婚するのは早くて25くらいかなぁ。」
「25歳って…そんな遅かったらもうあまり相手いないんじゃ…」
「いや、逆に一番多いと言ってもいいかな。まぁ環境自体が違うから何とも言えないかな。」
「そう言えば零断さん何歳ですか?」
「俺は…何歳だろ?小1が6歳で…中1が12か。なら高2は…16歳かな?」
「意外と歳離れてないんですね私達。零断さんもう結婚できちゃいますもんね〜。」
「実際しようとしてたけどな。まぁそれは暗くなるから置いておこうか。」
「…すみません。」
「いや、気にしなくていいよ。今のは俺が自分から出したんだし。」
「…わかりました。そう言えば、確か零断さん人を探しているんですよね?それは零断さんの結婚相手だった人だったりするんですか?」
「結婚相手というか…何と言えばいいんだろうな。まぁ、このまま行けば確実に結婚してただろうな。ずっと仲良いし。」
「やっぱり零断さんモテモテですね〜!これは冒険者として知名度が上がれば10人くらいは行くんじゃないですかね〜。」
「何が10人?」
「え、妻ですよ。零断さんの実力ならSランクくらいなら余裕でしょうし、その相手と結婚したい冒険者は数多くいるらしいですもん。SSやSSSになれば貴族の女の子が嫁に来ることもあるらしいですよ。」
なぜ捕まってたのにそんなこと知ってるんだ…とも思いながらも素直に驚く零断。
「そうなのか。けど、10人もいらないな。多くて5人かな。1人でも十分。というか、元の世界なら1人だったし。」
「そんな1人に1人ずつだったら女性が圧倒的に余ってしまいますよ。」
「異世界の人口比は凄いもんだな。まぁ、こっちに来たならこっちのルールに従った方がいいよな。とりあえずユニをお嫁さんにするか。」
「ふぇっ!え、えと、それって告白っ!?!?ま、まだ私と零断さんあって数日なのに!ええっ!ふあー…」
「ユニ。冗談だ。戻ってこい。」
「え、冗談ですか?」
「ああ。」
「うう〜…年頃の女の子にそんな冗談はダメです!本気にしちゃうじゃないですか?」
「まずまずまだお前は14歳だ。結婚できないだろ。それに、本気にしたかったのか?」
「あ…えっと、それは…もう!零断さんの意地悪!」
そう言ってユニは顔を零断の肩に埋めた。そしてさらにギュッと抱きしめる。すると、ユニから寝息が聞こえて来た。
【意地悪な人を抱きしめるなよ…】
と、屁理屈らしきことを思いながらも零断は優しい顔をしてユニの頭を撫でる。
そして、護衛を風雅に任せている子供達の元へ帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日から1週間はずっと同じような調子だった。朝、魔力尽きるまでユニ以外は精霊と触れ合い、寝る。ユニは普通の魔法を零断に教えてもらい、魔力が尽きるまで練習する。そして寝る。
だいたい起きるのは昼で、ご飯を用意しておいて、ご飯を食べたらまた精霊と触れ合う。
ユニはランニングだ。
全く同じ感じで夜に起きて、精霊と触れ合って、ユニは普通の魔法を使う。そして寝る。
それの繰り返し。魔力を底まで使うと魔力最大量が最初の方は大幅に上がる。さらに、全員幼いので物覚えも早い。全員どんどん成長していった。
そして今日。1週間ぶりの山登りの日。クロノはライトニングムーブを短時間だけ(10分ほど)なら使えるようになった。
しかし、10分じゃ実際使い物にはならないので今回もクラウドの上だ。
「来週までには長い時間使えるようにしてみますよ。」
「今までずっとライトニングムーブの魔法をお願いしてきたのか?」
「ええ。まだ僕達には戦闘は難しそうなのでとりあえず一番使いそうなライトニングムーブを
ゲイボルグと一緒に練習しているんです。」
「そうなのか。助かる。他のみんなは何をやっているんだ?」
「私は水の球を出すやつ。」
「つまりウォーターボールか。」
「ん。多分それ。水があれば人間生きていけるから。」
「それはそれで究極な状態になったらだけどな。」
「僕は多分ファイヤーボールだと思う。」
「俺が使ってるやつと同じやつか?」
「はい。火くらい自分で起こしたいので。」
「ティアはね!ブオーーン!って風を飛ばすの!」
「ぶ、ブオーーン?ティア。見せてくれない?」
「うん!ウィンウィンお願いね!“風よ舞え”!」
「ああ。ウィンドバレットだな。攻撃魔法で結構強いぞ。仲間に向かって売ったらダメだからな。」
「うん!絶対にしない!」
「最後はムペだね。ムペは何をやってるの?」
「ぼ、僕は…ずっとギガンテスと話してる…魔法使えない…」
「妖精とずっと会話ですか…それは僕にはできませんね。」
「妖精と話せるのー?ムペ凄い!」
「そ、そうかな?」
「ん。ここにいるユニ以外誰もできないこと。」
「そっか…やった。」
ムペが少し笑顔になった。しかし、これを零断が見ると確実に笑顔がなくなってしまう。なので零断はムペの方を見ずに走り続ける。
「ユニの方は何か出来ることが増えましたか?」
「うーん…とりあえずみんなより体力が増えたと思いたいかな。あとはファイヤーボールとウォーターボールを出来るようになった感じ。あと、ピクシーとゴルとも少しずつ仲良くなって来てる感じかな。」
「全員もうそろそろ自分の魔力量が増えたとか実感すると思うぞ。もともと個人職だ。伸びは早いと思う。」
「僕はもう実感できてます。昨日のファイヤーボールの回数が一昨日の約2倍だったので。」
「マサ、ティア、チャマは回数だから感じやすいのかな?ならクロノはあんまり感じられないの?」
「僕は少しずつ走れる時間が増えてますね。といっても本当に少しずつなので実感と言うほどではないですが。」
零断の場合半年かからずに大量の魔力を手に入れた。しかし、これは零断の波動が個人職の中でもレベルが違う強さを持つものだからだ。
しかも、『転移者』というのも大きいだろう。
このように零断は色々な理由があってあそこまで魔力が多いのだ。
しかし、精霊系の個人職は個人職の中では珍しいが強いわけではない。逆に精霊を通して少ない量で魔法を使うので逆に魔力はあまり多くならない。子供達が連発で魔法を使えるようになるのはもう少し先だろう。
クロノのライトニングムーブに関しては体に与える電気量や、反発度合いを零断に指導してもらえばすぐに実践レベルまで持っていける。
子供たちの中で例外がユニである。妖精使いは前に言ったように妖精をまとって戦う。そして、妖精をまとう時に使う魔力量は圧倒的に多いのだ。一時的に魔力の塊である妖精を纏うので当然である。
つまり、妖精使いは魔力が多いのだ。
そして、妖精使いは波動よりは下だが、普通の個人職とはレベルが違う。明らかに強力だ。よってさらに魔力が多くなる。
ユニは零断と同じようにすぐに魔力量が多くなる。
現状を見てもユニの方が他の子供達より魔力量が多いのだ。
零断達はその後、適当な雑談をしながら山を登っていく。
すると、零断ははるか後方に同じくらい早く登ってくるものを索敵で見つけた。しかし、登る方向は違うし、害が出そうな距離にいるわけでもないので放っておく。
すると索敵から消えた。そこには川が流れていたので、恐らくその中に入ったのだろう。
零断の索敵は2つモードがある。1つは今使っている広範囲索敵。2つ目は近距離精密索敵だ。
広範囲索敵だと何があるかなどはわかるが、詳細がわからない。今回のように恐らく水の中に入った場合、水の流れを索敵してしまい、中まではわからない。また、相手が質の濃い隠蔽を使っていると引っかからない。
次に近距離精密索敵だ。これは言葉通り、近距離を詳しく探すことができる。これを使えばどれだけ隠蔽に優れていたとしても見つかる。
そこはやはり零断の才能だ。
話を戻すが、川は零断達が向かってる方向と逆方面に流れている。その時点で零断はその気配を意識から抜いた。
そして、昼飯のために少し休憩を入れ、さらに上へ登って行った。