ならば私は
第2章開始です。
「零断〜!こんなもんでいいのー?」
ティアの声が仮拠点に響く。
零断は近くにいたマサに目配りをして指示をさせる。
「そんな感じでいいと思うよ。」
「そう?やったね!」
今零断達は盗賊のアジトから少し上に登った場所に数日間ほど過ごせる仮の拠点を作っている。
理由は子供6人の神職を決めるためだ。
基本神職を決めるのは10歳なのだが、色々と不便なので零断が1人で使うことにしたのだ。
10歳を超えている者もまだ神職決めはしていないと言うのでここでやることにする。
やり方等はテニラ村でグレンに教わっていた。
今ティアはその儀式を行う場所を作っていたのだ。
ちなみに他の5人はというとマサとユニは零断の手伝い、クロノはティアの手伝い。
ムペとチャマは周辺の散策を行なっている。危険があったらすぐに零断が駆けつけるので周りに何があるかを見て欲しかったのだ。
零断は木の上に板を貼っている。マグネスを倒す前に作った多少寝れる場所の上位互換だ。
今の時間は夕方。アジトから出たのが昼過ぎなのでこの少年たちとはまだあって5時間くらいである。
しかし、今零断は普通とは思えないほど懐かれている。
それはやはり零断の強さを見たからであろう。
まず、自分たちを捕まえていた盗賊を皆殺しにした。さらに相当強そうに見える魔物を零断が瞬殺したからだ。
零断は妙に反抗されたらめんどくさいと言う理由で実際に魔物を瞬殺したところを見せて恐怖させようとしたのだが、その光景は逆にすごく強くて尊敬できると言う方に向かって行ってしまった。
それを不思議に思って零断が
「怖くないのか?」
と聞いたところ
「ぜーんぜん!だって零断優しいじゃん!」
「悪い人には見えないですよ。」
「零断さん。私たちを助けれくれた人を信じないのなら私たちは誰も信じられなくなりますよ。」
「まずまず僕たちを誘拐するならもうとっくに売り払ってるだろうしね。」
と、ほとんど全員に即反論された。
零断はあの事件以来零断の何かが壊れたかのように零断は感情表現をしなくなった。
発する言葉もすべて最小限だ。
【あの時、俺は一度壊れたんだ。だから、今は全てが新しく見える。】
そう感じていた。
しかし、零断は根は明らかに善人である。それを子供ならではの洞察力で無意識に見抜いているのかもしれない。
といってもクロノやチャマ、ムペには未だ警戒されているが。
拠点の準備が終わるともう日は沈みかけていた。
「…“ファイヤ”」
と呟いて拠点の下に作った薪を燃やす。
零断が最短詠唱を使ったのを見て子供達は目を白黒させている。
零断が瞬殺した魔物は剣で倒したため零断が魔法を使うのは初めて見たのである。
「え…零断!これどうやったの?!」
「…最短詠唱だ。」
「何それ何それ!!!」
「うるさいですよ。零断さんが困っています。」
ティアが興味津々に聞いてくるがそれをクロノが止める。
子供達の口調だが、まず一番わかりやすいのがティアだ。誰にでもフレンドリーなタメ口で全員友達!と思っているようだ。もちろん零断も例外ではなく友達と思っている。
年は7歳で最年少だ。
【よく盗賊に捕まっておいてこの性格で居られるな。】
次にわかりやすいのはクロノだろう。クロノはですます調がしっかりとしているが少し上から目線な感じである。零断を信用しているかしていないかは顔や言葉に出していないのでわからない。
年は平均的で10歳である。
【こいつがティアのストッパーになってくれるから助かる。】
次はマサだろう。みんなをまとめるカリスマ性のようなものを持っている。将来誰にでも優しいイケメンになりそうな予感だ。
年は年長組の12歳。
ティアと一緒の村に住んでいて、ティアは基本マサの言うことは聞く。だからティアはあまり盗賊に恐怖を持っていないのだ。
【こいつに色々教えれば俺と別れた後もやっていけるだろうな。】
チャマは基本無口だが、側から見て口出しが必要と思うところで声を出す。
年は9歳だ。
【こいつが最悪の場合を回避してくれるだろうな。】
ユニは最年長で14歳なりたてであり、みんなのお姉さんの役割をしている。
また、零断の役に立ちたいという意識が一番大きく、
『零断さんの手伝いは毎回私がやるね?』
とみんなに伝えている。
【ユニはマサと一緒にまとめてくれるから頼りになる。それに、信じてるって言う気持ちが直に伝わってくるから馴染みやすい。】
ムペは怖がりなのであまりしゃべらず、ムペだけ零断を怖がっている。が、みんなをまとめているユニとマサが零断を明らかに信用しているので恐怖を抑えて頑張っている。
年は8歳だ。
【この子が普通だろうな。変な行動を起こさなければ良いが、まぁ大丈夫だろう。】
と、話が戻そう。
「まだわからないと思う。神職が決まったら教える奴には教えるから待ってろ。」
「はーい!」
零断がぶっきらぼうにいうのに対してティアはすごくニコニコして零断の言葉に反応する。尻尾をフリフリさせている。ご機嫌そうだ。
ティアのような獣人族はこの世界には多く住んでいる。
まず、この世界には大まかに分けて4種類の人種がある。
1つ目は人間。
2つ目は魔人。
3つ目は獣人。
4つ目はその他である。
人間は魔法、身体共に平均的である。また、見た目は地球と変わらない。
魔人は魔法を得意とするが、身体が弱くあたり弱い。また、穏便な性格と過激な性格で明らかに分かれるので魔人族は意思を1つにするのが苦手だ。見た目は肌が黒っぽく、よく見ると肌に紫色っぽい魔力の線が通っている。
獣人は身体が非常に強いが、魔法はあまり得意としていない。性格は基本その種族によって違い、好戦的な者もいれば穏便な者もいる。見た目は獣耳と尻尾が生えているのが特徴的だろう。
最後にその他の少数的種族。
例えばエルフ。これは山脈の上の方にいると噂されている。それが理由で貴族などに高く売れる。チャマは帝国についたら何か対策が必要だろう。また、記憶があまりないらしいからどこに故郷があるのかもわからない。零断がずっと面倒を見るという選択肢も考えている。
また、海人族や巨人族などもいる。
というふうにこの世界は魔人VS人間という形では全くなく、逆に仲良く暮らしている。
しかし戦争がないわけではない。
帝国と王国を見ているとわかるように国同士で対立していることが多い。逆に手を結んでいる国も多くあるが、今零断がいる大陸は他の大陸と頻繁に連絡を取れるほど近くはないので何十年間もこの2つの国で対立しているのだ。
ちなみにウィリアムは魔人族である。
この話を聞かされた時零断はテンプレから大きく外れていて驚いた。
零断達はアイテムボックスから食料を取り出して調理する。運良くユニが料理の腕を磨いていた(村での料理担当だった)ので野宿とは思えないほどの料理を食べることができた。
マサ達は元々は同じ村に住んでいたわけではない。村から誘拐されたり、村の人を全て皆殺しにされたりと、様々な理由で今ここにいる。この6人は売れ残りで数人買われたり、入ってきたりしている。
その結果助かったので運が良かったのか悪かったのか。
子供達が帝国に行くと聞いて喜んだのはあの盗賊が国と内通していることを知っているからである。
零断が潰したアジトはその一部でしかなく、あの盗賊団は王国全土に染み渡っている。
零断はそのことを知ってもなんとも思っていない。もう心を入れ替えたからであろう。
ご飯を食べ終わった後はまたまたアイテムボックスから毛皮などの温かいものを取り出して寝る準備をする。
野宿なのでもちろん風呂などは無しだ。元々子供達は風呂になんか入っていなかったし、零断もあまり風呂が好きではないので問題なかった。
全員川の字で寝ることになり、なぜか零断が真ん中である。
【なぜこいつらこんなに懐いているんだ?】
と思いながらも1日でいろいろなことが起こったので相当疲れていたのかぐっすりと深く眠った。
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魔物は馬車に乗った探していた者を見逃さないようについて行く。
魔物は魔力をご飯とするのでお腹が減ることはない。
睡眠もあまり必要なく、1週間に一度寝ればいいくらいだ。
魔物はその後1ヶ月間その者が乗った馬車を追った。
その日、明らかに異常なことが起こった。
強者であるその者が圧倒的な怒りと焦りを駄々漏らしにしながら今まで通ってきた道を帰って行くのを感じたからだ。
魔物はその者を追うために走る。しかし、その者の速さは到底魔物では終える者ではなかった。
しかし、魔物は追いかける。
少しずつ距離が長くなって行く。
自分に語りかける。もっと早く!早く!
ふと気づいたら魔物は風邪をまとっていた。“ウィンドムーブ”を使ったのだ。
その速さはその者との距離を詰めた。
そして夜が明ける頃。最初にその者を見つけた村についた。その村は燃え上がっていた。
その光景を見た時にはもうその者がどこにいるかがわからなくなっていた。魔物は周りを見渡す。すると、倒れているが死んではいない人間を見つけた。
人間は動かない。このまま目を覚まさなかったら死んでしまうかもしれない。
魔物はこの人間を助けることにした。
魔物を救ったのは人間だったから。
魔物は不思議な力を使って傷口からゴミを抜き、血を止めた。そして目覚めるくらいの衝撃を与える。
この時に人間の体を大幅に強化していなければ血がさらに溢れ出てきて死んでいただろう。
それでも人間が目覚めなかったのでもう一度衝撃を与えようとした。しかし、その前にきたあの者の圧倒的な力が魔物と人間を襲った。
人間はその意識的な攻撃にびくりと体を震わせる。魔物も迂闊には動けなくなった。動いたら殺される。そう確信できたから。
あの者が消えてからマモノは人間を生かすために衝撃を与える。
それを3回ほど繰り返したら人間が起きた。
「う、うぅ…な、なにが…っ!!」
人間は起きて目の前にいた魔物に距離を取ろうとするが、血が足りなくて立ち上がることができない。
「…俺をどうする気だ?」
「グルゥ」
あの者から受け継いだ力を見せてから、ある町方を向く。
「な、これは零断の力…なぜこの力を…零断の使い魔か?零断はあっちにいるのか?」
魔物は首を横に振りこの村全体に首を回す。
人間…いや、ランドもつられて首を回り始め、その異常さに気づいた。
「なっ!!村がっ!みんな死んだのか!おい!答えろ!魔物!」
最後の力とも言えるほど大きな声を出して魔物に訴えかける。
魔物は無視をして村の外へ歩いて行く。
そうするとランドにも歩けるほどの力が蘇ってくる。ランドはそのことに驚くが、それを見て敵対するつもりはないと悟る。
まずまず思い出して見たら魔物ではなく盗賊に攻められたのだから。
そして零断が使っている波動を使うとなれば敵とは思えない。
そう思いランドは魔物へついて行く。村の外に出ると魔物はもう一度町への方角を指した。
「…キズト町へ行けってか?」
「がうっ!」
魔物は頷く。
「どうやって?」
「がう。」
魔物は手を差し出した。
「さわれってか?」
魔物は頷く。
ランドは魔物の手に触る。すると体が強化されたのを感じた。
「おお!これなら行けるかもな。」
ランドが頷きながら呟く。魔物はその様子を見てから魔法を発動させた。
「…なんで俺は浮いているんだ?」
「がう。」
「うおおおおおーー!!!!!」
魔物の風の魔法によりランドはキズト町へ吹き飛ばされた。
体を強化したのは吹っ飛ばしても生きていられるためである。
魔物は零断を探し、助けるためにここにいる。
一族はマグネスに全て殺され、この残った一匹の子供の白い狼は戦闘中に信じてくれた。
そして、生きていた。
魔物は自分がなぜ生きているか、そして、なぜこんなに知能が目覚めたかがわからなかった。
その答えは自分が得た力にあった。
白い狼は零断の肌と波動に囲まれて数日間寝ていた影響で波動を使えるようになっていた。
この現象は本来あり得るはずもない変異種への進化だった。
魔物の自分を信じてくれて。
さらに滅ぶはずだったこの種族を。自分を生かしてくれて。
さらに変異種への進化というこのをしてくれて。
もうこの白い狼は自分で自分の道を決められる。
ならば、
『私はあの者の力となる。』
白い狼は零断がいる場所へ向かった。