中の者
いつもは静かな森で、この日激しくぶつかり合う音が聞こえた。
零断とマグネスである。
マグネスの腕は鈍器のような役割をしている。
零断も波剣技を吹き飛ばし型にしてるので切れ味は素のコンヴィクスである。
と言っても、今零断はボルケニクスほどではないが、怒っているので十分切れ味はいいのだが。
2人は約10分ほど戦闘している。戦闘で10分経ってもどちらも無傷なのはほとんどありえない。こういう結果になるのは逃げるのが上手いやつか、2人の実力がほぼ同じだからだ。
今回は後者である。
お互いに拳と剣をぶつけながら相手の隙を見つける。さらに、2人とも全く消耗していない。
マグネスはもともと魔物だから魔力の量は馬鹿にならないし、もともとあまり魔力を使っていない。
零断はマグネス程ではないが、相当な魔力量を持ち、しかも、身体強化と時々使うエレキトルムーブ、そして波剣技だけなら魔力をほとんど消費しなくても大丈夫なのだ。
さらに魔力は回復するので零断だけではなく、マグネスも全く魔力が減っていない。
このままではただのジリ貧だと思ったのかマグネスが行動に出る。
「ゼロよぉ〜。おめぇはこの世界について考えたことはあるか?」
「………」
零断はそんなこと答える義理がないというふうに戦闘を続ける。しかし、マグネスは変わらず話しかけてくる。
「おいおい無視かよぉ。まぁいいか。まぁ俺が言いたいことはなぁ〜。うおっとあぶねーなぁ。人が忠告してやろうとしてんのになんだよ黙って。」
マグネスは自分が話しかけたせいで自分の集中力が切れ、零断の剣が当たりそうになる。しかし、間一髪でよけ、体制を直してまた話しかける。
「忠告?まず、お前は人じゃない。」
「お、やっと反応したな?」
気になる単語を見つけたので冷酷に聞き返す。しかし、マグネスは返答してきたことを嬉しく思ったのか笑う。
「質問に答えろ」
「へいへい。しゃーねーなぁ
おめぇは人間で転移し、俺は魔物に転移した。さらに、おめぇは偶然生き残ったようだが、他の転移した人間はそうじゃねぇかもしれない。まぁ俺と同じように魔物に転移した人間は生きてる可能性が大きいだろうがな。」
「何が言いたい?」
いきなり長々しく話し始めたマグネスを不快に思いながら聞き返す。
「わからねぇのか?だから、テメェと一緒にいた『リン』や『シン』はもうこの世にいねぇってことだよ。わかったか?だからお前っ、!!!」
今まで通り対応していたマグネスが大きく吹っ飛ばされた。
この時、零断の動きが、気持ちが、全てが切り替わった。
ーーーーーーーー零断視点ーーーーーーーー
マグネスに涼音や親友がもうこの世にいないとはっきり言われた。この世界に来てから初めてだ。しかし、感情を全て掌握してコントロールしている。そう実感できるのだ。
俺がマグネスに対して持った怒りを全て力に変換している気がする。いや、この言い方は少し違うかもな。
怒りとかを変換しているものがある。俺が意識的にやっていることではない。そして、無意識でもない。
俺の一部であり、俺とは違うことをする何かがこの行動をしているのだ。
はは。そういうことか。
“波動”
この力は俺が思っていたよりもずっと強く、今の俺では全く使いこなせないものなんだな。けど、お前は反発しない。逆に今みたいに力を貸してくれている。
もしかしたらお前がいなかったらもう俺は死んでいたのかもな。
ボルケニクスとの戦いの時。俺は激怒していたのに冷静だった。あれもお前に意識があったからなのかもな。
今も俺が使いこなしていると思っている波動の殆どがお前が操作している可能性もあるよな。
となると俺は出来もしないことを慢心していたんだな。自分に呆れるわ。
……………
このままじゃ
だめだ。
もっと
感じられる
お前に
操作させるんじゃない。
俺が
操作するんだ。
もっと感じろ
もっと求めろ
もっと見つけろ
もっともっともっと
あいつに頼るな。自分でやるんだ。それこそに意味がある。そうじゃないと負ける。
怒りはあいつに任せていいんだ。あいつは俺で俺はあいつだ。信じるしかない。
だからこそ俺は波動を本当の意味で使えるようになるんだ。ならなくちゃ行けないんだ。
俺ならっ!やれるっ!
…そうだ…
…お主なら…
…使える…
…我の力を…
そう聞こえた気がした。
この思想が一瞬だった。これもあいつの力なのかもしれない。
だからこそ変われる
俺は『波動者』に
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零断はマグネスを吹き飛ばした後、話しかける。
「たとえお前がそう思ったとして、もしそれが現実だとしても俺は諦めない。2人とも探し出す。そのためにまずはお前を倒す。」
そう言って目を閉じる
「へっ。そもそもお前は俺を倒せるのか?均衡状態じゃねーかよ。俺にはまだ手があるぜ?」
マグネスが挑発してくる。
しかし、零断の感情は波動が管理しているため全く効果がない。そのことを知らないマグネスはなるべく気を逸らそうとしているのかどんどん挑発などを行ってくる。
しかし、零断はこの時間を波動を改めて使いこなすための時間に用いた。マグネスの言葉は全て聞かない。いや、もう極限の集中に入っているので聞こえない。
波動を感じるんだ。魔力を感じるのと同じではない。もうこれは第6感だ。そう。第6感を作り出すのだ。波動だけの第六感。
『感じて、操作しろ。手に掴むんだ。】
そう思い両手を広げる。その行動が唐突すぎてマグネスは零断から距離を取る。
「おいおいなん……」
雑音が聞こえてきたが無視だ。
魔力を出して波動をまず感じる。
そこから自分の周りの魔力や波動を全て認識し、掌握する。
そんな簡単な作業ではない。むしろ魔力を認識するだけでも上位の者しかできない技だ。それをさらに掌握しようとしているのだ
「たくよぉ〜全て無視かよ。もしかして戦意消失か?なら殺させてもらうぜ。」
無言を戦意消失と捉えたのか歩いてくるマグネス。零断は一定距離になると大きく後ろに下がった。それ以上近づくとマグネスの攻撃が当たるからだ。
「なんだよあと1歩だったのに。まだ戦う気があんのなよ。…もうそろそろ殺すぞ。」
それでも零断は反応しない。
「頃合い…か…」
マグネスが殺気を放ってくる。
それでも動じない。
「さらばだ。ゼロ。お前との戦いは久々に燃えたぜ。」
零断が飛び退く直前にマグネスが全力で距離を詰める。
零断にマグネスの手が当たる寸前。零断が呟いた。
「…やっと、掴んだ。」
その言葉が呟かれた直後。マグネスの手と零断の体には1センチほどしかないのにそこで止まっていた。
マグネスの手は青紫色の透き通るように透明な壁に阻まれていた。
「やっと掴めた。さっきまでとは全然違う。瞬間的に強くならないが、確実に油断やミスはなくなるな。」
「てめぇ、何をした?今まで使っていた変な力に似ているようだが?」
「そんなの教える義理なんてないだろ?」
そう言って零断はマグネスに攻撃を仕掛けた。
一見先ほどと変わらない。しかし、
【だが、なんだこの安定感はっ!さっきまでのゼロにはこんな安定感なんてなかった!どこかでミスると思えたが、今はぜってぇミスしねぇじゃねぇかよクソが。】
と、マグネスが悪態を吐くほどであった。
【まだまだあいつに頼っている。けど、さっきよりはいい。その証拠が今まで薄くしか見えてなかった波動だ。今は透き通った青紫になった。もっと綺麗にできる。使いこなせば。使いこなすためにこの戦いに勝って練習しないと。そのために今はマグネスの隙を探すんだ!】
そこからまた長いようで数分な極限な戦いが始まった。
あと1話かなぁ